LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第9話 ティータイム

 この話はソロプレイでやるべきではなかったかもしれない……と、セッションが中盤まで進んだところでGMは激しく後悔していました。NPCが多すぎ、話しすぎ、活躍しすぎです。それも、セルダル編のセッションはテキストチャットで行われているため、GMがキータイプを止めて休んでいられるような時間がまったくありません。まあ、口頭で演じるのにくらべると、NPC同士の掛け合いがやりやすかったという部分はありましたが、それってセッションとしてどうなんでしょう(苦笑)? やはり、GMはプレイヤー同士の掛け合いを眺めて、裁定が必要な場合のみ口を挟むくらいのほうが健全なセッションなのだと思います。

 今回の話をつくるにあたり、GMがまず最初に考えたのはニルフェルに対するテコ入れです。このニルフェル、第1話から登場しているわりに、このキャンペーンに登場する女性キャラクターのなかではあまり人気がありません。本来だったらアゼルがニルフェルと深く絡んでくるだろうと思って、ここまでニルフェル単体のイベントを用意してこなかったのですが、肝心のアゼルがニルフェルのことを放置した結果、いつのまにか地味なキャラクターどころかお荷物キャラクターとなってしまいました。さらに、第6話では病んだ状態で登場したため、かなり痛い娘・面倒くさい娘といった印象があります。そこで、今回は、わざとらしいまでにニルフェルを持ち上げるシーンを組み込み、話のタイトルまで「あの月が沈むまで」というニルフェルの発言からとることにしました。覚悟を決めて独り立ちしようとするニルフェル。女の武器と言われている涙を流すニルフェル。第2話以来の名探偵ぶりを発揮するニルフェル。……GMの気負いからか、いろいろ詰め込み過ぎて逆にあざとくなった気がしなくもありませんが(笑)。

 そして、今回の話のもうひとつのポイントは、セルダルの今後の行く末について見通しを立てるということです。まず最初にセルダルに確認したのは、テジーとニルフェルのどちらを取るかということで、これに対しては明確にニルフェルが選択されました。その選択後のセルダルの行動を見ても、積極的にニルフェルとの距離を縮めていこうとしているのが感じられます。GMが「いまの天候は強風です」と説明したところで、風上に立ったり髪留めをプレゼントしたりするところなどは、かなり良いプレイングだったと思います。

 そして、もうひとつの確認事項が、両手剣使いとしての道を進むか片手剣と盾使いとしての道を進むかというものでした。第1話登場時から両手剣を装備していたセルダルですが、実はもともと片手剣使いとして作成されていました。実際にセルダルのキャラクターシートを見てみると、本当は片手剣を装備していたほうが無駄なく能力値を使えていたのだということがわかります。ところが、アゼルが防御タイプの片手剣と盾装備を選択したことから、セルダルの装備が片手剣から両手剣に変更されることとなりました。自分たちのパトロンの家族であるアゼルに遠慮し、セルダルが本来適正であるはずの役割を譲ったことは、立場的にも仕方なかったところでしょう。

 しかし、アゼルと離別したいま、もはや彼が遠慮する必要はありません。そこで、その選択肢として提示されたのが、師匠になり得る人物の登場です。片手剣ならばクムル、両手剣ならスレイマンが師匠候補になります。この話の最終シーンにセルダルがどちらを選択するのか、それを示唆する言動もありましたが、セッション終了後の雑談において、こと戦闘技術においてはスレイマンを師事することが決定しています。ただ、自警団の仕事も変わらず行っていくとのことなので、組織の一員としての教育はクムルによって施されることでしょう。これまでまっとうな教育を受けてこなかったために粗野でぶしつけなセルダルでしたが、それも自警団でもまれることで徐々に改善されていくはずです。

 さて、TRPGの華である戦闘の話に移ると、今回はソロプレイにも関わらず戦闘が4回も繰り広げられ、それぞれ違ったシチュエーションでなかなか刺激的な戦いになったのではないかと思います。ジャイアント・バットやジャイアント・ラットとの戦いはランダム遭遇で発生したものでしたが、偶然にしてはなかなかよい敵が出現したのではないでしょうか? どちらも病原菌持ちで、長旅の最中には出会いたくない敵です。こういった敵がただの雑魚扱いでは済まされないところがLOSTの良いところです。特に、ジャイアント・ラットから必死に逃げるシーンなどは、水樽をパージしてまで馬を走らせるというそのビジュアルもあいまって、かなり面白いものになりました。セルダルのプレイヤーが、反省会にて「ジャイアント・ラットからここまで必死で逃げるシーンって、ほかのゲームじゃ滅多にお目にかかれないよな」と話していたのがとても印象的です。

 さらに衝撃的だったのが、酒場でのスレイマンとの戦いです。ピンポイントで冴え渡るセルダルのダイス目。もちろん、クムルとブダックの協力があればこそですが、これまで登場してきたキャラクターの中で最高の戦闘レベル6を誇るスレイマンがここで敗北することは想定外でした。魔法を使えるメンバーがいれば、戦術次第で戦力比を覆せることもありますが、自警団側は全員ヘヴィ・ウォリアーだったので、戦力比で勝るスレイマンに軍配があがると考えていたのです。

 あらかじめ想定されていた流れでは、スレイマンに敗北を喫したことを皮切りに、クムルたち自警団は血まなこでスレイマンの行方を追うこととなり、その一方で、セルダルは行商人の恐喝されたという訴えが虚言でありその弟分と共に窃盗を働いていたということに気がつき、そちらを追って事件を解決するという展開になるはずでした。その場合、セルダルの行動が後手に回ったり、クムルたちの捜査を妨害したりすると、スレイマンが窃盗犯を先に殺害してしまうといったバッドエンドルートも予定されていました。しかし、その前提が根底からひっくり返ってしまったため、スレイマン戦以降の展開にはかなりアドリブが入っています。特に、スレイマンを牢屋から出すくだりでギュリスの提示した条件などは、かなりの荒業でした(苦笑)。GMとしては、セルダルがギュリスから護衛の報酬を受け取らなかったエピソードを回収することでうまくまとめようとしたのですが、それがありならばなんでもありじゃないかと突っ込まれると、弁明のしようがありません。

 そして、話は少しさかのぼり、最終戦闘となった盗人2人組みとの戦い。ここで、惜しくも盗人の兄貴分を取り逃がしてしまったセルダルでしたが、GMがこの話の中で解決すべきミッションとして用意していたのは、あくまでもスレイマンの無実を証明するということだったため、ミッション自体は成功という扱いにしました。そもそも、逃げられるとは思っていなかったのですが、あそこで1ゾロを出されたのでは致し方ありませんね(苦笑)。

 ちなみに、この盗人2人組みは、イルヤソールからほかの街へ逃亡するにあたり、ギズリたちの隊商が街から離れたところでそれに加わるという計画を立てていました。そのため、盗人をつかまえる展開のひとつとして、ギズリたちの隊商に紛れて盗人たちが何食わぬ顔で近づいてきたところを捕縛するという流れも想定していました。もし似顔絵がうまく描けていたのであれば、そういう展開になっていたかもしれませんね。

 あと、裏話として、記憶術判定に失敗してしまったため、「クムル」や「鉄の月」という名称に思い当たることのなかったセルダルでしたが、鉄の月というのはセルダルの父親であるジャナンが以前所属していた傭兵団の名前でした。当然、その団長を務めていたクムルはジャナンとも顔見知りです。一応、クムル側でもセルダルの顔を見たときに、その面影に気づくかどうかの判定を行っていたのですが、そちらも失敗でした。そして、セルダルとクムルの数奇な縁についてのエピソードはお蔵入りに……(苦笑)。まあ、セッションでは事前に準備していたことの半分も出せれば御の字ですけれどね。セッション後の反省会でネタバレするのも、それはそれでまた楽しいですし。

 キャンペーン全体としては、このあたりがちょうど折り返し地点。重要人物であるヤウズ王子の名前もちょくちょく聞こえてくるようになってきました。実際に発令された遺跡探索禁止令と、人々のあいだでまことしやかに噂されている遺産没収の話。いったい、ヤウズ王子はなにを考えているのでしょうか? そして、ヤウズ王子のお好みは、ニルフェル?ギュリス?それともアテーシュ? もちろん、それ以外の選択肢も十分あり得ます。すべてはダイスの神様の望むままに。




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