GM:
では、場面は変わり、あなたとギュリスがスレイマンの入れられている牢屋の前まで来たところとなります。さすがに、ギュリスとニルフェルがそろってボレンの教育をさぼるわけにはいかないので、ニルフェルはボレンへ事情を説明するため屋敷に残りました。
セルダル:
「スレイマン。ちょっと話してもいーか?」
スレイマン(GM):
「ンだよ、また来たのかよ……」
スレイマンは不機嫌そうにあなたたちをにらみます。
セルダル:
「あのさぁ……。オレ、ビルジって人に会ってきたよ」
スレイマン(GM):
スレイマンはその名前にピクリと反応しました。そして、「チッ」と舌打ちします。
セルダル:
「アンタがその人のことを捜してたみたいだって話を聞いたんだ。ビルジって人は、アンタの知り合いの親……なんだよな?」
スレイマン(GM):
「……そーだよ。で、だったら、なンだってんだ? 回りくどい話は苦手だ。単刀直入に言えよ」
セルダル:
「ああ、そーさせてもらう。アンタは知り合い3人の形見である神々の遺産を、この街に住む彼らの親たちに届けに来た。これであってるか?」
スレイマン(GM):
「フンッ。否定はしねぇよ」
セルダル:
「やっぱりか……。だけどな、その親たちは形見なんか要らねぇって言ってたよ……。ハルヴァ様の聖域を荒らす奴なんかとは縁を切ったってな」
え……? 誰もそんなこと言ってませんよ……。そもそも、まだビルジたちは、自分の子供が死んだことすら聞かされていませんし……(苦笑)。――などと思ったGMではありましたが、実際に子供の死を伝えてその形見として遺産を渡そうとしたのであれば、セルダルの言葉どおりのことが展開される予定でしたし、ここはセルダルがスレイマンの気持ちをゆすぶるためにでまかせを言ったものとして解釈しました。
セルダル:
「だが、それはオレを……自警団員を前にしての話だ。まさか、自警団員に対して、遺跡探索に関わってた子供の形見――それも神々の遺産を受け取るとは言えねぇもんな」
ギュリス(GM):
「まぁ、そりゃそうだよね。でも、それを抜きにしたって、遺族にとってみればそんなもの渡されたって迷惑なだけなんじゃない? 遺族にとっては、神々の遺産に故人の思い出なんてないだろうしさ」
スレイマン(GM):
スレイマンは苦々しい顔をしています。
セルダル:
「そーは言っても、遺品がほかにあるならまだしも、それしかねぇんだろ? スレイマン。3人とはどんな別れだったんだ? 言葉は交わせたのか?」
スレイマン(GM):
「あのなぁ……。こっちは、遺族が迷惑がろうが、どー思おーが、ンなこたぁどーでもいーンだよ。ただ、たまたまアイツらから遺産を金に換えて親元に届けてくれって頼まれちまったから、せめてそンだけは果たしてやろーと思っただけだ」
ギュリス(GM):
「……でも、あなたは遺産をお金にかえることができなかった。そりゃそうだよね。だって、いまのこの国の状況じゃ、大金をはたいて神々の遺産を買い取ろうなんて考える人、そうそういないもの。遺産をお金に変えるつもりだったんなら、この街に来る前に他国に行くべきだったね。よその国なら、まだ買い手がついたかもしれないのに……」
スレイマン(GM):
スレイマンはその言葉にムスッとした顔をして呟きました。
「よその国なんか、行けるもンかよ……」
セルダル:
「なんで行けねぇんだ?」
ギュリス(GM):
「まあ、その名前だけでも敵兵に恐れられる“砂塵の死神”としては、よその国に行こうにも敵が多すぎるか」
セルダル:
「あー。そーゆーことか」
ギュリス(GM):
「さてと……。これでだいたいのところはわかったかな。で、これからどうしようか?」
ギュリスは少しにんまりしながら、なにやら考えを巡らせているようです。
セルダル:
ギュリスの奴、またなんか悪巧みしてやがるな……。
「どーもこーも、中央の沙汰を待つ以外になにかあるってのか?」
ギュリス(GM):
「まあ、一応ね……。それより、セルダル。あなたはどうしたいの?」
セルダル:
「そりゃ、親に金を送りたかったってゆーそいつらの気持ちはなんとかしてやりてぇよ。そいつらの親だって口ではあんなこと言ってたが、自分の子供が最後に親になにかを贈りたいって願っていた気持ちが届けば、きっと見方も変わると思うんだ。でも、遺産は金に換えられねぇんだよな……」そこまで言って、頭をかきむしった。
「あー! もー、どーすりゃうまくいくんだ!」
ギュリス(GM):
「なるほど、あなたはそんなふうに考えてるんだ……。でも、この死神のために、なんで無関係であるはずのあなたがそんなことまで考えてあげるっていうの?」
セルダル:
「無関係じゃねぇよ。だってよ、オレたちがあの偽行商人の口車に乗っちまったから、こんなことになってるんだぜ!? あれさえなきゃ、ひょっとしたらスレイマンだって上手く遺産を金に換えて、遺跡探索者たちの親に渡せてたかもしれねぇってのによ……」
ギュリス(GM):
「……だってさ、スレイマン。いまのこいつの話聞いたでしょ? こいつはこういう奴なんだよ。で、これは直接あなたには関係ないことなんだけど、あたしはこのセルダルにちょっとした借りがあって、それをチャラにしておきたいと思ってるんだ。そこで、相談なんだけど……」そう言って、ギュリスは口角を小さく持ち上げました。
「あなた、しばらくのあいだ――つまり、身柄の扱いが確定するまでってことだけど……うちにきてみない?」
セルダル:
そのギュリスの言葉を聞いて、口をぽかんとあけてる。
スレイマン(GM):
「オマエのところに?」そう言って、スレイマンは眉間にしわを寄せます。
ギュリス(GM):
「そう。厳密には叔母様のところなんだけど……。少なくとも、牢屋に閉じこもっているよりはずっとましな生活が送れることは保証するよ」
セルダル:
「ちょ、ちょっとまってくれ、ギュリスお嬢さん。スレイマンはいまこーやって拘留されてるんだぜ? それを、どーやってここからだすんだよ?」
ギュリス(GM):
「どうやってって、それはもちろん、団長さんと話をしてだよ」
ギュリスはさも当然といった顔をしてそう答えます。
セルダル:
「いや……団長と話をしてって言われてもなぁ……。って、あ!」
そこでハッと気がついた。そーいや、自警団もスレイマンの扱いで頭を痛めてるって話だったな。
ギュリス(GM):
「気がついた? もともとスレイマンが牢に勾留されることになったのは恐喝犯としての容疑がかかっていたからであって、その容疑が晴れたいま法的な拘束力はないんだよ。とは言っても、自警団としてはあれだけの遺産を所持していた者を中央の判断を待たずに自由にしてしまうという選択も難しい。もし中央の判断と異なる選択をしてしまったら、あとでなにを言われたものかわからないからね。でも、もしそこでイルヤソール本家がスレイマンの身柄預かりを買って出たとすれば……」
セルダル:
「ギュリスお嬢さんから、そー提案してもらえるなら、団長も受け入れやすいだろーな。ただ、お嬢さんのところは大丈夫なのか? その――」そー言って、スレイマンのほーをチラリと見た。
スレイマン(GM):
「なンだよ?」
スレイマンは仏頂面でセルダルのことをにらみ返しました。
セルダル:
「あ、いや……。実はオレもお嬢さんさんのとこに世話になっててな。オレやアンタみたいな男が厄介になっちまって迷惑じゃねぇのかってことだよ」
ギュリス(GM):
「まあ、スレイマンの人間性についても、今回の件で多少のところはわかったからね。もちろん、叔母様に確認をとってみて、了承してもらえたならって話ではあるんだけど。でも、イルヤソール邸には男手が足りてないようだから、力仕事してくれるっていうなら叔母様たちも助かると思うよ」
セルダル:
「そーゆーことなら喜んで手伝わせてもらうが、迷惑なら宿屋で寝泊まりすることにすっから、そんときはちゃんと言ってくれよな」
結構な真顔でそー言った。
ギュリス(GM):
「もちろん言うよ。当たり前でしょ? なんか、変に遠慮されると、逆にこっちが気分悪くなるんだけど……」そう言って、ギュリスは半目でセルダルのことをにらみました。
セルダル:
「う……。スマン」
スレイマン(GM):
そこで、スレイマンが言葉を挟んできました。
「ちょいと待ちな。誰もアンタのところに行くとは言ってねぇぜ? よくわかンねぇが、つまり、オレはいま不当に牢屋に入れられてるってことなンだろ? だったら、別にアンタのところに厄介にならなくても、自由になれる身だってことだ」
ギュリス(GM):
「あ……」
少し驚いた表情をしてギュリスはスレイマンのことを見ました。
「……見た感じからしてそうじゃないかとは思ってたけど、やっぱりあまり賢くはないんだねぇ」
セルダル:
そりゃ、言い方がヒデェよ……(苦笑)。ギュリスの言葉を聞いて、顔をしかめた。
スレイマン(GM):
「なンだとッ!? このガキッ!」
スレイマンは勢いよく鉄格子に突進してきて、ギュリスをひっつかもうと手を突き出してきました。しかし、その手もギュリスにまでは届きません。
ギュリス(GM):
「あのさぁ……。あたしたちの話、ちゃんと聞いてた? あなたのことを牢屋から出すにあたって自警団の同意を得るためには、イルヤソール本家のような信用できるところがあなたの身柄を預かる必要があるんだよ。そうすれば、仮にあなたが逃げ出したとしても、その責任を負うのは自警団じゃなくてイルヤソール本家ってことになるからね。でも、それを抜きに、あなたひとりがどんなに騒いだところで、自警団があなたのことを釈放してくれることなんてありえないよ。その気になれば、あなたを牢屋にほうりこんでおくための建前なんていくらでもでっち上げられるんだからさ」
スレイマン(GM):
「ぐぅ……」
スレイマンは突き出した手を宙に浮かせたまま、悔しそうにギュリスのことを見ています。
セルダル:
「スレイマン。そーがっかりすることはないぜ。オレもこのお嬢さんに口で勝てたことは一度もねぇんだ。ここは素直にギュリスお嬢さんの厚意に従っておこーぜ」
スレイマン(GM):
「チッ」
セルダルの言葉にスレイマンは一度舌打ちすると、鉄格子から少し身体を離しました。
ギュリス(GM):
「まあ、そんなに不満気な顔しないでよ」
スレイマン(GM):
ギュリスにそう声を掛けられると、スレイマンはそっぽを向きます。
ギュリス(GM):
「あーあ。いじけちゃって……。じゃあ、牢屋から出してあげるのに加えて、もうひとつオマケをつけてあげようか?」
セルダル:
オマケ……? その言葉に目をしばたたかせた。
ギュリス(GM):
「もし、うちにきて力仕事をしてくれるって約束するなら、あなたが会いに行くはずだった故人の家族に、相応の見舞金を送らせてもらうってのはどう? 遺産が換金できなくて困ってたんでしょ?」
セルダル:
呆けた顔をして、ギュリスのことを見てる。
スレイマン(GM):
その言葉に、スレイマンはそらしていた顔をゆっくりとギュリスのほうへと向けました。
「そいつは本当か?」
ギュリス(GM):
「嘘ついてどうすんのさ」
スレイマン(GM):
「相応の見舞金ってのは、いったいどンくれぇだ?」
ギュリス(GM):
「んー。世帯あたり10万銀貨でどう?」
スレイマン(GM):
スレイマンは驚いた顔をして、しばらく悩みはじめます。
セルダル:
オレも唖然として、ピザが何枚買えるのか計算しはじめた。
ギュリス(GM):
「フフーン、悩んでるねぇ。でも、よーく考えてみてごらん。このままだと、自警団に取り上げられた遺産、没収されちゃうかもよ? そしたら、約束果たせなくなるかもよ? そもそも、中央に仰いだあなたに対する処置の返答、いつになるかわからないよ? 下手すると、ヤウズ王子の戴冠式が終わるまでこのまま牢屋の中ってこともありえるよ?」
ここぞとばかりにギュリスが畳みかけます。
セルダル:
こりゃ、詰んだな……。ギュリスに終始攻められっぱなしだった戦盤の様子を思い出した。
スレイマン(GM):
「うー」
スレイマンはしばらく呻いたのちに、「わかった……。しばらく、オマエのところに厄介になってやるよ」と答えました。
セルダル:
「そ、それがいーぜ。よかったじゃねぇか、スレイマン!」
心なしかオレの表情も強張ってる。
スレイマン(GM):
「くッ……。わりぃ話じゃねぇはずなのに、どこか釈然としねぇのはなンでだ……」
セルダル:
スレイマンの言葉に、目を閉じてそっとうなずいた。
GM:
その後、ギュリスはボレン夫人の了解を取り付け、スレイマンの身柄を預かるための手続きを済ませて行きました。自警団としても、確たる罪状なしにいつまでもスレイマンを牢屋に入れておくわけにもいかず、ギュリスの持ち掛けた話に二つ返事で了解してくれました。
セルダル:
まあ、そりゃ、厄介ごとを権力者がすすんで持っていってくれるってゆーんだから、そーするよな。
GM:
そして、無事に牢屋をでることとなったスレイマンなのですが、彼の希望もあり、その日のうちに故人となった遺跡探索者の遺族のもとを歩いてまわることとなりました。さすがにスレイマンひとりで街をぶらつかせるわけにもいかず、ギュリスとあなたもそれについて行くこととなります。
セルダル:
了解。たぶん、この後もスレイマンの見張りを務めるのがオレの仕事になんだろーな……。
GM:
セルダルがその役目を買って出るならそうなるかもしれませんね。ただ、スレイマンがイルヤソール邸内にいる限りは、見張りをつけなくてもいいかもしれません。
セルダル:
団長が了承してくれるなら、そーする。
GM:
了解です。クムルはそのことに特に反対はしませんでした。
では、場面をスレイマンの遺族めぐりに移します。時刻は夕刻です。ギュリスの提案もあり、遺族との接触はスレイマンひとりで行うこととなりました。ギュリスとあなたは、少し離れたところでスレイマンが遺族と話しているのを眺めていることになります。
スレイマン(GM):
スレイマンは少しぎこちなく、たまに頭に手をやったり顔をそむけるなどしながら遺族と話をしています。そして、おもむろに荷物袋の中から金貨がぎっちり入った袋を取り出し、それを遺族に手渡すスレイマン。それを受け取り、涙を流して地面にへたり込む遺族を前にして、スレイマンが戸惑っているのが遠目からみてもわかります。
ギュリス(GM):
「あいつ、結構律儀な奴っぽいよね」
離れた場所でスレイマンの様子を眺めていたギュリスが、そう呟きました。
セルダル:
「ああ。どーやら、約束を大事にする奴みてぇだな」
ギュリス(GM):
「信用できる人間なのかそうじゃないのかってことは、戦場じゃ重要なことだからね。戦死者のうち10人に1人は友軍に殺されてるって話、聞いたことある?」
セルダル:
「ホントーかよ!?」
ギュリス(GM):
「らしいよ……。射撃戦とかだと誤射もあるから、もっとひどいってさ」
セルダル:
「うへぇ……。うしろから射抜かれるとか、たまんねぇな」そー言って、げんなりした顔をした。
ギュリス(GM):
「まあ、戦場に長く身をおいてたってことは、そういうことなんだろうね……」
(しばらく沈黙してから)
「……しっかし……なんだねぇ……。遺跡探索者の財産没収の噂……。あれって、なんなんだろうね?」
セルダル:
「ギュリスお嬢さんでも見当がつかねぇもんなのか?」
ギュリス(GM):
「これまでに聞いてきたヤウズ王子の人物像とこの噂って、いまいち繋がらないんだよね。だって、ヤウズ王子って、徹底的な合理主義者って感じがするじゃない? なのに、なんか中途半端な噂話だけ聞こえてくるもんだから、ここの自警団だって困惑しちゃってるじゃない。没収するなら没収する、しないならしないで、ハッキリさせるべきだと思うんだよ」
セルダル:
「たしかにな……。んじゃ、逆にこの中途半端な噂がわざと流されたもんだとしたら、その目的はなんだろーな?」
ギュリス(GM):
「んー。そこがわかんないんだよね……」
ギュリスは珍しく頭をひねっています。
スレイマン(GM):
そんなところで、「またせたな」とスレイマンが戻ってきました。
ギュリス(GM):
「終わったの?」
スレイマン(GM):
「ああ。これでよーやくひと仕事完了ってところだ」そう口にするスレイマンは、どこかスッキリした顔をしています。
セルダル:
「んじゃ、戻ろーぜ」
ギュリス(GM):
「あーあ。これで、アタシは屋敷に戻ったら、また勉強漬けの生活だよ……」
ギュリスは肩を落として、トボトボと歩き始めます。
セルダル:
「すまねぇな、ギュリスお嬢さん。ところでニルフェルのほーはどーなんだ? 上達してんのか?」
ギュリス(GM):
「いやぁ、まだ初日が終わっただけだし、なんとも……。でも、ひと月もすれば、成果はでると思うよ」
セルダル:
「そりゃ楽しみだ。ニルフェルなら、きっといー結果が出せると思うぜ」
ギュリス(GM):
「まあ、誰かさんと違って素直だからね。いまがあの子にとっての成長期だよ」
セルダル:
んじゃ、それを聞いてスレイマンのほーに目を向けた。
スレイマン(GM):
スレイマンは2人の話には興味がないといった風に、あさってのほうを向いています。
セルダル:
「くそ。オレも負けてらんねぇな!」
GM:
こうして、3人はイルヤソール邸へと向う道を歩いて行ったのでした。
――というところで、今回のセッションは終了となります。お疲れさまでした。
セルダル:
お疲れさまでした。