LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 41.帰還

 神人の記憶と名付けられた静かで寂しげなBGM。

アンリ:あなたたちの生活がどんなものなのか教えて欲しいということで、三人にレイフィールド王都に連れて行って欲しいとお願いします。

ウィル:それはよろこんで。馬は貸してもらえるんですか?

GM:はい、移動は馬で。

クラウス:じゃあ、馬二頭で。パカラッ、パカラッ。

 ウィルたちは聖域を訪れたときとは違い、馬なりで王都への道のりを進んで行きます。そして、聖域を離れてから二日目。時刻は日が傾きかけた頃。あと数刻も馬を走らせれば王都に辿りつこうかというところ。歩みを阻害する豪雨も、崖崩れもなく、舗装された道を行くその道程は何事もなく過ぎていくかのように思われました。しかし……。

GM:その道中にですね、アンリが自我を失う時間帯がありました。

アンリ:はい。

GM:目覚めてみると、ウィルたちの周囲に破壊の傷跡が残っているという状況です。(ウィルたちに対して)アンリがいきなりうめきだしたかと思うと、「死ねッ!」と叫んで突然あなたたちに対して深淵の力による魔法を唱えてきます。

ウィル:あー。なるほど。

GM:しかし、しばらくするとアンリの暴走は治まりました。ウィルたちはアンリの深淵の力の影響を受けることはないので傷つきはしませんが……。そんなことがあった後でアンリはふっと自我を取り戻しました。

アンリ:了解。王都に向かう途中だね?

GM:はい、途中です。

ウィル:クラウスは何か知ってるのかな?

クラウス:(困った顔をして)我々に魔法を唱えてきちゃったわけですよね?

GM:そうですね。その魔法で馬が一頭犠牲に……。

ゼオル&クラウス:馬がーっ!

GM:“ファイア・ストーム”に巻き込まれて焼け死んでしまいました。

クラウス:「考えて然るべきでしたが、あれほど強大な力を振るうには、それなりの代償が必要です。その反動といったところでしょうか……。どういった状態であるのかは、本人に詳しく聞いてみないことにはわかりませんが」

アンリ:そんな声が聞こえる中、意識を取り戻しました。目をパチパチと開けて――。

ゼオル:「大丈夫か?」

 周囲を見渡したアンリはすぐに何が起きたのかを把握します。

アンリ:「ごめんなさい」。そのまま顔を手で覆って、震える声で言いました。「……時間が、来てしまったようです」

GM:(あら? 事前予告として一時的に軽く暴走させただけのつもりが、アンリはここで決めるつもりか……。了解。それならそうしましょう)。

ウィル:「どういうことなんだ?」

アンリ:「これは深淵の力を使ったことによる代償です。わたしの魂は少しずつ悪魔のものに変わって行きます……」

ウィル:「悪魔ってあの試練の遺跡の祭壇にいた?」

アンリ:うなずきました。「わたしの身体はその悪魔に乗っ取られ……最後は悪魔そのものとなるでしょう」

ゼオル:「知ってたんだな?」

アンリ:「……ええ」。身体を起こして立ち上がります。

 長い沈黙。ウィルたちはこれから行われようとしていることを本能的に察してか、自らその先を進めようとはしませんでした。

アンリ:「さあ、守護者よ……約束を守るときがきました。準備をなさってください」

ウィル:「何を言ってるんだ、アンリ?」

アンリ:「深淵の力はあなたたち守護者にはおよびません。それこそが守護者の守護者たるゆえんなのですから……」

ウィル:(辛そうに表情を歪ませて)「あと少しで……あの峠さえ越えればレイフィールド王都が見えてくるんだ。アンリには見せてやりたいところがいっぱいある。俺やゼオルが学んだ騎士の養成学校。そして、あの美しい王都の街並み。他にもさまざまなものが……きっとお前が驚くようなものが、レイフィールド王都には待っているんだ!」

アンリ:「きっと、綺麗なんでしょうね。そして、素晴らしいんでしょうね。……でも、もう見なくてもわかります。だから、悔いはありません。わたしはこれ以上、あなたたちの大切な……大切なものが待っているその地へは……進んではならないのです」

 アンリの言葉には有無を言わさない強い決意が感じられました。押し黙って考え込むウィルたち。再び長い沈黙。

アンリ:「早く……さあ、早く!」

ウィル:どうにかする方法はないのかといった目でクラウスを見ました。

クラウス:クラウスはゆっくりと首を横に振りました。

アンリ:「あのときあなたたちは誓ったでしょう? 約束したでしょう?」

 守護者となるための試練において、ウィルたちはいかなる犠牲をも問わず守護者としての役目を全うすることを約束しています。それだけでなく、彼らはみずから自分たちが悪魔に支配され暴挙に及んでしまったときは互いに全力でそれを止めることをも誓い合っています。まさか、その犠牲となるのが自分たちではなくアンリその人だとは思いもせずに。

アンリ:「……いまさら違えることなど……許されないのです」

 アンリの言葉が守護者であるウィルたちに重くのしかかります。

ゼオル:「少しの時間もないんだな?」

アンリ:「あなたたちを振り払って、わたしが街へ着いてしまったら……どうなさいます? せっかく、わたしたちが築き上げようとしているすべてが無になるのですよ? 悪魔は、もう、狙っています。さあ、歩みを止めず、一瞬のうちに、使命を全うしてください」

ウィル:震える手をグレート・ソードの柄にかけます。

ゼオル:「ウィル」。ゼオルはそう声をかけると、自分の剣にも手を掛けた。お前震えてるよといったニュアンスをこめて。

ウィル:震える手にもう一方の手を上から重ねて、より一掃剣の柄を強く握りこんで……。「俺は女神クローディアに誓った。犠牲を厭わぬ強い意志を持って歩み続けると。俺はいつでも、自分の身を犠牲にしてでも自らの信念と、そして弱き者を守るのが騎士だと信じていた。なのに……なのに……」

 ウィルが必死に言葉を搾り出します。

ウィル:「アンリ、お前は強い力を得ても、それに溺れることのない、本当に強い心を持った奴だ。そして、いまこうしてこの場にあっても、迷ってる俺を後押しする、そんな意志の強い、本当に尊敬に値する人間だ。俺たちさえクローディアの聖域に行かなければ、お前にはもっと、別の人生だって、あったかもしれないのに……」

アンリ:「別の人生なんて要りません」(ニコリとほほえみ)「とても……とても満足しているんですよ」

 気丈に明るく振舞おうとするアンリ。

ウィル:「ありがとう、アンリ。俺は守護者として俺たちが勝ち得たものをこれからも守ってみせる。レイフィールドも、そして聖域も。だから、必ずどこかで見守っていてくれ。俺たちは、いつまでも……仲間だ!」と言って抜刀して……。

アンリ:はい。

ウィル:斬ります……。

アンリ:ズバッ……ザンッ! ……ぱたっ。

 何度も繰り返された沈黙が再び場を支配しますが、その沈黙を破るアンリの発言はもうありません。自らアンリを斬ったウィルはそれ以上何も言葉を発することができずにいました。長い、長い沈黙のあと、ゼオルがウィルを支えるように言葉を発しました。

ゼオル:「俺たちが彼女のことを忘れなければいい」

 クラウスもそれに続きます。

クラウス:「誓わせてもらいますよ……。同じ犠牲者はもうださせませんからね」。マントのようなものでアンリの亡骸を包んで抱きかかえます。

 ウィルは仲間たちの言葉をうけても、まだ何も言うことができませんでした。ウィルはその後一言も発しませんでした。

GM:こうして、アンリの亡骸を抱きかかえて、あなたたちが西の方へと足を進めると、すぐに峠の頂にたどり着き、峠の向こう側に広がるレイフィールド城下町の美しい街並みがその目に映るのでした……。

 日の傾きも大きくなり、西に広がるレイフィールド王都、さらに向こうに広がる内海に秋の夕日が沈み行こうとしていました。きっと、夕日の逆光に浮かび上がるレイフィールド王都の街並みはとても美しいものだったことでしょう。

GM:……というところで、シナリオ「聖域の守護者」のセッションを終了します。おつかれさまでした。

一同:おつかれさまでした。




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