LOST ウェイトターン制TRPG


聖域の守護者イメージ

聖域の守護者 40.交錯

 戦いの終わりを告げる穏やかなBGM。

 GMがベネット伯エルモ長老カーライル女男爵のカードを場に提示する。

GM:では、時間を少し進めます。強硬派が遺跡から回収した遺産はベネット伯の手によってクローネの民に返還されました。ベネット伯はアンリを仲介役としてエルモ長老たちに、今後、ギルモア王国がレイフィールド王国、ひいてはこの聖域に攻めてくるだろうこと、レイフィールド王国としては、聖域に眠る神の遺産を借りてギルモア王国に対したいと考えていること、先代国王の侵略行為に始まり、内政上の問題もあり聖域に侵攻せざるを得なかったこと、その中でウィルとアンリたちが思いがけずレイフィールドとクローネの架け橋となってくれたことでこの機会を得ることができたこと……それらすべてを話した上で、なんとか力を貸してもらえないだろうかということを願い出ました。それに対し、エルモ長老はアンリがそれを望むのであれば、自分たちがそれを拒むことはないと言って、ベネット伯の願いを受け入れてくれました。

アンリ:アンリはそれに条件をつけます。クローネの民としても、目前に迫っているギルモア王国の脅威を知るべきだ。レイフィールド王国との協力がなければ、自分達もギルモア王国に滅ぼされてしまう。であれば、いま手を結べるレイフィールド王国との友好的な関係を保つために、現実を見て、本当に力を貸す必要があればクローネの民の手によって相応しいと思われるレイフィールドの騎士に武具は手渡されるべきだと告げます。

GM:それに対して了解しなくてはならないのは、ベネット伯よりもエルモ長老の方でしょうかね。アンリの話を聞いて、エルモ長老はこう言います。

GM(エルモ長老):「わしらも、いつまでも神の帰りを待ち続け、ここに篭るのではなく、外の世界にも目を向ける必要があるようじゃ」

GM:エルモ長老はアンリの提言を受け入れ、武具の貸し出しを認めました。おそらく、レイフィールド王国騎士が借り受ける遺産ひとつごとに盟約を結ぶことで初めて遺産が貸し出されるようになるでしょう。さらにベネット伯は一歩踏み込んで……。

GM(ベネット伯):「もし許してもらえるなら、この聖域に研究者たちを連れてきたい」

アンリ:ん?

GM:つまり、遺産の中には武具だけでなく、呪文書などもあるわけです。その呪文書を研究し、呪文を取得させて欲しいとベネット伯は言っています。

クラウス:呪文を取得することで呪文書がなくなったりはしないんですか?

GM:ルール的に言うと、呪文書に書かれた呪文をスペルリングに記憶させたときに呪文書が失われる可能性もあります。

アンリ:もしそれをエルモ長老が許すのであれば……。「魔法を覚える人間は、わたしが指名した人間に決めさせていただいてもよろしいですか?」

GM(エルモ長老):「うむ」

アンリ:「であれば……」(クラウスを見て)「お願いしてもよろしいですよね?」

クラウス:「喜んで引き受けますよ」

アンリ:「あなたの眼鏡にかなう者であれば、決して悪意ある魔法使いにはならないでしょう」

クラウス:「とは言っても、私はまだ弟子の一人もいませんがね」

GM:わかりました。その取り決めで、導師という役職ができました。導師のみが呪文を他人に教える権限を有することにします。

クラウス:初代導師だよ、格好良い!

ゼオル:初代導師……だと?

ウィル:凄いな。

GM:こうして、今後のギルモア王国との戦いに備えて、聖域と外界の交流が急速に進んでいくことになります。クローネの民の中には外界人に対してあからさまな嫌悪感を示す者もいますが、外界の情報が徐々に入ってくるにつれ、自分たちの置かれた状況を理解し、利害関係の一致をみて、現状を受け入れざるを得なくなっていくのでした。

 異文化交流は容易いことではありません。この後も多くの問題がレイフィールド王国民とクローネの民に圧し掛かってくることでしょう。しかし、それはまた別のお話です。

GM:さて、それから一週間程度時間を進めてしまってもよろしいでしょうか。これは交流開始に向けて細かい取り決めなどをしている期間なんですが。

アンリ:わかりました。取り決めは、一週間……。う〜ん、できれば早くレイフィールド王国の様子が知りたいんだけど。アンリはこれまで人づてにしか外界の話を聞いてこなかったので、自分の目で確認したいと思ってます。もし取り決めの話が早く終わるのであれば、みんなにそういう希望があることを伝えます。

クラウス:「それなら、レイフィールドの王都見学と洒落こみますか」

ウィル:オルコット大公が亡くなったことによって、王都で反クローネ的な動きとかはないんですかね?

GM:それに関しては、レイフィールド使節団のもたらした情報で明らかになるのですが……。まず、ベネット伯はいったん王都に戻り、休む暇なく使節団団長として王の使節団を引き連れて再び聖域を訪れます。そして、王の代理としてクローネの民との盟約を結ぶことになります。レイフィールドVI世は、今回の聖域に対して侵略行為を行ったオルコット大公の死に関しては、あくまで私的に行った戦闘中での戦死であるとして、それに対して国としてどうこうするものではないとしました。

 王命での侵攻戦や、外敵による侵略に対する防衛戦で死んだならまだしも、独断で行った争いの中で戦死したのであれば、その相手に対して弔い合戦を仕掛ける正当性はありません。強硬派においてオルコット大公に次ぐ実力者であるベネット伯がその戦いにおいて卑怯な行いがなかったことを証言すれば、それに異議を唱えることができる人物は皆無です。もちろん、これはベネット伯の書いた筋書き通りというわけですが……。

 そういう意味ではオルコット大公を背中から射掛けるよりも、正面から射抜いたほうが良かったかもしれませんが、そこは逃げるところを背後から撃たれたほうがオルコット大公の矮小さが引き立つだろうと考えたGMの演出です。

GM:アンリの早く王都に向かいたいという申し出に関しては、エルモ長老はレイフィールドからの使節団が聖域に到着したところでそれを認めました。(ベネット伯の往復移動時間と王都での準備時間を考えれば、最短でも戦いの後、五日間は経ってしまったわけですが)。

アンリ:わかりました。

GM:その間にクローネの民たちは退避していた聖域奥の神殿から、もともと住んでいた集落へと戻ってきています。集落の近くには使節団用の小屋の建設が急ピッチで進められており、ウィルたち三人は男手としてその手伝いに駆り出されています。そんな様子を離れたところで見ながら、エルモ長老とアンリが話しています。

GM(エルモ長老):「良いことなのか、悪いことなのか……、神ではないわしらにはわかりかねることじゃが、これから大きく変わっていくことだけは間違いないのぅ」

アンリ:「はい」

GM(エルモ長老):「もうそろそろ、ここは大丈夫じゃろう……」

アンリ:「さいごまで我侭を言ってしまい、申し訳ありません。でも、これが最後であれば、わたしも御子として深淵の力を使った甲斐があったというもの」

GM:そう話しているアンリの胸をギューッと締め付けるような痛みが定期的に襲ってきます。

アンリ:そのまま胸を抱えて、膝から崩れ落ちました。「そのときが迫っています。では……もう……わたし自身の時間としてもよろしいですね?」

GM(エルモ長老):「うむ。達者でな」

アンリ:うなずいて立ち上がり、旅の準備をします。

GM:その瞬間はGMから指定はしないので、数日内で自分の決めたタイミングで言ってください。最長でも三日程度で。

アンリ:了解しました。レイフィールド王都に着くまでどれくらいかかるんでしょう?

GM:馬で普通に移動すれば二日あればたどり着きますね。

アンリ:では、一日はレイフィールド王都を見て楽しめますね。

 クラウスが予見したように、大きな力には大きな代償を伴うもの……。聖域を守るためにアンリが使った深淵の力という強大な力の代価を支払うときが、刻一刻と迫っていました。




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