LOST ウェイトターン制TRPG


TRPGリプレイ 輝くもの天より墜ちイメージ

03.試験の朝

GM:
 それでは、『輝くもの天より墜ち』のセッション本編を開始します。よろしくお願いします。

一同:
 よろしくお願いします。

GM:
 はじまりの舞台は、歴史ある大国として知られるギルモア王国の辺境、ウォーラム男爵領内にあるサットン村。ギルモア王国は昨年の秋口から隣国のレイフィールド王国と戦争状態にありましたが、辺境のさらに外れにある人口200人ほどにすぎない小さな農村にはその影響もあまりおよばず、例年どおり夏のはじまりに植えたオーツ麦の収穫を終えると、いよいよ三日三晩続く収穫祭の初日を迎えようとしていました。村の中央部に設置されたやぐらや藁で組まれた巨大な人形が、ことさら祭りの気配を感じさせます。娯楽の少ない田舎の農村にあって、収穫祭を心待ちに一年間を過ごしてきたのだと広言する村人も少なくありません。

ギルモア王国東部地図

GM:
 そんなある秋の日の早朝、村はずれにある民家の前に、旅支度を整えた者たちが集まりつつあります。彼らはこの村で活動する見習い自警団員たちであり、これから正規の自警団員に昇格するための試験に挑もうとしていたのでした。それこそが、今回のPCであるあなたたちです。
 現在、サットン村の自警団は、ほかの地方にある同程度の村では考えられないほど充実した組織となっています。なぜならば、4年前に爵位を授かりこの地の統治者となったウォーラム男爵が、それまで治安維持活動を担っていた城塞騎士たちの多くを解雇してしまったことで、それぞれの集落が独自に自衛せざるを得なくなってしまったためです。
 幸いにして、サットン村の自警団には、3年前からレイモンドという名の元城塞騎士が参加しており、城塞騎士の中でも指折りの実力者であった彼が、その技を次世代の若者たちへと伝えるべく、見習い自警団員の指導役を務めていました。
 レイモンドはそろそろ40代にさしかかろうかといった壮年の男で、少し茶色がかった黒髪に、伸びるに任せた髭を口元からあごにかけて蓄えています。体格はかなり逞しく、力強い攻撃を得意としています。また、普段の訓練のときには、片手剣と盾を装備する戦闘スタイルをとっています。
 そんな彼が、数日前、見習い自警団員であるあなたたちに対して、昇格試験についてこのように話していました。

レイモンド(GM):
「もうすぐ、オーツ麦の収穫も終わる。それが終われば、いよいよ昇格試験だな。お前たちにもそれぞれの準備があるだろうから、今のうちに昇格試験の内容について教えられる範囲で伝えておくぞ。
 試験は収穫祭の初日から二日目にかけて行われる。まず、初日の朝、ソフィア婆さんの家の前に集合だ。そこからコンラッド山脈を登り、そこで試験に挑んでもらうことになる。山で一泊するから、そのつもりで各自装備を整えてくるように」


GM:
 そして現在。試験当日の朝を迎え、レイモンドはソフィア婆さんの家の前であなたたちがやってくるのを待ち構えているわけですが、もう全員その場に集まっているということでよろしいですか? あえて遅刻したいという人がいれば、それでも構いませんが。

アルフォンス:
 じゃあ、オレは集合時刻に遅れることにする。普段から、オレはたびたび訓練とか呼び出しに遅れてくることがある。

GM:
 了解です。では、アルフォンスを除く3人が、予定されていた時間までにソフィア婆さんの家の前に集まりました。

メイジー:
「先生、試験って具体的にはなにをするんですか?」
 赤みを帯びた長い髪を後ろで束ねた少女がそう質問しました。旅支度の荷物の中には、弓と矢がのぞいています。

レイモンド(GM):
「うーむ。全員そろったところで説明するつもりだったんだが、アルフォンスの奴はまだ来ないのか?」

エリオット:
 じゃあ、金髪の大人しそうな少年が、思い出したかのようにこう言うよ。
「あ、そういえば、たしかアルフォンスは棄権するとかなんとか言っていたような……」

一同:
(笑)

アルフォンス:
 今の一言で、エリオットがかなり腹黒い奴だってことがわかった(笑)。

メイジー:
「え? でも、昨日は『絶対合格してやるんだー!』ってやる気を見せてたじゃない」

フェルナンド:
「ああ。棄権するなんて話は聞いてない」と、皆と年齢は変わらないものの真面目そうで大人びた感じの若者が、メイジーの言葉に同調してみせた。腰には片手剣を提げている。

レイモンド(GM):
「そうだな。俺のところにも、アルフォンスが試験を棄権するという話は届いていない。もし棄権するのだとしても、そのことはちゃんと自分で伝えに来るはずだ。だから、もう少しだけここでアルフォンスが来るのを待つことにしよう」

メイジー:
「それだったら、ワタシが連れてくるよ。どーせ、寝坊でもしてるんでしょ」

エリオット:
「えー? なにもメイジーが呼びに行くことないって」

フェルナンド:
 コイツ……(笑)。

レイモンド(GM):
「……それなら、お前たち全員でアルフォンスのことを連れてきてくれ。あまり出発の時刻が遅れるようだと、試験の最中に日が暮れてしまうからな」

メイジー:
「わかりました。じゃあ、さっそく行ってきます!」

エリオット:
「あっ! 待ってよ、メイジー!」

フェルナンド:
 俺もメイジーのあとについて行く。で、歩きながらこう声をかけた。
「なあ、メイジー。試験当日に寝坊するような奴をわざわざ呼びに行く必要なんてあるのか?」

メイジー:
「うーん。でもね、アルフォンスの場合、本人にやる気がないってわけじゃないんだよ。……多分」

フェルナンド:
「多分……ねぇ」

GM:
 では、そうやってアルフォンスのことを迎えに向かったあなたたちの背後では、ソフィア婆さんの家の扉が開き、中から白髪の老婆が姿を現しました。
 ソフィア婆さんはおたまで鍋をかき回すのがとても似合う、魔女を絵に描いたような人です。ハッキリとしたことはわかりませんが、すでに齢80を越えているそうで、顔に刻まれた深いシワが、彼女が送ってきた長い年月を物語っています。

ソフィア婆さん(GM):
「どうだい、レイモンド? そろそろ出発の準備は整って――いないようだねぇ……」

レイモンド(GM):
「それが、アルフォンスの奴が遅れていまして……。今ほかの連中に呼びに行かせたところですから、出発まではもうしばらくかかるでしょうね」

ソフィア婆さん(GM):
「そうかい、そうかい。まあ、相変わらずといったところかねぇ……。
 それはそうと、ほら、お前さんに頼まれていたものを用意しておいたよ。今回の試験で使うんだろ? せっかくだから、気合いを入れてつくっておいたからね」

GM:
 そう言って、ソフィア婆さんはいくつかの薬品などをレイモンドに手渡します。レイモンドはそれを受け取ると、満足そうにうなずきました。


GM:
 さて、それでは場面を移します。アルフォンスは今どこでなにをしていますか?

アルフォンス:
 オレは、自分の家の裏にある家畜小屋の横に積まれた牧草の上で、みんなが来るまで大いびきをかいて居眠りしてる。
「ぐごごごー、すぴー」

GM:
(早朝なのに家の外で寝ていたってことは、早起きして剣の稽古をしていたってことかな……)

メイジー:
 じゃあ、アルフォンスの家について居眠りしてるのを見つけると、「あ! みーつけた!」と声を上げて、手近にあった藁束をアルフォンスの顔の上に放り投げた。

アルフォンス:
「ぐあッ! な、なにしやがるッ! ペッ!ペッ! 畜生、干し草が口ん中入っちまったじゃねぇか!」と、こげ茶色の短髪の青年が悪態をつきながら飛び起きた。

メイジー:
「おはよう、アルフォンス! グッスリお休みだったみたいだけど、目は覚めた?」

アルフォンス:
「なにがおはようだ! まったくもって、最悪の目覚めだよ! 人が気持ちよく寝てたってのに、いったいなんだってんだよ!?」

フェルナンド:
「試験の集合時間を過ぎてもお前が姿をみせないから、皆で呼びに来たんだ」

アルフォンス:
「ハァ……? 試験だって? 試験は明日からだろ?」

メイジー:
「ちょっと、まだ寝ぼけてるの? 今日はもう収穫祭の初日だよ?」

アルフォンス:
「え……? マ、マジか? やっべぇ……」

エリオット:
「別にそのまま寝ていたいんだったら、アルフォンスは試験に参加しなくてもいいんだよ?」

メイジー:
 あおる、あおる(笑)。

アルフォンス:
「ち、ちげぇよ! オレは寝てたんじゃなくて……瞑想! そう、瞑想して精神統一してたんだよ!」

フェルナンド:
「言い訳はいいから早く準備しろ。レイモンド様がお待ちだ」

アルフォンス:
「わかってるよ! すぐに準備しちまうから、少し黙ってそこで待ってろ!」

メイジー:
 じゃあ、腰に手を当てて、もうしょうがないなぁといった感じで出発の準備をはじめたアルフォンスの様子を眺めてる。
 で、待っているあいだに、隣にいるフェルナンドに向かって、「それにしても、フェルナンドって物言いが堅苦しいよね」と話を振った。

フェルナンド:
「ん、そうか?」

メイジー:
「うん。みんな同い年なんだから、もっと砕けた話し方してくれてもいいのに」

フェルナンド:
「ふむ……。だが、レイモンド様からは、騎士を志す者は常日頃の心がまえが大切だと言われているからな」

メイジー:
「ふーん。でも、ワタシは堅苦しいのって苦手だな」

アルフォンス:
「まったくだ。フェルナンドの坊やはマジメだねぇ」と、荷物をまとめながら話に割って入った。

フェルナンド:
「アルフォンス、お前のほうこそ、もう少ししっかりしたらどうなんだ」

アルフォンス:
「オレ様は天才だから、そんな細けぇこと気にしなくたって騎士になれんだよ。その点、凡人どもは絶え間ない努力が必要だから大変だよなぁ」

メイジー:
「アルフォンスはそんなことばっかり言ってるから、レイモンド先生に怒られるんだよ?」

アルフォンス:
「チッ……いちいち、うるせぇなぁ」
 メイジーの指摘にぼやきながら、自分の体格と比べて大きすぎるくらいの両手剣を背負った。
「よっしゃッ、準備完了。んじゃ、さっさと行こうぜ!」


GM:
 では、あなたたちは4人そろってソフィア婆さんの家の前へと戻ってきました。そこには、レイモンドだけでなくソフィア婆さんの姿もあります。

ソフィア婆さん(GM):
「おやおや、ようやく集まったようだね」

エリオット:
「待たせちゃってゴメンね、お婆ちゃん。誰とは言わないけれど、こんな大切な日に寝坊するような馬鹿がいてさ」

一同:
(笑)

フェルナンド:
 エリオットの奴、どんだけ性格悪いんだよ(笑)。

どんだけ性格悪いんだよ
 出だしからエリオットが灰汁の強いプレイをしており、それに対して辛辣な突っ込みが入ったりもしていますが、プライベートセッションで気心の知れた面子だからこそのやり取りであるとともに、今後の展開のための前フリだったりします。

ソフィア婆さん(GM):
「はて、馬鹿っていうのはどの子のことかな? アタシからすれば、お前さんらみんなお馬鹿さんなんだけれどねぇ」

エリオット:
「エヘヘ。お婆ちゃんにそう言われちゃったらかなわないや」

ソフィア婆さん(GM):
「でも、お前さんらにはまだまだ伸びしろがあるからね。今はお馬鹿さんでも、この先ずっとそのままでいるとは限らないさ」

エリオット:
「本当? じゃあ、僕たちはまだ伸び盛りってことだね」

ソフィア婆さん(GM):
「ああ、もちろんだとも。でも、そのためには日々の積み重ねが肝心だよ」

メイジー:
「えー? ワタシたち、もう読み書きは覚えたんだから、勉強は十分でしょう?」

エリオット:
「メイジー。弓の練習をするのはいいけれど、ちゃんと座学も続けなくちゃだめだよ。そのための読み書きなんだから」

フェルナンド:
 エリオットのメイジーとそれ以外への対応が違い過ぎる(笑)。

メイジー:
 うん。正直、エリオットがここまで扱いづらいキャラクターだとは思ってなかった。この先、お姉さん的に面倒を見てあげられるのかちょっと不安になる(苦笑)。

レイモンド(GM):
「さて、関係のないおしゃべりはそこまでだ。すでに予定していた出発の時刻は過ぎているんだからな。本当は出発の前に試験内容について説明するつもりだったんだが、それは歩きながら話すとしよう」

GM:
 そう言うと、レイモンドはコンラッド山脈に向けて歩き始めました。

ソフィア婆さん(GM):
「気をつけて行ってくるんだよ!」

GM:
 あなたたちの背後では、皆が無事に帰還できるようにと、ソフィア婆さんが切り火的まじないを施してくれています。
 こうしてあなたたちは、秋深まるコンラッド山脈へと足を踏み入れることになったのでした。




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