GM:
山道を登る過程において、しばらくはハイキング気分の道のりが続きます。周囲の木々は色づき、燃えるような赤色が目を楽しませてくれます。それとともに、小川のせせらぎと鳥のさえずりを伴うさわやかな風が、あなたたちの耳を撫でていきました。
そのような中、レイモンドが試験の内容について説明していきます。
レイモンド(GM):
「今回の試験では、お前たちにエフォート岳まで登ってもらう」
メイジー:
エフォート岳って?
GM:
コンラッド山脈の中腹にある小ピークです。あなたたちは、村からエフォート岳までが片道1日近い道のりであることを知っています。
レイモンド(GM):
「エフォート岳には小さな石造りの祠が建てられているんだが、今回の試験に先駆けて、その中にメダルを4つほど置いてきた。そのメダルを取ってくることで、エフォート岳に登った証明とする。途中のキャンプ地点までは俺もついて行くが、その先はお前たちだけで登るんだ」
フェルナンド:
メダルが4つあるということは、各個人ごとに行動してもいいってことか?
エリオット:
つまり、先についた人は、「あれれ? メダルは3つしかありませんでしたよ」とか言えるわけだね(笑)。
アルフォンス:
やめろ(笑)!
GM:
別に構いませんけれど、あなたたちってそんなに仲悪いんですか(笑)?
一同:
(笑)
アルフォンス:
まあ、とりあえず試験の内容は把握した。
「オッケー。任せとけ。楽勝だぜ!」
GM:
軽口を叩くアルフォンスのことを見て、レイモンドは小さく笑います。
レイモンド(GM):
「そのためにも、まずは昼になる前にキャンプ地点までたどり着いておきたいところだな」
GM:
そう言うと、レイモンドはさらに歩みを早めました。なにせ、アルフォンスの寝坊によって、予定よりも少し遅れていますからね。
さて、それではここでウォーミングアップとして、キャンプ地点につくまでの登山判定をしてもらいます。《VIT+D20》で判定してみてください。目標値は8です。
メイジー:
えー、VITなの……? ワタシの苦手な能力なんだけど……。
GM:
山登りは体力と精神力によるところが大きいですからね。
なお、この登山判定は互助が可能です。判定に成功した人は、余剰分をほかの人に分け与えることができます。ただし、その場合にはそれにふさわしい演出をしてくださいね。
メイジー:
(コロコロ)やった、10で成功!
エリオット:
(コロコロ)12で成功。
フェルナンド:
(コロコロ)うッ、1足らない……。7で失敗。
アルフォンス:
(コロコロ)チクショーッ(苦笑)! いきなり大失敗かよッ!?
一同:
(笑)
GM:
では、互助の有無を確認する前に、この判定に失敗した場合のペナルティについて説明しておきますね。
判定に失敗した場合、能力値のいずれかがランダムで1点減少してしまいます。このペナルティは1時間以上の休憩を取ることで1点ずつ回復させることができます。
このあとキャンプ地点まで到着すれば昼休憩を挟むことになりますので、もしここで判定に失敗したとしてもそこで回復させることが可能です。
アルフォンス:
じゃあ、オレは山登りの最中、唐突に足を滑らせた。
「うわあああぁぁぁッ!」
フェルナンド:
それと同時に俺も足を踏み外しそうになる。
エリオット:
そのことに気がついたボクは、とっさに風の精霊に働きかけてアルフォンスとフェルナンドのことを支えようとするよ。
余剰分の4点のうち、まず1点をフェルナンドに、残り3点をアルフォンスの達成値に譲渡します。
フェルナンド:
「助かった、エリオット」
エリオット:
「どういたしまして」
まあ、フェルナンドはどうにかできたけれど、アルフォンスを助けるためにはあと4点足らないんだよね……。
メイジー:
ワタシの余剰分を譲渡しても足りないね……。
アルフォンス:
なら、オレはエリオットが起こした風の力で体勢が持ち直しそうになったところで、「オイ、オトコオンナッ! 余計なことすんじゃねーよッ!」って悪態をついておく。
エリオット:
「あっそ」
じゃあ、指をパチンと鳴らして、すかさず精霊の力を解除した。
アルフォンス:
「うわあああぁぁぁッ!」
一同:
(笑)
GM:
では、ペナルティの対象となる能力を決定するので、アルフォンスは《D20》ロールをおこなってください。
アルフォンス:
(コロコロ)11。
GM:
ならば、アルフォンスのDEXは1点減少しました。
アルフォンス:
崖と呼ぶには大げさなちょっとした段差を、うしろ向きに転げ落ちた。ゴロゴロゴロ……。ドスンッ。
「いってーッ!」
メイジー:
「大丈夫、アルフォンス?」
アルフォンス:
「あ、あたりまえだ! 楽勝よ、楽勝!」とか言いつつ立ち上がって歩いてみせるんだが、そのときにわずかに足を引きずった。
(チッ、足をひねっちまったか……)
GM:
その様子をひととおり目にしていたレイモンドでしたが、彼はあなたたちに手を貸すようなそぶりは見せません。ただ、わずかな時間だけ足を止め、アルフォンスが立ち上がるのを確認するとふたたび歩き始めました。
エリオット:
「こんな状況でもさっさと歩いて行っちゃうなんて、嫌なヤツだよね」と、レイモンドの背中をにらみつつ、誰にともなく呟いた。
フェルナンド:
「これも試験のうちってことだろ」
エリオット:
「だからってさ……」
GM:
こうして、あなたたちはレイモンドのあとを追いかけ、さらに山を登ることになります。そして、ちょうどお昼時になろうかというころ、ひたすら強行軍を続けてきたことが功を奏し、なんとかキャンプ地点まで到着することができたのでした。
GM:
レイモンドは背負っていた大きな荷物袋をその場に下すと、さっそくキャンプの設営作業に着手します。
レイモンド(GM):
「さあ、設営するぞ。お前たちも手伝ってくれ」
フェルナンド:
「はいッ」
メイジー&エリオット:
「はーい」
アルフォンス:
「あーあ、めんどくせー」
レイモンド(GM):
「アルフォンス。お前は手伝わなくていいから、少し休んでおけ」
アルフォンス:
「え? いいのか?」
レイモンド(GM):
「さっき転げたときに足を挫いたんだろう?」
アルフォンス:
「こ、こんなの屁でもねぇよ!」
レイモンド(GM):
「無理をするな。体調管理も自警団員の仕事のうちだ。いい機会だと思って、ここでそれを学んでおけ。それとも、このあとの試験でも皆の足を引っ張るつもりか?」
メイジー:
「そうそう。足を怪我してる人は、そこでゆっくり休んでおくこと!」
アルフォンス:
「う、うぐ……。そこまで言うんじゃ、しょうがねぇな……」
GM:
アルフォンスが指示に従う姿勢を見せると、レイモンドはニコリとほほ笑みます。
レイモンド(GM):
「素直なのはいいことだ」
エリオット:
「まあ、下手に手を出されても、足手まといになるだけだからね……」
アルフォンス:
「う、うっせぇーッ! このオトコオンナッ! オメェがちゃんと支えてれば、オレは転げ落ちずにすんでたはずなんだよッ!」と怒鳴って拳を振り上げた。
エリオット:
「なんだよ! ボクは助けてあげようとしていたのに、それを断ったのはアルフォンスのほうじゃないか!」
フェルナンド:
「まったく騒がしい……。おい、アルフォンス。足を診せてみろ」
アルフォンス:
「いーよ、別に。大丈夫だって」
フェルナンド:
「足手まといになられて迷惑するのはこっちなんだ。いいから診せろ」
アルフォンス:
「ちくしょー。どいつもこいつも、オレ様のことを足手まといって言いやがって……」
フェルナンド:
アルフォンスの足に当てた俺の手から淡い光が発せられた。まあ、フレーバーに過ぎないんだが、癒しの魔法をかけたということで。
GM:
了解です。では、フェルナンドの行使した癒しの魔法の効果もあり、30分もするとアルフォンスはいつも通り行動できるようになります。また、そのころまでには設営も終わり、昼食の準備が整いました。
昼食の最中、レイモンドはあなたたちに対して次のような話をします。
レイモンド(GM):
「さて、ここから先はいよいよお前たちだけでエフォート岳まで向かってもらうことになる。これまで以上に足元は悪くなるし、斜度も急になるから、十分に気をつけて登るんだぞ。とくに、アルフォンスは慎重にな」
エリオット:
「ぷっ(笑)」
アルフォンス:
「い、言われるまでもねーよ!」
レイモンド(GM):
「もし、少しでも体調が悪くなったなら、無理せず休むことだ。ときには引き返す勇気を持つことも大切だぞ。この試験ではそういった判断力も測られることになる。
それと、道を間違えて竜の領域へと足を踏み入れてしまわぬように気をつけるのはもちろんのことだが、山の民との遭遇にも十分に注意しろよ。あいつらは精霊を従えているし、なによりも好戦的だからな」
GM:
ここで“竜”と“山の民”という言葉が出てきたので、それぞれのことについてあなたたちがどれくらい知っているかということをINTを用いた知識判定で決めてみましょう。
まず、“竜”に対する判定の目標値は16と20の2段階です。
フェルナンド&エリオット:
(コロコロ)1段階成功。
GM:
ならば、フェルナンドとエリオットは竜について次のことを知っています。
竜の名前はクレメンタイン。コンラッド山脈南部の山頂付近に住み、サットン村を含む周辺一帯を縄張りとしている金竜です。神々が消失する直前に生を受けたとされていますので、もうすぐ100歳になろうかといったところですね。
数年に一度くらいの頻度で、サットン村の遥か上空を飛行している姿が目撃されることもありますが、これまで人間を襲ったという記録は残されていません。また、クレメンタインに対して畏怖の念を抱いていた人間たちも、不用意に山頂付近に足を踏み入れようとしたり、あるいは北東側に向かって山を越えようとしたりすることはありませんでした。
なお、金竜は100年に一度、世代交代すると言われています。これは死ぬという意味ではなく、100年周期で次の世代を誕生させ、親となった竜はいずこかへと飛び去ってしまうということらしいです。“竜”に対して、達成値16で得られる情報は以上です。
続いて、“山の民”に対する判定の目標値は13になります。
フェルナンド&エリオット:
(コロコロ)成功。
GM:
山の民とは、サットン村の大人たちのあいだでたびたび語られる蛮族のことです。彼らは山の頂上から中腹までの範囲を主な活動領域としており、普通に生活している限り村の者たちが遭遇することは滅多にありません。しかし、山の民は極めて好戦的な気性で、ひとたび遭遇してしまえば戦いは避けられないという話です。そのため、村の大人たちは子どもたちに対し、決して少ない人数で山の中に足を踏み入れてはならないと教えています。
メイジー:
「竜? 山の民? なんとなく聞き覚えがあるんだけど、この辺りに住んでるんだっけ?」
エリオット:
「もう、メイジーったら。ソフィアお婆ちゃんの座学で教えてもらったことじゃないかぁ」
メイジー:
「だって、座学ってすぐに眠たくなっちゃうんだもん」
アルフォンス:
「あー、わかる、わかる。おまけに、あんま役に立つこと教えてくんねぇしな」
エリオット:
「なに言ってるのさ! 今まさに、その座学が役に立っているんだよ! そのこと自体にも気がついていないなんて、本当に馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」
フェルナンド:
「竜というのは、コンラッド山脈南部を縄張りとする金竜クレメンタインのことだな。そして、山の民というのは、この辺りの中腹以上を活動領域とする蛮族のことだ。クレメンタインはまだしも、山の民は自警団として交戦する可能性の高い連中だ。それくらいは覚えておけ」
エリオット:
「へぇー。フェルナンドはまじめに勉強していたんだね」
フェルナンドに対してはこれまで無関心だったんだけれど、ちょっとだけ見直しちゃったよ。
フェルナンド:
よし、好感度アップ! だが男だ。
一同:
(笑)
フェルナンド:
「エリオットにとっては知っていて当然のことだったかもしれないがな」
エリオット:
「まあ、ボクは座学が得意だからね。それにソフィアお婆ちゃんの話は面白いよ」
アルフォンス:
「んなこと、どうだっていいさ。ドラゴンだろうが蛮族だろうが、出てきやがったら全部オレ様ひとりで片付けてやっからよ」
レイモンド(GM):
「なかなか勇ましいな、アルフォンス。だったら、大言壮語が過ぎるお前に、ひとついいことを教えておいてやろう。まあ、これはほかの者にも言えることだがな。今後お前たちにとってはなによりも大切な教えになるだろうから、しっかりと頭の中に叩き込んでおけよ」
GM:
そう言うと、レイモンドは地面から手ごろな木の枝を4本拾い上げ、それらの枝を紐でひとつに束ねてからアルフォンスに手渡しました。
レイモンド(GM):
「アルフォンス、それを折ってみろ」
GM:
目標値30のSTR判定を成功させれば、束ねた4本の枝を折ることができます。
メイジー:
目標値30って……(笑)。
アルフォンス:
大成功を出せば折れるかもしれないなッ!
エリオット:
アルフォンス、ここは空気を読んでよね(笑)。
アルフォンス:
(コロコロ)16。まあ、これは無理だわな。
GM:
はい。アルフォンスがどんなに力を込めても、4本の枝は折れそうにありません。
アルフォンス:
「こんなの無理に決まってんだろ」
レイモンド(GM):
「そうだな」
GM:
レイモンドは軽く笑みを浮かべながら、アルフォンスに渡していた4本の枝を束ねていた紐をほどきます。そして、そのうち1本だけをアルフォンスの手に残し、ほかの枝を残りの面々に1本ずつ渡しました。
レイモンド(GM):
「じゃあ、これでそれぞれ折ってみろ」
GM:
今度はSTR判定の目標値が10になりました。
エリオット:
「えいッ!」
(コロコロ)成功。
メイジー&アルフォンス:
(コロコロ)成功。
フェルナンド:
「ふんッ!」
(コロコロ)あ……大失敗だ(笑)。折れない。
GM:
フェルナンドは判定に大失敗しているので、おそらく折る試みすらできなかったのでしょうね(笑)。
フェルナンド:
つい力み過ぎて、手渡された枝を落としてしまった……。
エリオット:
「フェルナンドって、結構そそっかしいところがあるよね」
フェルナンド:
エリオットの言葉に、少しだけ顔をしかめた。
「ああ……。昔から不器用なんだ」
レイモンド(GM):
「フェルナンド。あらためてもう一度折ってみろ」
フェルナンド:
「はい」
(コロコロ)よかった、今度は普通に成功した。
GM:
全員が手渡された枝を折ったことを確認すると、レイモンドは満足気な顔をしてこう言います。
レイモンド(GM):
「お前たちは、これまで俺の厳しい稽古に耐え抜いてきた自慢の教え子たちだ。今後お前たちの前にどんな困難が立ちはだかろうとも、お前たちが団結し、互いに助け合うことができたのであれば、必ずやそれを乗り越えていくことができるだろう。だが、もしその逆で、めいめいがまとまりなく足並みを乱していたのであれば、いまの棒きれのように容易に折れてしまう……。たとえこの先、お前たち一人ひとりがそれぞれの技に磨きをかけていったとしてもだ。いついかなる時も、そのことを忘れるなよ」
フェルナンド&メイジー:
「はいッ!」
エリオット:
レイモンドの話に少し心が揺さぶられたのだけれど、努めて無表情なまま食事をしている。
さすがに今の話は正論過ぎて、上げ足を取ることはできないな。おまけに、それがボクたちのために発せられた言葉だったからね。
(なんだよ、あいつ……。あいつのせいで父さんがあんな目にあったっていうのに……。いや……でも、本当はそうじゃないっていうことはわかっているんだ……。それでも、ボクは……)
アルフォンス:
そんなエリオットの横で、「ちくしょう。今度はもっと力をつけて4本まとめてへし折ってやる……」とか呟いてる。
エリオット:
まあ、なかにはつける薬のない人もいるってことで(笑)。
GM:
今後、アルフォンスが力(STR)を成長させていくのであれば、目標値30をコンスタントに達成できるようになるまでには相当な時間がかかりそうですね。もし、てこの原理を利用するなどの機転があったのであれば、4本の枝を折ることも容易かったのでしょうが。
アルフォンス:
足りなかったのは力じゃなくて知恵だった(笑)!?
一同:
(笑)
レイモンド(GM):
「さてと、食事は済んだか? 後片付けが終わったら、さっそくお前たちだけでエフォート岳に向かってくれ」
GM:
――というわけで、食事休憩を終えると、あなたたちはキャンプ地点にレイモンドを残して、エフォート岳を目指してさらに山を登っていくことになったのでした。