LOST ウェイトターン制TRPG


TRPGリプレイ 輝くもの天より墜ちイメージ

11.百代の微睡み

GM:
 では、レベルアップ処理が終わったところで話を再開します。
 あなたたちが山を下り、サットン村が遠目に見える辺りまで戻ってきたころには、地平線間近に迫った太陽が薄らと空を染めはじめていました。
 サットン村に到着してみると、村はずれにひとつの人影が確認できます。その人影はソフィア婆さんのものであり、あなたたちのことに気がついたソフィア婆さんは小走りに近づいてきました。

ソフィア婆さん(GM):
「お前さんら、予定よりもずいぶんと早い戻りじゃないか。もしかして、なにかあったのかい? アタシは、占いで星が墜ちるってお告げが出たものだから、胸騒ぎがして外に出ていたんだよ」

メイジー:
「お婆ちゃん、ちょうどよかった! この子、この子!」と言いながら、フェルナンドが背負っている少女を指さします。

ソフィア婆さん(GM):
「おや、はじめて見る子だねぇ。ずいぶんと綺麗な金髪だけれど、いったいどこの子だい? まさか、北のグランディ共和国やレイフィールド王国の人間じゃなかろうね?」

GM:
 ソフィア婆さんがそのように口にしたのは、ここまで濁りのない澄んだ金色の髪をした人間は、北方の国でまれに見られる程度で、世界的にもあまり多くは存在していないからです。一方で、あなたたちのようなギルモア王国に住む人たちの髪色は、ダークブロンドから栗色であることが多いです。

メイジー:
「えーと、そうじゃなくて……。自警団の試験が終わったら金竜が落ちてきて……。それで、えーと、金竜が……」
うまく説明できない(笑)。

エリオット:
「そ、そうなんだよ。金竜が卵を産んで。そしたら、その卵が透きとおって。そのあとで、卵が女の子に――」

ソフィア婆さん(GM):
「お待ち! お待ち! そう矢継ぎ早に話されても、いったいなにを言っているのかわかりゃしないよ。とりあえず、アタシの家に入って、山でなにがあったのか、ゆっくりと話を聞かせておくれ」

フェルナンド:
「そうだ。皆、落ち着いてくれ。あと、ソフィア様。この子になにか着るものを」

ソフィア婆さん(GM):
「着るもの……ね。わかったよ。それじゃ、アタシが70年ほど前に着ていた服を引っ張り出してみるとするかね」

エリオット:
 ソフィアお婆ちゃんは物持ちがいいんだね(笑)。

レイモンド(GM):
「だったら、俺はそのあいだに、村長と自警団団長に山であったことを報告してくる。ソフィア婆さんへの説明は、お前たちだけでできるな?」

フェルナンド&エリオット:
「はいッ!」

GM:
 では、レイモンドはその場を去っていきました。


GM:
 一方、ソフィア婆さんは家の中に入っていくと、金色の髪の少女をベッドへと横たえさせるようあなたたちに指示します。

フェルナンド:
 指示されるまま、少女のことをベッドに寝かせた。

GM:
 続いて、ソフィア婆さんは奥の部屋から年代物の古着を取り出してくると、それをメイジーへと手渡しました。

メイジー:
 じゃあ、女の子に服を着せてあげるね。

ソフィア婆さん(GM):
「見たところ、かなり衰弱しているみたいだけれど、きっとこれは体力的な問題じゃなくて魔力的なものだろうね。ならば、容体を落ち着かせるためにはアレが必要かねぇ……」

GM:
 ソフィア婆さんは少女の状態を確認してそう言うと、ふたたび奥の部屋に入って今度は水差しのようなものを持ってきます。

ソフィア婆さん(GM):
「メイジー、まずはこの魔力の回復を促進する効果がある薬湯をその子に飲ませておやり。そのあいだに、アタシはもうひとつの準備を済ませてしまうからね。
 エリオット! アンタはこっちを手伝いな!」

エリオット:
「は、はい!」

GM:
 エリオットが手伝わされるのは、お香を焚く準備です。これも薬湯と同じく魔力の回復力を高めるためのものです。

メイジー:
 じゃあ、ワタシは渡された薬湯を女の子の口に含ませます。

GM:
 口の中に薬湯を注がれても、気を失っている少女にそれをうまく飲み下すことなどできず、薬湯はそのまま口の端からこぼれてしまいます。

メイジー:
 あ、あれ……?

アルフォンス:
「婆さん。そっちの準備を進めながらでいいから聞いてもらいたいんだが、実は、この子はクレメンタインが生んだ卵から生まれたんだ――」って感じで、山であったできごとを一部始終ソフィア婆さんに話した。

GM:
(あらら、薬湯を飲ませる前に本題に入ってしまったか。まあ大きな問題があるわけではないけれど……)
 ことの詳細をひととおり聞かされたソフィア婆さんは、少しのあいだ作業の手を止めて目を瞑ると、次のような詩を口ずさみます。それは、あなたたちも過去に聞いたことがある詩なのですが、今ソフィア婆さんが口ずさむのを耳にするまではすっかり忘れていました。

ソフィア婆さん(GM):
「新たなる百代(はくたい)の子 安息の地にて微睡む
 彼の者の見し夢は やがて現とならん
 両翼を得て天空に舞うは 光なりや 闇なりや
 地を這う獣よ 囁き 謳い 祈り 念じよ
 さらば大いなる者 その願いを成就せん」

GM:
 それは、“百代の微睡み”という名で知られる伝承です。

百代の微睡み
 この詩は、序盤の“金竜”に対する知識判定に完全成功していれば思いだせていたものです。しかし、そのときの達成値が足りなかったため、プレイヤーたちはここではじめて聞くことになりました。

ソフィア婆さん(GM):
「――これは、今から100年ほど昔、クレメンタインの誕生を前にして作られたと言われている詩だよ。たしか、座学で教えていたはずだから、お前さんらも覚えているだろう?」

メイジー:
「え、あ、はい……」とは答えるけど、覚えてないかも(笑)。

アルフォンス:
「あ、ああ、たしかそんな歌もあったっけなぁ」

エリオット:
 ヒャクヨの微睡み……ね。

フェルナンド:
 ハクタイな。

メイジー:
 モモヨとも読めるね(笑)。

GM:
 百代は100年、あるいはそれほど長い年月のことであり、ひいては永遠という意味を持ちます。

ソフィア婆さん(GM):
「百代と呼ばれる竜が周囲の者の願いを叶える存在だと言い伝えられていることは、お前さんらにも教えただろう? これまでの話を聞いた限りじゃ、どうにもその子こそがその百代の子のようじゃないか……。
 まだ、アタシが幼いころ、アタシの婆さんから聞かされた話じゃ、生まれたばかりの百代の子は強力な魔力を宿した卵の中で育ち、成竜になってから卵の外に出てくるものらしい。なんでも、その卵はたとえ溶岩の中に落ちようとも燃えることなく、どんなに鍛え抜かれた槍で貫こうとしても、傷ひとつつかないそうだよ」

メイジー:
「でも、ワタシが卵に触れたときは、簡単に割れちゃったよ?」

ソフィア婆さん(GM):
「さっきお前さんらは、卵が光を放って闇の魔物を消滅させたんだって話していただろう? だとすると、その子は本来自分を守るために卵の中に蓄えられていたはずの魔力を、魔物を追い払うために使い切ってしまったってことなんじゃないかね?」

メイジー&エリオット:
「えっ!?」

GM:
 お香の準備を終えたソフィア婆さんは、ベッドで横になっている少女へと視線を向けました。そこに横たわっている少女は、この辺りでは珍しい髪や肌の色をしているということ以外は、いたって普通の女の子であるように見えます。

アルフォンス:
「どう見たって、こいつが無敵の金竜様って感じには見えねぇけどなぁ」と言って、寝ている女の子の頬をぷにぷにとつついた。

メイジー:
「ちょ、ちょっと、やめなさいよ!」

アルフォンス:
「いやぁ、だってよ、こんなにぷにぷになんだぜ?」

GM:
 オマケにとてもツルツルのたまご肌です(笑)。

エリオット:
「たしかに、この子が竜の子供だっていうなら、なんで人の格好をしているんだろう?」

ソフィア婆さん(GM):
「そうさねぇ……。これは憶測にすぎないのだけれど、もしかすると擬態の一種なのかもしれないね。いわゆる托卵というやつさ。
 鳥の中には、別の鳥の巣に卵を産み落として、子育てをほかの親鳥に任せてしまうものもいるのだけれど、そのとき孵化したヒナは、赤の他人であるはずの親鳥に育ててもらうため、実の子のふりをするんだとさ。
 金竜の子が卵の外にでてきたとき、まわりにはお前さんらしかいなかったんだろう?」

フェルナンド:
「はい」

エリオット:
「あ、そうそう! そういえば、あのときその子はメイジーを見ていたんだっけ! ボクたちではなく、その子はメイジーのことを見ていたんだよ!」

GM:
 あえて「ボクたちではなく」と付け加えて繰り返したのは、「ボクたちは関係ない。これはあくまでもメイジーが抱えた問題だ」というアピールですか(笑)?

フェルナンド&メイジー&アルフォンス:
(笑)

エリオット:
 いや、だって、あのときこの子はあきらかにメイジーのことを見ていたわけだし。ボクは見られたって言われてないし……。

メイジー:
 ふーん、よーくわかったよ、エリオット。まあ、別にいいんだけどね……。

ソフィア婆さん(GM):
「あとねぇ、今さっき気がついたのだけれど、どうやらお前さんらにはこの子の魔力が染みついているようだよ」

GM:
 そう口にしたソフィア婆さんの眼には、いつの間にか魔力感知の力が付与されているようです。

ソフィア婆さん(GM):
「まあ、害になるようなものではなさそうだけれど、アタシに使える程度の魔法で消し去れるものでもなさそうだね」

アルフォンス:
「げッ、それって、呪いってことか?」

ソフィア婆さん(GM):
「さあ、どうだろう? なにか自覚症状はあるかい?」

フェルナンド:
「そういえば、山から戻ってからというもの、いつもより体の調子がいい気がします」

アルフォンス:
「たしかに、帰り道では一回もこけずにすんだなぁ……」

メイジー:
(笑)

エリオット:
「ひょっとして、この子はボクたちに守ってもらいたいのかな? だから、ボクたちに力を与えてくれたのかも……」

アルフォンス:
「いや、順番的に考えて、どっちかって言うとその逆なんじゃねぇか? この子は自分の身を守るために蓄えらえていたはずの魔力を使ってまで、オレたちのことを助けようとしてくれた。で、結果的に、そのときの魔力がオレたちに付与されたってだけでさ」

メイジー:
「うん、きっとそうだよ!」

GM:
 では、あなたたちがそのようなことを話していると、ベッドほうから聞きなれない声が聞こえてきました。




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