GM:
さて、サットン村を出発したあなたたちは、港町ポートレッジを目指し、街道を通ってしばらくのあいだ開けた平原を進んでいくことになります。ひと昔前まではきちんと整備されていた街道も、ウォーラム男爵がこの地方の領主になってからというもの、4年以上もろくに手入れされてこなかったため、ところどころ歩きにくくなっています。
GM:
そのようなデコボコ道を進む中で、クレアがこんな質問を投げかけてきました。
クレア(GM):
「ねぇ、おでかけなの? おでかけなのね? どこ? どこに行くの?」
メイジー:
「今からワタシたちみんなで、村から遠く離れたところに行くんだよ。ワタシたちが村にいると、またいつあの闇の魔物たちが襲ってくるかわからないから、村の人たちはそのことをとても怖がってるの。だから、クレアが安心して暮らすことができるところまで行かなくちゃならないんだ」
GM:
クレアはメイジーの言葉ひとつひとつにコクリコクリとうなずいてから、こう口にします。
クレア(GM):
「安心できるところに行くのね? 歩いて行くのね? わたし歩くの好き!」
メイジー:
「歩く以外に楽な方法があればいいんだけど、ほかに方法がないからね」
クレア(GM):
「ほかの方法? じゃあ、走る! 走るのもっと好き!」
GM:
そう言うと、クレアは太ももを交互に高く持ち上げて、トコトコとあなたたちの周りを駆けまわりはじめました。
クレア(GM):
「早く! 早く! みんな、もっと早く!」
エリオット:
「クレア、危ないよぉ」
メイジー:
「待って、クレア。ほら、そこ! 道がデコボコしてるから」
GM:
クレアはあなたたちの心配をよそに周囲を駆けまわると、道端の花などを指さしては目まぐるしく疑問を投げかけてきます。
クレア(GM):
「これはなに? 綺麗ね。なになに? 教えて!」
メイジー:
「これは……」
植物の知識は“レンジャー”として持っていてもいいのかな?
GM:
はい。ここでは判定せずに知っていることにして構いません。
メイジー:
じゃあ、この花はなになに、あの鳥はなになにって感じで教えながらクレアのあとをついていきます。
クレア(GM):
「ママは物知りなのね!」
メイジー:
「えっへん! 自然のことだったら任せといて! でも、アルフォンスにフェルナンドやエリオット、それにレイモンド先生だって、それぞれみんな得意なことがあって、いろいろなことを知ってるんだよ。だから、もしわからないことがあったら、みんなに質問してみてね」
GM:
そう言われたクレアはコクリとうなずくのですが――
クレア(GM):
「でも、わたしはママに教わりたい!」
GM:
――と言って、メイジーの手を引いて先を急ごうとします。
メイジー:
ヤバイよぉ。そんなこと言われたら、「メッチャ可愛い!」ってなっちゃうよぉ。
アルフォンス:
「いやぁ、メイジーもすっかり母ちゃんだな」
エリオット:
「本当だね(笑)」
フェルナンド:
そんなメイジーとクレアの様子を遠巻きに眺めながら、「出発するまでは少し不安だったのですが、あれなら大丈夫そうですね」とレイモンド様に話しかけた。
レイモンド(GM):
「うむ。あのクレアという娘は、随分と物覚えが早いようだな。場合によっては道中足を引っ張られることになるんじゃないかと思っていたんだが、どうやらその心配はなさそうだ」
エリオット:
「そのうち、アルフォンスよりも物知りになっちゃうんじゃないかな(笑)」
アルフォンス:
「なんで、そこでオレの名前が出てくるんだよ! 比較対象だったら、ほかにもいっぱいいるだろ!?」
メイジー&エリオット:
(笑)
フェルナンド:
「……ところで、レイモンド様。ずっと疑問に思っていたのですが、なぜウォーラム男爵は自領の統治に興味を持たれていないのでしょうか?」
レイモンド(GM):
「……そうだな。これから向かう先の選択にも関わることだから、お前たちにも話しておくとするか。ただ、あくまでもここだけの話ということで聞いておいてくれ」
フェルナンド:
「はい」
レイモンド(GM):
「実は、ウォーラム男爵がこの地の領主としてやって来たとき、城塞騎士たちのあいだでひとつの噂話が広まっていた。それは、『ウォーラム男爵は左遷されたのだ』というもので、なんでもその左遷の理由というのが、王妃殿下がウォーラム男爵に想いを寄せていたことにあったらしいのだ」
アルフォンス:
「おおっと……」
エリオット:
「えー?」
レイモンド(GM):
「ただ、国王陛下に絶対の忠誠を誓っていたウォーラム男爵は、もとより王妃殿下の想いにこたえるつもりなど露ほどもなかった。ところが、王妃殿下の気持ちに感づかれた陛下は、ウォーラム男爵に弁明の機会を与えることなく彼を騎士団団長の座から退かせると、王都から遠く離れたこの地に追いやってしまった。ウォーラム男爵にとってそれは、いわれのない仕打ちを受けたようなものだったのだろう。結果、陛下の裁定に深く失望したウォーラム男爵は気力を失ってしまったのだ。
――とまあ、噂話の内容はそのようなものだった……」
フェルナンド:
「そんなことがあったんですか……」
レイモンド(GM):
「真偽のほどはわからん。しかし、ウォーラム男爵とこの領地の現状を考えると、単なる作り話とも言いきれん。なによりも、城塞騎士たちの多くがそういった目でウォーラム男爵のことを見ていたということは、紛れもない事実だ。
さて、こんなところでお前の疑問に対する答えになっただろうか? それと、くれぐれも念を押しておくが、これはここだけの話だぞ?」
フェルナンド:
「はい、わかりました。ありがとうございます」
アルフォンス:
話が終わったら、「チッ、せっかく気分よく歩いてたってのに、辛気臭くしやがって」と言って、それを振り払うかのようにクレアのほうにダッシュしていった。
「オラ、クレア! 追いかけっこだ! 追いかけっこってのはな、オマエが逃げて、オレが追いかける。オレにつかまったらアウトだ。そしたら、今度はオマエがオレを追いかける。わかったか?」
クレア(GM):
「アルフォンス、いやー!」
GM:
そう言うと、クレアは走って逃げだしました。
メイジー:
「やーい、嫌われてやんの!」
ワタシもクレアと一緒になってアルフォンスから逃げるよ。
アルフォンス:
「まてまてー!」
ちょっと涙目になりつつクレアのことを追いかけてる(笑)。
一同:
(笑)
GM:
クレアはまず優先してメイジーの陰に隠れ、次にエリオットの陰に隠れます。フェルナンドとレイモンドに対しては嫌がる素振りはしませんが、助けを求めるようなこともありません。そして、アルフォンスからは必死に逃げ回っています。
アルフォンス:
「なんでだよッ(笑)!」
クレア(GM):
「アルフォンス、怖ーい!」
GM:
そう言って逃げるクレアですが、その表情はニコニコしています。
アルフォンス:
「怖くねぇよ! イケメンだよ!」
クレア(GM):
「わたし知ってる。イケメンの人は自分のことイケメンって言わないんだって」
アルフォンス:
「なッ……!? メイジー! テメェ、クレアに変なこと教えやがったなッ!」
一同:
(笑)
GM:
そのような感じで、それから2日間、あなたたちはたいした障害に阻まれることもなく、港町ポートレッジを目指して街道を進んでいくことになります。そのあいだ、あなたたちは街道で幾人かの人たちとすれ違うことになりました。
まずすれ違ったのは、年貢を取り立てに向かう城塞騎士――いわゆる役人たちの一行でした。城塞騎士たちとすれ違ったとき、レイモンドが小さく会釈したのがわかりました。おそらくは、元同僚なのでしょう。込み入った話をするわけではありませんでしたが、城塞騎士たちのうち数人が軽く頭を下げてそれに返してきました。
それと、もう一組すれ違うことになったのが、人買いの馬車です。あなたたちが望むのであれば、その人買いにクレアを売り払うこともできるでしょう。
アルフォンス:
(失笑)
GM:
なにせ、クレアほど美しい金色の髪をした人間となると、北方の遠い国に住んでいる者の中でもほんの一握りしか存在しないため、おそらくかなりいい値段で売ることができるはずです。
アルフォンス:
ちなみに、都市部だと普通に奴隷売買が行われてたりするのか?
GM:
はい、そうですね。とくに現在ギルモア王国はレイフィールド王国と交戦状態にありますので、今すれ違った馬車のなかにもレイフィールド王国民らしき者の姿が多く見られました。なお、その中には金髪の者も少なからずいるのですが、クレアほど澄んだ金色の髪をした者はおらず、また肌の色もそこまで透き通った白色というわけではありません。当然、赤い瞳をした者など皆無です。
エリオット:
「ねぇ、メイジー。クレアの外見だと、ちょっと目立ちすぎるんじゃないかな?」
メイジー:
「うん、ワタシもそう思った。なんか、さっき人買いに凄い目で見られてたし」
エリオット:
「フードかなにかで顔を隠しておいたほうがいいんじゃない? とくに、その髪は遠くからでも目立つから……」
そう言うと、持っていたフード付きマントをクレアに羽織らせてみるよ。
「ねぇ、クレア。ちょっと窮屈かもしれないけれど、これを着てくれるかな?」
GM:
すると、クレアはマントを羽織ること自体には抵抗しなかったのですが、フードを被ることは嫌がり、払いのけてしまいました。
エリオット:
「これはクレアのためなんだから、我慢してよぉ……」
GM:
何度か無理やりフードを被せようとするのであれば、クレアは口の先を尖らせながらもしぶしぶそれに従います。
クレア(GM):
「ぶー」
メイジー:
「ごめんね。あなたのその金色の髪はとっても珍しいものだから、すごく目立っちゃうの。さっきすれ違った人も、変な目で見てたでしょ? あの人は悪い人だから、そういう人たちに目をつけられないようしなくちゃね」
GM:
(この時代のギルモア王国において奴隷売買は合法行為なのだけれど、奴隷商人は悪人だという認識は大西洋奴隷貿易の印象が強いんだろうなぁ)
クレア(GM):
「うん、そうだね。たしかにさっきの人買いのおじさん、わたしのこと買いたそうだったもん。金貨1,000枚までだったら出せるみたいだったよ」
メイジー:
「うん、クレアは頭がいいねぇ」
アルフォンス:
「……ん!? い、いや、頭がいいとかじゃなくて、なんでクレアはそんなことまでわかるんだ? オレたち、人買いと会話なんてしてないよな?」
メイジー:
「え……? あ……」
エリオット:
「ねぇ、クレア……。金貨1,000枚って、どうしてそんなことまでわかるの?」
クレア(GM):
「だって、あの人そう言ってたもの」
エリオット:
「え? 人買いはなにも言っていなかったよね? それとも、クレアは特別に耳がいいのかな……?」
フェルナンド:
GM、これって俺たちはクレアの魔法的な力が影響しているだろうってことを察してもいいのか?
GM:
ええ、キャラクターが推測する分には自由にしてもらって構いませんよ。ただ、その推測が正しいとは限りませんが。
フェルナンド:
了解。
「そういうことか……」と小さく呟いた。
メイジー:
「えーと、だから、とにかくクレアが危険な目にあわずにすむように、フードを被っていてくれる?」
クレア(GM):
「うん、わかった。みんなの気持ち、よくわかったよ」
メイジー:
「ありがとう。でも、もしフードが嫌だったら、誰も来てないときにはおろしててもいいんだからね」
アルフォンス:
……そういや、いつのまにかいろんな人の手に渡ってるけど、たぶん今クレアが羽織ってるマントって、オレのもので間違いないよな?
エリオット:
そういえば、そうだったね。
アルフォンス:
やっぱりそうか。じゃあ、クレアに向かってこう言った。
「ちなみに、そのマントはオレのな。暖かいだろ?」
GM:
ではその言葉に、クレアはアルフォンスの顔をジッと覗き込んでからこう返します。
クレア(GM):
「言ってほしい? わたしの口から言ってほしいの、アルフォンス?」
アルフォンス:
すわッ!
「い、いや……いい……。なんとなく、わかっちまった……。気を使ってくれてありがとう……」
そう言って、なんともいえない切ない顔になった。
メイジー:
アルフォンスがクレアにもてあそばれてる(笑)。
エリオット:
あれ、おかしいな。ボクの知ってるアルフォンスの反応じゃないぞ(笑)。クレアが来てからというもの、なんだか変なスイッチが入っているような気がする。
アルフォンス:
「なあ、クレア。サンドイッチ食うか? うちのババアがいっぱい作ってくれたんだけど、オレひとりじゃ食いきれねぇんだ」
クレア(GM):
「今はいらない。ご飯はあとでみんなと一緒に食べるから」
GM:
そんな感じで、アルフォンスにだけはちょっと冷たいクレアでした。
フェルナンド&エリオット:
(笑)
メイジー:
これまでのクレアとのやり取りを見ていて、アルフォンスに抱いていた感情が少し変化しました……。
エリオット:
憐憫とか(笑)?
フェルナンド:
……。
GM:
(あ、この流れは……)
アルフォンス:
しっかし、親離れって早いよなぁ……。寂しいなぁ……。
GM:
いや、これまでクレアがアルフォンスのことを親として認識したことは、一度としてなかったと思いますが(笑)。刷り込みがあったメイジーと名付け親であるエリオットに対してならまだしも、アルフォンスはどちらかというとオモチャ的な(笑)?
アルフォンス:
なんてこったい。
GM:
まあ、道中そのようなことがあり、シーンはサットン村を出発してから2日後へと移ります。