LOST ウェイトターン制TRPG


TRPGリプレイ 輝くもの天より墜ちイメージ

17.真夜中の策謀

GM:
 では、そのまま時間が過ぎていき、真夜中になります。今のところ周囲に獣などの気配は一切感じらません。
 肌寒い秋空の下、横になっていたヴェロニカはおもむろに身じろぐと、ゆっくり身を起こしました。そして、見張りをしているフェルナンドとエリオットに対して一礼し、焚き火の中から火のついた枝をひとつ手に取ると、皆のいるところから離れた木の陰のほうへと歩いていきます。

フェルナンド:
 サイモンさんのほうに顔を向けて、彼がついて行かないのかを見ている。

サイモン(GM):
「……」

GM:
 では、サイモンはあなたたちにチラリと視線を返したあと、ヴェロニカのことを追って森の木の陰のほうへと進んでいきました。ここでエリオットはINTによる判定をおこなってください。目標値は(コロコロ)24です。

エリオット:
 え? なんでボクだけなの?

メイジー:
 精霊に関わるなにかがあったんじゃない?

エリオット:
(コロコロ)18。うーん、24は出ないね……。出ないけれど、リカバリポイントを使って風の精霊が囁きを運んできてくれたってことにはできるか……。
 ――いや、まてよ。もしかして、これってさっきボクが風の精霊に周囲を警戒させておくって言ったから行うことができた判定ってことじゃない?

GM:
 そのとおりですよ。

エリオット:
 だとしたら、本来なかったはずの判定に失敗したのに、さらにリカバリポイントを使うのは違う気がする。だから、ここは判定失敗ということで。

GM:
(妙なところで律儀だなぁ)
 了解しました。では、プレイヤーにだけは状況がわかるように、こう描写しておきます。
 このとき、さきほどまでエリオットの支配下にあったはずの風の精霊の働きが一切なくなっていました。どうやら何者かに解呪されてしまったようなのですが、エリオットはその変化に気づくことができませんでした。
 そして次の瞬間、突如として発生した霧が周辺一帯を包み込みます。現在起きているフェルナンドとエリオットは、魔法に対する抵抗判定をINTでおこなってください。目標値は(コロコロ)24です。

エリオット:
(コロコロ)28で成功!

フェルナンド:
(コロコロ)13。ああ、失敗……。

GM:
(さっきのエリオットの律儀な選択にダイスの女神様が微笑んだのかな?)
 さて、このタイミングでフェルナンドとエリオット以外の人たちも、ワインを飲んだ杯数だけ目標値20のVIT判定を行いましょう。なお、複数杯飲んでいた人は、判定に失敗した回数を数えておいてくださいね。

アルフォンス:
 オレは4回判定ってわけか(苦笑)。

メイジー:
(コロコロ)2足りない。18で失敗。

アルフォンス:
(コロコロ)1回目は失敗。(コロコロ)2回目は大成功したが、ここで大成功は美味しくねぇな。(コロコロ)3回目、失敗。(コロコロ)4回目は大失敗。
 ――ってことで、合計3回失敗。

GM:
 はい、このVIT判定に失敗した人は、現在、身体がしびれた状態となっており、行動不能です。

ワインの効果
 途中でメイジーがワインの毒見を“レンジャー”の知識で行うと発言していましたが、この麻痺は魔法的なものだったため、“レンジャー”の知識では気づくことができないものとして処理しています。

GM:
 そして、霧に対するINT判定に失敗した人も、同じように身体がしびれて行動不能となってしまいます。というわけで、唯一行動可能なのはエリオットひとりだけとなってしまいました。

エリオット:
 じゃあ、そのしびれの効果をもった霧を風の精霊の力で吹き飛ばそうとするんだけれど、そこではじめて、コントロールしていたはずの精霊の異常に気がついた。
「えッ? な、なんでッ!?」

GM:
 そのタイミングで、木の陰からスッとヴェロニカが姿を現しました。その手にはさきほどまで持っていなかったはずの節くれた杖が握られています。また、ヴェロニカのうしろにはサイモンの姿もあります。
 ヴェロニカは、麻痺の効果を受けていないエリオットのことを見ると、少し驚いた顔をしてこう言いました。

ヴェロニカ(GM):
「あら? 貴方はわたしの魔法に耐えることができたのね?」

エリオット:
「これがあなたのしわざだって!?
 み、みんな、起きてッ!」

メイジー:
 ワタシはエリオットの声で起きたよ。でも、しびれてて動けない(苦笑)。

フェルナンド:
 当然、起きてはいるんだが……。しびれてるなぁ。

アルフォンス:
 言わずもがな(苦笑)。

エリオット:
 ちょ、ちょっと待って! レイモンド先生は? レイモンド先生なら――

GM:
 いやぁ、残念ながらレイモンドもバッチリしびれていますねぇ(笑)。
 そして、誰の協力も得られないでいるエリオットのすぐそばまで、ヴェロニカの立てる靴音がゆっくりと近づいてきました。

エリオット:
「いったいみんなになにをしたんだ!?」

ヴェロニカ(GM):
「そんなに心配する必要はないわ。手荒なことはしたくなかったから、少し大人しくしてもらっただけよ。貴方も無駄な抵抗はおよしなさい。素直に引き下がってくれるというのであれば、身の安全は約束してあげるわ。わたしは常々、できる限りこの手を汚したくはないと考えているの。だから、その子を手に入れることさえできれば、貴方たちに危害を加えるつもりはないわ」

GM:
 そう口にしたヴェロニカは、エリオットの後方で横になっているクレアのことを指さしています。

エリオット:
「ど、どうしてクレアを!?」

ヴェロニカ(GM):
「本当だったらあなたの質問に答える義理などないのだけれど、わたしの魔法に耐えることができたことに敬意を表して、少しだけ教えてあげる。あなたの質問に対する答えは、その百代の子の宿す力が、わたしたちにとってとても利用価値のあるものだからよ。……さあ、答えてあげたのだから、素直に引き下がりなさい」

エリオット:
「い、いやだ! たとえボクひとりだけしか戦えないのだとしても、クレアのことは絶対に守るんだ!」

ヴェロニカ(GM):
「無駄な抵抗はおよしなさいと言ったでしょう!」

GM:
 そう声を上げると同時に、ヴェロニカの手のひらがエリオットの足元へと向けられます。次の瞬間、彼女の手元に生じた光球から一筋の閃光が放たれ、地面に深々と穴をうがちました。
 せっかくなので、威力だけ見せておきますね。(コロコロ)攻撃力は31。その貫通性たるやクロスボウをも優にしのぎます。

メイジー:
 攻撃力31って、絶対に単なる修道女のレベルじゃないよ!

ヴェロニカ(GM):
「死にたくなければ、そのままじっとしていることね」

GM:
 そう言うと、ヴェロニカはエリオットのすぐ隣を悠々と通り抜けて、クレアのところへと近づいていきます。

エリオット:
 ま、待って! その前に、心が折れるかどうか、VIT判定をさせて!
(コロコロ)うッ! 6か……。ダ、ダメだ……。動けない……。

GM:
(正気を保っているときのエリオットは本当にメンタルが弱いなぁ……苦笑)

VIT判定をさせて
 別にGMから判定を求めたわけではありませんが、プレイヤーが決断しきれない状況などに置かれたとき、こうやって自らの選択をダイスに委ねることもあります。……ありますよね?

GM:
 では、もはやエリオットのことなど歯牙にもかけず、クレアのところまで近づいて行ったヴェロニカは、少女の腕を無造作に引っ張りあげます。すると、腕をつかまれたクレアは、麻痺している状態ではあるのですが、その目を薄く開きました。

クレア(GM):
「やめ……て……。なに……するの……?」

エリオット:
 か細い声で、「クレア……逃げて……」と言うのだけれど、あまりの恐怖でそれ以上声を出せないでいる。

メイジー:
 GM、演出として手を動かしてもいいかな?

GM:
 構いませんよ。

メイジー:
 なら、クレアのことを連れ去ろうとするヴェロニカの足をつかみます。

エリオット:
 その汚らわしい手でわたしに触れるなッ(笑)!

メイジー:
 そう、それ! それで、きてください(笑)!

一同:
(笑)

GM:
 わかりました(苦笑)。では、ヴェロニカはブーツの踵でメイジーの手を踏みにじると、こう言い放ちました。

ヴェロニカ(GM):
「田舎娘風情が、この薄汚い手を離しなさいッ!」

メイジー:
 歯ぎしりしながら、絶対にクレアのことは連れて行かせないという気持ちで頑張るんだけど、残念ながらそれ以上は身体がいうことをきかず、手を振りほどかれてしまいます。

GM:
 ならば、そのようにして必死に抵抗するメイジーの姿を目にした見たクレアは、メイジーに向けて繰り返し呼びかけます。

クレア(GM):
「ママ……ママ……」

メイジー:
「……ク、クレア……」

GM:
 そして、メイジーの手を振りほどいたヴェロニカが、クレアのことを連れて焚き火から離れていこうとしたところで、辺りにひと際大きな声が響きました。

クレア(GM):
「ママーーーーーーーーーーッ!!」

GM:
 その悲痛な叫び声と共に、クレアの身体から以前にも見たことのあるあの光が発せられます。それはクレメンタインのもとで卵が放った光よりは微弱であったものの、それとよく似たものでした。
 まばゆい金色の光が、辺り一面を包み込みます。光に包まれたあなたたちは、しびれが治まっていくのを感じました。これで、ワインの判定に1回だけ失敗していた人と霧で麻痺していた人は、通常状態に戻ることができます。

フェルナンド&メイジー:
 やったー!

GM:
 また、エリオットの打ち砕かれた心も、ふたたび勇気を取り戻しました。

エリオット:
 助かったー。

GM:
 でーすーがー……。

フェルナンド&メイジー&エリオット:
(笑)

メイジー:
 ここに悪魔に見初められた人が……(笑)。

GM:
 残念ながら3回も判定に失敗しているアルフォンスは、VIT以外の能力値すべてに-2のペナルティが残った状態となります。

アルフォンス:
 あああ……(苦笑)。

エリオット:
 悪いねアルフォンス。このシナリオは3人用なんだ。

一同:
(笑)

GM:
 クレアの放った光がもたらした効果はそれだけではありませんでした。光に包まれたヴェロニカとサイモンの姿が奇妙に揺らめくと、別の姿へと変化していきます。

メイジー:
 化けの皮が剥がれたってわけだ。で、本当はいったいどんな姿だったの?

GM:
 まず、ヴェロニカと名乗っていた黒髪の女性のほうですが、光に包まれた彼女の髪の色は燃えるような赤色に染まり、その優しそうな垂れ目は鋭い釣り目へと変化していきました。
 そして、サイモンの姿は、いつの間にか泥でつくられた人形へと変わっています。いわゆるゴーレムというやつですね。

赤毛の女性(GM):
「これが百代の子の力……! まさか、こうもたやすくわたしの魔法がかき消されてしまうだなんて」

GM:
 複数の魔法を瞬時に無効化されてしまった赤毛の女性は、クレアのさらなる力の発現を警戒し、素早く魔法を詠唱すると光の縄でクレアのことを縛り上げてしまいました。
 そして、麻痺から回復したあなたたちに対しては、次のような手段を講じます。

赤毛の女性(GM):
「闇の精霊よ、我が声に従い顕現せよ! そして、ゴーレムよ! 闇の精霊と共にあの者たちを足止めしなさいッ!」

GM:
 その詠唱に応じて、3体の闇の精霊が姿をあらわします。この闇の精霊が召喚される光景は、闇鴉や闇人が形成されていったときの光景にとてもよく似ていました。
 さて、この段階で魔法を使う赤毛の女性の姿を目にしたあなたたちは、彼女の名前に心当たりがあるかもしれないので、INTによる目標値18の知識判定をおこなってみてください。

一同:
(コロコロ)

メイジー:
 ダメだ。全然わかんない。

フェルナンド&アルフォンス&エリオット:
 成功。

GM:
 では、メイジー以外の者は、その赤毛の魔女に心当たりがありました。
 3年ほど前、ウォーラム男爵に取り入って城の中に招き入れられた、素性の知れない魔女がいたそうです。その魔女は燃えるような赤色の髪をしており、スカーレットと名乗っているとのことでした。

アルフォンス:
「え? え? え? ヴェロニカの姉ちゃんはいったいどこにいっちゃったの?」
 オレは状況がうまく飲み込めないでいる(笑)。

メイジー:
「いい加減にシャキッとしてよ! あの女が修道女に化けてたんだって! つまり、ワタシたちはあの女に騙されてたの!」

GM:
 なお、当然と言えば当然ですが、どうやらレイモンドもその赤毛の魔女のことを知っていたようです。

レイモンド(GM):
「キサマは、スカーレット!? まさか、クレメンタインを襲った魔物たちもキサマの差し金だったのか!?」

エリオット:
 うん。まあ、きっとそういうことだよね。

レイモンド(GM):
「百代の子を連れ去って、いったいなにをするつもりだ! それに、このことはウォーラム男爵もご存じなのか!?」

スカーレット(GM):
「あら? あなた、どこか見覚えのある顔だとは思っていたけれど、どうやら思い違いではなかったようね。以前、見かけたのはウォーラム城内でだったかしら? 元城塞騎士のレイモンドさん。でも、たしかあなたは自ら職を辞していたはずよね? まだ統治のイロハも知らなかったウォーラム男爵を放っておいて、神輿を担ぐべき立場にありながら率先して逃げ出してしまうだなんて……本当にひどい人。そんな不忠者が、気安くわたしの名前を呼ばないでちょうだい。もちろん、百代の子の使い道についても、あなたに教えてあげるつもりなんて微塵もないわ」

レイモンド(GM):
「ならば、無理やりにでも吐かせるまでだッ!」

GM:
 そのようなやり取りを経て、レイモンドは剣を抜きました。

スカーレット(GM):
「ふぅ……。まったく、人の話を聞いていなかったの? わたしは『この手を汚したくはない』と言ったでしょう。あなたたちの相手はこの子たちよ」

GM:
 スカーレットがそう言うと、あなたたちの前にゴーレムと闇の精霊が立ちふさがります。
 そして、スカーレットは、体の自由を完全に奪われて自分の足では立っていることすらできなくなったクレアのことを肩に担ぎ上げると、そのまま森の奥へと姿を消していきました。

メイジー:
「待ちなさいッ! クレア、今助けてあげるからねッ!」

GM:
 しかし、スカーレットのことを追いかけようにも、あなたたちの前にはゴーレムと闇の精霊が立ちはだかっています。
 次の瞬間、目の前に立つゴーレムたちとあなたたちのことを素早く見比べたレイモンドはこう口にしました。

レイモンド(GM):
「ここはお前たちに頼めるか? 俺はあの魔女のあとを追って、クレアのことを取り戻す!」

GM:
 ――この【先制】と【一騎打ち】で。

一同:
(笑)

エリオット:
「はい!」

メイジー:
「お願いします!」

アルフォンス:
「頼んだぜ、オッサン!」

フェルナンド:
「うしろは任せてください!」

GM:
(すばらしい反応だ)
 以前、レイモンドが同じように決断を迫ったとき、あなたたちは即座に返答することができませんでした。しかし、今、間髪入れず決断してみせたあなたたちの反応に、レイモンドは力強くうなずくとスカーレットのことを追って森の奥へと走っていきました。

フェルナンド:
 ああ……レイモンド様、あなたの命が……!

アルフォンス:
 今、ちょっと未来が垣間見えたな(笑)。

メイジー:
 シチュエーション的にもそうだけど、システム的にもINT攻撃でやられちゃいそう(笑)。

GM:
(前言撤回。即答したのはてっきり信頼のあらわれかと思ったのに、ひどい言われようだなぁ……苦笑)
 では、今のうちにレイモンドとスカーレットのシーンをさわりだけ見せておきますね。
 さすがに、子供ひとりを抱えた女性とそうでない男性の走る速度とではその差はあきらかです。森の奥に進んで少ししたところで、レイモンドはスカーレットの姿を捕捉することに成功しました。

レイモンド(GM):
「そこまでだ、スカーレット! それ以上は行かせんぞ!」

GM:
 すぐ背後に響くその声を耳にしたスカーレットは、諦めた様子でクルリと振り返り、抱えていたクレアのことを地面へと降ろします。

スカーレット(GM):
「まさか、ひとりで追いかけてくるだなんてね……。もしかして、一対一でならば勝てるとでも思っているの?」

レイモンド(GM):
「もちろんだとも」

GM:
 そう応じてレイモンドが剣を構えると、スカーレットは苦虫を噛み潰したような顔をして杖を握りなおしました。

スカーレット(GM):
「この騎士崩れが……。その浅はかな考えが、身を滅ぼすのよ。覚えておきなさい!」

GM:
 こうして、レイモンドとスカーレットは交戦状態へと入っていきます。




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