GM:
では、イハーサ宅の客室にて、サットン村の若者たち4人とイハーサが顔をそろえたところまでシーンを飛ばします。
ちなみに、イハーサの奥さんと子供はどうします?
イハーサ:
皆が家に訪ねて来たところで、嫁さんと3歳になる娘が挨拶には出たね。で、大事な話があるからってことで、そのあとは席を外してもらった。
GM:
ならば、イハーサの家族とも顔を合わせたことによって、サットン村の若者たちはイハーサの人間性についてさらに知ることができたことでしょう。
イハーサ:
客室に全員を招き入れると、「まあ、狭いところだが楽にしてくれ」と言って、紅茶をいれてから椅子に腰かけた。
「さてと……それじゃあ、お前らの話を聞かせてもらうとするか」
アルフォンス:
なら、最初にイハーサに対して頭を下げた。
「まず、謝らせてくれ。オッサン、すまなかった。アンタが本物のイハーサだとは思ってなかった」
オレはギリギリまで疑ってたんだが、家族まで紹介されたんじゃ、もう疑う余地がないからな。
エリオット:
「ボクたちのことを騙そうとする悪い人なんじゃないかと疑っていました。ゴメンなさい」
イハーサ:
「まあ、このツラに、このナリだからな。初対面じゃ仕方ないだろ。はっはっは」
アルフォンス:
で、顔を上げると、一層真剣な顔をして話し始めた。
「オレたちは、レイモンドのオッサンに戦い方を教えてもらった、サットン村の自警団の者なんだ」
イハーサ:
「ああ、そうか。やっぱりそうだったんだな」と言って、それぞれの顔を嬉しそうに眺めていった。
「お前らのことは、以前レイモンドからもらった手紙にも書いてあったよ。村に有望な若い連中がいるんだって、いつも辛口のあいつが珍しくベタ褒めしてたからハッキリと覚えてるぞ。そうか、そうか。お前らがあの手紙に書かれていたレイモンドの教え子たちなんだな」
フェルナンド:
そう言われると、下を向いて黙り込んでしまうな。
メイジー:
ちょっとしんみりした雰囲気になってる。
アルフォンス:
そこで、少し悲しそうな顔をして、腰に提げていたレイモンドの剣をテーブルの上に置いた。
「そのレイモンドのオッサンは、数日前、スカーレットって名前の女に殺された。この剣は、オッサンの遺品としてオレが預かってきたんだ……」
イハーサ:
「なッ!? レイモンドの奴がスカーレットに殺されただと……? それはいったいどういう……」
フェルナンド:
「これから、そのことも含めた詳細な経緯をイハーサさんにお話しようと思います。ちょっと信じられないような内容があるかもしれませんが、とりあえず最後まで話を聞いてください」
そう前置きしてから、試験の日の朝からこれまでにあったことの一部始終を、包み隠さずイハーサさんに伝えた。
イハーサ:
じゃあ、すべてを聞き終えたところで、「そうか……。そういうことか……」と呟いた。
アルフォンス:
「正直、オレたちはこれまでほとんど村から出たことがねぇ。だから、村の外で起こってることなんてなんにもわかっちゃいねぇし、スカーレットとかいう女がなにを目的にクレアをさらっていったのかも皆目見当がつかねぇ……。なあ、オッサン。いったいスカーレットのヤツはなにを企んでやがるんだ? オレたちは、どこに行けばクレアのことを助けられる? わかることがあったら、なんでも構わねぇから教えてくれよ!」
イハーサ:
「ふむ……。ならば、その質問に答える前に、まずはお前らがそうしてくれたように、俺からもお前らが知らない話をしておくとしよう」と言って、昔のことをぽつりぽつりと話し始めた。
「俺とレイモンドは従騎士時代からの同期なんだ。そして騎士に取り立てられると、あいつは武官、俺は文官として、それぞれが得意とする道を歩んで行った。それからしばらくは、お互いが不足している部分を補いながらうまくやっていたんだが、それが変わってしまったのは、男爵がこの地にやってきた4年前のことだった」
フェルナンド:
「レイモンド様からは、その当時、城塞騎士たちのあいだで、ウォーラム男爵は左遷されてこの領地にきたのだという噂話が広まっていたと聞いています。だから、男爵は統治に感心がないのだと……」
イハーサ:
「たしかに、そういった噂話があったのは事実だが、俺の知っていることとは少しだけ違う。
ウォーラム男爵もはじめのうちは統治に興味を示していたんだ。ただ、俺の立場でこう言うのもあまりよくない話なんだが、男爵の内政に関する能力はお世辞にも優れているとは言えなかった。むしろ、並み以下と言ってしまってもいいだろう。そのうえ、男爵は自分が思っていることをうまく周囲に伝えることができず、また人をうまく使うこともできなかったんだ。結果として、男爵の施策はことごとく失敗していった」
アルフォンス:
「オイオイ、仮にも王国騎士団の元団長だった人だろ? それが、人をうまく使うことができねぇだなんて、そんなことあるのか?」
イハーサ:
「いや、実際そんなもんだよ。算術だけが得意でも人は集まらん。かといって剣術だけ修めていても人を従えることはできん。あれもこれも身に付けろというのは難しい話さ。足りないところはほかの者たちと補いあえればいいんだが、それも口で言うほど簡単なことではないからな。
とくにウォーラム男爵は、それまで自分の剣の腕をよりどころに地位を築いてきた人だ。なによりも自分の力を信じていた分、自分以外の者たちの力を信じることができなかったのかもしれんな」
GM:
(全幅の信頼を寄せていた国王陛下に突然見放されたことによる精神的な影響もあったからね……)
イハーサ:
「まあ、そんな状態ではあったんだが、当時ひとりで空回りしてた男爵に対してそうそう意見できる者もいなくてな。
だが、レイモンドだけは違っていた。あいつは男爵の悪政に対して、忠言することをためらわなかった。本来、そういったことは俺たち文官の役割なんだが、不甲斐ない俺たちに代わって、あいつが先陣を切ってくれていた」
エリオット:
「さすがはレイモンド先生だね」
イハーサ:
「ところがだ。ウォーラム男爵とレイモンドが、稽古という名目で一度だけ剣を交えたことがあってな。そこはさすがに“戦場の黒獅子”と呼ばれた御仁よ。あのレイモンドでも男爵に土をつけることはできなかった。というよりも、武勇で名をはせた男爵にとって一介の城塞騎士など赤子同然で、それはもはや勝負と呼べるようなものではなく、レイモンドが一方的に打ち据えられるだけのものだった。それ以来、レイモンドも塞ぎこんでしまい、ますます誰も男爵にものを言えなくなってしまってな……。
スカーレットがやってきたのは、ちょうどそんなころだった。あの女がどうやって男爵に取り入ったのかまではわからんが、奴が来てから男爵は変わってしまった。ほどなくして城塞騎士の人減らしが始まり、俺の名前もその中に挙がったんだが、子供が生まれたばかりの俺のことを不憫に思ったレイモンドが身代わりになってくれてな……」
メイジー:
「だから、レイモンド先生はイハーサさんに貸しがあるって言ってたんだ……」
イハーサ:
「レイモンドは城を離れるときも、この領地の将来のことを憂いていた。城に残った俺たちに対して、頼むぞと言って去っていった。なのに、不甲斐ない。あいつがいなくなって3年でこのざまだ……。
男爵の様子も、これまで以上に輪をかけておかしくなってきている。なんでも、近頃は自ら魔法まで使うようになったとか、そういった話も耳にした。そんなことにかまけているくらいなら、もう少し領地のことを気にかけてもよかろうに……」
フェルナンド:
「あのスカーレットとかいう魔女から魔法を教わったのか、あるいはそういった道具を渡されたのか……」
イハーサ:
「わからんが、男爵があの魔女を重用していることは確かだ。今やあの女は城壁塔を与えられ、そこを自分専用の研究室にしてしまった。まさにやりたい放題さ」
アルフォンス:
「なあ、さっきの質問に戻るんだが、あの魔女がクレアのことをさらった理由について、なにか思い当たることはねぇのか?」
イハーサ:
「残念ながら……。ただ、金竜の子ともなれば、使い方はいろいろあるんじゃないか? たとえば、手駒として従属させ、敵対する者にけしかけたりな……」
GM:
(イハーサに確認するまでもなく、すでに百代の竜については願いを叶える存在であると説明されているわけで、アルフォンスはその願いの使い道について尋ねたんじゃないのかなぁ? まあ、どちらにしてもイハーサは知り得ない情報なのだけれど……)
エリオット:
「たしかに、百代の子は100年も前から伝わる詩に残されているように、かなりの可能性を感じさせる魅力的な存在であることは間違いないよ。でも、クレアは道具なんかじゃない!」
イハーサ:
「そうは言っても、今は戦の世だ。強大な力はことごとく争いごとの道具として利用されていく。そのクレアって子だけが例外ってことはないだろう」
エリオット:
「うん……。だからこそ、一刻も早く助けてあげたいんだ」
メイジー:
「クレアは、そのスカーレットが研究室として使っているっていう城壁塔に囚われているのかな?」
イハーサ:
「そうだな……。よし、それじゃあ少し待っててくれ。紙とペンをとってくる」
そう言って俺は一度席を立つと、筆記用具を持ってすぐに戻ってきた。そして、さらさらと紙になにかを描いていく。
「本当はこんなことしちゃいかんのだ。だから、くれぐれも口外無用だぞ」ってわけで、こいつをどうぞ。
ここでイハーサは事前にGMから渡されていたウォーラム城の見取り図をとりだすと、それをテーブルの上に広げました。
アルフォンス:
やったー!
メイジー:
城の見取り図があると雰囲気でるよねー。
イハーサ:
「まず、スカーレットの研究室になっている城壁塔はここだ。城壁塔のすぐ隣には鳩小屋がある。普段、男爵が休まれているのが主館。そして、城塞騎士の多くが寝泊まりしているのがこの騎士館ってことになる。
これらの場所に入ることが許されるのは、一部の許可された者たちだけだ。特に内郭への立ち入りには厳しい制限がかかっている。もちろん、お前らみたいな一般人は、内郭どころか外郭にすら立ち入ることは許されん。
だが、俺は城塞騎士だ。それも、取り立てた税の管理を担当している。つまり、その立場を利用すれば、貯蔵庫までであれば自由に行き来できるってわけだ」
GM:
ちょうどこの時期には、各集落から税として取り立てられてきた収穫物を積んだ荷馬車が、引っ切り無しに主城門を通って貯蔵庫に入っていく光景が見受けられます。イハーサが昨日徹夜していたのは、まさにその受け入れ準備のための仕事をしていたからでしょう。
アルフォンス:
「じゃあ、貯蔵庫までであれば、侵入を手引きしてもらうことも可能ってわけか?」
イハーサ:
「そう言うと思っていたよ。まあ、クレアって子を助け出すためにはそうせざるを得ないだろうし、こちらとしてもそれを止める気はない。貯蔵庫までの手引きは俺がやってやる。ちょうど、明日から荷馬車の搬入が始まるんだ。かなりの量になる予定だから、紛れ込むのもたやすかろう。そして、幸いなことに、今、内郭にはほとんど人がいない」
――ってことでよかったんだよな、GM?
GM:
はい。とくに夜間になると内郭への出入りは完全に禁じられます。昼間であっても、業務上その必要がある城塞騎士に限り、内郭への出入りを許されているだけです。
イハーサ:
「つまり、捜索しやすい状態だってことだ」
エリオット:
「じゃあ、さっそくお城に向かおうよ! 荷馬車の中に隠れるなり、荷馬車を引いて行くなりしてさ」
イハーサ:
「言っただろ? どちらにしても搬入は明日の朝からだ。はやる気持ちはわかるが、今日は休まんとな。少なくとも俺は徹夜明けなんだ。そろそろ寝ておかないと、とてもじゃないが身体がもたん。それに、城の中に潜入するまえに保険もかけておかないとな」
フェルナンド:
「保険というと?」
イハーサ:
「今、城塞騎士のまとめ役になっているグレッグという男がいるんだが、一応そいつにだけは話を通しておいたほうが、あとあと変な誤解を招くことなくことを運べると思う」
アルフォンス:
「そのグレッグってヤツは、信用できる相手なのか?」
GM:
まあ、グレッグはもともとイハーサの役どころとして用意されていたNPCですからね。ウォーラム男爵に直接忠言できない小心者ではありますが、だからといって男爵やスカーレットに肩入れするようなこともありません。そういった意味で信用できる人物です。
イハーサ:
GMがこう言ってるんだ。
「大丈夫だ。問題ない」
フェルナンド:
「イハーサさん。あとひとつ聞いておきたいことがあるんですが……。だれか、信頼できる教会の方に心当たりはありませんか?」
イハーサ:
それは、ないような気がする。
GM:
ないですね。現状、この街の教会は完全に腐食しています。
イハーサ:
「実に残念な話ではあるが、この街にあるものの多くはここ数年で腐ってしまっている。期待に沿えるようなあてはないな」
フェルナンド:
「そうですか……」と、小さく呟いて、城の見取り図を見ながら考え込んだ。
メイジー:
「フェルナンド、どうかしたの?」
フェルナンド:
「クレアを助け出したあと、どうする?」
アルフォンス:
「そりゃ、楽園まで連れていくに決まってるだろ」
フェルナンド:
「楽園まで連れていく……か。だが、船ではその島に上陸できないんじゃなかったのか?」
アルフォンス:
「そこは気合でなんとかすんだよ!」
フェルナンド:
(苦笑)
メイジー:
「アルフォンスっていつもワタシのこと馬鹿にしてるくせに、なんでそんな馬鹿みたいなことしか言えないの?」
アルフォンス:
「オメェにだけは言われたかねぇよ! ……って、今は喧嘩してる場合じゃねぇな」
エリオット:
「まあ、ポートレッジまで行けば、なにか手立てがみつかるかもしれないじゃない」
アルフォンス:
「そうそう。だいたい、これまでフェルナンドは本当にクレアのことを教会に預けるつもりだったのかよ? このウォーラム以外の街や教会だって、腐ってねぇとは限らねぇんだぜ?」
フェルナンド:
「それはそうなんだが……」
俺はいまだに不安を抱えたままなんだが、この場ではそれ以上のことは口にしないでおいた。
イハーサ:
……そうだ、GM。俺の嫁さんの実家は、少し離れたところにあることにしてもいいか?
GM:
ええ、構いませんよ。
イハーサ:
だったら、明日の朝一で嫁さんと娘は実家に帰らせておく。場合によっては男爵に弓弾くことになりかねないんで、そこまでは考慮しておかないとな。
GM:
了解しました。
では、そのような感じで互いの情報を交換し終えると、あなたたちは明日の活動に備えて早めに就寝の床についたのでした。