GM:
翌早朝。イハーサはまだ人々が街を出歩いていない時間に動き始めることになるかと思いますが、まずはなにをしますか?
イハーサ:
じゃあ、朝一でサットン村の4人のところに向かった。
「よく眠れたか?」
メイジー:
「おかげさまで。ありがとうございました」
イハーサ:
「そいつはよかった。……さて、実は今のうちにお前たちに渡しておきたいものがある。まあ、木っ端役人なんでな。大したものは用意できないんだが」
そう言って、これを渡した。
ここでイハーサは、事前にGMから預かっていたこれまでのドロップアイテムと固定アイテムをサットン村の若者たちに引き渡しました。PCたちが新たに入手したアイテムは、〈技の秘薬+2〉、〈知恵の秘薬+1〉、〈知恵の秘薬+2〉、〈回復の秘薬〉の計4つです。
エリオット:
しゅごいー!
メイジー:
やったー!
アルフォンス:
「これは、あれか? もしかして、城からうまいこと拝借した代物ってやつか?」
たしか、オレたちが村から出発するときにも、同じような感じでレイモンドのオッサンからアイテムをもらったことがあったような(笑)。
イハーサ:
「こういうときに詳しい入手方法を聞くのはマナー違反だぞ。大人だったら黙って受け取るもんだ」
フェルナンド:
「ありがとうございます」
GM:
さて、アイテムの受け渡しのあとはなにをしますか?
イハーサ:
次は、グレッグに根回しをしておくぞ。
GM:
了解です。
GM:
城塞騎士のまとめ役となっているグレッグは、この日の早朝、騎士館前で剣の稽古をしていました。彼は年齢こそイハーサとさほど変わりませんが、シュッとした顔つきのイケメンです。
イハーサ:
「グレッグ! 朝の訓練中に悪いが、ちょっといいか?」
グレッグ(GM):
「おう、イハーサ。どうかしたのか?」
イハーサ:
「いやあ、大したことじゃあないんだが、お前には話しておこうと思ってな。ちょっとこっちに来てくれるか? 恥ずかしい話だから、あまりほかの連中には聞かせたくないんだよ」
グレッグ(GM):
「そうか……」
GM:
おそらく、城塞騎士たちのあいだでは、普段からウォーラム男爵やスカーレットに対する不平不満を隠れて言いあうようなことがあるのでしょう。このときもグレッグはそういった話なのだろうと察したようで、人目につかない場所まですんなりとイハーサのあとについてきました。
グレッグ(GM):
「で、話っていうのはいったいなんのことだ?」
イハーサ:
「いやあ、実はお前にしか話せないことなんだけどな、これから内郭に侵入して、今晩スカーレットの奴を拘束しようと思っている」
グレッグ(GM):
「……」
メイジー:
グレッグ(GM)がめっちゃ真顔になってる(笑)。
一同:
(笑)
グレッグ(GM):
「……詳しく。詳しく話を聞かせてくれ」
イハーサ:
「ああ。じゃあ、ことの成り行きを話そうか……」
そこから、昨日聞いた話に、自分たちがこれまでに体験してきたことも踏まえて、男爵がおかしくなった原因がスカーレットにあるのではないかと話した。そのうえで、今回そのスカーレットが金竜の子を使ってなにか企んでいるらしく、このままではこの街はさらにおかしなことになってしまうと続けて、真実を確かめる意味でも、これからレイモンドの弟子たちを率いてスカーレットのことを拘束しようとしていると説明した。
グレッグ(GM):
「ふむ……。で、俺にそのことを聞かせておいて、いったいなにをさせるつもりなんだ?」
イハーサ:
「いやなに、いくらスカーレットが怪しい女だとはいえ、今や男爵の腹心だ。この作戦を決行すれば、おそらく俺たちは反逆者として扱われるだろう。そんなことにお前たち全員を巻き込むわけにはいかん」
グレッグ(GM):
「それはもちろんだ。俺としてもほかの連中にそんな命令は下せない」
イハーサ:
「ただ、もし城内警護の範囲において俺たちに協力できることがあったなら、お前たちにはそれをお願いしたい。たとえば、城内にいるはずのない不審な人物が現れたりしたら、そういった者たちを拘束するのは、城塞騎士本来の仕事であるはずだよな?」
グレッグ(GM):
「まあ、それはそうだな……」
GM:
(イハーサは、城内に未知の敵がいることを警戒しているのかな……?)
グレッグ(GM):
「たしかに、このままでは遅かれ早かれこの領地は崩壊してしまう。そのことは、俺もこの3年でよくわかった。だから、お前たちがやろうとしていることに対して、無理のない範囲での協力は約束しよう。
ただし……だ。もし、スカーレットやウォーラム男爵がよからぬことを企んでいたとして、それを阻止するために、お前や、お前の協力者が一戦交えることになったとしても、それなりの証拠を示して大義名分を得られないようであれば、俺たちはお前たちのことを罪人として扱わなければならなくなるだろう。そのことは十分覚悟しておいてくれ」
イハーサ:
「ああ、わかった」
グレッグ(GM):
「いいか、イハーサ。必要なのは大義名分を得るための証拠だぞ」
メイジー:
大事なことなので二度言いましたよ(笑)。
イハーサ:
「わかってるさ。まずは、それを押さえてから本丸を攻めることにする。まあ、ある程度のあたりをつけているところはあるからな」
そう言って、俺は城壁塔と鳩小屋があるほうへと目を向けた。
グレッグ(GM):
「うむ。もし、そういった確固たる証拠が手に入って、バロウズ公爵や国王陛下に動いていただけるようになったのであれば、この領地もいい意味で変わることができるかもしれないしな」
GM:
どうやら、グレッグは外からの改革に期待しているようです。
イハーサ:
「もちろん、それなりのものがみつかった場合にはすぐにお前に伝えるから、そのときは頼むぞ」
グレッグ(GM):
「承知した」
イハーサ:
そんな感じで根回ししたところで、建物の陰から出て行った。
「いやあ、悪かったな、うちの娘の話なんて聞いてもらってよ!」
グレッグ(GM):
「本当にお前は親バカだな」
イハーサ:
「ははっ、そいつが今の唯一の楽しみだからよ。んじゃあな」とかなんとか言って、その場をあとにする。
GM:
では、グレッグはそんなイハーサのうしろ姿をしばらく冗談めかした笑い顔で見送っていたのですが、その姿が見えなくなると急に真面目な顔つきをしてこうつぶやきました。
グレッグ(GM):
「そうか……。いよいよ動き出すのか……」
メイジー:
ちょっとやめてよ、そうやって不穏な空気を醸し出すのは(苦笑)。
GM:
さて、ほかにやることがなければ、時間をお昼過ぎまで進めてしまいます。
一同:
オッケー。
GM:
それくらいの時刻になると、徴税に出ていた城塞騎士たちが馬車や荷車に搬入物を目いっぱい積んで、ぞくぞくと城壁内へ入っていきます。
イハーサを除く4人は、その中のひとつに身を隠し、外郭へと入っていきました。そして、内郭に入る前に城門塔前で細かい積荷のチェックを受けることになるのですが、そこで積荷の確認をしているのが当のイハーサであるため、問題なく通過することができました。
イハーサ:
「よし、次だー! 積荷を見せろー!」
作物の中に剣をズブー、ズブー。
「問題なーし、通れー!」
GM:
こうして、サットン村の若者たちを乗せた荷馬車が、内郭へと入っていきます。
イハーサ:
4人が潜り込んでる積荷が運ばれていくときに、それを運んでいる城塞騎士のひとりに対して、「おい、その積荷の置き場所が変更されたことはわかっているんだろうな? なに? 聞いていないだと? しかたないな。じゃあ俺が案内するから、悪いが誰かしばらくのあいだ俺の代わりにここを見ていてくれ」と言って、荷馬車に付き添って貯蔵庫の中に入っていった。
で、積荷をほかの搬入物と混ざらないような場所に丁寧に下ろさせる。
GM:
では、荷台に乗せられていた積荷はすべて貯蔵庫に下ろされ、城塞騎士たちは空になった馬車だけを外郭へと運んでいきます。
イハーサ:
それが済んだら、サットン村の4人には俺の仕事が片付くまで積荷の中で待つように言い含んで、貯蔵庫から出ていった。
GM:
そうすると、4人は貯蔵庫の中で日が暮れるまでの時間を過ごすことになります。
GM:
やがて、日が暮れてくるとその日の運搬も終わり、内郭にいた城塞騎士たちは外へと出て行きました。そして、全員が内郭から出て行ったあとに、戸締りを確認するという名目でイハーサが貯蔵庫へとやってきます。
イハーサ:
貯蔵庫の中に入って内側から扉を閉めると、暗闇の中に声をかけた。
「ふぅ……。お前たち、全員いるか?」
アルフォンス:
「おう。全員そろってるぜ」
イハーサ:
「とりあえず、内郭に入り込むことには成功したな。
一応、朝のうちに城塞騎士たちのまとめ役となっているグレッグに話は通しておいたんだが、そのときグレッグからひとつ忠告を受けた。もしスカーレットと事を構えるなら、その前に大義名分となり得る証拠を見つけてからにしろってことだ。そうでないと、城塞騎士たちは俺たちのことを罪人とみなして対処せざるを得ないからな。で、そのことについて俺からひとつ提案があるんで、ちょっと聞いてほしい」
フェルナンド:
「はい」
イハーサ:
「実のところ、俺はスカーレットが外部の人間と通じているんじゃないかと疑っている。この領地を貶めたところで、スカーレット個人に直接的な利益があるとは思えないからな。
じゃあ、どうやってその外部の人間と連絡を取り合っているかってことなんだが……。ここの鳩小屋が主館の近くではなく城壁塔の近くに設置されていることについて少し変だとは思わないか?」
一同:
「……」
イハーサ:
「つまり、俺はスカーレットが外部との連絡手段として伝書鳩を使っているんじゃないかと思うんだ。
もし、外部の人間とスカーレットとの繋がりを示す書簡を手に入れることができさえすれば、それはスカーレットとやりあうための大義名分になり得るはずだ。そこで、外からやってくる伝書鳩を捕まえて書簡を手に入れたいんだが、誰かこの中で弓を使える奴はいるか?」
メイジー:
「この中で一番弓が得意なのはワタシだけど、伝書鳩を捕まえるってことなら、風の魔法を使えるエリオットのほうが適任かもね」
イハーサ:
「いや、さすがに魔法を使うとスカーレットに気づかれるかもしれないぞ」
エリオット:
「じゃあ、メイジーだね」
メイジー:
「オッケー」
イハーサ:
「幸い貯蔵庫の裏手から回れば、城壁塔までは人目につきにくい。ただ、鳩がいつ来るかはわからないから、しばらく見張っている必要はあるがな」
GM:
実際に行動を開始する前に、ここでシステム的な説明をしておきます。
貯蔵庫を離れてどこかに移動する場合、SPDを用いた目標値16の隠密判定をおこなってもらいます。この判定は互助可能です。ただし、貯蔵庫の裏手を回ったとしても目標値は変わりありません(笑)。そして、その判定に失敗すると、城壁の上にとまっている数羽のカラスたちに見つかってしまいます。
イハーサ:
なるほど。
GM:
なお、このカラスたちは、3年くらい前から見かけるようになりました。昼間、城塞騎士が内郭に出入りしているあいだは姿をみせないのですが、夜になるとどこからか現れます。
ついでに付け加えておくと、このカラスたちが鳩を襲うようなことはありません。
一同:
(笑)
メイジー:
それって、あからさまに変じゃない(笑)?
イハーサ:
これ、もしかするとカラスがいる夜に行動するよりも、城塞騎士たちがいる昼間に行動したほうがいいのか? グレッグに話を通せばなんとかなりそうな気がする。なにか行動を起こす前に、まずはそれを決めておこう。
GM:
(あちゃぁ……。プレイヤーに対してわかりやすいように捕捉説明を加えたつもりが、裏目にでちゃったか……。ならば仕方がない)
えーと、GMとしてはどちらでも構いませんが、ぶっちゃけ今晩中に救出しないとクレアは助かりませんからね(笑)。
一同:
(笑)
イハーサ:
あー、なるほど(笑)。それはまずいな。せっかく急いできたのに、そうなったら台無しだ。
メイジー:
うん、ワタシとしてもできるだけ急いでクレアのことを助けたいな。
エリオット:
「……ねぇ、もしもスカーレットが悪巧みしているのだとしたら、伝書鳩なんか捕まえなくても、研究室に証拠になりそうななにかを隠しているんじゃないかな? それに、主館のほうにもなにかしら証拠になりそうなものがある可能性はあるよね」
イハーサ:
「はたしてそうかな? 俺にはスカーレットがそういった証拠を残すほどうかつな女には思えないんだ。ここは、スカーレット宛てに送られてきた書簡を押さえてから行動すべきだと思うが……」
アルフォンス:
「なぁ、そもそもの話なんだが、オッサンは本当にスカーレットが単独で動いてる可能性はないって言い切れんのか? そこが読み間違ってた場合、外部と連絡をとるために鳩を使ってるって前提そのものがなくなるだろ?
それに、仮にスカーレットが外部とやり取りしてたとしても、都合よく今日鳩がやってくるとは限らねぇ。だから、オレは鳩が来るのを待つって話には反対だ」
エリオット:
そう! ボクもそう言いたかったんだよ。それで、証拠だったら城壁塔か主館にあるんじゃないかと思って、その場合、スカーレットよりはウォーラム男爵のほうが隙がありそうだから、主館を調べてみようって提案したかったんだ。
GM:
ウォーラム男爵のほうが隙がありそうって、“戦場の黒獅子”とまで呼ばれた人物に対してひどい物言いですね(笑)。
フェルナンド:
「イハーサさん、あまり悠長なことをしている余裕はないんです。ここは城壁塔に突入させてください」
イハーサ:
「……もし、大義名分を得ることができなければ、仮にスカーレットのことを強襲して金竜の子を奪い返すことができたとしても、城塞騎士たちを敵に回すことになるぞ。そうなったら、城から無事に出ることはまずできないだろう。そして、俺たちは罪人として投獄されることになる。ここで焦って、そんな勝ち目のない賭けにでるのか?」
メイジー:
「そうだよ、みんな少し冷静になって。時間がないのはわかるけど、ワタシはクレアをここから助け出せずに終わるのは嫌だよ。だから、イハーサさんの言うように、まずは大義名分を得るための証拠探しをするべきだと思う」
フェルナンド:
「だったら、今晩一晩待っても鳩が来なかった場合、どうするつもりだ!」
メイジー:
「えっ? そ、それは……」
イハーサ:
「ふむ……。だったら、どのくらいなら待てる?」
フェルナンド:
「……わかりません。ですが、こうしてるあいだにも、クレアがいったいどんな目にあわされていることか――」
エリオット:
「もういいよ! ボクは主館を調べてくる。行動してみなければ、証拠があるかどうかもわからないんだからさ!」
そう言って、ボクは貯蔵庫から出て行こうとするよ。
イハーサ:
「待て! 待ってくれ! 頼むから零時まで時間をくれ。どうせ動くにしても、真夜中になってからのほうがいいだろ? それまでだけでいいから、鳩が来る可能性に賭けさせてくれ」
GM:
現在は晩秋の日の入り直後ですので、零時までということであればまだ5~6時間はありますね。
一同:
「……」
フェルナンド:
しばらく悩んでから、「零時までということであれば、わかりました」と答えた。
じゃあ、メイジーには城壁塔の下まで行って零時まで鳩が来ないかを見張ってもらうってことで。
メイジー:
オッケー。
エリオット:
「ねえ、みんなは本当にそれでいいの? ボクはいますぐ主館を調べに行くべきだと思う。来るかどうかもわからない鳩のことを待っている余裕なんてないはずだよ!」
アルフォンス:
まあ、零時までって条件付きなら、オレもこれ以上反対するつもりはねぇよ。
フェルナンド:
鳩待ちそのものは主館を調べるよりリスクも低そうだし、その結果が出てから動くってことでいいだろ。
エリオット:
いや、でもさぁ――
イハーサ:
「頼む、エリオット。お前の焦る気持ちもわからなくはない。だが、零時までの時間は、俺がお前たちのことをここまで手引きしたことに対する代金だと思ってくれ。それで納得してもらえないか?」
エリオット:
「うッ……。そ、そんなこと言われたら、待つしかないじゃないか……」
フェルナンド:
エリオットはまだ粘るつもりなのかと思ったが、やっぱりあいかわらずチョロイな(笑)。
一同:
(笑)
アルフォンス:
……ところでさ、プレイヤーとしてのちょっとした疑問なんだが、鳩って日のあるうちしか飛ばねぇんじゃねぇの?
GM:
いえ、鳩は夜も飛行できますよ。とくに伝書鳩においては夜間飛行した記録がいくつも残されています。
アルフォンス:
へー。そうだったのか……。
メイジー:
鳩って凄いんだね。