GM:
黒髪のクレアは、意識を失った状態で自分の体重をメイジーに預け、ぐったりとしています。
一方、仁王立ちとなったウォーラム男爵は、なおも剣を振り上げて戦い続けようとするのですが、本人の意志に反してすでにその腕に十分な力を込めることはできなくなっており、高く掲げていた手から滑り落ちた“勝利の剣”が礼拝堂に乾いた音を響き渡らせました。
ウォーラム男爵(GM):
「クッ……敗れたというのか……この私が……」
イハーサ:
「男爵……」
ウォーラム男爵(GM):
「だが、戦いに敗れたのであれば致し方ない……。唯一の拠り所であったこの力で敗れたのだ。私は弱かったということなのだな……。おめでとう。君たちが勝者だ。あとは君たちの好きなようにするといい」
GM:
そう言うと、ウォーラム男爵は両腕を力なく下げ、その場に膝をつきました。今やウォーラム男爵の表情は、まるで憑き物が落ちたかのようにスッキリとしたものになっています。
イハーサ:
左足を引きずりながら急いで駆け寄って行って、ウォーラム男爵のことを抱きかかえた。息はあるんだよな?
GM:
『Plain D20』では基本的に戦闘不能となった敵の生死はプレイヤーに委ねられることになりますので、もし誰かが致命傷を与えていたと宣言するのでなければ命に別状はなく、ただ戦闘行為が行えなくなっただけということになります。
アルフォンス:
イハーサがウォーラム男爵のことを抱きかかえたのを見て、オレは剣を鞘に収めた。
メイジー:
ワタシは自分自身も瀕死の状態なので、クレアのことを抱き留めたまま動けずにいる。
エリオット:
ボクも意識を取り戻すと、満身創痍の状態で「クレアは? クレアは大丈夫なの?」と声をあげた。
アルフォンス:
「大丈夫に決まってるさ。なにせ、ママがあんなに頑張ったんだからな……」
そう言ってエリオットに肩を貸すと、クレアとメイジーのところまで近づいて行った。
フェルナンド:
俺もそこまで駆け寄って行って、メイジーとエリオットに癒しの魔法をかけながらクレアの様子を確認してみる。
クレア(GM):
「……」
GM:
見たところ、クレアは傷ひとつ負っておらず、命に別状はないようです。しかし、彼女の意識はまだ戻っていません。その様子は、最初にあなたたちがクレアと出会ったときと似ており、フェルナンドにはクレアが極度に魔力を失った状態であることがわかりました。
アルフォンス:
クレアの黒くなった髪をそっと撫でながら、「フェルナンド。クレアの状態はどうなんだ?」と尋ねた。
フェルナンド:
「魔力が極端に失われてはいるが、命に別状はない。しかし、この髪の色はいったい……?」
アルフォンス:
「とにかく、今は休ませて様子をみるしかないか……」
GM:
では、そのようなところで、礼拝堂の正面扉が大きな音を立てて開かれました。そして、甲冑をつけた騎士たちが礼拝堂の中になだれ込んできます。その先頭に立っていたのはグレッグでした。
グレッグ(GM):
「大丈夫か、イハーサ! 助けに来たぞ! 俺たちだけ安全なところにいて、お前たちにすべてを押し付けてしまうのも心苦しくてな」
イハーサ:
「そうか。ありがとな……。でも、もう大丈夫だ」
そう言って、ウォーラム男爵のほうへと視線を向けた。
「男爵。私はあなたの腐った目を抉ることができましたか? 以前のあなたの目には映らなかったこの者たちの姿を、今その目で見ることができますか? もしそうであるなら、この者たちはきっとあなたの力となるはずです」
GM:
(ふむふむ。しかし、そうは問屋が卸さないんだよね……)
ウォーラム男爵(GM):
「……」
GM:
ウォーラム男爵は身体に力を込めなおすとイハーサの支えから離れ、己の威厳を示すかのように自らの両足で立ってみせます。そして、その口からなにか言葉を発しようとしたのですが、ちょうどそのとき、遅れて礼拝堂へと走り込んできた城塞騎士の張り上げた声が、ウォーラム男爵の言葉を遮りました。
城塞騎士(GM):
「おい、大変だッ! 男爵の執務室からこんなものがみつかったぞッ!」
GM:
そう言うと、その城塞騎士は手に持った書類を皆の前で広げてみせます。そこには、「王都制圧計画」という見出しで、現ギルモア王権に対するクーデター計画の詳細な内容が記されていました。
では、その書面に対してイハーサはINT判定をおこなってください。
イハーサ:
俺だけ?
GM:
はい。
(スカーレットの書きかけの書簡をアルフォンスがイハーサに渡して以降、誰もその中身を確認していないからね……)
目標値は(コロコロ)28です。
イハーサ:
(コロコロ)30で成功。
GM:
それでは、イハーサはこれまで書類仕事を長く務めてきたので、その書面の字がウォーラム男爵のものではなくスカーレットのものであることに気がつきました。
イハーサ:
おお! そうきたか。
グレッグ(GM):
「こ、これは……王都制圧計画だとッ!? いったいどういうことだ、ウォーラム男爵!」
GM:
突如として露見したクーデター計画に、城塞騎士たちのあいだに動揺と戦慄が走ります。そして、彼らの視線は一斉にウォーラム男爵へと向けられました。
ウォーラム男爵(GM):
「……」
GM:
ウォーラム男爵は一瞬だけ乾いた笑みを浮かべると、諦めに似た表情をグレッグへと向けます。もはや、その口からグレッグたちへ弁明の言葉が述べられるようなことはありませんでした。
そんなウォーラム男爵に対して、グレッグはさらに詰め寄ります。
グレッグ(GM):
「愚問だったか……。これだけの証拠を見せられて、あえて問うまでもあるまい。もはや貴様を男爵とは呼ばんぞ! エルドレッド・ナサニエル。国家に仇なす大罪人めッ!」
GM:
その計画書が出てきたことにより、ほかの城塞騎士たちも大義名分を得たとばかり、さらに高圧的にウォーラム男爵へと迫ろうとします。その瞬間、メイジーの腕の中にあったクレアの身体がビクンと跳ね上がりました。
クレア(GM):
「うぐぐぐぐぐぐぐ……」
メイジー:
「えッ! クレア!?」
GM:
同時に、サットン村の若者たちの心の中にどす黒い感情を伴う声が響いてきます。
声(GM):
「殺せッ! 殺せッ! 俺たちの正義のために悪を滅ぼせッ!」
フェルナンド:
「な、なんだこれは……!?」
エリオット:
「この感情が、今クレアに流れ込んでいるってことなの……?」
GM:
(近いけれど、設定的には少し違うんだよね……)
イハーサ:
そこで、俺は計画書の内容を確認しようと歩み寄り、それを一瞥したあとで、大きく笑った。
「はっはっはっは! なるほど、これは巧みなものだな。これでは皆が騙されるのも無理はない。だが、この書面に書かれた文字をよく見るといい。これを書いたのは男爵ではない。これを記したのは、かの赤い髪の魔女、スカーレットだ。危うく、あの魔女にいいように踊らされるところだったな。
男爵。お尋ねしますが、これはあなたがお書きになったものですか?」
ウォーラム男爵(GM):
「……」
GM:
その質問に、ウォーラム男爵は無言で答えます。
イハーサ:
「なるほど。仰りにくいことがあるのですね? だが、私が断言しましょう。これは男爵の文字ではない。なぜそう言えるか? それは皆がよく知っているはずだ。私がどれだけのあいだ、文官として勤めてきたか。
これは、男爵を陥れるための罠だ! あの魔女は、最後にこのような罠を残していったのだよ!」
グレッグ(GM):
「そうだったのか……」
GM:
グレッグはイハーサの言葉に納得しつつあるようですが、ほかの城塞騎士たちのあいだには戸惑いが広がっています。
城塞騎士A(GM):
「ど、どうなんだ……?」
城塞騎士B(GM):
「いや、たしかにこれを書いたのは男爵ではないのかもしれない……。しかし、この機会に男爵を失脚させられるのなら……」
城塞騎士C(GM):
「そ、そうだ! 仮にイハーサの言うことが本当だったとしても、やはりこの男は我らのあるじとしてはふさわしくない! あの魔女が現れる前だって、この男はダメだったじゃないか!」
イハーサ:
「たしかに、皆の言いたいこともよくわかる。だが、今一度思い返してほしい。ここにいる者のなかで、男爵に対して忠言を述べたことのある者はいるか? 皆、男爵に臆して、なにも言わずじまいだったのではないか?」
GM:
そう言われてしまうと、城塞騎士たちは皆視線を落とし、沈黙してしまいます。
(うーん……立場上仕方ないのだけれど、サットン村の4人がイハーサの影に隠れちゃっているなぁ……。なんとかサットン村の4人がこの場を締められるように持っていきたいところ……)
イハーサ:
「これまで、それをおこなったことがあるのはただ一人。皆もまだ覚えているだろう? あのレイモンドだけが男爵と向き合おうとしていた」
城塞騎士C(GM):
「だ、だが、そのレイモンドを遠ざけたのだって、この男が――」
アルフォンス:
「テメェら、いい加減にしやがれーッ!」
そう声を張り上げて、レイモンドの剣を床に突き立てた。
「レイモンドは帰ってきたんだよッ! ここにッ!」
GM:
(ナイス、アルフォンス!)
城塞騎士A(GM):
「き、君たちは?」
GM:
城塞騎士たちの目が、一斉にサットン村の若者たちへと向けられます。
イハーサ:
「彼らはレイモンドの弟子たちだ。レイモンドはスカーレットの手にかかり命を落としたが、その遺志はこの4人の若者たちの手によってここまで届けられた。そして、彼らは、この国に混乱をもたらそうとしていた魔女との戦いに勝利したのだ」
グレッグ(GM):
「そうか、君たちがレイモンドの……。見たところ、ウォーラム男爵をいさめたのも君たちらしいな。ならば君たちの口から聞かせてほしい。こう言ってはなんだが、これまでの悪政の影響を受けて最も苦しんできたのは、君たちのような一般民衆であったはずだ。その君たちは、ウォーラム男爵に対してどのような処置を望む?」
フェルナンド:
俺はウォーラム男爵のそばまで歩いて行くと、「失礼します」と言って、男爵に癒しの魔法をかけた。そして、ウォーラム男爵に対して言葉を発した。
「次こそは、皆の声を聞いてください。お願いします」
GM:
そのフェルナンドの行為に、ウォーラム男爵は少しだけ驚いた表情を浮かべました。しかし、すぐに厳しい表情を作ると、こう返します。
ウォーラム男爵(GM):
「……すまないが、今の私はその言葉にこたえられる立場にない。だから、委ねるよ」
フェルナンド:
なら、そのまま癒しを続けた。
エリオット:
「レイモンド先生も、ウォーラム男爵を糾弾するようなことは望んでいなかったと思う。だから、許してあげてください」と言って、ボクは城塞騎士たちに向かって頭を下げた。
メイジー:
そんな光景を見て、ワタシはただ黙ったままウォーラム男爵へと視線を向け続けてる。
クレアのことや村のことを考えると、ウォーラム男爵に対して少なからず憎しみの感情がありはするんだけど、その感情を発露させてるだけじゃ、いつまでたっても先に進めないと思うから……。
GM:
あなたたちの言動に、城塞騎士たちの心もかなり揺れ動いているようです。しかし、これまで積もり積もってきた負の感情は、そう簡単に覆せるものではありません。彼らは、そんな自分たちを変えてくれる、道を指し示すかのような言葉、あるいは進むべき道を示してくれる人そのものの登場を望んでいました。
アルフォンス:
いいのか? 言っちゃうぞ。オレが言っちまうからな……?
イハーサ:
ぜひ、言ってやってくれ。
エリオット:
いいよ。だって、アルフォンスは騎士になるんでしょ?
フェルナンド&メイジー:
(笑)
GM:
(エリオットが空気をよんだナイスな後押しをするだなんて……成長したなぁ……)
アルフォンス:
じゃあ……。
「たしかに、ウォーラム男爵は魔女の甘言に惑わされて、この現状を招いちまったかもしれねぇ。でも、その魔女はもういねぇんだ。だったら、これからは、あらためてこの地をいい方向に統治していくことができるんじゃねぇのか?
そりゃ、ウォーラム男爵はこの土地のことをよく知らない外様で、内政にも慣れてねぇのかもしんねぇけど、それも含めてあるじを支えてくのが騎士の役目ってやつだろ。以前、レイモンドのオッサンも言ってたんだよ。どんなに強い力を身に付けていようとも、ひとりじゃ簡単に折れちまう。だが、誰かと互いに助け合うことができたなら、どんな困難でも乗り越えられるんだって……。
アンタらだって、以前は“戦場の黒獅子”に憧れてたんだろ? 期待してたんだろ? その“戦場の黒獅子”に頼られる存在になれるなんて、名誉なことじゃねぇか! もしアンタらがやらねぇって言うなら、このオレがウォーラム男爵のことを支えてやるッ!
まあ、そうは言っても、いずれオレ様はそのさらに上にのし上がってやるんだけどなッ!」
GM:
そのアルフォンスのタンカに、城塞騎士たちは互いに顔を見合わせます。そこには、もはやウォーラム男爵を糾弾しようという気配は感じられません。
その様子を見たグレッグは、広げられていた計画書を手に取りました。
グレッグ(GM):
「……たしかに、彼らが言ったとおりだ。悪かったのはなにも男爵だけじゃない。俺たちも間違っていたんだよ。そして、今ならまだやり直せるんだ。だから、これはなしさ。こんなものは存在しなかった」
GM:
そう言うと、グレッグは計画書を破り捨ててしまいました。
グレッグ(GM):
「もし、ウォーラム男爵が俺たちの言葉に耳を傾けてくれるというのであれば、俺としては彼に引き続きこの領地のあるじで居続けて欲しいし、これからはそれを支えるつもりでもいる。もちろん、ウォーラム男爵にそれを受け入れてもらえるならだが……。
お前たちはどうだ?」
GM:
そのグレッグの言葉に、城塞騎士たちは戸惑いながらも同調します。
城塞騎士A(GM):
「俺たちも、この領地のことを思えばこそこうして決起しようと思ったんだ。なにも男爵を糾弾することそのものが目的だったわけじゃない」
城塞騎士B(GM):
「そうだな。本当にウォーラム男爵が俺たちの言葉に耳を傾けてくれるというなら……」
城塞騎士C(GM):
「ああ、それでこの領地に住む者たちの生活が少しでも豊かになるなら、無理に反対する理由はない」
GM:
城塞騎士たちにもそれぞれ複雑な想いはあったのですが、皆一様にウォーラム男爵に対する糾弾の感情は落ち着き、それに代わって未来に対する前向きな気持ちが芽生えつつありました。
それと共にクレアの感じていた痛みも弱まっていき、やがて落ち着きを取り戻していきます。
クレア(GM):
「……」
メイジー:
「よかった……。イハーサさん、グレッグさん。あと、ウォーラム男爵。ありがとうございます。この子も落ち着きました」
グレッグ(GM):
「礼を言うのはこちらのほうだ。君たちのおかげで、俺たちは本当にもう一度やり直すことができるのかもしれない。いや、きっとやり直してみせるさ。そうだろ、イハーサ?」
イハーサ:
「もちろんだとも。これまで以上に力を尽くすさ。まあ、もっとも、3日連続で徹夜作業ってのは勘弁だがな(笑)」
じゃあ、これで解散しても大丈夫だよな?
GM:
そうですね。
イハーサ:
「さあ、皆、解散だ、解散。明日の仕事に備えて、さっさと部屋に戻れ!」
GM:
では、イハーサの言葉に背中を押されて、城塞騎士たちは礼拝堂から退場していきます。ウォーラム男爵のことはグレッグが連れていくということでよろしいでしょうか?
イハーサ:
そうだな。
「グレッグ。男爵のことは任せたぞ」
グレッグ(GM):
「ああ、任せておけ。では、ウォーラム男爵、参りましょう。肩をお貸しいたします」
GM:
こうして、ウォーラム男爵はグレッグに付き添われ、礼拝堂から姿を消していきました。そして、礼拝堂にはあなたたちだけが残されることになります。