アルフォンス:
俺はいまごろになって、膝をガクガク震わせてる。
「やっべぇ……。また勢いに任せてタンカ切っちまったよ。それも、スゲェ人たち相手に……。オッサン、すまねぇな。なんか、とんでもねぇことをやらかしちまったかもしれねぇ……」
イハーサ:
「いやいや、なかなか聞けない、いいタンカだったぜ(笑)?」
エリオット:
「アルフォンス、格好よかったよ!」
メイジー:
「うん。本当に格好よかった」
アルフォンス:
「お? そうか? んじゃ、もしかして、オレ、このまま士官できたりすんのかな?」
イハーサ:
「あー、それとこれとは別問題だな」
アルフォンス:
「あ、あれ? マジかよ……」
メイジー:
「でも、アルフォンスなら、いつかきっと最高の騎士になれると思う。だから、いつもみたいにもっと自信を持ちなさいよ」
アルフォンス:
「ん、それもそうだな」
イハーサ:
「……それはそうと、竜のお嬢ちゃんのほうは大丈夫なのか?」
メイジー:
「うん。城塞騎士の人たちが来て、みんなでウォーラム男爵のことを責めたててたときは苦しそうだったんだけど、今は落ち着いてるみたい」
イハーサ:
「そいつはよかった。で、そのお嬢ちゃんのことは、これからどうするつもりなんだ?」
エリオット:
「許されるならば、どこか争いのない穏やかなところにクレアのことを連れて行って、そこで育ててあげたい。そうすれば、クレアが苦しむこともないはずだから」
イハーサ:
「なるほどな。だが、それはちと難しいんじゃないか? これからしばらくは戦乱の時代が続く。どこに行ったとしても、争いと無縁ではいられまい」
アルフォンス:
「だったら、伝承にある安息の地ってところまで連れていってやるしかないだろ。あのウォーラム男爵を止めることができたんだ。今だったらなんだってできる気がするぜ!」
エリオット:
「うん!」
メイジー:
「そうだね!」
フェルナンド:
「ふむ……。どうやら、俺たちの考えはまとまっているみたいだな。しかし、クレア本人はどうしたいんだろう?」
GM:
では、そのタイミングで、メイジーの腕の中から微かな声が聞こえました。
クレア(GM):
「大丈夫。心配ないよ。みんな、いろいろありがとう」
GM:
声のするほうへと視線を向けてみると、クレアが薄く目を開けています。
メイジー:
「クレア、大丈夫なの?」
クレア(GM):
「うん。みんなの気持ち、すごくいっぱい伝わってきたよ。これまで感じたことのない気持ちが多すぎて、ちょっと驚いたり、辛かったりもしたけれど……。でも、今は大丈夫。それに、多くの感情が流れ込んできたことによって、ほんのわずかな時間のうちに、いろいろなことを知ることができたの。
ここにいるみんなの気持ちはとても嬉しいよ。けれど、やっぱり、わたしはまだここにいてはいけないんだと思う。今のわたしにとって、人間の感情は複雑で強すぎるから。だからわたしは、今のわたしが本来いるべきところに行こうと思うんだ」
アルフォンス:
「行くって、安息の地にだよな? けど、どうやって行くつもりなんだ?」
GM:
そう問われると、クレアはフラフラと立ち上がり、そして、両腕を大きく左右に伸ばしました。
次の瞬間、クレアの背中から竜の翼が広がり、最初は黒かったその翼の色が、先端のほうから金色に染まっていきます。それと同時に、クレアの髪や肌も、以前のような澄んだ金色の髪と透き通るような白い肌へと変化していきました。
こうして、かつての姿を取り戻した彼女は、心なしか以前より少し大人びて見えます。
クレア(GM):
「大丈夫だよ。もう竜の姿をとることができるようになったから……。この翼があれば、ひとりでも飛んで行けるから……」
一同:
「……」
フェルナンド:
「本当にそれがお前の望みなのか?」
クレア(GM):
「本当のことを言えば、みんなと離れ離れになるのは寂しいよ。でも、それは未来のためだもの……。いまはちょっと悲しいけれど、いつかきっと、みんなのいるところに戻ってくるよ。だって、そうでしょう? わたしの住むべきところは、お母さんのいたところなんだもの」
エリオット:
お母さんのいたところ……。つまり、クレメンタインが住んでいたあの山ってことだね。
クレア(GM):
「だから、それまで待っていてくれる?」
フェルナンド:
「……わかった」
メイジー:
「うん。ずっと待ってる」
アルフォンス:
「まあ、あれだ。そうはいっても、寂しさや悲しさに負けそうになったら、いつでもママのところに会いに来いよ」
本当はパパに会いに来いって言いたいところなんだけどな(笑)。
GM:
では、クレアは微笑んで、こう返します。
クレア(GM):
「アルフォンスが本当に言いたいこと、わたしにはわかってるよ」
一同:
(笑)
クレア(GM):
「短いあいだだったけれど、いろんなことを教えてくれてありがとう。みんなのことは絶対に忘れないからね。それと、みんながなにを願っていたのかも、忘れないから……。それじゃ、わたし行くね……」
メイジー:
「え? もう行っちゃうの? 忘れ物とかない? ご飯とか持って行かなくて大丈夫?」
クレア(GM):
「大丈夫。もう、いっぱい……いっぱいもらったから」
メイジー:
「うん……うん……」
クレア(GM):
「それじゃ、みんな……さようなら!」
GM:
そう言うと、クレアは金色の翼を大きく羽ばたかせて、一気に上空へと舞い上がります。
天に舞ったクレアはひと際まばゆい光を放つと、次の瞬間にはその姿を完全なる金竜へと変貌させていました。それは、彼女の産みの親であるクレメンタインによく似た姿です。
そして、その美しい金竜は、上空を数度旋回したのちに、まだ夜が明けぬ星空を一路南へと飛び去っていったのでした。
GM:
こうして、魔女スカーレットの企ては挫かれ、ウォーラム男爵領から立ち上ろうとしていた内乱の炎は、多くの者の目に触れることなく、人知れず鎮火されたのでした。
その後、ウォーラム男爵は、城塞騎士たちの強い意向もあり、その地位を追われることなく、あらためて領主としての道を歩むことになりました。そのかたわらには、きっとイハーサの姿もあることでしょう。
おおやけの場で罪に問われることのなかったウォーラム男爵ではありましたが、彼が贖罪の念を強く抱いていることを城塞騎士たちは十分に理解していましたし、城塞騎士たちもまた、これまで自分たちが男爵の支えとなれずにいたことを深く反省していました。かつては、自分の置かれた境遇に絶望し、孤独のうちに道を違えてしまったウォーラム男爵ですが、今度こそ領民たちと手を取りあい、本物の領主としてウォーラム男爵領を統治していくことでしょう。
そしてこの年の冬、レイフィールド王国が他国との軍事同盟を成立させたことにより、ギルモア王国はさらなる戦争の継続を断念せざるを得なくなり、二国間の戦争は終息を迎えることとなります。
結果論ではありますが、もしこの機に国内で内乱の旗が翻っていたのであれば、ギルモア王国は早々に地図上からその名を消していたのかもしれません。そういった意味では、一介の村人に過ぎない若者たちがウォーラム男爵と対峙して成し遂げたことは、極めて大きなことだったと言えるでしょう。
GM:
――ということで、ここからはそれぞれのプレイヤーの方に、個別のエピローグを語ってもらおうと思います。さすがに、イハーサがトリを務めるというのもなんなので、まずはイハーサからお願いします。
イハーサ:
そうだな……。ウォーラム男爵って、威厳を保つってこともあるんだろうけど、下町を見に行くくらいまでなら砕けてくれるかな?
GM:
オッケーですよ。ウォーラム男爵はもともと下層民の生まれで、剣一本だけでのし上がっていった人なので、そういうところにも抵抗なく足を運んでくれます。
イハーサ:
じゃあ、男爵を連れて下町をぶらついているシーンってことで。
「さあ、男爵。この店のメシがまた美味いんですよ。ほら、入りましょう!」
ウォーラム男爵(GM):
「ほう。こういうところに食いに来るのは久しいな」
イハーサ:
「マスター、いつものやつをふたつ頼む!」って言って、男爵と一緒に飯屋に入っていったってところで締める。
エリオット:
なんだか、遊び人のエルさんって感じだね。
一同:
(笑)
GM:
さて、次はだれがいきますか?
アルフォンス:
じゃあ、次はオレがいく。シーンはサットン村の自宅ってことで。
両親を前に「ジジイ、ババア」と言いかけて、「オヤジ、オフクロ」と言い直した(笑)。
アルフォンスの父親(GM):
「なんでぇ、気持ちワリィ。いつもどおり、ジジイ、ババアって言わねぇか!」
アルフォンス:
「あ、ああ(苦笑)。んじゃ、ジジイ、ババア。行ってくる」
そう言うオレの格好は旅支度を済ませた状態なんだが、以前と違ってそこそこ立派な甲冑を身に着けていて、その甲冑には黒い獅子の紋章がつけられている。つまり、城塞騎士としてウォーラム男爵のもとで働くことになったということで。
アルフォンスの父親(GM):
「おうよ、立派に勤めてこい!」
アルフォンス:
「あったりめぇよ! 城塞騎士だって、オレにとっちゃまだまだほんの足掛かりさ。なんせ、目指すは王国一、いや、世界一の騎士なんだからな! ……んじゃ、ジジイ、ババア、いままで世話んなったな」
アルフォンスの父親(GM):
「バカ野郎ッ! テメェ、なに今生の別れみてぇなこと言ってやがんだ!」
アルフォンス:
「ははっ。まあ、そんなに寂しがんなよ。たまには遊びに帰ってくるって」
アルフォンスの父親(GM):
「都合のいいように勘違いしてんじゃねぇ! 稼いだ金はしっかりうちに入れやがれって言ってんだ! オメェをそこまで育てるのに、いったい幾ら費やしたと思ってんだ!」
アルフォンス:
「ゲッ、マジかよ(笑)!?」
一同:
(笑)
アルフォンスの父親(GM):
「だいいち、テメェがいなくなっちまったら、畑仕事する人手が足りなくなっちまうんだぞ! こっちの苦労も考えてみやがれ!」
アルフォンス:
「わ、わかったよ……」
アルフォンスの父親(GM):
「まあ、オメェのことをどやしつけるのもこれが最後だ。わかったんだったら、さっさと行ってこい!」
アルフォンス:
「……ああ。元気で暮らしてくれよ」
そうやって別れの挨拶を済ますと、家族に背中を向けて馬にまたがり、城郭都市へと向かい始める。
で、そんなオレには、あの事件以来ひとつ癖ができてる。それは、ときおり南の空をジッと眺めるってことだ。だから、このときもしばらく南の空を眺めてから、ゆっくりと視線を戻して馬を走らせた。
――ってところで終了。
GM:
では、続けて3番手の方どうぞ。
メイジー:
じゃあ、ワタシは、竜となったクレアが本心からここで暮らしたいと思えるような、憎しみとかの負の感情ができるだけ少ない場所をつくってあげたいという思いから、アルフォンスの背中を追って城勤めすることにします。で、夜間、城の警備をしているところで、たまたまアルフォンスと時間が重なって、なんで城塞騎士になったんだとか言われたりしてるの(笑)。
アルフォンス:
「んだよ、メイジー。なんでオメェがここにいんだよ?」
メイジー:
「ワタシだって、自分なりにいろいろ考えたうえでこうしてるんだからいいでしょ! ね、先輩!」とか言って喧々諤々やりあいつつ――
アルフォンス:
ふとしたタイミングで、ふたりそろって南の空を見上げたりするわけだな。
メイジー:
そう、そんな感じで終わりにしておきます。
GM:
さて、それではトリ前です。
フェルナンド:
じゃあ、あの事件から4年後。20歳になった俺は、船旅を終えてとある港町に降り立った。
「ここがレイフィールド王国か……。ここに奴の手がかりがあればいいが……」
イハーサ:
おお! スケール広げてきたな。
フェルナンド:
「しかし、レイモンド様に世界を見ろと言われたが、旅というのは思っていた以上に楽しいものだな」
そんなことを呟きながら酒場のようなところに入っていくと、その店の主人に対して「赤い髪の魔女についてなにか知らないか?」と聞き込みを開始した。スカーレットのことを追って、世界中を旅しているってことで。
以上。
GM:
それでは、最後。トリをお願いします。
エリオット:
ボクは5年後のサットン村ってことで。
山の斜面に、牧羊犬を使ってカランカランと音の鳴る鈴をつけた羊を飼っている青年の姿がある。
「あまりそっちに行かせちゃダメだよ」と犬に命じつつ、ときおり吹く風の中に、なにか懐かしい匂いというか思い出のようなものを感じて、南の空を見上げた。
そして、「今日もこの村は平和だよ。これも、君が与えてくれたものなんだよね、クレア」と誰にともなく呟くと、ふたたび羊たちの面倒をみる作業へと戻っていった。
「ほらほら、そっちに行っちゃダメだって言ってるだろ……」
GM:
では、南の空を見上げたエリオットは、その際にきらりと輝く光を目にしたような気がしたのですが、もう一度そちらに目を向けてみたときにはその光は見えなくなっていました。
――という描写を付け加えておきます。
GM:
さて、キャラクターごとの個別エピローグを披露してもらったわけですが、見事トゥルーエンディングに到達することができたあなたたちには、さらにおまけエピローグがつきます。
時間軸としては一番未来の話となったエリオットのシーンの直後となります。
GM:
あの事件から5年、領主と騎士たちとが一丸となって力を尽くしたことにより、城郭都市ウォーラムはすっかり活気を取り戻していました。目抜き通りには多くの露店が所せましと並び、往来する買い物客であふれ、明るい声が響き渡っています。
そのような人ごみの中を、ずいぶんと汚れた衣服を身にまとった旅人がひとり、城に向かって歩いていきました。そして、その人物はそのままウォーラム城を訪れると、その身なりにもかかわらずなぜか男爵との謁見を許されたのでした。
それから数日後、あなたたちのもとにとある書簡が届くことになります。それは、ウォーラム男爵の名で送られてきたものでした。
その手紙に目を通してみると、そこには次のようなことが書かれていました。
「今、君たちの古い友人を客人として城に迎えている。その者が君たちにとても会いたがっているのだが、よければ城まで足を運んではもらえないだろうか?」
GM:
一方そのころ、はるか遠く離れた場所にて――。
雲ひとつない青空の下、草原の中にひとりたたずむ金色の髪の娘が、このようなことを呟きました。
金色の髪の娘(GM):
「あなたたちの願い、ちゃんと叶えたからね」
GM:
その娘が胸に抱いた温かな感情が、フェルナンド、メイジー、アルフォンス、エリオット、それぞれの心の中にも流れ込んできます。どうやら、彼女との繋がりは、いまだあなたたちの中にしっかりと息づいているようでした。
GM:
――といったところで、『輝くもの天より墜ち』のセッションを終了します。お疲れさまでした。
一同:
お疲れさまでした!
(拍手)