LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第1話(04)

GM:
 場面は変わりまして、アゼルのシーンに移ります。
 そういえば、アゼルは恐れ多くも“賢王”と呼ばれた3代目国王と同じ名前なんですね。故人となった英雄の名前をいただくことは多くあることですが、国王が存命中に同じ名前をつけるのはレアケースです。

アゼル:
 まあ、たまたま被っただけなんだけどな。

GM:
 アゼル王の名前はキャラクター作成以前から出ていたんですし、変えればよかったのに(笑)。
 それでは、城塞都市イスパルタからほんの少し南東に外れたところにある農地のひとつに舞台を移します。そこは、カーティス王国家臣の末席に名を連ねる弱小氏族であるクルト族が管轄する猫の額ばかりの土地です。ちょっとした木の上に登れば、管轄地を全貌できてしまいますね。

アゼル:
 その土地はイスパルタからどれくらい離れてる?

GM:
 徒歩で片道1時間かからないくらいです。土地を手放して市内に入ったほうが良いんじゃないかってくらいに近いですよ。先祖代々の土地ですから、できれば手放したくないのでしょうけど、クルト族の名を受け継いでいる人間はアゼルを含めてもう4人しか残されていないので、土地を手放すのも時間の問題でしょう。
 シーンを進める前に、クルトの姓を持つ人たちについて簡単な説明を入れておきますね。

人物紹介・ジャフェル(GM):
 まず、当主のジャフェルは温和で優しい反面、押しの弱い人物です。
 彼は4人兄妹の三男坊として産まれましたが、2人の兄が平定戦争において戦死したためにクルト本家当主の座を継ぐこととなりました。
 戦後、各氏族長の嫡男は国の将来を担う指導者としての教育を受けるという名目で王都カドゥンに集められ、実質的な人質としての暮らしを余儀なくされることとなったのですが、ジャフェルはその生活の間にナターリアと出会い、帰郷の際に妻として連れ帰っています。

人物紹介・ナターリア(GM):
 ジャフェルの妻であるナターリアはしっかり者で、若干ジャフェルを尻に敷いている押しの強い女性です。
 彼女は王都カドゥンに店を構える商家の長女として産まれました。歳の離れた弟と妹がいるそうです。
 王都を訪れていたジャフェルと恋仲になり、彼が家督を継いで故郷に戻る際に、親の反対を押し切って夫婦となった経緯があります。以来、20年間実家に帰っていませんが、手紙のやり取りは定期的に行っているようなので、絶縁状態というわけではないようです。
 このところ、娘であるニルフェルの良縁を探して奔走しています。

人物紹介・ニルフェル(GM):
 ジャフェルとナターリアの娘であるニルフェルは現在16歳で、今年の夏を迎えると17歳になります。
 表面上はおしとやかに振舞っていますが、母親の血を色濃く受け継いだのか芯が強く、一度こうと決めるとテコでも動かない性格の持ち主です。
 人並み以上の容姿であり、一般市民の娘に比べると身綺麗にしているので、美人と評しても差し支えないでしょう。

アゼル:
 魅力で15を振ったからなッ(ドヤ顔)!

GM:
 そうですね(笑)。ニルフェルの外見はアゼルにサイコロを振って決めてもらっています。魅力は《4D》(サイコロを4つ振って出た目を足した値)で決めているので、15というのは平均より少し上です。
 そんな3人に囲まれて、ジャフェルの甥にあたる青年アゼルは静かな日々を過ごしていました。アゼルの母がジャフェルの妹ということですね。アゼルは両親が他界してからというもの、家族の一員としてジャフェルの家に迎え入れられています。
 そのアゼルが今どこにいるかというと――クルト族の管轄地内に暮らしている傭兵ジャナンの家の直ぐそばで、ジャナンに剣の稽古をつけてもらっているところからスタートしましょう。時間は昼前です。

アゼル:
 アゼルはわりとガッチリした身体つきで、それに見合うようなゴツイ顔つきをしている。たとえるならシュワルツェネッガーみたいな感じだな。ただ、ゴツイ割には人のよさそうな顔ではある。
 今、そばにいるのはジャナンだけ?

GM:
 あなたのそばにはジャナンだけでなく、ジャナンの息子であるセルダルという青年が居ます。ジャナンの号令の下であなたとセルダルが剣の素振りをしているところですね。

ジャナン(GM):
「腰が引けてきているぞッ! もっと手首を利かせろッ!」
 髪が全体的に白くなったくらいの中年の男が、威勢の良い声を響かせています。

アゼル:
「はいッ! ふんッ! ふんッ! ふんッ! どりゃーッ!」って感じで剣を振ってる。大きな体型と比べると少し小ぶりな片手剣を振り回している。
 ちなみに師匠の年齢は?

GM:
 息子のセルダルがあなたと同じく19歳なので、その父親であるジャナンは40代半ばですね。
 若かりしころのジャナンは、戦争で武勲を挙げることを夢見て剣の腕前を磨いていたんでしょう。しかし、彼が戦場に出て間もなく戦争は終わってしまい、その後は平和な治世が続いたため、剣の腕前を発揮する機会を得られずに今まで過ごしてきました。今は不定期に募集の掛かるイスパルタ市街警備の手伝いをすることで口に糊しているようです。
 そんな彼が、自分の磨いてきた剣の技を次の世代に伝えようと、こうやってあなたとセルダルに剣の稽古をつけているわけです。

セルダル(GM):
 アゼルの隣で剣を振るうセルダルは、結構よい身体付きをしていますが、それでもアゼルよりは線が細いです。ただ、片手剣を振るうアゼルに対して、セルダルは両手剣を使っています。
 セルダルはアゼルを横目に見ると、独特のなまりのある言葉で「アゼル、剣の振りが鈍くなってんぜ? そんな軽りぃ剣を使ってるわりにゃ、だらしねぇなぁ」と冷やかしました。

アゼル:
「負けられないな!」と言って、剣を振る速度を上げる。

ジャナン(GM):
「休憩の前にあと50回いくぞッ! 1! 2! 3! 4!」

アゼル:
「まだまだッ!」

GM:
 そうやって剣を振っているアゼルの視界の端に、あなたたちのほうへと近づいてくる人影がチラリと入りました。スカートをはいた女性のシルエットで、背の中ほどまで伸びた褐色の髪が風にそよいでいます。それはアゼルの従兄妹にあたるニルフェルでした。アゼルが剣の稽古をしている日には、彼女が欠かさずこうやって昼前にお弁当を届けてくれています。

アゼル:
 朴念仁のアゼルは特に気にかける素振りも見せず、剣を振り続けている。

ニルフェル(GM):
 近くまで歩いてきたニルフェルは、アゼルたちの直ぐそばまで来ると「お疲れさまです」と声をかけてきました。彼女の腕にはバスケットが提げられています。

アゼル:
 声に反応してチラリとニルフェルを見るが、再び何事もなかったかのように剣を振る。

セルダル(GM):
 それでは、そんなアゼルを尻目にセルダルは剣を止めます。そして、「ニルフェルちゃん、いらっしゃい、いらっしゃい!」と口にしながら、思いっきり愛想を振りまく感じでニルフェルのほうへ歩み寄ろうとしました。

ジャナン(GM):
 そんなセルダルに対して、ジャナンの叱責が飛びます。
「こらッ! 誰が勝手に休んでいいと言ったッ!? お前は素振りをあと20回追加だッ!」

セルダル(GM):
「ええぇッ!?」

アゼル:
(横目にセルダルを見て)「ふふんっ」
 さて、俺のほうはそろそろ剣を振り終えるだろうか?

GM:
 はい。アゼルは素振りを20回追加されたセルダルより先に剣を振り終えました。

アゼル:
 じゃあ、セルダルに対して「はんっ」と鼻で笑ってからニルフェルのほうに身体を向けた。

GM:
 さて……アゼルはニルフェルになんて呼ばれてることにしましょうか? 好きな呼ばれ方を指定して良いですよ(笑)。お兄ちゃん? アニキ? 兄上様?

アゼル:
 やっぱり、「アゼル」かな? いや、待てよ、ニルフェルは俺より3歳年下なのか……。ん~。ちょっと待ってくれ。どうしようかな……?(長考)

GM:
(しばらく待ったものの、決まりそうにないので)え~。なかなか決まらないようなので、こちらで決定します(苦笑)。無難なところでこうしましょう――

ニルフェル(GM):
「アゼル兄さん、お疲れさま」そう言って、ニルフェルはアゼルに手ぬぐいを差し出しました。

アゼル:
「おう、ありがとう」
 手ぬぐいを受け取って汗を拭い始める。

ニルフェル(GM):
 アゼルが一息ついたのを確認すると、ニルフェルは持っていたバスケットの蓋を開けてアゼルにその中身を見せます。
「こっちは、いつものお昼用のお弁当ね。それと――」続けて彼女はバスケットの奥から布で包んだ小さな袋を取り出すと、「今日はパイ菓子を焼いてきてみたの。疲れたときには甘いものが食べたくなるでしょう?」と言ってほほえみました。

アゼル:
「おっ、こいつは美味そうだ! お前の菓子作りの腕前はたいしたもんだな」

ニルフェル(GM):
 アゼルに褒められたニルフェルは一瞬顔をほころばせたのですが、その表情はすぐに掻き消えてしまい、「でも、蜂蜜シロップを切らしちゃったの……。それがあったらもっと美味しいのに。贅沢は言ってられないけど、ちょっと残念」と言って、今度は頬を膨らまします。

アゼル:
「そうか。それは残念だな」
 アゼルはゴツイ顔をしてるが、実は甘いものに目がない。

セルダル(GM):
 2人がそんな話をしていると、ようやく剣を振り終わったセルダルが肩で大きく息をしながら近づいてきました。
「ハァ、ハァ、ハァ……。お、お疲れ……」

アゼル:
「どうした? 随分と疲れたようだな?」

セルダル(GM):
「ハァ、ハァ……そりゃあ、お前よか重い剣を20回も多く振ったんだからな。ぬるい稽古してるお前と比べるなよ」

アゼル:
「なにをッ! 俺だってッ!」
 少し離れて再び剣を振り出した。

セルダル(GM):
 剣を振るアゼルをよそに、セルダルはニルフェルの持っているバスケットへと顔を近づけると、大きく鼻から息を吸い込みます。
「ほぉ~。こいつぁ、いい匂いだ。パイ菓子かぁ。ちょうど腹減ってきたとこだったんだ。これ、もらってもいいのか?」

ニルフェル(GM):
「ええ、もちろん良いですよ」

アゼル:
「……28! 29! 30! どうだ! 俺はお前より10回も多く振ってやったぞ!」

セルダル(GM):
 そんなアゼルの言葉をまったく気にかけることもなく、セルダルはパイ菓子を頬張りながらニルフェルと談話を続けています。
「ニルフェルちゃん、そういえば、この間、街で面白れぇことがあったんだけどさぁ――」

アゼル:
「おいッ! この野郎ッ! 人の話を聞けッ!」そう言ってセルダルに詰め寄る。

セルダル(GM):
 セルダルは詰め寄るアゼルのことを鬱陶しそうに手で払って、「なんだよ? オレは今ニルフェルちゃんと話してたんだぞ?」とだけ言うと、再びニルフェルのほうへと意識を戻しました。

アゼル:
「お前は……。いいから少し待て!」

セルダル(GM):
「はぁ? いったい何を待てってんだ? 意味がわかんねぇよ……。休憩に入ったのに、勝手に剣を振り出したのはお前だろ?」

アゼル:
「くそッ! それはそうなんだが……。まあいい。俺のほうが10回多く振ったからな。俺のほうが上だ!」
 アゼルはちょっと残念な男。

ニルフェル(GM):
 ニルフェルは二人のやり取りをみてクスクスと笑っています。

GM:
 こうして、ニルフェルの作ったパイ菓子を食べたり、たわいない話をしているうちに、束の間の休息時間が過ぎていきました。

ジャナン(GM):
 少し離れたところで腰を下ろして休んでいたジャナンが訓練の再開を告げます。
「よし、そろそろ休憩は終わりだ。菓子を食って少しは疲れも抜けただろう? 次は模擬戦を行う。今週は互いに3勝のイーブンだったな」

アゼル:
 セルダルに目を向ける。
「今日は負けないぞ、セルダル」

セルダル(GM):
「そりゃあ、こっちの台詞だ」

ニルフェル(GM):
「それじゃ、2人ともがんばってね」
 稽古が再開すると、ニルフェルはその場を後にしようとします。しかし、足を踏み出す前に何かを思い出したのか、くるりとアゼルのほうを振り返りました。
「そうだ。アゼル兄さん、今日の夕食はきっと鶏の包み焼きだよ。わたしがパイ菓子を焼いている隣で、お母様が下ごしらえを始めていたから」

アゼル:
「それは楽しみだ」

ニルフェル(GM):
「でしょう? お母様の作る鶏の包み焼きは本当に美味しいものね。わたしも家に戻ってお手伝しなくちゃ」そう言ってニルフェルが再び立ち去ろうとすると――

セルダル(GM):
「ニルフェルちゃん、もう行っちゃうの?」と、今度はセルダルがニルフェルのことを引き留めはじめます。
「もうちょっとだけ見ていきなよ! 模擬戦だけでいいからさ! な! な!」

ニルフェル(GM):
 すると、そんなセルダルの押しに負けて、ニルフェルは少しはにかみつつ、「それじゃ、ちょこっとだけ……」と、その場に留まりました。

セルダル(GM):
 ニルフェルを引き留めることに成功したセルダルは、いいところを見せようと気合を入れなおします。
「よしっ! アゼル、オレの本気を見せてやるぜっ!」

GM:
 さて、そのようなわけで……。(おもむろに戦闘マップを取り出し始める)

アゼル:
 えっ? まさか、本当に戦闘するのか!?

GM:
 はい。ここで簡単な戦闘を行って、戦闘処理のチュートリアルとします。アゼル以外のプレイヤーも自分が戦闘に参加するとき間違えないように、しっかり見ておいてください。




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