LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第1話(09)

GM:
 やがて日は傾きます。中央広場の人だかりの中で聖印を探していたアゼルとセルダルの2人でしたが、人だかりがまばらになってきてもなお聖印を見つけられずにいました。

アゼル:
「誰かに拾われてしまったのだろうか? 仕方ない。今日のところはひとまず帰るとするか」

セルダル(GM):
「そーだな。夕飯までに帰らねぇと、ニルフェルちゃんとの約束もあるしなぁ」

アゼル:
 肩を落として帰路についた。

GM:
 では、夜になって市門が閉じてしまう前に、2人はイスパルタの街を後にしました。
 夕刻、帰り道を歩くアゼルでしたが、その途中、クルト邸の方向から来た6頭立ての立派な馬車とすれ違うことになります。その馬車の側面には複雑な文様が描かれています。《スカラー、コマンダー、バードのいずれかの技能レベル+知力ボーナス+2D》で目標値10の名声知識の判定をしてください。判定に成功すれば、その文様の意味かわかります。

アゼル:
(コロコロ)ちょうど10。

GM:
 では、その文様が王室の使者を示すものであることがわかりました。

セルダル(GM):
「こいつはまた、ずいぶんと豪華な馬車だなぁ」

アゼル:
「あの文様は、王室の使者を乗せた馬車だ」

セルダル(GM):
「ってことは、ヤウズ王子の出した使者ってことになんのか? お前んちの方から来たみてぇだったが、なんかあったのかな?」

アゼル:
「なんだろう? うちに王室の使者がくるなんて……」

GM:
 こうして、王室の使者の乗った馬車のことを気にしつつ、2人はクルトの屋敷へと到着しました。
 屋敷の中に入ると、食器を運ぶニルフェルの姿があります。

ニルフェル(GM):
「あ。お帰りなさい! ちょうど良かった。そろそろ食事の準備が整うところだったの」

アゼル:
 肩を落として「ただいま……」と言って入ってきた。

ニルフェル(GM):
「兄さん、どうかしたの? とても疲れているみたいだけど……」

アゼル:
「実は、街に行って来たんだが、そこで母の聖印を落としてしまったんだ……。入れ物だけは親切な人が拾ってくれたんだが、中身は無くなっていてな……。今まで探してたんだが、結局見つからなかった。また明日も探しに行かないと……」

ニルフェル(GM):
「叔母様の聖印が!?」と、驚きの声を上げると共に心配そうにアゼルの顔を覗き込んだニルフェルは、「……だったら、明日はわたしも一緒に探してあげる」と続けます。

アゼル:
「すまないな。頼む」

ニルフェル(GM):
「でも……」(小声になって)「中身だけ無くなっていたってことは……もしかして落としたんじゃなくて……」

アゼル:
 アゼル本人はまったくわかってない。
「ん~。いったいどこに落としてしまったんだろう?」

シーン外のエルド:
 ステータス上の知力が高いわりにアゼルさんは馬鹿ですね(笑)。

アゼル:
「まあ、しょげていてもしょうがない。美味い飯でも食って気を晴らそう。な、セルダル」

セルダル(GM):
「ああ。オレはそれを楽しみに来たよーなもんだからな」(小声で)「あと、オレは別にしょげてねぇし……」

GM:
 2人が食堂に足を運ぶと、当主ジャフェルとその妻ナターリアがすでに席についています。その2人に、アゼル、セルダル、ニルフェルを加えた5人で晩餐を迎えることとなりました。
 テーブルの上に並べられた料理のメインを飾っているのは、ニルフェルの言葉通り、鶏の包み焼きです。それをジャフェルが慣れた手つきで切り分けてくれました。
 こうして食事が始まると、その席ではいろいろな談話が交わされます。

ニルフェル(GM):
「ねえ、兄さん。さっき、街に行ってたって話していたけれど、落し物をしたほかに何か変わったことはなかった?」

アゼル:
「そうだ!」と思い出して、立て看板の話をする。
「ちょうど聖印を落としてしまったところで、100人くらいの人だかりができてたんだが、そこにヤウズ新王の直属兵を募る看板がでていた」

ジャフェル(GM):
「ほう。そんな立て看板がでてたのか。正規兵から適当な人材を選び出すのではなく新たに公募するとは、珍しいこともあったものだ」

セルダル(GM):
 王直属部隊の話になると、セルダルが身を乗り出します。
「そーなんスよ! すげぇんスから! こいつにのらない手はないでしょ!?」(興奮気味に机を叩いて)「オヤジが帰ってきたら、早速話つけねぇとな。まぁ、仮にオヤジが反対したとしても、もーオレを止められるもんはなんにもねぇけどな!」

アゼル:
「うーん」
 たしかに魅力的だとは思うが、何か吹っ切れない感じで唸っている。

ナターリア(GM):
 それまで黙って話を聞いていたナターリアが、食事の手を止めてジャフェルに声をかけました。
「あなた。あなたからもお話することがあるでしょう?」

ジャフェル(GM):
 ナターリアの促しに、ジャフェルはぎこちなくうなずきます。
「そ、そうだな。私の方からも、1つ伝えなくてはならないことがある」そう言って、ニルフェルの方に目を向けました。
(小さく咳払いをしてから)
「ニルフェル――」

ニルフェル(GM):
「なんですか、お父様?」

ジャフェル(GM):
「先ほどまで、私のところに王室から遣わされた使者の方がみえていた」

アゼル:
「ああ、あの馬車か……。あれは何だったんですか?」

ジャフェル(GM):
「実は、ヤウズ王子の即位に伴って、新王の妻を募ることとなったそうだ。対象となるのは100人近くいる氏族長の実娘で、その中から正室と側室をあわせて5人程度選ぶそうだ。お世継ぎ作りが急務なのだろう。ご丁寧なことに使者の方は元気な赤子を宿せる健康な娘が優先的に選ばれるだろうと話されていたよ」
(いったん、言葉をとめると、少し強調して)「だが、強制ではない。お前が望まないのであれば、この募集に応じないこともできるが――」

アゼル:
 固唾を呑んでニルフェルを見つめ――

ニルフェル(GM):
 ニルフェルは間髪いれずに、「はい! もちろん応じます! そんな良いお話があるのでしたら、ぜひ!」と答えました。

アゼル:
 おおっ!? そうなのか……。まあ、本人が良いのであれば……。

GM:
 ここでヤウズ王子に関する名声知識の判定をしてもらいましょう。目標値は10・12・14の3段階で、達成値が高ければそれだけ詳しい情報を得られます。

アゼル:
(コロコロ)11。

GM:
 では、次のことがわかりました。ヤウズ王子は当年とって37歳です。すでに2回結婚しており、2人の妻とは子供をもうける前に死別しています。

アゼル:
 この世界では年齢差のある結婚については、どのように考えられているんだ? 16歳は若すぎるって考えないか? それとも、この世界だと16歳で成人扱いだから問題ないのか?

GM:
 年齢差のある結婚については、現実とさして変わりないと思っていいですよ。20歳差や30歳差の結婚も稀にではありますがあります。
 今回の話では出産に適した年齢であることが求められているようなので、あまりにも幼い娘や、適齢期を過ぎてしまった女性などは対象とならないでしょうが、16歳であれば立派な成人女性として扱われます。登場人物の紹介でも触れましたが、すでにナターリアがニルフェルの嫁ぎ先を探していた状態でしたので、結婚が早すぎるということはありません。

アゼル:
 じゃあ、驚いてはいるが、口は挟まないだろう。

ジャフェル(GM):
 ジャフェルは、ニルフェルが即答したことであっけに取られながらも、「だが……ヤウズ王子は国内では並ぶ者がいないほどの高い知性をお持ちだと聞く。そのヤウズ王子のお眼鏡にかなうためには、相当な教養がなくては難しいだろう……」と言うのですが、その言葉は暗にこの話を断って欲しいと言ってるように聞こえます。

ニルフェル(GM):
「たしかに、とても難しいことなのかもしれません。ですが、お父様。もし正室に――いえ、側室にでもなることができれば、クルト氏族の復権も叶うのではありませんか?」
 ニルフェルはあらためて姿勢を正すと、真剣な眼差しをジャフェルに向けます。
「仮にこのようなお話がなかったとしても、いずれわたしは氏族のために嫁ぐ心積もりでいました。そうせずにお父様やお母様が不幸になるとしたら、それはわたしにとっても不幸なことです。ならば、これほど良いお話は他にはないと思いませんか?」

アゼル:
 さらに驚いた顔でニルフェルを見る。そうか、こんなに大人になっていたんだな……と。

ニルフェル(GM):
「それに、わたし自身も、前々からお母様の産まれ故郷である王都に行ってみたいと思っていたんです」そう言ってニルフェルはほほえみます。

ジャフェル(GM):
「しかし、募集に応じたとしても、選ばれるとは限らぬからなぁ……。もちろん、私はお前が器量良しで利発な娘であることを知っているが、あちらがどう見るかはまた別の話だ。もし、選ばれなければ、王都へ行くのも無駄足だったということになってしまう。あわてて答えを出さずに、よく考えたほうが良いのではないか?」

ナターリア(GM):
 ニルフェルの言葉に難色を示すジャフェルに対して、2人の会話の成り行きを見守っていたナターリアがハッキリとした声でこう言います。
「あなた。ニルフェル本人がこのように言っているのです。その背中を押してあげるならまだしも、後ろ髪を引くようなことを口にするというのは、親としてどうなんですか? このお話、わたくしは賛成ですよ」

アゼル:
「俺も……本人がそうしたいと言うのであれば……良いんじゃないかと……」

ジャフェル(GM):
 ナターリアの言葉にたじろいだジャフェルは、さらに追従したアゼルに対して、お前もか!といった視線を向けました。
 私の娘がぁ。手塩にかけた娘がぁ。新王とはいえ、20歳以上も年の離れたバツ2のおっさんに嫁入りなどとは……(泣)。

アゼル:
 俺の想定では、ニルフェル本人の意志を無視して伯父さんが嫁入りを推し進めると思ってたんだけどな。で、それに反対するつもりだったのに……。

GM:
 ジャフェルがそんな打算的に行動できる人物だったら、クルト氏族がここまで落ちぶれることもなかったと思いますけどね(苦笑)。

ジャフェル(GM):
 ニルフェルとナターリア、そしてアゼルまでもが嫁入りに賛成したことで、立つ瀬を失くしたジャフェルは押し黙ってしまいました。

ナターリア(GM):
「ニルフェル。たしかにお父様が言われたように、今のあなたでは正室はおろか側室に選ばれることも難しいでしょう。わたくしはこれまであなたにできる限りの教育を施してきたつもりですが、残念ながら、それは王宮に入るための教育ではありません。そして、わたくしにはこれ以上の教育をしてあげるだけの知識がありません」
 そこでナターリアは申し訳なさそうに一度目を落としてから、再び顔を上げます。
「もしあなたが本当にヤウズ王子のもとへ嫁ぐことを望むのでしたら、それ相応の教育を受ける必要があるでしょう。幸いなことに、わたくしの父の古くからの友人に宮廷仕えの家庭教師をなさっていた方がいます。すでにお役目を終えて隠居なさっているとのことでしたから、父からお願いしてもらえばご指導いただけるかもしれません」

ニルフェル(GM):
「ぜひお願いします!」

ジャフェル(GM):
「いや、そうは言っても、そのような方の指導に対する礼金を安く済ますわけにも行かないだろう? それに、その方が王都に居るのであれば、王都まで行く旅費も馬鹿にはならないぞ。護衛だって雇わなければならんだろうし」

 セッション中には明らかになっていませんでしたが、本来であれば数ヶ月後に后候補を迎える王の使節団が王都まで送迎してくれることになっています。しかし、今回のように自己都合で王都へ向かうというのであれば、その旅費は自腹を切って出すしかありません。

ナターリア(GM):
「心配にはおよびません。わたくしのドレスや家財道具を売りに出せば、それくらいは賄えるはずです」

アゼル:
「ニルフェルが王都で教育を受けたいというなら、俺が護衛として送り届けよう」(セルダルの方を見て)「……そういえば、セルダル。お前、王直属部隊に志願するんだよな? 一緒に王都に行くか!」

セルダル(GM):
 セルダルは言いようのない表情をしています。
(小声で)「ニルフェルちゃんが……。あのニルフェルちゃんがなぁ……。残念だなぁ……」

アゼル:
 セルダルの気持ちを察することもなく、肩をバンバンと叩いた。

セルダル(GM):
「畜生ッ!」(大きな声で)「お父さん! お母さん! 先ほど話した通り、オレたちは王直属部隊に志願するために王都に向かうつもりです! だから、オレたちが必ずニルフェルを王都まで送り届けますよ! なっ、アゼル!」そう言って、アゼルと肩を組みました。

アゼル:
「え? あ? お?」

ナターリア(GM):
「2人がついて行ってくれるというのであれば、心強いですね」

ジャフェル(GM):
「お前たちに任せても良いのか?」

アゼル:
「はい……? え? うーん……」(しばらく言葉を詰まらせてから)「任せてください!」
 俺は王直属部隊に志願するつもりじゃないんだけど……。変な風に勘違いされてないか?

ジャフェル(GM):
「たいしたことはしてやれないが、せめて、うちにある物で旅路に必要なものがあれば持っていくといい」

ナターリア(GM):
「では、早速お父様の方へも伝書鳩を飛ばしておきます。3日もあれば返事をもらえるでしょう。それとあなたたちに持たせる書簡も準備しておきますね」

ジャフェル(GM):
「いつごろ出発するつもりだ? 来月か再来月くらいか? 旅支度を整えるのにも時間がかかるだろう?」
 少しそわそわしています。

アゼル:
「いつここを立てるかはわかりませんが、思い立ったが吉日とも言いますし、早速明日から旅支度を始め、すべての準備が整い次第出発します」

シーン外のエルド:
 てっきり明日旅立つのかと思いました。早くしてもらわないと、宿代がかかって仕方ないのですけど(笑)。

アゼル:
 いや、さすがに明日旅立つのは無理だろ。王都側からの返事を待たなきゃならないし、師匠にだって挨拶しに行かないと……。

シーン外のイーサ:
 おい、聖印のことを忘れてないか? お前にとって母親の形見はそれっぽっちの価値だったのか?

アゼル:
 しまった。聖印のことをすっかり忘れていた(笑)。

ジャフェル(GM):
「お前たち2人がついているとは言っても、それだけでは心配だ。旅路はできるだけ隊商と同行するのが良いだろう」

セルダル(GM):
「どのみち、旅道具の買出しで街に行かなくちゃなんねぇしな。そんときに隊商の日程も確認してこようぜ」

アゼル:
「そうだな」

GM:
 こうして、ニルフェルが王都へ旅立つこととなり、アゼルとセルダルがその護衛役として同行するということが決まりました。その後、それぞれの思いを胸にして言葉少なに家族団欒の晩餐を終えると、その日の夜は更けていきます。




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