LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第1話(11)

GM:
 イーサとアルが朝の軽食を終えようかというころ、街には2人の若者の姿がありました。昨日失くした聖印を探すために、朝一で街に繰り出していたアゼルとセルダルです。ニルフェルも同行する約束でしたが、彼女は自分自身の旅支度を整えなくてはならなくなったため、屋敷に残ることになりました。

アゼル:
 さて、どうするかな。こういう都市には官憲の詰め所とかあるんだろうか? まずはそういうところに行って、落し物が届いていないか確認する。

GM:
 イスパルタでは、城塞騎士団のほかに自警団が組織されています。落し物が届いているとしたら自警団のほうですね。
 では、あなたたち2人は自警団の詰め所を訪れました。そうすると……ちょうどジャナンが昨晩の巡回警備に当たっていたんですよね。詰め所には徹夜明けで疲れた様子のジャナンの姿があります。

アゼル:
「師匠! お疲れさまです」

セルダル(GM):
「おう、オヤジ! 随分とお疲れだな」

ジャナン(GM):
「お前ら、こんなところに来ていったいどうしたんだ? それに、セルダル。お前、怪我はどうした?」

アゼル:
 いろいろありすぎて、どこから話していいものか……。

セルダル(GM):
「それがな、アゼルのくれた魔法の薬で、怪我はあっとゆー間に治っちまったんだ――」

ジャナン(GM):
 ジャナンは驚いた様子でセルダルの説明を聞いています。

セルダル(GM):
「――で、王直属部隊新設の立て看板みたんだけどよ、オレ、あれに志願するわ!」

ジャナン(GM):
「そうか……」
 セルダルの話を一通り聞いたジャナンは深くうなずきました。
「お前たちも、そろそろ独り立ちしないといかん頃合いだったからな。いい機会だ。これまで磨いてきた力と技を、思う存分試してくるといい。お前たちの腕前は、稽古レベルではもう十二分に磨かれている。あとは実戦を経験することで、それは更なる高みへと昇華されるだろう。稽古を続けているだけではたどり着けないところへな……」

 本来LOSTでは経験点を稼いだだけではレベルアップできず、一定の時間を費やして修行を行う必要があります。しかし、今回のキャンペーンは限られた期間の旅の話であり、レベルアップのための修行をしている時間的余裕はありません。そこで、本キャンペーンの登場人物は各自がすでに十分な基礎訓練を積んでおり、実戦経験を積めば一定のレベルまでは修行をせずともレベルアップできる状態であるということにしています。ここでのジャナンの発言はそれを意図してのものです。

セルダル(GM):
 ジャナンからの快諾を得ると、「オヤジが果たせなかった夢を、オレが叶えてみせるからな」と力強く言ってほほえみます。
「んじゃ、行くか!」

アゼル:
 まてまてまて! それと一応、ニルフェルの件も報告しておくぞ。

ジャナン(GM):
 ではジャナンは、アゼルからニルフェルが王の后となるべく王都へ向かうことになったことを聞くと、「――そうなのか。まあ、彼女自身が決めたことでご両親も納得しているなら、それでいいんじゃないか? 王都への旅路も、お前ら2人がついていくなら、そこら辺の傭兵に護衛を頼むよりよほど安全だろう」と返してきました。

セルダル(GM):
「おうっ! 任せとけ! ってわけで、オレたちは旅の準備があるから、これで――」

アゼル:
 ちょっとまてーい! まだ、ここに来た本来の目的をはたしてないだろうが!
「それと、師匠。昨日、中央広場の立て看板が立っていたあたりで、大切な聖印を落としてしまったのですが、落し物としてここに届けられていたりしませんか?」

ジャナン(GM):
「いや、そんな届け物はなかったな」

アゼル:
「そうですかぁ……」
 がっくりと肩を落としつつ、「では、これで失礼します」と言って、トボトボと立ち去る。

ジャナン(GM):
「おい、お前ら。出発の日程が決まったら必ず報告しろよ」

アゼル:
「わかりました……」

GM:
 聖印の情報を得られぬままに自警団の詰め所から出て、街を歩きます。日が高くなり、街中は少しずつ活気づいてきました。

セルダル(GM):
「――そんで次に行く場所だが、ギルガメ亭は街の反対側だから、とりあえず先に隊商の予定を確認しに行くってことでいいか?」

アゼル:
「そうだな……」

セルダル(GM):
「いつまでもしょぼくれてんじゃねぇよ。頼むぜ、ホントに」
 セルダルは肩を落とすアゼルを見て、やれやれといった様子で首を振りました。そして、気持ちを切り替えろといわんばかりに、隊商についての簡単な説明をはじめます。
「ところで、一口に隊商って言っても、この街じゃ大きく別けて2つの隊商がある。ひとつはアスラン商会の隊商だ」

アゼル:
 アスラン商会について、俺はどれくらい知ってるんだ?

GM:
 知識系の判定ですので、《スカラー技能レベル+知力ボーナス+2D》の判定で7以上を出せば、おおやけになっている情報は知っているとしましょう。

アゼル:
(コロコロ)12。

GM:
 それならば、当然知っていますね。
 アスラン商会とは、アスランという名の元奴隷商人が一代で築き上げた大商会であり、その本部をカルカヴァンに置いています。現在は奴隷事業を縮小し、流通業や金融業を主な生業としているのですが、その資本はヤナダーグ・プラト地方に比類する者なしと言われるほどであり、経営の行き詰った中小商人を傘下に収め、その勢力をますます強大なものとしつつあります。ちまたでは、アスランの発言力はヤナダーグ・プラト総督に次ぐと評されており、それと同時に総督との癒着の噂も聞かれます。

アゼル:
 ちなみに、まじめ一辺倒なアゼルからすると、どういった印象を受けるだろう? 悪いイメージだろうか?

GM:
 手法はさておき、商売上手です。それを悪く思うかどうかはあなた次第ですよ。ちなみに、この国では奴隷売買は合法ですし、クルト族も裕福な時代には奴隷を用いていました。

アゼル:
 そうか。それじゃ、俺も奴隷売買は当たり前のこととして考えているだろう。俺は奴隷になったことないし、一応、貴族だしな。

GM:
 貴族であっても奴隷になる人は少なくないですよ。いったん戦争が始まれば、明日は我が身です。それに、あなたは貴族ではありません。

アゼル:
 そうなのか!?

 アゼルは勘違いしていたようですが、カーティス王国における貴族に相当する階級は、厳密に言えば氏族長のみが対象となります。氏族長の子供であろうと、その地位を受け継がない限り、貴族とはみなされません。また、上層民という意味であれば、氏族長のみならずその対象となりますが、残念ながらクルト族の生活ランクは中の下といったところです。

セルダル(GM):
「アスラン商会の隊商は規模がでけぇうえに私兵が護衛としてついてるからな。全部でだいたい50人規模くらいにはなる。そんだけでけぇと、野盗や猛獣に襲われる危険性はかなり減る。同行を希望すりゃ、王都まで片道1,000銀貨とか、そんくらいの金を支払えば同行させてもらえるはずだ。その代わり、道中は隊商の管理下におかれて、最低限の荷物と装備以外は全部預けることになるけどな」

アゼル:
「なるほどな。で、もうひとつの方法は?」

セルダル(GM):
「もうひとつは、商人ギルドの隊商に加わる方法だ」

GM:
 商人ギルドというのは、中小商人の中でもアスラン商会の傘下に加わっていない者たちが結成している相互扶助組織です。商人ギルドの隊商は、参加者たちがお金を出し合って護衛を雇い旅をすることになります。

セルダル(GM):
「商人ギルドの隊商は、だいたい10人から20人くれぇの規模になる。護衛を募集してっから、護衛として参加すれば金を稼ぐこともできる。もちろん、ただの同行者としての参加も可能だろうが、そんときは護衛を雇うための金を支払うことになるんだろうな」

アゼル:
「あまり家に負担をかけたくないところだし、商人ギルドのほうがいいのかもしれないな。自分たちの腕試しができるうえに、お金も稼げるわけだ」

セルダル(GM):
「規模が小さい分、危険な目にあう確率は高いけどな……」
 セルダルは十字路の真ん中で足を止めると、「さて、どっちに行く?」と言って、北と南を指差して見せました。北は街の中央、アスラン商会があるほうで、南は商人ギルドの寄り合い所があるほうです。

アゼル:
「危険を避けるという意味ではアスラン商会が勝るが、家計への負担は少しでも軽くしたい。それに俺とお前がいる」
 商人ギルドのほうを選択しよう。

セルダル(GM):
「だったら、こっちだ」そう言うと、セルダルは道を南へと進んでいきました。

GM:
 ほどなくして、2人は商人ギルドの寄り合い所に到着しました。
 寄り合い所の戸を叩いて中に入って見ると、十数人の先客の姿があります。まず目についたのは40代半ばの口髭を生やした恰幅の良い男。そして、その男と会話している20代半ばの男は革鎧を身につけています。

恰幅の良い男(GM):
 アゼルたちが入ってきたことに気がついた恰幅の良い男は、大きく手を広げながら歩み寄ってきます。
「いらっしゃい! 商人ギルドに、どういったご用かな?」

アゼル:
「王都へ向かう隊商の護衛を募集してないか?」

恰幅の良い男(GM):
「護衛での隊商参加希望者か。ちょうど今、ビューク・リマナ地方に向かう隊商を組んでいるところだが、さすがに直接王都までってのはないな」

セルダル(GM):
 アゼルの肩を叩きました。
「さすがにここから王都を目指す隊商はねぇよ。ある程度進んだら、また別の隊商を探すのさ。いくつもの隊商を乗り継いでくってわけだ」

アゼル:
 ビューク・リマナ地方か……家に地図はあるんだろうか?

GM:
 ありますよ。カーティス王国周辺地図を参照してください。

アゼル:
 ビューク・リマナ地方は西海岸か……。

恰幅の良い男(GM):
「なんだい。お前さんら、王都まで行くつもりか?」そう言って、男はアゼルとセルダルの姿をじっくりと見ます。

アゼル:
「ああ。王都に用事があるんだ。ビューク・リマナ地方までで良いから護衛として雇ってもらえないか?」

恰幅の良い男(GM):
「そうか。そういうことなら……」そう口にすると、男は革鎧の人物のほうを振り返ります。
「アル! 早速、護衛の希望者が来たぞ」

アル(GM):
「そうか。そいつは助かる。護衛がひとりだけじゃ形にならないからな」アルと呼ばれた男はそう言って近づいてくると、アゼルとセルダルのことを値踏みするように見ました。
「2人ともなかなかいいガタイしてるな。お前ら、腕前はどれくらいだ? 傭兵稼業の経験くらいは多少あるのか?」

アゼル:
「腕利きの傭兵から訓練を受けて、かれこれ10年以上だ。腕には自信がある」

セルダル(GM):
「オレたちを、そこら辺にいる並みの連中と一緒にしてもらっちゃ困るぜ?」

アル(GM):
 2人の返答を聞いたアルは、軽い笑みを浮かべます。
「凄い自信だな。まあ、腕は並以上であればいい。それより、隊商ってのは数が多いほどいいんだ。戦うことよりも、まず襲われないことが重要だからな」

アゼル:
「なるほど……」

アル(GM):
「とりあえず、よろしく頼む。俺はアルだ」

アゼル:
「俺はアゼル。で、こっちがセルダルだ。よろしく頼む」

恰幅の良い男(GM):
「そして、ワシがこの隊商の長を務めるシシュマン・セレンギルだ。隊商は早ければ3日後に出発する計画でいる。予定じゃ、カルカヴァンを出発した隊商が今日、明日にはこっちに到着することになっててな。そのうちの往復組みと合流してからイスパルタを出発する手はずなんだ。だから、明後日までには旅支度を完了させておいてくれ。いいか?」

アゼル:
「大丈夫だ。問題ない」

シシュマン(GM):
「出発の日程がわかったらこちらから連絡を入れるが、お前さんたちはどこに寝泊りしてるんだ?」

アゼル:
「俺たちは宿ではなく、街の外にあるクルトの屋敷に住んでいるんだ」

シシュマン(GM):
「ああ、あそこか。わかった。じゃあ、連絡を取るときにはそこに人を出そう。同行するのはお前さんたち2人だけか?」

アゼル:
「護衛は俺たちだけだが、もうひとり連れがいる」

シシュマン(GM):
「そうなると、そのひとりには護衛へ支払う分の金を折半してもらうことになるんだが……お前さんらへの支払いから天引きするってことでいいか?」

アゼル:
「ああ、それで構わない」

シシュマン(GM):
「それじゃ、決まりだな」と言って、シシュマンは手を差し出します。

アゼル:
(手を握り返してから)
「では、俺たちは旅支度があるので、これで失礼する」と言って、寄り合い所を後にした。
「あとは落し物を見つけるだけだ。ギルガメ亭に行くぞ」

セルダル(GM):
「……ギルガメ亭に行くのはいいが、そこで何の情報も得らんねぇよーならいい加減諦めろよ」

アゼル:
「そのときは仕方ない……。それも運命か」




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