LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第1話(17)

GM:
 カルカヴァンからの隊商が野盗に襲撃された話を聞いて、寄り合い所に集まっていた者たちがざわつき始めます。

寄り合い所の商人(GM):
「シシュマン。野盗が出たっていうんじゃ、隊商の出発はしばらく延期したほうがいいんじゃないか? いま街を出るのは、みすみす野盗の餌食になりに行くようなもんだ……。馬に乗った20人の野盗っていうんじゃ、数人護衛をつけたところで、焼け石に水だしな」

シシュマン(GM):
「ふむ、そうだな。残念だが仕方ないか……」(声を張り上げて)「皆、聞いてくれ! 事態が事態だ。とりあえず、しばらくの間は隊商の出発を見合わせることにする。1ヶ月くらいは様子を見たほうがいいだろう。今後の方針や次の日取りが決まり次第、ワシの方からまた召集をかける。すまないが、今日のところはこれで解散だ」
 続けて、シシュマンは若い徒弟を呼び寄せると、「この場に居ない者にも、きちんと説明せねばはならん。すまんが、不在者のところまでひとっ走りして、ここに来てくれるように声をかけてきてくれ」と命じます。

GM:
 シシュマンの言葉に、ほかの商人たちも同意を示して解散しようとします。ところが――

痩せた商人(GM):
 痩せた身体つきで窪んだ目をギョロリとさせた男が、「ちょっと待ってくれッ!」と大声を張り上げました。見た目からすると、30代後半といったところでしょうか。
「1ヶ月なんて待ってられるかッ! こっちは一刻も早くクゼ・リマナに荷物を運ばなけりゃならないんだ! なんとしても隊商を出してくれ!」

GM:
カーティス王国周辺地図の西海岸を指差して)クゼ・リマナとはビューク・リマナ地方北部にある港湾都市のことです。

シシュマン(GM):
「おい、サブリ。無茶を言うな。この状況じゃ隊商を出せんことくらい、お前さんにだってわかるだろう?」

サブリ(GM):
 サブリと呼ばれた男は、今度はアルに詰め寄りました。
「金だったら通常の倍……いや、3倍出してもいい。頼む! 他の奴らが隊商に参加しないってなら、俺だけでも連れて行ってくれ!」

アル(GM):
「そう言われても、20人からの野盗が手ぐすね引いてるところに飛び込んで行くんじゃ、自殺志願するようなものだからな……」
 アルは困った顔をして頭を掻きました。

サブリ(GM):
 サブリはイーサやエルドに対しても「頼む、何とかしてくれ!」とすがりつきます。
「報酬だったら、うんと弾む! 1万……いや、2万銀貨出してもいい!」

イーサ:
「悪いが、20人の野盗を俺たちだけで対処できるとは思えない」
 さっき駆け込んできたボロボロの商人に、「襲われた隊商はどれくらいの規模だったんだ?」と聞いてみるが……。

ボロボロの商人(GM):
「俺たちの隊商は全部で19人だった。うち4人が護衛だ」

イーサ:
「護衛の腕前は?」

ボロボロの商人(GM):
「さあ、どうだろうな? ……特別弱そうにも見えなかったが……」

アル(GM):
「護衛の腕前はわからないかも知れないが、もしかすると野盗の頭の方の腕前だったらわかるかも知れない。その頭のカダって奴の鼻はひん曲がってなかったか?」

ボロボロの商人(GM):
「すまないが、記憶が混乱してて、そこまでは覚えてないんだ……」

アル(GM):
「もし、鼻曲がりのカダだったら、もともと聖域探索を生業にしてた奴だ。斥候として探索隊に参加しては、仲間の目を盗んでお宝を自分の懐の中に入れちまうような、小物で小賢しい小悪党さ。正面切ってやりあったら、まず俺が奴に不覚を取るようなことは無い。とは言っても、俺も20人を敵に回して大立ち回りをするほど自惚れちゃいないけどな」

イーサ:
 荷物を奪われるだけなら良いが、殺されるんじゃたまったもんじゃないからなぁ。

サブリ(GM):
 まだ反応を見せてないエルドにもすがりつきます。
「あんた、黒魔法使いだって言ってたよな! 黒魔法を使えば、20人そこらの野盗なんて、簡単に倒せるんじゃないのか!? 頼む! 助けてくれよ!」

エルド:
 ちょっと待ってください! 僕が黒魔法使いだって情報は、どこからこの人に漏れたんですか?

GM:
 いや、寄り合い所でアルに対してあなた自身が大っぴらに自己アピールしてたじゃないですか。黒魔法を少々、偵察もできるって……。

エルド:
 あ……そうでした(笑)。
「助けを求められても、僕ひとりでどうこうできる問題ではなさそうですからね。アルさんたちがウンと言わなければどうにも……」

サブリ(GM):
 サブリは、今にも泣きそうなほどに顔をくしゃくしゃにして、必死に頼み込みます。
「頼むよぉ……。1ヶ月以内にクゼ・リマナに荷物を届けないと、俺は破産しちまうんだ……。そうなっちまったら、店はおろか、妻と娘も借金のカタに連れて行かれちまう。頼む……頼むから何とかしてくれ!」

シシュマン(GM):
 そのサブリの言葉にシシュマンが眉をピクリと動かしました。
「お前さん、いま借金と言ったか? その金……どこから借りた?」

サブリ(GM):
 シシュマンの問いに、サブリはギクリと全身を硬直させます。そして、「そ、それは……」と言ったところで一度口ごもると、足元へと視線を落とし、「……アスラン商会から……」と小さく呟きました。

シシュマン(GM):
「……なんてこったい」
(大きくため息をついてから)
「この大馬鹿野郎が……」

エルド:
「あの……。借金の返済期限を延長してもらうことはできないんですか? こんな事態なんですし、こちらの事情を説明すれば少しくらい譲歩してもらえるのでは?」

シシュマン(GM):
「そいつは難しいだろう……。商人ギルドに所属する商人の不利益は、アスラン商会にとっての利益になる。にもかかわらず、サブリに金を貸したってことは、当のアスラン商会が野盗たちの裏で糸を引いてる可能性が高い」

エルド:
「それって……もしかして、嵌められたってことですか?」

シシュマン(GM):
「おそらくな……。サブリ……お前さん、アスラン商会からいくら借りたんだ?」

サブリ(GM):
「20万……金貨だ……。だが、すぐに返せるはずなんだ! 荷物をクゼ・リマナまで運べば!」

 金貨1枚で銀貨25枚と換金できます。すでに触れられている通り、銀貨1枚が現実の100円に相当しますので、20万金貨は現実の貨幣価値に換算すると約5億円になります。ざわ……ざわ……。

シシュマン(GM):
 シシュマンは20万金貨と聞いて目を大きく見開き、眉をしかめました。
「うまい話には裏があると思わなかったのか?」

サブリ(GM):
「店を続けるためには金が必要だったんだ……」
 サブリは力なくうなだれました。

エルド:
「さて……。イーサさんはどうするつもりですか?」

イーサ:
「俺は是が非でも急いで出発しなくちゃいけないわけでもないからな。大恩人でもない奴のために命を張るつもりはない。エルド。お前は急ぐのか?」

エルド:
「いえ。僕も特には……」
 そういえば、王都での直属兵募集に受付期限は無かったんでしたっけ?

GM:
 8月末日までです。現在は4月なので、あと4ヶ月ちょっと。道中、なんのアクシデントも無ければ、王都まで最短約1ヶ月で辿りつけます。ただし、悪天候などのアクシデントがあることを踏まえて、倍の期間を見ておいたほうが賢明でしょう。

エルド:
 ふむ……。とりあえず、ここはアゼルさんたちが来るのを待ちましょうか。




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