エルド:
「そういえば、イーサさんも魔法を使えましたよね?」
イーサ:
「ああ。白魔法が使える。あと、ちょっとだけ黒魔法も学んだ。こっちはさすがに専門家のエルドほどではないだろうが」
エルド:
「奇襲に向いているような魔法は使えませんか?」
イーサ:
俺が使えるのはこれくらいだけどな。(所有している魔法の一覧をエルドに見せようとする)
GM:
忠告しておきますが、この世界の魔法は個人が修得するわけではなく、魔法を記憶媒体の中に保存しているだけなので、それを奪われてしまうこともあります。魔法の記憶媒体を使うためには、本人が定めた合言葉が必要となるので、ただ盗まれただけですぐに悪用されるわけではありませんが、なかには希少魔法を所有している者を拉致して合言葉を吐かせようとする者もいます。そういったことを理解したうえで、自分がどんな魔法を持っているのかを公言するようにしてください。
アゼル:
使える魔法を教えるどころか、白魔法使いや黒魔法使いを名乗ることにも危険が伴うんだな。
イーサ:
(あまり気にせずにそのまま魔法の一覧をエルドに見せる)
エルド:
ふむふむ。“ロック”や“ダークネス”も使えるんですね……。
イーサ&エルド:
(あーでもない、こーでもないと魔法を組み合わせた作戦の検討を始める)
アゼル:
(唐突に声を張り上げて)「俺は、ひとりの戦士として、この人を見捨てておけない!」
アル(GM):
「鼻息を荒くするのは結構だが、少し冷静に考えてみてくれ。商売に失敗する奴なんてこの世界にごまんといる。それをすべて救えるわけじゃないだろ?」
アゼル:
「すべての人を救えるとは思ってない。だが、今、助けを必要としている人が目の前にいるんだぞ!」
エルド:
う……うわぁ……。なんだか、むず痒くなること言いますね(笑)。
イーサ:
変なスイッチが入って、熱くなってきたな。
アル(GM):
「そうは言っても、今回の件は自業自得だ。商人ギルドを裏切るようなかたちでアスラン商会から借金したこいつが悪い。違うか?」
アゼル:
「そ、それは……そうだが……」(口ごもる)
エルド:
真っ向から論破されましたね(笑)。
アゼル:
「……たしかにこの人は軽率なことをしたかもしれない。だが、娘と妻には罪はないだろ?」
ってところで、エルドとイーサの立ち位置を確認したいんだが、サブリさんを助けることに積極的ではない?
イーサ:
勝機があって、報酬として1万ないし2万の銀貨が貰えるっていうなら美味しい話しだとは思うけどな。
エルド:
イーサさんはお金をチラつかせればなびきそうですね。僕のほうもハッキリと反対しているわけではありません。説得の内容次第です。
アゼル:
じゃあ、「エルド! イーサ! 俺に良い策があるわけじゃないが……手を貸してもらえないか?」って、実直にそう頼み込むしかないな。
GM:
そこにセルダルの名前が含まれていないのが寂しいんですけど(笑)。
セルダル(GM):
「オレは、そこそこ戦力が集まるんだったら、やるぜ! なんせ、ここで野盗を倒しておけば、王直属部隊に志願するときに実績として箔が付くからな」
エルド:
「うーん。でも、なんだかアゼルさんの話を聞いていても、ちっとも楽しそうな感じがしないんですよね……」
アゼル:
「楽しい? たしかに楽しい話ではないが、困った者を見捨てるわけにはいかないだろ?」
エルド:
「それはときと場合によりますよ……。とにかく、作戦の内容が面白ければ協力しないこともありませんが、無策というのでは嫌です」
アゼル:
うーん。面白い作戦か……。
(長時間考えてから)
だめだ。俺には何も思い浮かばない……。
キャラクターの有する情報や能力は、プレイヤーのそれらと等しくありません。その差を解消するためにシステムが存在します。身体能力ではそのことを理解して当たり前のように成否を判定にゆだねるプレイヤーも、知性やモラルについてはそうしないことが多いようです。
今回のアゼルのような状況に陥った場合、キャラクターの知力による判定で良案を思いついたということにしても良いと思います。もちろん、それをGMが許すかは事前に確認が必要ですが。
自分の判断や思考をセッションに反映させることはプレイヤーにとっての大きな楽しみのひとつですから、それを放棄しろということではありませんが、セッションを円滑に進めるための手段のひとつとして覚えておくと、そうでないときと比べてプレイに幅と余裕がでてくることでしょう。
アゼル:
じゃあ、しばらく考えたのちにセルダルのほうへと目を向けた。
「仕方がない。セルダル」
セルダル(GM):
「なんだ、アゼル? 自慢じゃねぇが、オレは作戦を立案できるほど賢くねぇぞ?」
アゼル:
一応、セルダルは親友なので……。
「俺はここにいる人間を説得できるだけの策も何もない――」
セルダル(GM):
「まあ、オマエはどっちかってゆーと世間知らずで頭も固てぇほーだからな」
アゼル:
「――だが、俺はこの人を見捨てるわけにはいかない」
セルダル(GM):
「ああ。オマエのそーいうところ、オレは嫌いじゃねぇよ」
アゼル:
「そこで、お前に頼みがある。ニルフェルのことを頼めるか?」
セルダル(GM):
「んっ!? ニルフェルちゃんの将来を頼まれちゃっていいのか!?」
アゼル:
「いや、そうじゃなくて……。つまり――」
セルダル(GM):
「……あんまりもったいぶんなよ。いったい何するつもりなんだ?」
アゼル:
そこでサブリさんのほうを振り返った。
「俺ひとりでは、成功する見込みは薄いかもしれないが、俺があんたをクゼ・リマナまで連れて行く!」
街道を使わず、野盗の目を避けてクゼ・リマナへ向かおう。
サブリ(GM):
「ほ、本当に頼めるのか?」
アゼル:
「ああ。行こう!」
イーサ:
「お前正気か!? ろくに話したこともない見ず知らずの奴のために命を懸けるなんて!」
アゼル:
「『困っている人がいたら助けてやれ』ってのが死んだ俺のオヤジの口癖だったらしい……。俺はオヤジから教育を受けたわけでもないし、ましてオヤジの顔を見たことすらないが、確かにオヤジと同じ血が流れてるみたいだ。俺も困っている人を助けたい!」
イーサ:
「……ったく、こんな世間知らずがいたとは」
(呆れたようにため息をついてから)
「……だが、そう死に急ぐことはないだろ。さっき聞いた話だと、エルドは偵察ができるようだし、とりあえず情報収集をしてもらうことにしよう。それで、もし勝機があるなら、俺も……協力してやる」
GM:
えーと、念のため確認しておきますが、情報収集によってどのような情報が得られることを期待しています?
イーサ:
まず野盗の根城がどこにあるかだな。あと、行動パターン。少人数に別れて行動してるようなら、個別に倒せるかもしれないだろ?
アル(GM):
「俺もイーサの意見に賛成だ。勝機が見出せなければ、戦いは避けるべきだ。その勝機を見出すために、野盗の情報を得るっていうのは、必要な一手だろう。で、エルド。お前に斥候を任せていいのか?」
エルド:
「ええ。さっきアゼルさんが口にした、たとえ護衛につくのが自分ひとりだけだったとしてもサブリさんのことをクゼ・リマナまで送り届けるという発言はそれなりに面白かったですし、ちょっと行ってきますよ」
アゼル:
おお! そのエルドの答えを聞いたら、パァっと明るい顔をするね。
アル(GM):
「それじゃ、エルド。とりあえず、4つ確認してきてくれ。ひとつは野盗たちがどこに巣くっているか。それを突き止めることだ。襲われたのは20キロ圏内の街道上ということだから、そこまで遠いところには陣取ってないだろう。というか、20人規模の者たちが雨風を凌いで休みが取れる場所といったらイスタスの跡地が本命だろう。その周辺を探ってみるといい」
一同:
あー!
イーサ:
すっかり忘れてたが、そういえば半日くらい離れたところに廃墟があったな。
アル(GM):
「次に、奴らの戦力だ。頭数だけでなく、騎馬の数や使ってる武器・防具の種類。あと、そいつらを率いてるカダって奴が俺の知ってるカダなのかどうかってところも確認してくれ。もし、そいつの鼻が右に曲がってたら、間違いない。……昔、酒場でやりあったことがあってな。そのときに奴の鼻の骨をへし折ってやったんだ」
アゼル:
「因縁の相手ってやつか……」
エルド:
「ほかに目立った特徴はありますか?」
アル(GM):
「そうだな……。もう3年くらい前に見たきりなんだが、年齢は俺より少し上くらいで、体つきは結構細かった。あと、奴の使う武器はおそらく弓だ。正面切って戦うような度胸のある奴じゃなかったからな」
エルド:
「了解です。あと、確認してくることの残り2つはなんですか?」
アル(GM):
「あとは、奴らの1日の行動パターンを確認してきて欲しい。偵察や警備のタイミングや数とかもな。隙が見つけられれば、攻めるのも楽になる。それと最後に、20人プラス20頭の馬を養うための食料や水をどうやって維持しているかってことを探って欲しい。どこかで補給しているか、もしくは大量に貯蔵しているはずなんだ」
エルド:
「わかりました。任せてください」
アゼル:
皆のやり取りを見たアゼルは、感動して身を震わせている。いま、まさに仲間意識が芽生えて――
エルド:
いえ、それは勘違いです。僕はさっきからむず痒くてしかたないんですけど。
イーサ:
まったく暑苦しい奴め。
アル(GM):
「今日を含めて3日あれば調べられるか?」
エルド:
「そうですね……」
往復の移動で1日。行動パターンを見るので1日。あとは不測の事態に備えた時間として……。
「はい。3日あれば十分です」
アゼル:
「俺に何か手伝えることはあるか? 一緒に行こうか?」
エルド:
「いや、あの……。あなたと一緒だと、間違いなく見つかると思うので……。とりあえず、少し大人しくしていてください」
アゼル:
「そうか。それなら……。セルダル。おまえもエルドと一緒に偵察に行ってもらえないか?」
セルダルはハンター技能を持ってるから、屋外の隠密行動のときには役立つだろ?
セルダル(GM):
「オレがッ!?」
エルド:
あの……。実際に2人で偵察するメリットってあるんですか?
GM:
片方が見つかっても、もう片方は見つからずに済むかもしれないってことくらいですかね。あとは、今回のケースだと、エルドがスカウト技能、セルダルがハンター技能をそれぞれ修得しているので、一通りのことは試みられます。ただ、どうしても、どちらか一方が発見される確率は高くなりますよ。
イーサ:
エルドは“ダークネス”とか“カメレオン”とかの魔法を使えるんだから、ひとりで行ったほうが確実なんじゃないか?
エルド:
まあ、そうはいっても“カメレオン”を使っている最中は移動できないっていう弱点がありますけどね……。
少し考えてから)
「じゃあ、あの……。セルダルさんも一緒に偵察に行きますか?」
セルダル(GM):
「本当について行ったほーがいいのか?」
エルド:
「ええ。お願いします!」
セルダル(GM):
「わかった。オマエがそーゆーならついて行くとすっか」
エルド:
「ですが、もし言い残していることがあるのなら、今のうちに言っておいたほうがいいですよ」
アゼル:
いやいや、生きて帰って来いよセルダル。プレイヤー的に言えば、ここで死なれると1,000銀貨損した感じになるからな。
セルダル(GM):
では、セルダルから一言残していきましょう。
「アゼル……」(真剣な眼差しをアゼルに向けて)「ニルフェルちゃんに、どうかオレのことを忘れないでくれと――」
一同:
(爆笑)
アゼル:
まてまて、それはいかん! それは色んなフラグが立つから言うな(笑)!