GM:
それでは、場面は変わりまして商人ギルドの寄り合い所となります。野盗の情報収集を終えたエルドとセルダルが無事に戻ってきました。ジャナンが声を掛けてくれると話していた助っ人はまだ姿を見せていませんが、主要面子は全員その場に居ます。
シシュマン(GM):
「おつかれだったな」
シシュマンが帰ってきた2人に労いの言葉をかけます。
アゼル:
「無事に戻ってきて良かった!」と言いながら、暑苦しくセルダルとエルドの肩を抱いた。
セルダル(GM):
「よせよ、気持ち悪りぃ。それに、オレたち三日三晩風呂に入ってねぇぞ」
アゼル:
「うーんッ! 臭いなッ!」
アル(GM):
「じゃあ、早速だが首尾を聞かせてくれ」
エルド:
「では、報告します――」
エルドの口から野盗に関して得られた情報が細かく説明されます。他の面々は、ときに相槌を打ちつつ、エルドの報告に耳を傾けました。報告の内容から野盗は戦闘員が20人程と下働きが5人、騎馬が20頭程で構成されているものと推測されました。また、エルドはその場の面々にダットという人物の名前に聞き覚えがないかとたずねましたが、残念ながらその名を知る者はいませんでした。
エルド:
「――とりあえず、報告は以上です」
アル(GM):
「よくそこまで調べてくれたな。これで知りたかった情報はあらかた確認できた。さて……。それで以前の話に戻るわけだな。いま聞いた情報から判断して、野盗を退治するか、それとも出発を遅らせるか……」
サブリ(GM):
サブリは目を大きく見開いて全員の顔をひととおり見渡したのちに、今度は目をつむって神に祈りを捧げはじめました。
エルド:
「戦うなら作戦を立てないといけません。ね、アゼルさん」
アゼル:
「うむ。やはり、偵察部隊を各個撃破か?」
セルダル(GM):
「偵察6人と水汲み2人のあわせて8人は問題なく倒せそーだな」
アル(GM):
「しかし、それ以降はさすがに警戒されるだろうな……」
アゼル:
「砦内に立て篭もられたとしたら、攻めるのは厳しそうだ」
セルダル(GM):
「そこから先は以前話してた、寝込みを襲うって作戦でいいんじゃねぇか?」
アル(GM):
「夜間の見張りは3人で、3時間毎の交代だったな。砦の中の者に気づかれないようにその3人を倒す手立てはあるか?」
一同:
……。
アル(GM):
「見張りを上手く倒せればかなり勝算が高くなるんだが、それが出来ないとなると砦攻めの際には残り12人を相手にすることになるか……。俺は駆け出しの戦士を2人相手にするくらいならできるが、3人となると少々きついな……」
アゼル:
「うーん。やはり厳しいか?」
ここは馬を購入して、俺とサブリさんの2人で深夜に行軍して野盗たちから逃げおおせられるか賭けてみるしかないかな。アゼルとしては、この人数で野盗と戦うのは無理だと考えているから、そう選択せざるを得ない。まあ、以前からその覚悟はしてるからな。
GM:
……。
イーサ&エルド:
……。
GMとしては、皆で砦襲撃の作戦を立てて欲しいところだったのですが、アゼルはまったく予想外の反応を返してきました。
意志選択の自由はTRPGの素晴らしい要素のひとつであり、アゼルの行動も尊重されるべきものですが、それ以前に野盗の居る砦を襲撃するより、少人数で行軍する方が遥かに危険であるということに思い至って欲しかったところです。
アゼル:
誰も反応なしかよッ!?
エルド:
エルドはとても眠そうにうつらうつらとしています。
「あの……。話がまとまるのに時間がかかるようであれば、ひとまず休ませて欲しいんですけど」
セルダル(GM):
「そーだな。オレもさすがに疲れたわ。オヤジの知り合いが来るまでの間、仮眠させてくれよ」
アゼル:
「わかった。お前たちは休んでてくれ。何か進展があったら声を掛ける」
セルダル(GM):
休むために別の部屋に向かおうとしていたセルダルが振り返ってこう言います。
「そうだ、アゼル。オレはオマエに任せるからな。オマエのやりたいよーにやってみろ!」
アゼル:
おおッ! 暑いぜ! さすがは親友だ!
「うむ。心した!」
GM:
では、エルドとセルダルが戻ってくる前に、残った者で今後の方針を決めておきましょうか。
アゼル:
「正直、俺としては勝算はないと思う……。勝つための策は思いつかないし、師匠の助っ人もそこまで期待できないと思うので……。アルさん。イーサさん。どうですかね?」
シーン外のエルド:
あらら、いきなり背負いきれずに投げてしまいましたね(苦笑)。
GM:
(苦笑)
イーサ:
「何言ってんだ? お前はいままで何年も剣の訓練を積んできたんだろ? ひよっこってわけじゃないんだ。それとも、そんなに自分の腕に自信がないのか?」
アゼル:
「警戒されたあとに砦攻めを行うとしたら、俺たちの戦力じゃ攻めきれないと思うんだ。砦に立て篭もられたら厳しいだろ?」
イーサ:
「……(絶句)」
先日、自らの危険を顧みずサブリを助けたいと言い切ったアゼルの姿に心動かされたイーサも、これには返す言葉をなくしていました(苦笑)。しばらくプレイヤー同士での相談が続きます。
アゼル:
やっぱり馬でクゼ・リマナまで全力疾走するのがいいんじゃないか?
GM:
クゼ・リマナまでは400キロ近くあります。全力疾走を続けたら、2時間も持たずに馬が死んでしまいます。それに、サブリには輸送する商品があります。荷物を積んだ状態の馬では全力疾走させても速度がでません。
アゼル:
うーん。だったら、俺たちがオトリになって野盗たちを引き付けてる間に、サブリにはクゼ・リマナに向かってもらうってのはどうだ?
イーサ:
野盗のほうが数で勝ってるっていうのに、そんなことができると思ってるのか?
GM:
だいたい、その場合、サブリの護衛には誰がつくつもりです? 旅の障害は野盗だけじゃないんですよ? 何のために隊商を組んでると思ってるんですか。
アゼル&イーサ:
……。
とりとめもない話しと沈黙の繰り返しが延々と続き、結局、エルドとセルダル抜きでは話しがまとまらないだろうということで、時間を進めてエルドとセルダルの2人に戻ってきてもらったうえで相談を再開することとなりました。しかし、それでもなお結論はでず、さらに多くの時間を費やしたところで、ついに業を煮やしたGMからあからさまな誘導を行ってしまいました。
セルダル(GM):
「あのさ。とりあえず偵察部隊を各個撃破しちまおうぜ。きっと、偵察部隊がやられたら野盗たちは警戒して、おいそれとイスタスの外に少数部隊を出せなくなるはずだ。そんで、水の補給もおぼつかなくなれば、アイツらかなり困るんじゃねぇか? 馬だって3日も水を飲ませられなければ使い物にならなくなる。んで、そのあと野盗たちがどう動くか確認してから次の作戦を練ろうぜ」
アゼル:
「そうか、そうだな! それに水場を押さえるってのは効果が大きそうだ」
アル(GM):
「もし、お前たちが20人の部下を従える野盗のリーダーだったとして、水の補給にでた部下がいつまで経っても戻ってこなかったらどうする?」
イーサ:
「敵の襲撃を警戒して、戦力を増やして水の補給に向かわせるとか」
アル(GM):
「そうなってくれれば俺たちとしてはありがたい。少なくとも、水の補給部隊か砦に残る部隊のどちらかは、半数以下の戦力になる。それくらいの数なら、いまの俺たちの戦力でも十分叩ける」
イーサ:
「水汲み部隊の2人を倒し、次に戦力増加した水汲み部隊を倒して……そのあとはどうなる? まさか、そのあとも水汲み部隊が来るとか?」
アゼル&イーサ:
(爆笑)
GM:
そもそも、戦力増加した水汲み部隊が来るかどうかも不確定なんですけどね(苦笑)。
アゼル:
「まあ、3度目はないだろうが、ある程度まとまった数を撃破できれば、あとはこっちから攻め込んでもいいよな」
イーサ:
「なら、追加の水汲み部隊がまったく来なかった場合には?」
アゼル:
「その場合は、水場に陣取って干上がらせよう。野盗が警戒して砦から出てくることができなくなれば、水を断つことになる。もし、別の場所に水を汲みに行こうとするのであれば、そいつらを個別に撃破していけばいい」
イーサ:
馬は何日間、水を飲まないと死ぬんだ?
GM:
人間とさほど変わらないと思います。この気候なので3日くらいで動けなくなって、死ぬ馬も出てくるでしょうか。
セルダル(GM):
「オマエら必要以上に慎重になりすぎなんだよ。やってみなけりゃ判らねぇこともあんだろ。ヤバくなったら、ずらかりゃいいだけのことさ。だいたい、一対一で勝てるかどーかも、やってみるまでわかんねぇんだからよ」
アゼル:
「まあ、そうだな……。いや、俺はいいんだ。サブリのことを助けたいと言い出したのは俺だ。だから、もしものときの覚悟はできてる。だが、ほかの皆はどうなんだ?」
エルド:
「あの……。こう言ってはなんですが、僕はすでにリスクを冒して野盗たちのアジトに潜入してきたわけなんですけど……」
アゼル&イーサ:
(爆笑)
アゼル:
そうだったな(苦笑)。
セルダル(GM):
「散々オレたちを焚きつけて危険なことをさせたくせに、いまさら『自分は覚悟ができてるが、ほかの奴らはどうなんだ』って、言ってることおかしいだろ? 『オレに付いてきてくれ』とか『オマエらの命を預かると』とか、そんなすべての責任を背負うくれぇのこと言えねぇのかよ」
アゼル:
こういうとき、プレイヤーに戦略・戦術の知識がないから、どうしていいかわからないんだよ……。
エルド:
僕だってわからないですよ。でも、わからないながらもやってみるで良いと思いますけど。
アゼル:
「じゃあ、ここに居る全員で水汲み部隊の2人を倒して水場を占領し、そののち来るであろう後続を撃退するってことでいいな?」
イーサ:
「とりあえずは、その方針でいいんじゃないか?」
エルド:
「僕は戦いに備えるだけです」
セルダル(GM):
「いーか悪いかは知らねぇが、やるしかねぇだろ。あとは敵の動きに応じて、臨機応変ってやつだ」
アル(GM):
「ふむ……。やはり、確たる策なしで挑むしかないのか……」アルは眉をしかめてそう呟きました。
イーサ:
「まあ、最悪、やばくなったら手を引けばいいだろ」
GM:
なんとか話しはまとまりそうですね。ところで、いつの間にか、偵察部隊などを各個撃破するという話しが水汲み部隊だけを倒す流れになっていますけど、それで良いんですか? こちらの戦力を分散させれば偵察部隊3組と水汲み部隊で野盗を計8人倒せるかもしれませんよ?
アゼル:
あー。それはそうかもしれないが、GMから提示された案にそのまま乗るのもあれなんで、全員で水汲み部隊を倒す方向で。
GM:
まあ、構いませんけど……(苦笑)。
それでは、だいたいの方針が決まったところで寄り合い所の扉が叩かれました。
アゼル:
「どうぞ」
覆面の男(GM):
扉を開けて入ってきたのは、布で顔と口元を覆い、目だけを露出させた人物でした。
(とあるNPC画像の目元以外を隠した状態で提示してから)
その人物は寄り合い所の中を見渡すと、アゼルの方へと歩み寄ってきて、手紙を差し出しました。
アゼル:
(覆面の男の正体を理解したうえで)
「あ、あなたがジャナン師匠の知り合いの方ですか?」
覆面の男(GM):
男はコクリとうなずくと、手紙を読むように促しました。
アゼル:
渡された手紙に目を通してみる。
GM:
そこには汚い字で次のように書かれています。
ジャナンにたのまれてきた。
わたしはせんしのナン。
ノドのやまいのため、くちはきけない。
アゼル:
なるほど……。
「よろしくお願いします!」
ナン(GM):
ナンはコクリとうなずきました。覆面の下から覗く目つきはなかなか鋭いです。アゼルとセルダルにとっては、とても見覚えのある目元ですが……。
エルド:
これは酷い(笑)。
「そちらの方は何者ですか?」
アゼル:
「ジャナン師匠の……ご友人?」
ナン(GM):
ナンはアゼルの手から手紙をとると、そこに書かれた文字を指差します。
エルド:
「ああ。あなたが今回助っ人に加わってくれる方ですか」
アゼル:
「そうだ。ジャナン師匠のご友人。助っ人のナンさんだ」
セルダル(GM):
「え?」
セルダルの目は点になってます。
イーサ:
「まあ、誰だって、戦力になればいいさ」
エルド:
ナンさんの装備はどんな感じですか?
ナン(GM):
とても年季の入ったバスタード・ソードを腰から提げています。アゼルとセルダルにはとても見覚えのある剣です。
セルダル(GM):
(アゼルに対して小声で)「おい、あの剣、見覚えが――」
アゼル:
「いや……。彼は戦士のナンさんだ。それでいいじゃないか(笑)」
セルダル(GM):
「それに、よく見りゃ、あの顔に巻いてんのはうちのテーブル掛け――」
アゼル:
「いやいやいや。そんなことどうでもいいじゃないか(笑)! 彼は、師匠が手を貸せない代わりに助っ人として来てくれた戦士ナンさんだ! さあ、細かいことは気にせず、野盗退治に行こうッ!」
突っ込みには一切耳を貸さずに出発するぞ(笑)。
GM:
こうして昼をまわって少し経ったころ、あなたたちは野盗の水汲み部隊を強襲すべく、イスタス方面の泉を目指してイスパルタの街を出たのでした。