LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第1話(30)

GM:
 場面は変わって、イスタス跡地の南方にしばらく離れた場所。大きな岩の陰になる場所で野営しているアゼルたちの方に話を移します。単独でイスタスに向かったエルドは、数時間が過ぎても一向に戻ってきません。あなた達は何時ごろまでそのまま待機し続けますか? 6時? 7時?

アゼル:
 朝食の時間までかな?
「遅い……いったい、いつまでかかるんだ?」

セルダル(GM):
「まあ、焦るなよ。メシでも食って、ゆっくり待とーぜ」

アゼル:
「そうだな……今のうちに……。モグモグ」

セルダル(GM):
 では、セルダルは朝食をとりつつ、近場につないである4頭の馬へと目を向けました。
「そーいや、アイツらはこのあとどーする?」

GM:
 水と食料を満足に与えず1日中走らせたため、馬たちはかなり疲労しているようです。

アゼル:
 ここから一番近い水場は、あの北の泉なんだよな……。乗馬して戦えるわけでもないし、この状況で面倒みてるわけにもいかないか。
「しかたない。可哀そうだがここで放して、あとは自分たちで何とかしてもらうとしよう」

GM:
 では、鞍を外して鞭を入れてやると、馬たちは荒野に走り去っていきます。

アル(GM):
「それと、昨日、縄で縛ってきたあいつら……。そのままにしてると、遠からず死ぬだろうが、どうする? 俺個人としては、放置しておいて構わないと思っているが、どうもアゼルは死なせたくない素振りだったからな。泉に転がしておいたほうはまだしも、街道沿いのほうは今の時点で生きているかも怪しいところだぞ」

アゼル:
「そうだなぁ……。そうは言っても、今はエルドの帰りを待つほかないだろうから、保留だな」

イーサ:
「エルドが出発してから、もう3時間か……」

アゼル:
「……やはり遅い」

セルダル(GM):
「せっかちだなぁ。エルドだって慎重にやってりゃ時間は掛かるもんさ」

アゼル:
「なるほど。それもそうか」
 セルダルの言葉に納得してしまったので特に焦らない(笑)。

GM:
 では、もう少し時間を進めてみましょうか。8時……。動きはありませんか? 9時……。まだエルドは帰ってきません。

 エルドが偵察にでていく際に、帰還予定時刻を決めていなかったため、残されたアゼルたちはどうしていいものか途方にくれてしまいます。

イーサ:
「いくらなんでも遅すぎやしないか? もう完全に日が昇っちまってる」

アゼル:
「この時刻になっても戻ってこないということは、やはり何かあったのかも……」

アル(GM):
「仮に、これからイスタスに向かうのであれば、エルドは敵の手に落ちたと想定して動くべきだろうな」

イーサ:
「そうだな」

アゼル:
「エルドが人質にとられているとしたら、打つ手がないな……」

イーサ:
「まあ……そのときは仕方ないだろ」

アル(GM):
 アルもイーサの発言にうなずいて同意しました。
「そうだな。その判断ができるなら、死んでいることを前提として動こう。そちらの方が面倒が少なくて済む」

アゼル:
 ええーッ!? 冷静な判断だな(苦笑)。
「待ってくれ! 俺はエルドの無事を信じてる!」

アル(GM):
「そうは言っても、カダは捕まえた相手を五体満足で生かしておくような男じゃないぞ」

アゼル:
「……では……エルドは……」(頭を垂れて)「俺が偵察を頼んだせいで……。すまない……エルド……」

イーサ:
(苦笑)

アル(GM):
 アルはうなだれたアゼルをみて額に手を当てると、やれやれといった感じで首を左右に振りました。
「ふう……しかたないな……。ならば、エルドが捕らえられていて、かつそれを救出することを前提に作戦を立てるとするか……」

アゼル:
「……どうやって? 正面から攻めるのは危険だろう?」

イーサ:
「危険を避けようにも、エルド以外に相手に気づかれずに潜入できる奴はこの中には居ないからな」

アゼル:
「魔法で何とかできないのか?」

 最低限の犠牲は已む無しと割り切って行動することには反対したものの、肝心なところでは他力本願なアゼルなのでした(笑)。もはやそれがアゼルのキャラクター性だといっても過言ではないかもしれません。

 ここから、何とか野盗たちに気づかれずに行動する手段はないかと相談が始まりましたが、そんなことができるようであれば、はなからエルドを偵察に送り出すこともなかったのです。それに加えて、プレイヤーとしてはエルドが囚われていないことがわかっているので、あまり実のある作戦会議にはなりませんでした。無為な時間を消費したのちにでた結論は――

セルダル(GM):
「とりあえず、正面から行ってみっか!」

イーサ:
「うむ……。まあ、ここまでの手ごたえからすると、敵の戦力があと14人ってことなら俺たち5人でもやれないことはないか……」

アル(GM):
「そうだな。背後をつかれたりすれば危険だが、円陣を組んで戦うとかして背後を取られなければ、あの程度の連中に遅れを取ることはないだろう」

アゼル:
「路地の途中で戦えれば、2人が前衛に立って盾になって、後方から支援してもらえる戦い方ができるんじゃないか?」

アル(GM):
「まあ、野盗には弓兵が居るって話だがな……」

イーサ:
「こっちは飛び道具持ちが居ないから距離をとって戦うのは不利か?」

アル(GM):
「敵が射撃主体で攻めてくるなら、遮蔽物に身を隠しながら距離をつめるしかないだろうな。幸い、イスタス跡地の中は建物が密集しているから、身を隠す場所には困らない。……それで、正面から攻めるにしても、いつごろ出る?」

アゼル:
「とにかくできるだけ早く、イスタスの近くまで行こう。イスタスにつけば野盗の動きもつかめるかもしれないから、攻めるかどうかはその後に決めるってことで……」

GM:
 では、これからイスタス跡地へ向かうということで良いですね?

アゼル&イーサ:
 オッケー。

 こうして、すっかりエルドを救出するという話しを棚上げしたまま、イスタス跡地に向かうこととなった一行だったのでした(苦笑)。


 一方、そのころのエルドはというと……。

GM:
 さて、イスタスの家屋跡で潜伏を続けるエルドでしたが、周囲が少し騒がしくなってきました。何頭もの馬のいななきと蹄の音が聞こえます。その音に混じって、野盗たちの話し声もかすかに聞き取ることができました。

野盗A(GM):
「もし戦いになったらどうする?」

野盗B(GM):
「いまさら怯えてもどうにもなんねぇよ。いざとなったら逃げればいいんだ。それに、こんだけ頭数が揃ってれば大丈夫さ」

GM:
 この動きに対して、エルドは何か行動を起こしますか? 聞き耳を立てればさらに情報を入手できたりしますが。

エルド:
 いえ、“カメレオン”を維持して潜伏し続けます。

GM:
 了解です。では、その馬を伴う集団のたてる音は徐々に北方面に離れて行きました。

 どうやら、エルドはエルドで完全に夜まで隠れ続けることに決めているようです。


GM:
 エルドのほうには動きがないようですので、再びアゼルたちのほうに場面を戻します。

セルダル(GM):
 では、日も高くなってきたころ、周囲に対する警戒のために先行するセルダルがイスタス近くの街道にまでやってきました。(コロコロ)その間、敵との接触はありません。

GM:
 街道からイスタスまでの距離は500メートルです。そのまま、南門まで進みますか?

アゼル:
 うむ。

GM:
 では、イスタス南門に到達します。時刻は午前10時ごろ。野盗たちの姿は確認できません。

アゼル:
「野盗たちが使ってるのは中央砦だったな。そこを目指そう」

GM:
 南門から中央砦にたどり着くまでには、入り組んだ路地を進むことになります。陣形はどのようにしますか?

イーサ:
 フォーメーションは前から1-2-2がいいんじゃないか? アゼルがトップで。2列目に白魔法が使える俺。

アゼル:
 そうなると、ナンさんは最後尾に居てもらうとして、魔法での遠距離攻撃が行えるアルが後列で、セルダルが2列目かな。その陣形で中央砦へ!

GM:
 了解です。周囲に注意を払い、陣形を崩さないように進む一行。さて、その彼らの進む足音が、建物の中に潜んでいるエルドの耳にも届いてきましたよ。

エルド:
 引き続き“カメレオン”を維持して様子をうかがいます。

セルダル(GM):
「野盗側の反応がねぇけど、まさか罠ってことはねぇよな?」周囲に警戒しつつ、セルダルがそうつぶやきました。

アゼル:
「いや、わからないぞ。十分警戒して進もう」
 何もないなら、俺たちは中央砦に向かってどんどん進むぞ。

エルド:
 それじゃ……、足音が自分の隠れている建物を過ぎたところで“カメレオン”を解いて、建物の入口から外を覗き見てみます。相手に気づかれないようにこっそりと。

GM:
 こっそりと……ですか(笑)。では、3列目にいるアルとナンに《スカウト技能+実質敏捷度ボーナス+2D》の対抗判定で勝てば気がつかずに覗くことができます。(コロコロ)こちらはアルの10が最高値です。

エルド:
(コロコロ)残念。気づかれてしまいました。

アル(GM):
 では、アルは「誰だッ!」と声をあげて、潜伏者のほうへと抜き身の剣を向けます。しかし、すぐにその相手がエルドであることに気づくと、「キミは……エルド!」と驚きの声を漏らしました。

アゼル:
「え? エルド!?」

イーサ:
「なんだ、野盗に捕まっていたわけじゃなかったのか」

GM:
 ちなみに、アルには遅れをとったものの、ナンもエルドの存在に気づいていたようです。

エルド:
 さすがに疲労困憊で上手く身を隠せていなかったようですね(苦笑)。

GM:
 まあ、エルドの本職は黒魔法使いであって、スカウト技能はレベル1しかありませんからね。それで、ここまでよく頑張りましたよ。

エルド:
 “可能性”頼みで、なんとか誤魔化してましたからね。

アゼル:
 ふむ……。しかし、エルドと合流できたとなると、目的を達成してしまったな。

イーサ:
 いやいや、まったく達成してないだろ(笑)!

アゼル:
 そ、そうか(汗)?

イーサ:
「そんなところに隠れていたところをみると、潜入は首尾よく行かなかったようだな」

エルド:
「ええ。逆に危うくカダに捕まってしまいそうになり、ここで息を潜めて隠れているのが精一杯でした……」

イーサ:
「野盗たちの姿が見当たらないようだが、何かあったのか?」

エルド:
「少し前に、結構な数の野盗が馬を伴って出て行ったようですよ。水の確保に急を要していた様子でしたので、水を汲みに行ったのだと思います」

アゼル:
「なるほど……。ということは、今なら中央砦はもぬけの殻か!」

エルド:
「もぬけの殻と言っても、カダは残ってると思いますよ」

イーサ:
「それでもチャンスには変わりない」

アゼル:
「この機を逃す手はないな。出て行った奴らが戻ってくる前に砦を制圧してしまおう!」

エルド:
「いま攻めることに反対はしませんが、僕はもうほとんど魔法を使えませんから、当てにしないでくださいね」

アゼル:
 北の泉に水汲みに行くと、戻ってくるまでにどれくらい時間がかかるんだっけ?

イーサ:
 2時間はかかったはずだ。

アゼル:
 となると、選択肢は2つか? エルドの魔法には頼らず、このまま砦に攻め入るか、いったん引いて休憩をとるか……。精神点を回復するためには何時間休憩すればいいんだ?

GM:
 最低3時間です。それで精神点1点の回復を見込めます。

アゼル:
 だめだな(笑)。中途半端に休憩するくらいなら、街に戻って態勢を整えなおしたほうが良いくらいだ。

アル(GM):
「エルド。キミはもうほとんど魔法を使えないと言ったが、それは、少しであれば使えるということか?」

エルド:
「“瞑想”できるのであれば、あと3回ですね」

アル(GM):
「なるほど、相当疲弊しているようだな。だが、使える魔法次第では、やってやれないこともないだろう」

エルド:
「戦闘で使えそうな魔法となると、“エネルギー・ボルト”と“プロテクション”くらいですが……」

アル(GM):
「ふむ。それならば戦闘前に唱えておける魔法は俺とイーサが担当しよう。キミはいざというときのために温存しておいてくれ。もとより、キミが野盗たちに捕まっていることを前提に、俺たち5人で戦う予定だったんだ。その想定に比べれば少しは楽になった」

アゼル:
「よし、それじゃ中央砦に攻め入ろう」
 中央砦に向けて移動を再開する。

GM:
 了解です。では、中央砦に南側から近づいていきます。砦に近づくと、徐々に仮の厩舎に居るであろう馬のいななき声も聞こえてきます。

セルダル(GM):
(コロコロ)中央砦まで残り135mの地点で、セルダルが砦の屋上にいる見張りの弓兵の存在に気がつきました。入り組んだ路地の角で頭を出して覗き込む感じですね。
「砦の上に弓兵が2人立ってる。まわりを警戒してるよーだが、まだ、こっちには気づいてねぇ」

イーサ:
「このまま近づけば、狙い撃ちか……」

セルダル(GM):
「それプラス、オレたちの存在を仲間たちに知らせられるな」

アゼル:
 どうにか見張りの注意をそらすことはできないかな? たとえば、馬のケツに火かき棒を刺しこんで暴れさすとか。

イーサ&エルド:
 ……。

GM:
 あの……その火かき棒はどこから用意するんですか? そもそも、それを実行できたとしても、かえって警戒が強まるだけのように思えますが……。

アゼル:
 それもそうか。残念……。
 戦闘はこの距離から始まるのか? そうすると移動速度の遅い俺は飛び道具の格好の的になるわけだが。

エルド:
 アゼルさんは弓に対して弱いんですか?

アゼル:
 いや、そういうわけでも……。むしろ強いかな。金属鎧だし、盾も持ってる。
「奴らに迎撃態勢を整える時間を与えるのもなんだし、とりあえず、俺が突っ込むか?」

イーサ:
「行くなら全員で……だろ。アゼルを先頭に縦に並んで突っ込むのが一番だ」

アゼル:
 でも、上から射掛けられたら先頭以外も的になるんだろ?

GM:
 砦と言っても地表から7メートル程度の高さしかない小さなものですからね……。かなり接近しない限りは先頭しか狙えないと思いますよ。もちろん、先頭の人が矢を回避してしまうと、後ろの人に当る可能性もありますけど。

一同:
(爆笑)

GM:
 敵の射撃に対してはそれで良いとして、仲間に襲撃を知らされることに対して、何らかの対策は立てないのですか?

アゼル:
 それは大丈夫。今ならほとんどが出払ってるはずだから、知らされても別に構わない。

GM:
 ……では、アゼルを先頭とする一列縦隊で突撃するということで良いんですね?

一同:
 オッケー!

アル(GM):
「突撃するなら、事前に魔法をかけておこう。乱戦になったら補助魔法をかけている余裕はなくなるからな」

アゼル:
「そうだな」

アル(GM):
「それと、万が一のときのために確認しておくが、場合によっては撤退するということでいいか?」

アゼル:
「うむ」

アル(GM):
「ならば、どのような状況になったら撤退するかを事前に決めておこう。そうしなければ迅速な撤退ができずに被害が大きくなる」

アゼル:
「そうだな……。誰かひとりでも倒されたら撤退しよう」

アル(GM):
「そのときは、犠牲者は見捨てて構わないな?」

アゼル:
「……そうだな、仕方ない」

イーサ:
 アゼルのことだからまたごねるのかと思ったが、今度は割り切ったか。意外だな。

 こうして、一行は覚悟を決めると、イスタス中央砦襲撃戦を開始するのでした。




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