GM:
時期は4月も半ば。時間は早朝5時を回ったくらい。場所はイスパルタ市壁の外にある、クルト家の屋敷の前になります。この季節になると、朝の早い時間であっても空が薄ぼんやりと明るいです。
シーン外のエルド:
晴天ということですかね?
GM:
そうですね。野盗騒動があってから今日まで晴天が続いています。このままだと夏を待たずして熱波が来るかもしれません。
イスパルタの南西には砂漠があり、さらにそのずっと先には大きな山脈がそびえています。南西からの風がフェーン現象を起こすのでしょうが、この時代の人たちにはそういった知識はないでしょうから、毎年この時期になると「炎の精霊が猛っているんだ。精霊の怒りを静めるために祭儀を執り行おう」なんて会話が交わされていたりするわけです。
シーン外のエルド:
きっと、南方諸国の霊媒師達による嫌がらせです!
GM:
そういう説もあるかもしれませんね(笑)。
さて、そのようなシチュエーションのなか、クルト家の屋敷前には幾人かの人の姿がありました。その場に居るのは、家長であるジャフェルとその妻ナターリア。あと、旅支度を整えたセルダルの姿もありますね。
アゼル:
俺とニルフェルもそこに居るのか?
GM:
ニルフェルの姿はありませんが、アゼル自身については自由に決めてください。
アゼル:
それじゃ、俺はそこに居ることにしよう。あとはニルフェル待ちの状態なんだな。
ジャフェル(GM):
そうやってニルフェルが出てくるのを待っているところで、ジャフェルがアゼルに言葉を掛けます。
「いよいよ出発だな、アゼル。せん別代りと言ってはなんだが、王都から帰還するまでのあいだお前にこれを預けておこう」
アゼル:
「こ……これは……」
ジャフェル(GM):
「これはクルト家当主の証として代々受け継がれてきた家宝の剣だ。これであの子を守ってやってくれ」
アゼル:
「はい、わかりました。心して!」
GM:
――ということで、持ち物の中に必要筋力14、威力+5のソード。その名もクルト・ソードを加えておいてください。
アゼル:
せっかくもらった家宝だが、バスタード・ソードを両手持ちしたほうが強いな……。
GM:
盾を装備した状態であればクルト・ソードのほうが優れていますよ。あと、クルト・ソードはあげてないですから。預けただけですから(苦笑)。本当の意味でその剣を貰うってことは家督を継ぐってことですからね。
ナターリア(GM):
「では、わたくしからはこれを」そう言って、ナターリアは小袋を取り出しました。
「2,000銀貨あります。少ないですが路銀の足しにしてください」
アゼル:
「こんなに……! ありがとうございます」
ナターリア(GM):
「こちらの急なお願いにも関わらず、快く家庭教師を引き受けてくださったフェザ先生にはくれぐれも粗相のないようにね。それと、ニルフェルに学費代わりのブルーサファイアを渡しておいたから、途中で無くさないように気をつけて。……ついでに、お父様にもよろしくと」
アゼル:
「はい。心得ました」
GM:
野盗退治に出ていたアゼルはあとから知らされたことですが、ナターリアが伝書鳩で送った家庭教師をお願いする手紙に対する返事は、ちょうどアゼルたちが野盗退治に出払っているあいだに帰ってきていました。内容は二つ返事での快諾で、一刻も早く王都に来なさいというものでした。
ジャフェル(GM):
「それにしても、ニルフェルのやつはまだなのか……」そう言ってジャフェルは屋敷を振り返ります。
ナターリア(GM):
「支度に手間取っているのでしょう。殿方にはわからないかもしれませんが、女の旅支度には時間が掛かるものなのですよ」
ジャフェル(GM):
ナターリアの言葉に、ジャフェルは「ふむ……。そういうことであれば、どれ、行って手伝ってやるとしようかな」と口にして、屋敷へと歩を進めようとします。
ナターリア(GM):
しかし、ナターリアがそれを制止しました。
「あなた、お待ちになって」そう言うと、ナターリアはアゼルのほうへ目を向けます。
「アゼル。あなたにお願いできるかしら?」
アゼル:
「わかりました」
セルダル(GM):
アゼルが屋敷の中へ向かおうとすると、セルダルが声をかけてきました。
「んー。それならオレは先に寄り合い所に行って、少し遅れるかもしれねぇって伝えとくわ」
アゼル:
「そうだな。頼む」
セルダル(GM):
「あんまり遅くなんなよ。初っ端から隊商の中で立場を悪くすんのは勘弁だからな」
アゼル:
「ああ。わかってる」
それじゃ、早速ニルフェルのところに向かう。
GM:
アゼルとセルダルが居なくなり、その場にはジャフェルとナターリアだけが残されます。普段のクルト家の生活風景をイメージする手助けとして、少しだけジャフェルとナターリアのシーンをお見せしておきましょう。
ナターリア(GM):
アゼルの姿が屋敷の中に消えたところで、ナターリアが小さく言葉を発しました。
「今、ひとりでいるあの子にわたくしたちが声を掛けてしまったら、きっとあの子に辛い想いをさせてしまいます」
ジャフェル(GM):
ナターリアの言葉の意図をつかめずに、ジャフェルは小首を傾げました。
「そうか……? それより、少しでもあの子に顔を見せておいたほうがいいと思うのだが……」
ナターリア(GM):
「あなたは相変わらず、人の心の機微に疎いのですね」そう言うと、ナターリアは深くため息をつきました。
「思っていることをはっきりと口に出してお伝えしないと、いつまで経ってもお気づきになられない……。裏表なく、素直で、穏やかなことはあなたの美徳ですけれど、あの子が安心して王宮で暮らしていくためにも、これからはもう少し表にはあらわれない駆け引きというものも覚えていっていただかないと……」
ジャフェル(GM):
「そうは言ってもな……。苦手なものは仕方ない。それが性分というものだ。なあに、大丈夫さ。これからも私に足りないものはお前に補ってもらうから」そう言って、ジャフェルはおもむろにナターリアの手をとりました。
ナターリア(GM):
ナターリアは少し呆れた表情を浮かべると、「本当に仕方のない人……」と漏らしてから小さくほほえみ、「でも、そうですね……あなた……」と言ってうなずきました。
GM:
さて、一方で屋敷に入って行ったアゼルですが、どこに向かいますか?
アゼル:
ニルフェルの部屋だな。
GM:
では、アゼルがニルフェルの部屋の前まで足を運ぶと、部屋の扉は大きく開かれていました。扉の直ぐ横に、まとめられた荷物が置かれています。そして、部屋の中央、窓から差し込む光の中にニルフェルのうしろ姿がありました。
アゼル:
開けられた扉をコンコンと叩いて、「ニルフェル」と声をかけた。
ニルフェル(GM):
その声にニルフェルは背後を振り返りました。
「あ、兄さん……。ごめんなさい。待たせちゃったかな?」
アゼル:
「……まあ、構わないのだが……。セルダルは先に行った。準備ができているのなら、俺達も行こう」
ニルフェル(GM):
「うん。わかった」
ニルフェルはうなずいて荷物のほうへと足を進めようとしますが、ふとその動きを止めて、視線を一方の壁へと向けました。どうやら先ほども同じ場所を見ていたようです。
アゼル:
ニルフェルに歩み寄って、同じ方向へと視線を向けるけど?
GM:
そうすると、壁の少し低い位置。あなたの腰くらいの高さにつけられた傷の跡が目に入りました。
ニルフェル(GM):
「兄さん……この傷のこと、覚えてる?」
アゼル:
「なんだっけか?」
GM:
なんだっけか……ときましたか(笑)。ではここで、《知力ボーナス+2D》の知力判定を行ってもらいましょう。目標値は7以上です。
アゼル:
7以上か。まあ、それくらいなら……。(コロコロ……出目は3)うげっ!
シーン外のイーサとエルド:
あ……。やらかした……(苦笑)。
アゼル:
知力は高いはずなのに(笑)!
ニルフェル(GM):
「……覚えてないんだ……?」
アゼル:
「う……うむ……。その傷がどうかしたか?」
ニルフェル(GM):
ニルフェルは、少し俯いてから首を横に振ると、「ううん……。わたしも……もう忘れちゃった」と言って、小走りで隅に置かれた荷物を手に取り、部屋を出て行こうとします。
シーン外のエルド:
これは酷い……。完全なフラグクラッシュじゃないですか(苦笑)。
アゼル:
ダイスの神様が忘れろって言ってたんだよ……。思い出せない壁の傷をもう一度じっと見つめてから、ニルフェルのあとを追って部屋から出て行く。ニルフェルに追いついたら、荷物を持ってやろう。
ニルフェル(GM):
では、ニルフェルはその申し出を断ります。
「自分の荷物くらいは自分で持てるから心配しないで。兄さんには兄さんの荷物があるでしょう?」
シーン外のエルド:
あーあ。完全に信頼度が低下していますね。
GM:
こうして、2人はジャフェルとナターリアに挨拶を済ますと、生家を離れてイスパルタ市内へと向かって行ったのでした。
シーン外のイーサ:
終り? このシーンはこれで終りなのか?
シーン外のエルド:
まあ、明らかにイベントを潰してしまいましたからね(苦笑)。
アゼル:
うっ……。