LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第2話(03)

GM:
 では、朝6時を少し過ぎたころになります。アゼルとニルフェルが開かれたばかりの市門を潜っていこうとすると……。ん……? ちょっと待ってください……。
(少し考えてから)
 あまり時間を掛けずに家をでちゃいましたから、市門につくのはまだ6時を過ぎる前ですね。そうすると、アゼルとニルフェルは、市門が開くのを待っていたセルダルに追いつきます。

セルダル(GM):
「お、2人とも。思ったよりも早かったな。ちょーどこれから市門が開くところだ」

アゼル:
「あ……ああ。そうか……」

セルダル(GM):
「ニルフェルちゃん、おっはよー!」

ニルフェル(GM):
「おはようございます、セルダルさん」

GM:
 3人が挨拶を交わしている直ぐそばで、ガラガラガラと市門を引き上げる鎖の音が鳴り響き、それに続いて門兵が「通って良し!」と大きな声を張り上げました。

セルダル(GM):
「特に寄り道するところはないよな?」

アゼル:
「そうだな」
 寄り道せず、商人ギルドの寄り合い所に向かおう。

ニルフェル(GM):
 では、ニルフェルも2人の歩みに従いはするのですが、途中途中で足を止めると、ジッと街並みに目を向ける姿が見受けられました。それは、まるでその風景をすべて目に焼き付けようとしているようです。

アゼル:
 ……。

GM:
 特になにもなければ、予定の時間の少し前に寄り合い所にたどり着きました。

アゼル:
 きっと、アゼルはそんなニルフェルの行為に気づいていない。

 壁の傷を思い出すことに失敗したアゼルは、完全に後ろ向きモードに突入してしまったようです。こういった人の心の機微に鈍感なところなどは、伯父のジャフェルと良く似ているのかもしれません。


GM:
 では、アゼルたちが寄り合い所に入っていくと、そこにはすでにシシュマン、サブリ、アルの3人に加え、そのほかに2人の人物の姿がありました。

イーサ:
 アルが居るなら俺も先に着いていることにしよう。

GM:
 それなら、イーサも加えて寄り合い所にいたのは合計6人ですね。

アゼル:
「おはようございます」

イーサ:
「おう。やっと来たか。見たことない顔もあるみたいだが、そっちの譲ちゃんは?」

アゼル:
「ツレのニルフェルだ」

イーサ&シーン外のエルド:
 ツレ(笑)!?

イーサ:
「ほう。そういや、前にもツレと一緒に王都まで行くとか言ってたっけな。しかし意外だな。嫁さんが居たのか」

アゼル:
「いやいやいや、従妹だ!」

イーサ:
「なんだ。ツレだなんて言うから勘違いしちまったが従妹か。ニルフェルって言ったか? 俺はイーサだ。よろしくな」

ニルフェル(GM):
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 ニルフェルは笑顔で挨拶を返しました。
「兄からお話はうかがっています。野盗退治に協力してくださった方だって」

イーサ:
「まー、俺はアゼルやセルダルほど活躍してないがな」

ニルフェル(GM):
「戦いのことももちろんですが、それよりも、イーサさんが野盗と戦うために皆さんの協力を仰いでくださったことを兄は感謝していました。兄は昔から剣の稽古ばかりで、ほかの人とお話するのがあまり得意ではないんですよ」

シーン外のエルド:
 それって、完全に脳筋に対する評価じゃないですか(苦笑)。

アゼル:
「はははははは……」

ニルフェル(GM):
「だから、皆さんの協力を取り付けることができたのは、イーサさんのおかげだったって話していましたよ」

イーサ:
「たしかに、アゼルはあまり口が達者じゃないようだが……。それとは別に、あのときは何か人を引き付けるようなものを感じたからな。協力してやりたいと思ったんだ」

ニルフェル(GM):
「本当にありがとうございました。ぜひ、これからもよろしくお願いします!」そう言って、ニルフェルはペコリと頭を下げました。

アゼル:
 こうやって、アゼル以外の人の手によって、アゼルの人脈が強化されていくのだ。

シーン外のエルド:
 見事に他力本願ですね。

アゼル:
 むぅ。ならば自分からも動こうか。ニルフェルをシシュマンさんのところへ連れて行き、紹介しておこう。
「こちらがこれからお世話になる隊商長のシシュマンさんだ」

シシュマン(GM):
「おう。よろしくな。こっちも紹介しておきたい奴らがいるんだ」そう言うと、シシュマンは部屋の奥に座っているフードを被った2人の人物のうち、ひとりを呼び寄せました。

フードを被った男(GM):
 近づいてきた人物は、エルドのように黒い肌というわけではありませんが、随分と日に焼けた肌をしています。その人物がアゼルの目の前まで来てフードをとると、その下からボサボサの髪をした男の顔があらわれました。その顔つきから30歳前後であることが予想されます。
「今回の隊商に参加することになったギズリだ」男はそう挨拶すると、部屋の奥に座ったままのもうひとりのほうを指差して、「んで、あっちにいるのがオレの相棒のジェザな」と付け足します。

ジェザ(GM):
 ジェザと呼ばれた人物は、睨みつけるような鋭い目をあなたたちへと向けました。フードの中には、豊かに蓄えられた髭が見えます。ジェザは、挨拶のつもりなのかかすかに頭を動かすと、再び顔を背けてフードを深く下ろしました。

ギズリ(GM):
「まあ、あんな感じで愛想のない奴なんだが……。とにかく、ヨロシクたのむわ」

アゼル:
「わかった。よろしく頼む」

シシュマン(GM):
「ギズリは商人ギルドに所属する商人だ。身元はワシが保証する」

アゼル:
「なるほど。それなら安心だな」

サブリ(GM):
 一通りの挨拶が終ると、そばにいたサブリが口を挟んできます。
「なぁ、ギズリよ。お前は、今でも調度品を扱ってんのか?」

ギズリ(GM):
「オレが扱えるもんって言ったらそれくらいですから。取り揃えてるのは、未開地の奇妙な置物とか、怪しげな呪い道具とか、そんなんばかりです。オレには、サブリさんやシシュマンの旦那が扱ってるような学が必要になるような品物の価値はいまいちよくわかんないもんで……」

サブリ(GM):
「やっぱりな」
(一度、周囲の面々を見渡してから)
「こいつは旅好きが高じて、旅費の足しにするために行商を始めたっていう、商人って呼ぶには半端な奴なんだ」

ギズリ(GM):
「仰るとおり。まったくもって反論の余地もない」
 ギズリは乾いた笑いを浮かべながら頭を掻きました。

アゼル:
 このサブリさんの先輩風の吹かせかたは、つい先日まで泣きが入っていた人のものとは思えないな(苦笑)。

シシュマン(GM):
 そんなところで、シシュマンが一同の顔を順々に確認していきました。
「まだ姿を見せてない者もいるようだが……」そう言うと、シシュマンは窓から外に顔を出して、太陽の位置を確認します。

アゼル:
「エルドがまだ来てないな」

イーサ:
「野盗と戦いで随分消耗したようだったからな。寝坊してるんだろ」

シーン外のエルド:
 そろそろ6時半くらいにはなりましたか?

GM:
 はい。これ以降であれば、好きなタイミングで入ってきてください。

シシュマン(GM):
「ふむ。仕方ない。遅れている者にはあとで個別に説明するとして、ここに居る者にだけでも今回の行程について説明しておくとしよう」
(その場に居る者たちの顔を見渡してから)
「まず、あらためて自己紹介をしておこう。ワシが今回の隊商長を務めるシシュマン・セレンゲルだ。それと、護衛長を紹介しておく」そう言って、シシュマンはアルに目配せして挨拶を促しました。

アル(GM):
 紹介されたアルは小さく咳払いすると、次のように挨拶します。
「今回の護衛長を任されたアルだ。とは言っても、俺が護衛として同行するのはカルカヴァンまでだ。その先については再編成してもらうことになる。そんなわけだから、1週間程度の付き合いだとは思うが、よろしく頼む」

シシュマン(GM):
「それじゃ、続いてカルカヴァンまでの行程を確認しておこう」そう言うと、シシュマンは部屋の中央にあるテーブルの上にカーティス王国の地図を広げ、右手に炭筆を構えました。
「隊商はイスパルタを出発したのち、南アルダ街道を北西に進み、カルカヴァンを目指す。ここまではおおよそ5日間。南アルダ街道は、街道と名がついているものの踏み固めただけの荒地だ。それに距離が長く、イスタス跡地を過ぎれば、カルカヴァンの衛星都市までのあいだ途中に休めるような集落もなければ、水を補充できるような場所もない。旅慣れない者にとってはかなり堪える行程になるだろう。水と食料に関しては余裕を持って7日分を準備する予定だ。それら水と食料、そして肝心の商材を運ぶのに、今回は荷馬車を2台と馬を5頭を用いる」

サブリ(GM):
 シシュマンがそのように説明すると、すかさず「そのうち荷馬車1台と馬2頭は俺が用意したもんだからな!」と、サブリがアピールを入れました。

ギズリ(GM):
 ギズリもまた、そんなサブリに続いて声をあげます。
「旦那方。一応、オレのつれてるロバも頭数に入れておいてくれよな」

アゼル:
「ロバか……。そのロバにも荷物を積むのか?」

ギズリ(GM):
「ああ、そうだ。ロバだからって舐めてもらっちゃ困るぞ。長年連れ添ってるオレの相棒なんだからな」

アゼル:
「なるほど」
 そのロバは荷物を積んだうえで人も乗れるのか?

GM:
 荷物の量によりますね。ロバの積載重量は100キロ程度です。輸送手段としてだけでみれば、ロバは水と食料の消費が少なく、足場も選ばないので馬よりも優秀ですよ。

アル(GM):
「ちなみに、馬のうち1頭は周辺警戒のために護衛隊の方で使わせてもらうことになっているからな」

シシュマン(GM):
「まあ、そういうことだ。その足で、1日に進む距離は40キロを想定している」
 そこまで言うと、シシュマンはアゼルとセルダルの顔を見てから、「たしか、お前さんらは旅をするのは初めてということだったな。それじゃあ、いまのうちに詳しい説明をしておくとしよう」と、行軍についての詳細な説明をしてくれました。

 ここからシシュマンの言葉を借りたGMからの行軍処理に関するシステムの細かい説明が始まりました。

 予定される途中4箇所の野営予定地点の確認。1日で40キロ進むのに必要となる移動速度と、それを維持するための装備重量毎に異なる疲労の蓄積量。護衛の仕事を務めつつも確保できる休息時間とそれによる疲労の回復量。地形や天候が移動速度や疲労の蓄積量に与える影響……などなど。

 LOSTの行軍管理はほかのシステムと比べるとかなり細かいです。そして、綿密な行軍計画を練らないと多くのペナルティを被ってしまいます。これは実に面倒にして厄介なルールであり、セッションの内容によっては簡略化されることの多い箇所ではありますが、その一方で、行軍計画とその実行、そしてアクシデントが発生したときの対応などには、これぞまさに冒険と呼ぶに相応しい楽しさがあります。特に、今回はウィルダネス・アドベンチャー主体のキャンペーンですから、このキャンペーンにおいて行軍管理を簡略化するつもりはまったくありません。とは言っても、初めての行軍でそのすべての管理をプレイヤーに任せてしまうのではプレイヤーに掛かる負担が大きすぎます。そのため、今回は隊商長であるシシュマンが行軍を取り仕切り、プレイヤーにはそれを見て今後の参考にしてもらうことにしました。

アゼル:
 鎧の重さが行軍速度に影響するのか……。革鎧に換えておいたほうがいいかな?

シーン外のエルド:
 アゼルさんの性格だと、身体の鍛錬になるからといって金属鎧のまま旅するんじゃないですか?

GM:
 前回、イスタスまでの往復は経験しているわけで、それを踏まえて体力的に難しいと判断したなら革鎧にするのもおかしくないと思いますよ。

シーン外のエルド:
 いえ、アゼルさんはそんな弱音は吐きません(断言)!

アゼル:
 うむ。よし、俺は金属鎧を装備して行く!

シーン外のエルド:
 では、あとで日記に「あのとき、鎧の選択を誤らなければ、こんな悲劇は起こらなかったのに……」と書いておきますね。

アゼル&イーサ:
(爆笑)

シシュマン(GM):
「最後に、街道は見晴らしのいい一本道で迷うこともないだろうが、砂嵐が発生したときだけは注意して欲しい。その場合は、一切移動せずにその場で待機だ。下手に移動して砂漠側に進んでしまうと、現在地を見失うかもしれんからな。さて、事前の説明としてはこんなところだが、何か聞いておきたいことはあるか?」

イーサ:
「大丈夫だ。問題ない」

エルド:
 事前の説明が一通り終わったようなので、ここらへんで登場しておきます。目の下に真っ黒な隈を作って、見るからに疲弊した様子で寄り合い所に入って来ました。
「おはようございます。遅れました……」
 たしか、中央のテーブルには地図が広げられているんでしたよね? それを確認すると、「もう説明は終わってしまったようですね」と口にします。

アゼル:
「そうだ。ちょうど今さっきな。しかし、大丈夫か、エルド? 酷い顔だぞ」

シシュマン(GM):
「おい、アゼル。道中、時間を見つけて、さっきワシが説明したことをエルドにも伝えておいてくれ」

アゼル:
「わかりました」

エルド:
「アゼルさん、よろしくお願いしますね」

シシュマン(GM):
「よし、それじゃあ、全員集まったところでこれから荷積みを始める! それが済んだらエルバート寺院に旅の無事を祈りに行ってから出発だ!」

アゼル:
 その荷積みは俺たちも手伝わなくちゃならないのか?

GM:
 もちろんです。商人ギルドの隊商では参加者全員が協力して雑用を行うのが普通です。まあ、手を貸さずに眺めていても構いませんが、その場合は孤立しますからね。

アゼル:
 それじゃ、率先して手伝おう。

エルド:
 僕も体力的には全快してるので手伝います。

GM:
 ならば、あなたたちが積み込むこととなった荷物は、シシュマンの商材である武具とサブリの商材であるとても重量のある木箱でした。全員で手分けしても、なかなかの重労働です。

ジェザ(GM):
 ちなみに、隊商参加者のほぼ全員が荷積みに協力する中で、ジェザだけが離れたところからそれを傍観していました。

アゼル:
 俺は荷済みに集中していて、ジェザさんがさぼっていることには気がついてない。

エルド:
「あの……アゼルさん。見慣れない人も居るみたいですけど……同行者が増えたんですか?」

アゼル:
「ああ。あそこに居るのが行商をやってるギズリさんで……あっちに居るのがその相方のジェザさんだな。調度品を扱ってるそうだ」

エルド:
「へぇ。そうなんですか」と言って、ギズリさんとジェザさんのことをチラチラと眺めておきます。

ニルフェル(GM):
 そんな話をしていると、ニルフェルが近づいてきて、エルドに対してペコリと頭を下げました。
「はじめまして」

エルド:
「はじめまして。――ってどちら様ですか?」

アゼル:
 あ、こっちの説明を忘れてた(苦笑)。
「俺の従妹のニルフェルだ」(ニルフェルに対して)「彼がエルドだ」

ニルフェル(GM):
「兄がお世話になっています」

エルド:
「あ、いえ。こちらこそ」

ニルフェル(GM):
「兄が無茶なお願いをしたばかりにたいへんな目にあわせてしまったようで、申し訳ありませんでした」

エルド:
「いえいえ。結果オーライですよ」

ニルフェル(GM):
「そういえば、兄が落とした聖印を拾ってくださったのもエルドさんなんだそうですね?」

アゼル:
「そうなんだ。エルドはとても良い奴なんだ」

エルド:
「あのときのアゼルさんの狼狽っぷりといったらなかったです。よっぽど大切なものだったんですね。運よく見つかってよかったです」

ニルフェル(GM):
「兄は暇があれば剣の修行ばかりして、他のことになると間が抜けてるんです。これからも兄のことをよろしくお願いします」

エルド:
「あー。よくわかります」

アゼル:
 年下のニルフェルに心配されてしまう兄であった……。

GM:
 そうこうしてるうちに、荷積みが終わりました。ちなみに、100リットルの水が入る樽を10個積み込んでいます。途中で給水するので、今はほとんど空ですけどね。

エルド:
 樽の数が随分多いですね。

GM:
 ええ。馬の消費する水の量がとてつもなく多いんですよ。途中、水場のない南アルダ街道ならではの旅支度ですね。
 さて、こうして荷済みを終えたあなたたちは、次にシシュマン先導のもとでエルバート寺院へと向かったのでした。




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