GM:
イスタス市街跡地は、先日まで鼻曲がりのカダ率いる野盗たちが巣くっていたところですね。南門からさほど中央に入らないところに状態がしっかりした建屋を見つけると、一行はそこで休憩をとることにしました。
シシュマン(GM):
「よーし。それじゃあ、いったん荷台から商材を降ろすぞ。それが済んだら、誰か2人、ワシと一緒に北の泉まで行って水汲みを手伝ってくれ。ほかの者は水汲みが終わるまでここで休憩だ」
アゼル:
ちなみに、ここではどれくらいの時間休憩する予定なんだ? もし3時間以上休んで精神点を回復させられるなら、イーサとエルドは休んでおいたほうがいいだろ。
GM:
シシュマンから聞いていた計画では、昼食を含めて2時間の休憩となっていました。2時間では精神点の回復はできませんが、疲労の回復には影響しますからそこは忘れずに。
アル(GM):
「水汲みの手伝いのひとりは俺が担当しよう。馬に乗っていた分、そこまで疲れてないからな」
エルド:
「では、僕も手伝います」
シシュマン(GM):
「じゃあ、早速行くとしよう。1時間程度で戻ってこれるだろうから、それから昼食にする。そのあいだ、休憩組みは食事の準備を頼むぞ」
GM:
こうして、シシュマンはアルとエルドを伴い、2台の馬車で水を汲みに行きました。水汲み場となる泉は同一マスにあるので、遭遇判定は免除しておきますね。
エルド:
水汲みに向かう途中でアルさんに話しかけます。
「アルさん。ひとつ気になったことがあるんですが……。イスパルタを出てからというもの、ジェザさんがやけに後方を気にしているみたいなんですよ……」
アル(GM):
「そうか……。いったいなんだろうな?」
エルド:
「戻ったら、ジェザさんに直接聞いてみますか?」
アル(GM):
「まあ、いまのところそこまで気にすることもないと思うが……。それでも気になるようであれば、しばらくの間、注視していてくれ」
エルド:
「わかりました」
GM:
はい。では一方そのころ。食事の用意を頼まれた居残り組みではありましたが、基本的に保存食しか手元になく、調理といってもたいしたことができないので、すぐに準備は完了してしまいました。
サブリ(GM):
シシュマンが居なくなると、そのかわりにサブリが場を仕切り始めます。
「シシュマンたちが戻ってくるまで、まだ時間があるな。自由時間ってことで、各自好きなように休憩をとってくれ。ただし、街の外には出るなよ。危険だからな」
アゼル:
「うむ。わかりました」
イーサ:
そうすると、空き時間は1時間くらいか……。
ニルフェル(GM):
「もし皆さんが良ければ、そのあいだに何か演奏しましょうか?」
アゼル:
そうか。ニルフェルはバード技能を持ってるんだな。
「それじゃ、なにか1曲頼む」
ニルフェル(GM):
ニルフェルは荷物の中から長いネックを持つ弦楽器を取り出すと、「では、まだまだ未熟ではありますが、失礼して」と断りを入れ、謙遜のわりには慣れた手つきで演奏を始めました。用いている楽器はこの地方でよく見られるサズと呼ばれるものですね。
アゼル:
目を閉じてニルフェルの演奏に聞き入っていよう。
ハージ(GM):
サズの音が響く中、ハージが「私は少し周りの風景を見てきますね。食事までには戻ります」と言って、建物の外へと出て行きました。
アゼル:
むっ。ハージさんのことが気になるが、俺は曲を聴く気満々で目を閉じてしまったからなぁ……。
セルダル(GM):
セルダルは建物から出て行くハージを目で追うと、「いくら市壁内とはいえ、ここは廃墟だ。女ひとりで出歩くのはちと危険なんじゃねぇか?」とアゼルに向かって呟きました。
アゼル:
「それもそうだな」
仕方ない。追いかけるか。
イーサ:
「いや、お前はツレの演奏を聴いていたいんだろ? ここは俺が行ってくる」
アゼル:
「そうか? なら頼む」
イーサ:
それじゃ、ハージさんのあとを追いかける。
GM:
イーサが建屋の外に出てみると、通りを南西の方へと進んで行くハージのうしろ姿が見つかります。ちょうど建物の角を曲がって姿が見えなくなる直前でした。
イーサ:
走って追いかけて、うしろから声を掛けよう。
「ハージさん。市壁内とはいえ、ここをひとりで出歩くのは危険だ。俺も一緒についていこう」
ハージ(GM):
声を掛けられたハージは振り返ってイーサのことを見ると、「えーと……」と、申し訳なさそうな表情をして口ごもりました。
シーン外のエルド:
もしかして花摘みでしたか(笑)?
GM:
いえ、そういうわけではなく……。
ハージ(GM):
「あの……。ごめんなさい。お名前を伺ってもよろしいですか?」
イーサ:
「俺はイーサ」
ハージ(GM):
「イーサさんですね。ご心配をおかけしてしまいすみません」
(少し考えてから)
「では、お言葉に甘えて護衛をお願いします」
イーサ:
「ああ。任せてくれ」
GM:
こうして、あなたはハージの後に続いて風化した街の中を歩いていくことになります。どうやら目的地は決まっているようで、彼女はしっかりした足取りでイスタスの街並みを進んでいきました。
イーサ:
「イスタスに来たのは初めてじゃないのか?」
ハージ(GM):
そう問われると、ハージは一瞬だけ憂いを帯びた表情を見せ、コクリとうなずきました。
GM:
ハージの歩みはある建物跡の前で止まりました。馬屋程度の小さな建物です。
ハージ(GM):
ハージは所々崩れた建屋の外観を懐かしむような目で一通り眺めると、「ずいぶん風化してしまっていますが、まだ中に入れるみたいですね。入ってみましょう」と言って、あなたの答えを待つこともなく建物の中へと足を運んでいきました。
イーサ:
「あ……ああ……」
GM:
建物の中に入ってみても、風化している以外に特に変わったところは見当たりません。天井にはところどころ崩れている部分があり、すでに雨風を防げる状態ではありません。ハージはじっくりと時間をかけ、何の変哲もない壁や床や天井などに目を向けています。
イーサ:
イスタスが廃墟になったのはどれくらい前のことなんだ?
GM:
それでは、イーサがイスタスに関する知識を有しているかどうかの判定をしてみましょう。《スカラー技能レベル+知力ボーナス+2D》で目標値は10です。
イーサ:
(コロコロ)おっ! 6ゾロ!
GM:
素晴らしい! スカラー技能の累積経験点に50点追加してください。では、イーサはイスタスが廃墟になった経緯について次のような知識を有しています。
イスタスが完全に放棄されたのは宮国暦32年のことなので、今から15年ほど前のことになります。放棄されるさらに6年ほど前に、カーティス王国軍と旧ヤナダーグ・プラト地方の支配者とのあいだで平定戦争が行われました。その戦いにおいて、最後の砦となったのが城塞都市イスパルタであり、旧支配者の勢力はイスパルタに篭城する前に焦土作戦を実施し、それを逃れたわずかな土地もカーティス王国軍の徴発対象となりました。その結果、戦後もイスパルタ周辺の衛星都市は復興できず、次々に放棄され、ヤナダーグ・プラト地方の南部はイスパルタに一極集中化することとなったのです。
なお、平定戦争時にカーティス王国の二代目国王である武王アルダが、旧カルカヴァンやイスパルタを攻めるにあたり、兵や物資を送るために作らせたのがアルダ街道です。現在では、カルカヴァン以西の街道は西アルダ街道、カルカヴァン以南の街道は南アルダ街道と呼ばれています。
イーサ:
なるほど。
「さすがに10年以上も放置されてると酷いありさまだな。人が住んでない街ってのは、なんだか寂しげだ」
ハージ(GM):
「そうですね……。でも、昔は活気があって良い街だったんですよ」
イーサ:
「今のこの状況からじゃ、全然想像がつかないな」
ハージ(GM):
ハージは壁際でしゃがみ込むと、壁に引かれた2つの傷跡を懐かしそうに手でなぞります。
「実はここ、私が幼い頃に住んでいた家なんです」
イーサ:
「……そうなのか……」
ハージ(GM):
「物心がついてしばらくのあいだはここで暮らしていました。その後はイスパルタに行ったりほかの街に行ったりで、転々としてきましたけど……」
イーサ:
「あんたも結構苦労してきたんだな」
ハージ(GM):
ハージは大きく頭を振ってから立ち上がります。
「私だけじゃありません。ヤナダーグ・プラトに済む人たちは、大なり小なり、皆苦労していますよ……」そう言って、ハージはイーサのほうへと歩み寄ると、その顔をじっと見つめました。
「イーサさんはどちらの方なんですか?」
イーサ:
「オレは……中原、マーキ・アシャス地方の小さな村で育ったんだ。何もないところさ。本当に何もなくて退屈なところだったから、ほかの街を見てみたくて旅をはじめたんだ」
ハージ(GM):
「マーキ・アシャス地方にはいまだに現地の神を信奉する人たちが残っている集落もあるという噂を耳にしたことがありますが、もしかして寺院でエルバート神に祈りを捧げていなかったのはそのためですか? あなただけ、皆さんとは離れたところに立っていたでしょう?」
イーサ:
見られていたのか(苦笑)。ハージは巡礼してるくらいだから敬けんなエルバート信者なんだよな……。
「敬けんなエルバート信者であるあんたには言いづらいんだが、俺は100年も前にどっか行っちまった神様に祈りを捧げるって行為に意味を見いだせなくてな」
シーン外のアゼル:
あれ? イーサはエルバート神の信者ではなくても、ホワイト・マジシャンなんだろ? 中原のハルヴァ神を信仰してるんじゃなかったのか?
イーサ:
育ての親である婆さんに教え込まれたから白魔法は使えるが、信仰心はない……という設定だ。
GM:
LOSTの白魔法はあくまで技術なので、信仰心がなくても使えるんですよね。ただし、寺院で魔法を教えてもらうためには信仰心を示す必要がありますけど。
ハージ(GM):
(少し考える素振りを見せてから)
「確かに、今は100年前とは違い、神の存在は遠いものとなってしまいました。ですが、それでも高い信仰心を持てば、神の祝福を受けることができるはずです。であれば、今回の巡礼の旅を完遂することで、神を身近に感じることができるのかもしれない。私はそのように考えているのです。あなたにはくだらないと思われるかもしれませんけど……」
イーサ:
「……」
ハージ(GM):
「根拠があっての考えではありませんが、でも、そう考えていたほうが幸せじゃないですか」そう言うと、ハージは顔を少しかしげた状態でほほえんで見せました。
GM:
ここで、《スカラー技能+知力ボーナス+2D》の判定を行ってみてください。目標値は7です。
イーサ:
それなら技能なしでも成功しそうだな。(コロコロ)10だ。
GM:
では、イーサの目にはハージの髪の奥に鈍く光る古びたイアリングが映りました。あなたにはそれがとても安物であるように見えます。鋳型に純度の低い金属を流し込んだだけの二束三文のガラクタですね。
イーサ:
なるほど。
(少し考え込む)
ハージ(GM):
「ヤナダーグ・プラトを離れる前に、再びここを訪れることができてよかったです。では、そろそろ皆さんのところに戻りましょうか?」
イーサ:
「あ、ああ……」
(間を空けてから)
「それ、だいぶ古そうだな……」
ハージ(GM):
「え?」
イーサ:
「いや、随分と古びたイヤリングをしているなって……。あんただったら、もっと華やかなキラキラしたもののほうが似合うんじゃないか?」
シーン外のアゼル:
キラキラって、もっと別の言い方はなかったのかよ(笑)。
GM:
いや、キラキラって表現は田舎の出であるイーサの素朴さが出ていてとても良いと思いますよ。
ハージ(GM):
ハージはイーサのその言葉にはにかみました。
「確かに古いものですが……これは……大切なものなんです」
イーサ:
「そ、そうなのか……?」
ハージ(GM):
(少し考えてから)
「……でも……もしほかのものをつけるとしたら、どのようなものが良いと思いますか? 良かったら参考に教えてください。今度大きな街についたら、安くて良いものがないか探してみますから」
そんなことを話しながらハージは建物の外へでると、そのまま休憩場所の方へと足を進め始めました。
イーサ:
そのあとについて休憩場所まで戻るとしよう。
シーン外のエルド:
なんか、思っていたよりイーサさんは口下手でしたね(笑)。