隊商がイスパルタを離れて初の野営。そしてはじめての見張り番。闇夜から何者かが襲撃してこないか緊張しつつも、キャラクター同士の人間関係を深める時間が過ぎていきます。
GM:
さて、見張り番の3組目はアゼルとエルドです。
セルダル(GM):
肩で息をするセルダルが、アゼルとエルドを起こします。
「そろそろ交代の時間だぞ」
アゼル:
うむ。起きよう。
エルド:
僕もノソノソと起きだします。
セルダル(GM):
2人と入れ替わりにテントに入ったセルダルは、そのまま倒れこむように就寝しました。
エルド:
起きたときに精神点の回復判定をしておきます。
GM:
エルドが寝る前にニルフェルが心休まる音楽を演奏していましたので、環境ランクにボーナスが付きます。(コロコロ)環境ランクを2つ良くしてください。
エルド:
助かります。(コロコロ)精神点が3点回復しました。
アゼル:
「お、エルド。随分と顔色が良くなったじゃないか。もう十分休めたか?」
エルド:
「おかげさまで、だいぶ休ませてもらいましたから」
GM:
そんな2人の耳に、猫が喉を鳴らしているかのような雷鳴が聞こえてきます。
アゼル:
天候予測しておこう。(コロコロ)うっ、10にも届かない。わからなかった。
「どうやら雲行きが怪しくなってきたようだな」
エルド:
「そうですね。雷が近くに落ちるようなことがなければ良いのですが……。このあと、雨も降ってきますかね?」
アゼル:
「どうだろうな。降らないといいが……。そういえば、エルドは旅慣れてるのか?」
エルド:
「いえ、そんなことはありませんよ。まったく経験がないというわけではありませんが、そんなに遠くまで旅したことはないんです。野営なんてするのは今回がはじめてですし」
アゼル:
「そうだったのか。エルドはどこの生まれなんだ?」
エルド:
えーと、どこにしよう……。
アゼル:
あ、まだ決めてなかったのか?
GM:
前回アルに対して自己紹介したときには南方の生まれって話してましたね。
エルド:
うーん。では、今回も「南方の出身です」
とだけ答えておきましょう。
「元奴隷なので、今でも以前の主人から小間使いのように仕事を頼まれることが多いんですよ」
アゼル:
「そうか。お前も苦労してきたんだな……」
クルト家も裕福ではなかったが、この面子の中でみると俺は結構恵まれた環境で育ってきたようだ。
GM:
それはもちろん。雲泥の差です。
エルド:
「ところで、アゼルさんはどこまで行くつもりなんですか?」
アゼル:
「ん? エルドにはまだ話してなかったか? 俺たちは王都まで行く予定なんだが……」
エルド:
「あ、それじゃ僕と同じですね。僕も王都まで行かなくてはならないんです」
アゼル:
「それなら王都まで一緒に旅できるな」
エルド:
「そうですね」
こうしてアゼルとエルドのあいだでも仲を深めるためのたわいない会話が繰り広げられたのですが、本編には関係のない話だったので、ここでは割愛しておきます。
GM:
さて、明け方近くになると、テントの幕がパサリと開いて、中からハージが姿をみせます。
ハージ(GM):
「おはようございます」と挨拶するハージは、テントから出てきた段階で身支度を整え終えており、丁寧にくしが入れられたくり色の髪はまるで絹糸のように滑らかです。
アゼル:
「おはようございます」……と、ハージさんには敬語で返してしまうだろうな。
ハージ(GM):
ハージはそのまま荷台へと向かうと、荷物の中から調理道具や水袋などを取り出してきました。そして、「皆さんが目を覚ます前に、朝の簡単な食事を用意してしまいますね」と言って、あなたたちに優しくほほえみかけます。
アゼル:
「すみません。よろしくお願いします」
ハージ(GM):
「いえ。これくらいしかお手伝いできることがありませんから」
ハージは慣れた手つきで干し肉や干し野菜を水で戻したり、パンを小さく切ってクルトンを作るなどの下ごしらえをするなど、昨晩の食事よりも手間暇かけて、牛肉ベースのスープを作っていきます。
アル(GM):
続いて起き出してきたのはアルでした。アルは朝食の準備をしているハージに目を向けると多少けげんそうな表情を見せますが、とくに何かを口に出すということもなく調理の様子を傍観し続けています。
ニルフェル(GM):
その次はニルフェルがテントから出てきました。
「みなさん、おはようございます。あっ、ハージさん、朝食を作っているんですね? わたしも手伝います!」そう言って、ニルフェルはハージのもとに駆け寄りました。
ハージ(GM):
「いえ、気にしないで。もうすぐできあがるから大丈夫」そう言いながらハージが大きなスプーンで鍋の中をかき混ぜると、そこから食欲を刺激する香りを伴った湯気が立ちます。
シシュマン(GM):
そのような頃合いに、シシュマンが起きてきました。
「おはよう」
アゼル&エルド:
「おはようございます」
シシュマン(GM):
「さっきから遠くのほうで雷が鳴っているようだが、雨は降りそうか?」
アゼル:
「さあ、どうでしょうね……」
アル(GM):
シシュマンが起きてくると、アルはシシュマンに歩み寄って、「シシュマン、ちょっと」と何やら耳打ちをします。
シシュマン(GM):
(小声で)「ああ、わかった。ワシのほうから注意しておこう……」
アルとの話を終えると、シシュマンはハージの近くまで歩いていき、「ハージ。ちょっといいかね?」と声を掛けました。
ハージ(GM):
「おはようございます、シシュマンさん。どうかしましたか?」
シシュマン(GM):
シシュマンは小さく咳払いするとこう口にします。
「うむ。見たところ、汁物の鍋を作ってくれているようだが……朝食を作る前に誰かの許可は得たのかね?」
ハージ(GM):
「えっ、許可ですか?」
シシュマン(GM):
「それだけ大量の水、昨日分配した個人の分で賄えるはずがない。つまり、水樽の中から勝手に使ったというわけだ……。二度と同じことのないようにハッキリと言っておくが、今後、予定されていない水の利用は一切控えて欲しい。それも、ただ水を使っただけならばまだましだが、こんなふうに煮立てる料理を作られてしまっては、貴重な水が無駄になっちまう」
ハージ(GM):
シシュマンの言葉に、ハージは振るえる手で自分の口元を押さえました。
「ご、ごめんなさい……私、そんなことにも気づかずに……」
シシュマン(GM):
「まあ、知らなかったものは仕方ない。朝早く起きて朝食を用意してくれた、その気遣いには感謝してるんだ。ただ、この旅では水がとても貴重なものだってことを頭に叩き込んどいてくれ」
ハージ(GM):
「は……はい……。本当に申し訳ありませんでした……」
シシュマンに対し、ハージは身を小さくして、消え入りそうな声で自分の非を謝罪し続けます。
ニルフェル(GM):
そんなハージの横では、ニルフェルが少し不満気な視線をシシュマンに向けています。
(小声で)「そういうことはもっと早く言ってくれれば良かったのに……」
アゼル:
確かに……と思うが、口には出さないでおこう。
アル(GM):
一連のやり取りを見ていたアルは、満足そうにうなずいています。
一同:
……。
GM:
……。
ここでGMはハージに肩入れするPCが出てくるかと思い、しばらく間をおいたのですが、誰も動く気配がなかったため、NPCにその役を任せることにしました。
ギズリ(GM):
あたりに少し気まずい空気が流れる中、それをぶち壊すようなギズリの声が響きます。
「おう、おはよ~! みんな早いな!」
はみ出したシャツを無理やりズボンの中に押し込みながら歩み寄ってきたギズリは鼻をスンスンと鳴らし、その匂いの元を見つけると、「おおッ! 朝から随分と豪勢なスープだな。うまそ~ッ!」と声を張り上げました。
イーサ:
……俺もそろそろ起きようかな。
「おはよう。もう皆起きてるんだな」と言って、周りを見渡す。
GM:
そうすると、落ち込んだ様子のハージと、そのハージの隣で頬を膨らませているニルフェルの姿が見えます。
ニルフェル(GM):
(小声で)「ハージさんは何も悪いことなんてしていませんよ。気にする必要なんてこれっぽちもありません」
アゼル:
こういうイザコザにはあまり関わりあいたくないから、遠巻きに見ておこう。ハージさんの善意も、水を大切にしなくちゃいけないってことも、どちらもわかる。だが、会話には加わらないアゼル。
エルド:
アゼルさん、さっきからなにをひとりでブツブツ言ってるんですか。フォローに入るつもりがないなら静かにしててください(笑)。
GM:
そんなところで、セルダルとサブリも起きてきました。あとはジェザを残すのみです。ジェザは6時ギリギリになってようやく起きてきました。
こうして全員が揃ったところで朝食の時間となり、各自に温かなスープの入ったお椀が配られることになります。
ニルフェル(GM):
「うん! ハージさん、これ凄く美味しいですよ!」
ギズリ(GM):
「いや、ホント。うんめぇ~ッ! まさかこんな場所でこんな絶品料理にありつけるとは思いもしなかったな!」
エルド:
アゼルさんは、ニルフェルさんと一緒にハージさんのことをフォローしないんですか?
アゼル:
朴念仁の俺にそんなことできるはずないだろ!
イーサ:
いや、それ、朴念仁かどうかは関係ないだろ?
GM:
そうですね。この場合、朴念仁ではなく唐変木と言ったほうが的確なのでは?
イーサ&エルド:
(爆笑)
アゼル:
そ、そうだな……(苦笑)。
エルド:
イーサさんもハージさんのことをフォローしないんですか?
イーサ:
それが……俺も事情を知らない振りをして場の空気を換えようかと思っていたんだが、全部ギズリに持っていかれてしまった……。
GM:
あらら……。せっかくのチャンスがもったいないので、次からは思いついたら積極的に行動するようにしてくださいね(苦笑)。
では、そんな感じで、ハージを気遣うニルフェルと事情を知らないギズリの声だけが聞こえる中、いつしか雷の音は遠く離れ、上空には青い空が広がっていったのでした。