GM:
さて、2日目の行軍を開始することとなった隊商ですが、朝食の出来事があったため、雰囲気は良くありません。
一同:
……。
ギズリ(GM):
「あー、シシュマン。今日はどの辺まで進む予定なんだっけな?」
ギズリはイスパルタ出発前に行軍計画を確認していたにも関わらず、そんなことを聞いています。
シシュマン(GM):
「そうだな。特にトラブルがなければ、今日中にイスパルタとカルカヴァンの中間地点までは行けるはずだ。昼過ぎには道の荒れた区間に入ることになる。そこからは野生動物も多くなるから、これまで以上に気を引き締めていかんとな」
ギズリ(GM):
「そうだよな。気を引き締めないとな」そう言って、ギズリはキョロキョロと周りの面々の顔をうかがいます。
一同:
……。
GM:
そんなギズリの言動に誰も反応を返すことなく、重苦しい空気の中、積荷を積んだ馬車が北西へと進んでいきます。
あからさまにプレイヤーの発言を待ってみたのですがなんのリアクションもなく、ここからしばらくはキャラクターとしての発言がないまま、ひたすら行軍処理だけが行われました。隊商内のイザコザはGMが意図したこととはいえ、PC3人がそろって傍観するこの状況に隊商の行く末を案じずにはいられません(苦笑)。
サブリ(GM):
野営地を出てからさほど時間がたたないうちに、サブリが「なんだか馬脚が鈍いな」とつぶやきながら馬に鞭を打ちました。
「どうした? ほら、頑張れ! まだ2日目だぞ! 先は長いんだから、こんなところでへこたれるな!」
ニルフェル(GM):
そんなサブリの隣に座るニルフェルが「随分と馬が疲れているようですけど、もしかして積んでいる荷物が重すぎるんじゃないですか?」と問いかけます。
サブリ(GM):
「うーん。まあ、重いっちゃぁ、重いんだが……」
ニルフェル(GM):
「積荷の中身は何なんですか?」
サブリ(GM):
サブリは口元に人差し指を当てると、「そいつは企業秘密さ。他の商人たちに真似されちゃ困るからな。はっはっは」とわざとらしく笑います。
ニルフェル(GM):
ニルフェルは、うしろを振り向いて荷台に載せられた木箱に目を向けると、「鉱石ですか?」とさも当然のように尋ねました。
サブリ(GM):
「ど、どうして、そう思うんだ?」
ニルフェル(GM):
「皆さんの商材は、基本的にイスパルタ周辺で入手しやすく、クゼ・リマナ周辺では希少価値があるもののはずですよね。それも、この時期の輸送ですから、腐る心配がないものだと思います。イスパルタを出発する前に、荷積みを手伝わせてもらいましたが、サブリさんの木箱の中身は水よりも比重の重いものであるようでした。それに、サブリさんは随分と高価な品物を運ぶ予定であることを事前に兄から聞かされていましたから……。それらの情報を総合すると、鉱石である可能性が高いんじゃないかと考えたんですけど、違いましたか?」
サブリ(GM):
「かーっ。ニルフェルちゃんは鋭いな。女にしておくのは勿体無い。だが、後生だから、それ以上の詮索は止してくれよ」
サブリはニルフェルとの会話をあやふやのまま終わらせると、再び馬に鞭を入れます。
「さあ、気合入れて頑張れ!」
アゼル:
ここに名探偵が居る! ……となると、これから殺人事件でも起きるのか!? やばい、このままでは主人公の座を奪われてしまう。
GM:
いや、別に名探偵でなくとも、これまでに与えられた情報をまとめれば順当にたどり着く推論だと思いますが(苦笑)。
さて、それからまたしばらく時間が進み、出発から3時間が経過しようかというころ、隊商の先導役を務めるセルダルの声が響きました。
セルダル(GM):
「おい、前方から何か近づいてくるぞ!」
イーサ:
ついに敵が出てきたか?
GM:
前方に目を向けると、遠くのほうにいくつか黒い点が見えてきます。その点は徐々に大きくなり、やがてそれが大規模な隊商であることがわかります。アルはその隊商のほうへと馬を走らせ、しばらくしてから戻ってきました。
アル(GM):
「あれはカルカヴァン方面から来た商人ギルドの隊商だ。30人以上はいるな」
アゼル:
それなら危険はないか。それまで少し緊張した面持ちをしていたが、気を緩める。
GM:
間もなく、2つの隊商は互いに顔が見える距離まで接近してきました。あちらの隊商にも護衛がついているのですが、こちらとは違い全員が馬に乗っています。
シシュマン(GM):
シシュマンが相手の隊商に対して「おう!」と声を掛けると――
隊商長(GM):
「おう、シシュマンじゃねぇか!」と言って、あちらの隊商長も手を振ってそれに応じます。
シシュマン(GM):
シシュマンはうしろを振り返り、「馬を止めろ! 情報交換がてら、ここで昼休憩をとることにしよう!」と声を張り上げます。そして馬車から降りると、相手の方へと歩み寄っていきました。
隊商長(GM):
あちらの隊商長も馬から下りると、「久しぶりだな、シシュマン! 景気はどうだ?」と言って、互いの肩を叩きあっています。
シシュマン(GM):
「こっちはボチボチだ。それにしても、お前さんらは運が良いな。つい先日までこの街道沿いに野盗がでてたんだぞ。それを退治したのが、いまワシらの護衛についてる奴らなんだがな」
隊商長(GM):
「ほう、そいつは助かった!」(声のトーンを抑えて)「実のところ、こっちの護衛は頭数や見かけこそ立派だが駆け出しばかりで、腕前はあまり期待できねぇんだ」
アゼル:
「ふふん(と鼻で笑う)」
エルド:
アゼルさんのその笑いはどうかと思いますけど……。
それより、いまは9時半過ぎですよね? 昼食には早過ぎませんか?
GM:
この時代のカーティス王国では、朝・昼・夕の3度食事するのではなく、午前・午後の2度食事するのが一般的です。ですので、午前の食事をこの時間帯に摂るのが特別早過ぎるということはありません。そういう意味では、今朝ハージが朝食を作ったことのほうがイレギュラーだったんですよ。
さて、シシュマンはあちら側の隊商長と情報交換するため、皆とは離れたところで食事を始めます。
アゼル:
ならば、俺もシシュマンさんに付き添って話を聞きに行くとしよう。
GM:
あ……。そうですか。では、それにアルとあちらの護衛長も加わって、5人で円を作って話をすることとなります。
一方、残されたほかの面々なんですが、食事をとっていると離れたところから「チチチチチ……チチチチチ……」という鳥のさえずりが聞こえてきました。
ニルフェル(GM):
ニルフェルは鳥の鳴き声に反応して空を見上げ、旋回する小鳥を見つけました。
「なんていう名前の鳥だろう?」
GM:
ここで鳥を確認した人は、動植物知識判定を目標値10で行ってください。
シーン外のアゼル:
なんてこった! “動植物知識”を持ってるのに参加できない。
エルド:
これは、邪魔者が居ない間にニルフェルさんと仲良くするチャンスですね(笑)!
イーサ&エルド:
(コロコロ)成功!
GM:
では2人とも、いま上空を旋回しているのがミツオシエと呼ばれる鳥であることを知っています。ミツオシエは蜂蜜を好物とする鳥なんですが、自分の力では蜂の巣を壊して蜂蜜を採ることができないので、ほかの動物を蜂蜜のある場所まで誘導して蜂の巣を壊させ、そのあとで残った蜂蜜にありつくといった、とても特徴的な行動を取ります。ちなみに、この地域のミツオシエは蜂の巣を壊すためにラーテルを呼び寄せます。
ニルフェル(GM):
「うーん。ヒバリかな?」
エルド:
「あの鳥はミツオシエですね。蜂蜜が好物なんですが、自分では蜂の巣が壊せないから、ああやって鳴きながら同じところを旋回して、ほかの動物を呼び寄せているんです。そうやって寄ってきた動物に蜂の巣を壊させておいて、その残骸から蜂蜜をとるんですよ」
ニルフェル(GM):
「そうなんですか!」
ニルフェルは目を輝かせながらエルドのことを見て、感嘆の声を漏らします。
「頭が良いんですね――」
エルド:
(頭をかきながら)「いえ、僕もたまたま知っていただけで――」
ニルフェル(GM):
「――ミツオシエって」
シーン外のアゼル&イーサ:
(爆笑)
エルド:
クソッ、やられた(笑)!
ニルフェル(GM):
「あ……」
重なってしまった言葉の掛け違いに、ニルフェルは少し気まずい顔をすると、「……エルドさんって物知りですね」と続けます。
エルド:
うわぁ、フォローはやめてください。かえって悲しくなってくる(泣)。
ニルフェル(GM):
「でも、一体どんな動物を呼び寄せてるんでしょう? 危険な動物とかだと困りますけど」
エルド:
(しょんぼりしながら)イーサさん、あとはよろしくお願いします。僕のライフポイントはすでにゼロです……。
イーサ:
そこでオレに振るか!?
「えーと、確かこのあたりだとラーテルっていう穴熊だな」
ニルフェル(GM):
「ラーテルですか……。名前は聞いたことはあるんですが、わたしまだ見たことがないんですよ……。そうだ、近くまで行ってラーテルが蜂蜜を採るところを見ることはできませんか?」
ニルフェルは目を輝かせながら、空を旋回するミツオシエを眺めています。
イーサ:
「ふむ。そうだな、場所も近いようだし、ちょっと様子を見に行ってみるか?」そう言って、ミツオシエが飛んでるほうへ歩いていく。
エルド:
僕はついていきませんからね。
ニルフェル(GM):
ニルフェルは嬉しそうな顔をすると、イーサのあとについていきました。
GM:
そんな2人のことを、少し離れたところから眺めているハージの姿があります。その場に残ったエルドには聞き耳判定を行ってもらいましょう。目標値は10です。
エルド:
(コロコロ)11で成功です。
GM:
それでは、エルドの耳にハージの漏らした言葉が聞こえてきました。
ハージ(GM):
(小声で)「お嬢様育ちなのね。まだ知らないことばかりで、何を見ても新鮮に感じられる頃なのかな……」
シーン外のアゼル:
うむ。その通りだ。
エルド:
そんな言葉が聞こえてきたのなら、ハージさんのところに近づいていって話しかけてみましょう。
「では、あなたの目にはどのように見えているのですか?」
ハージ(GM):
唐突に声を掛けられたハージは、驚いた様子でエルドを見ました。
エルド:
「ああ、すみません。突然声を掛けてしまい、びっくりさせてしまったようですね」
ハージ(GM):
「いえ、こちらこそ。少し大げさに驚いてしまったようでごめんなさい」
エルド:
「かまいませんよ。実は、先ほどハージさんの声が耳に入ったもので……」
ハージ(GM):
「あ、ああ……。あれは……なんというか、若い娘の姿を見ていたら、つい……」そう言って、ハージは恥ずかしそうに苦笑します。
エルド:
「ハージさんだって、まだまだ若いじゃないですか」
ハージ(GM):
「そう言ってもらえるのは嬉しいけれど……」と言って、ハージはエルドの顔を見ます。
「キミと比べると、そう若いとは言えないかな。キミはまだ十代なんでしょう?」
エルド:
「そう見えるのであれば、そう思ってもらって構いません」
ハージ(GM):
「……」
まだエルドが何か話しかけてくるものだと思って、ハージはあなたの言葉を待っています。
エルド:
え? どうしましょう。何を話せば良いかわかりません。声を掛ければハージさんのほうから話題を振ってくれると思っていました(汗)。
GM:
なんですか、それは(苦笑)。しかたないですね、ではハージの方から話題を提供しましょう。
この後、2人はたわいない世間話を続けたのですが、物語に関わる話には至りませんでしたので割愛します(苦笑)。
エルド:
これでハージさんのエルドに対する好感度が5アップしましたね!
シーン外のアゼル:
そうかなぁ(苦笑)?
GM:
さて一方、ミツオシエの飛んでいる方向へと歩いていったイーサとニルフェルでしたが、ミツオシエの居る場所にほど近いところで、首を持ち上げてミツオシエを見ながらヒョコヒョコと歩いているラーテルの姿を見つけました。
そのラーテルはしばらくミツオシエを見上げていたのですが、やがて目の前にある岩と岩の隙間に何かを見つけ、その穴の中へ手や頭を突っ込み始めます。すると、穴の中からいっせいに耳障りな羽音が聞こえだし、蜂が姿を現しました。こうして、蜂とラーテルの戦いが始まります。蜂の攻撃は強烈で、ラーテルは蜂の攻撃を受けると、転がりまわって痛がります。
シーン外のアゼル:
蜂相手にそんなに苦戦するのか(笑)。
GM:
しばらく悪戦苦闘が続いたのち、ラーテルはようやく岩の間から蜂の巣を引っ張りだすことに成功しました。そして、少し離れた場所で蜂の巣を噛み砕くと、蜂蜜にありつきはじめます。おそらく、この後ラーテルが満足してその場を離れると、ミツオシエが残った蜂蜜を食べるために降りてくるのですが、残念ながらそこまで待っていると昼休憩を過ぎてしまいそうです。
ニルフェル(GM):
「最後まで見られないのは残念ですけど、そろそろ時間ですし、皆のところに戻りましょうか」
イーサ:
「そうだな。しかし、なかなか可愛いもんだな……あのラーテルって奴は」
ニルフェル(GM):
「はい! おかげでとても良いものが見れました。ありがとうございました」
GM:
こうして、全員が休憩場所へと戻ってきます。