イーサ:
「なあ、アル。明日の朝まで、数人で馬と荷馬車の監視を行いたいんだが、どうだろう?」
アル(GM):
「悪くないが、そうすると俺たち2人だけじゃ手が足りないぞ。あと、犯人にとって動きづらい状況を作ってしまい犯行に及ばなかった場合は来た道を戻ることになるが、それでいいか?」
イーサ:
「うーん……」
シーン外のアゼル:
誰かテントから出たときだけ監視しておけばいいんじゃないか? テントの中からそいつの動きを覗くって方法な。
シーン外のエルド:
それって、犯人が外部の人間だった場合、妨害を阻止できませんよね?
GM:
あらためて説明しておきますが、火で照らしている範囲外は真っ暗ですからね。テントの中から覗く場合、荷馬車は見えるでしょうが馬の方は見えません。
シーン外のアゼル:
そうか……。まあ、どっちにしても、監視を強化するなら、俺とエルドの協力を仰がないとだめだろ。
イーサ:
いや、いまのところアゼルとエルドも容疑者だからな……。
シーン外のアゼル:
それは、俺たち2人のことを信用してないってことか?
GM:
少なくともアルやサブリは、アゼルとエルドのことを疑いの余地ありと判断しているようですよ。特にサブリはかなり疑っていて、「もうこれ以上こんな怪しい奴らと一緒にいられるかッ! 俺は自分のテントで寝るッ!」とか言い出しそうな勢いです。
一同:
(爆笑)
イーサ:
ふむ。暗がりは見えない……か。それじゃ、犯人は見えない中で妨害工作したのか?
シーン外のアゼル:
いや、荷馬車は明かりの範囲内だし、用足しに馬のほうに行くときは、火のついた棒を持って行くだろ? 少なくともジェザさんはそうしてたし。っていうか、ジェザさんが怪しいし。
シーン外のエルド:
ジェザさんは道中の動きも怪しかったですしね。
シーン外のアゼル:
残念ながら、そのジェザさんの動きに気づいてるのはエルドだけなんだよな。プレイヤーとしては知っていても、キャラクターとしては知らないからなー。
シーン外のエルド:
ジェザさんについての情報を提供できれば、こんなに悩むこともないんでしょうね……。
イーサ:
ふむ……。まあ、誰かに監視の手伝いを頼むとしても、暗闇を見通すためには“インフラビジョン”を使えないとだめなんだよな……。
GM:
現在、白魔法を使えることが明らかになっているのは、イーサとハージだけですね。
シーン外のエルド:
ハージさんを疑うというなら僕が受けて立ちますよ!
シーン外のアゼル:
誰に手伝いを頼むかって話をしてるのに、どうしてそうなる(笑)!?
イーサ:
でも、つい最近会ったばかりのハージさんのことを、そう簡単に信用するのもなぁ……。今のところ、容疑者の中で一番信用できるのは、脱輪した荷馬車に乗っていたニルフェルなんだよな。下手をすると大怪我してたかもしれないんだから。
シーン外のアゼル:
いやいや、そこは俺とエルドを信頼して協力を仰いで欲しいところなんだが……。
イーサ:
うーん……。仮に協力を仰ぐにしても、エルドは黒魔法が使えてスカウト技能もあるから役に立つが、アゼルのほうはなぁ……。いや待てよ……エルドはスカウト技能を持ってることで、かえって犯人としての疑いが濃くなるのか?
シーン外のアゼル:
まて、まて、まて。それはリアルに考えたらだろ。プレイヤーとして考えれば、俺たちが犯人であるはずないわけで――
GM:
えー。一応断っておきますが、PCだから犯人ではないという保証はありませんから注意してください。皆さんご承知のとおり、キャラクター作成は各人個別に行っていますからね。そのときに裏設定を作ってる可能性も十分にありますよ。
実際、わたしがこれまでに作ったシナリオの中には、PCが犯人であるものもたくさんあります。安易にPCだからといって信用するのではなく、一緒に冒険していく中で信頼できるだけの関係を作ることが大切だと思います。
シーン外のアゼル:
な……なるほど……。だが、エルドを疑うのは仕方ないにしても、これまでの行動から、俺とニルフェルとセルダルは信用してくれてもいいだろ?
イーサ:
アゼルにしても、出会ってから1週間そこらで、俺にとってはほかの面子とあまり変わりないんだが。
シーン外のアゼル:
そうか……。これまでの俺のプレイからして、人に騙されることはあっても、騙すような奴じゃないことは伝わっていたと思ってたんだがなぁ……。
イーサ:
真犯人ほど、普段は怪しい素振りを見せないってのは定番だろ。ニルフェルは間違いなく白だと思うんだが、アゼルとセルダルは微妙なんだよな……。
シーン外のアゼル:
え、そんなことないだろ? だいたい、この中に犯人がいるんだとしたらジェザさんかエルドに決まってるって!
イーサ:
いや、たしかにエルドは疑わしくもあるが、野盗退治のときに危険を冒してまで潜入捜査してくれた件があるからな。
GM:
あの……これは余談として聞いて欲しいんですが、イーサ視点で見れば、野盗退治のときのエルドの行動も怪しく思えてきませんか? ひとりで野盗の中に2度も潜入して無傷で戻って来たこと、中央砦襲撃戦のときに疲労を理由に戦闘に参加しなかったこと、なんだかんだでカダとダットをとり逃がしたこと、……あと、たしかイーサが見ている前では、エルドは尋問のときに殴った以外は一度として野盗を攻撃してないんですよね。これって、エルドが裏で野盗と繋がっていたと仮定すると、すべてつじつまがあうんじゃないですか?
一同:
(爆笑)
GM:
つまり何が言いたいかというと、解釈の仕方によっていろいろな受け取り方ができるということです。きちんと第三者を納得させられるだけの理由付けが用意できるのであれば、あとはプレイヤーが望む展開にするのが一番ですよ。
イーサ:
(ひとしきり笑ったあとで)
ってことで、ニルフェルとその同行者であるアゼルとセルダルの3人は白に決定! 残り容疑者はギズリ、ジェザ、ハージさん、エルドの4人。
シーン外のアゼル:
エルド(笑)!
GM:
では、考えがまとまったところで話を進めましょう。ちなみに、イーサが悩み始めてからプレイ時間で30分ほど経過しましたが、アルがイーサに言葉を投げかけてからからここまでのゲーム中の経過時間は約1秒ですからね。
一同:
(爆笑)
イーサ:
「まあ、ニルフェル、アゼル、セルダルの3人は信用していいだろ。それで、あいつらに監視の手伝いをしてもらえるように話をしようと思う」
サブリ(GM):
「そ、そうか? 俺はあいつらも怪しいと思うが……。たしかにアゼルは、俺のことを助けようとしてくれたが、2人だけで南アルダ街道を進もうなんて無謀なことも言ってたからな。それは、もしかすると荷物を横取りするための作戦だったのかもしれねぇし……」
イーサ:
「大丈夫。あいつは愚直なだけで信用できる奴だ」
シシュマン(GM):
「ふむ、とりあえず方針は決まったな。これ以上話し合うことがなければ解散しよう。最後にこれだけ言わせてくれ。ワシ個人としては、内部に犯人などおらんと信じている。それに、ワシらにとって最も優先されるべきことは目的地まで無事にたどり着くことであって、犯人を見つけることじゃあない。だから、疑心暗鬼に陥っていたずらに荒波を立てるようなことだけはくれぐれも控えて欲しい」
イーサ:
「わかった」
GM:
さて、シシュマンたちとの話し合いが終わって、イーサとアルはテントの中から出てくることとなります。アルは見張り当番のときに起きてきた者の監視を強化することを確認すると、そのための協力者集めはイーサに任せ、自分はそのまま隣のテントへと入っていきました。
たき火の前では、アゼルとギズリが寝る前の時間つぶしとして戦盤に興じており、その勝負は昨晩と同様にアゼルの勝利に終わりました。
ギズリ(GM):
「畜生。また負けたか」と、ギズリは悔しそうに歯ぎしりします。
(アゼルを指差して)「カルカヴァンに着くまでには必ず負かしてみせるからなッ!」
アゼル:
(ニヤニヤしながら)「そいつは楽しみだ」
イーサ:
いま起きてるのは見張りのアゼルとエルド、それとギズリの3人でいいのか?
GM:
あと、自分のテントに入ることができなかったニルフェルとハージもこの場にいますね。
ニルフェル(GM):
「あ、イーサさんが戻ってきたみたいですね」
ギズリ(GM):
「おう、お疲れさん。随分長かったが、一体何を話し込んでたんだ?」
エルド:
ギズリさんはストレートに核心を突きますね(笑)。
ギズリ(GM):
「まぁ、あれだろ? 荷馬車が壊れたんで、先に進むか、来た道を戻るかって話をしてたんだろ?」
イーサ:
「あ、ああ……。このまま先に進むには、水や食料の余裕がない状況だからな」
ギズリ(GM):
(これまでにないまじめな声で)「で? どっちになった?」
イーサ:
(少し考えてから)
「それは……天候次第だな……。明日の朝、天候が悪ければイスパルタに戻ることになった」
ギズリ(GM):
イーサの言葉に、ギズリは突然立ち上がりました。
「戻るのかッ!?」
イーサ:
「ギズリ……?」
ギズリ(GM):
「シシュマンの旦那が戻るって決めたのか!?」そう言ってギズリはイーサに詰め寄ります。
イーサ:
「まだ、そうと決まったわけじゃない。天候次第だ」
ギズリ(GM):
「そんなことッ!」
ギズリは言いかけた言葉を飲み込むと、一転してシシュマンたちのテントに目を向け、一直線にそちらへと向かっていきます。
アゼル:
おやおやおや?
GM:
ギズリの姿がテントの中へ消えたあと、しばらくすると何やら怒鳴り声が聞こえてきました。
エルド:
聞こえてくる言葉はどんな内容でしょう?
テントから聞こえるギズリの声(GM):
「ふざけるなッ! 戻るのなんて絶対になしだッ!」
テントから聞こえるシシュマンの声(GM):
「いいや、隊商をみすみす危険な目にあわすわけにはいかん!」
テントから聞こえるギズリの声(GM):
「だったらオレたちだけでも進ませてもらう!」
テントから聞こえるシシュマンの声(GM):
「馬鹿なことを言うな! 少しは冷静になれッ!」
テントから聞こえるサブリの声(GM):
「いやいや、俺はギズリの意見に賛成するぞ! さすがはギズリだ。俺は最初から見所のある奴だと思ってたんだよ!」
一同:
(爆笑)
エルド:
サブリさんは、本当にわかりやすい人ですね(笑)。
アゼル:
見事なまでの手のひら返しだな(笑)!
「しかし……そうか、イスパルタへ戻ることになるかもしれないのか。そうなると、王都に着くのが遅れてしまうな……」
ニルフェル(GM):
「でも、旅の安全が最優先でしょう?」
イーサ:
「行程としては、5日程度の遅れがでるだろうな」
エルド:
「5日もですか? なるべく早く目的地にたどり着きたかったんですけどね」
アゼル:
「とは言っても、ここは旅慣れてる人間に任せるのが一番だろ」
ニルフェル(GM):
ニルフェルはアゼルの言葉に同意すると、「ジタバタしても仕方ありませんから、少し落ち着きましょう」と言いつつ楽器を取り出し、演奏を始めます。
アゼル:
「ところで、イーサ。お前、もう休んだ方がいいんじゃないか? 顔色が悪いぞ」
エルド:
「そうですよ。疲れた頭じゃ、考えもまとまりませんよ」
ニルフェル(GM):
「わたしたちが悩んだところで、天気は変わりませんしね」
アゼル:
そうだ、“天候予測”しておこう。(コロコロ)お、いい目がでたぞ。14だ。
GM:
その目だと、0時から6時にかけては曇り、6時から12時は晴天、12時から18時は小雨だろうと予測できました。
アゼル:
そうすると、先に進むことになるわけだ。
イーサ:
まあ、晴れたら先に進むってのは、俺のついた嘘なんだけどな……(苦笑)。
GM:
さて、そうこうしているうちに時間が過ぎていきます。シシュマンたちと口論していたギズリの声も次第に大人しくなり、やがてギズリが自分のテントに帰っていったのを見計らって、ニルフェルとハージもテントに入って就寝しました。