LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第2話(20)

GM:
 明け方、曇り空の下でアルとセルダルの2人が爆ぜるたき木を挟んで座っています。
 さて、最初に起きてくるのは誰でしょうか? NPCは、ギズリ、ニルフェル、シシュマン、サブリ、ハージ、ジェザの順番に起きてきます。いつもは早起きなハージですが、今日は遅くまで休んでいました。

アゼル:
 それじゃ、ジェザさんが起きる前に目を覚まそう。

エルド:
 僕はアゼルさんが目を覚ましたことに気づいたら、それに続いて起きます。

アゼル:
 テントの外に出たら、セルダルに近づいていく。
「昨日はすまん……。不意を打たれてしまった……」

セルダル(GM):
(にこやかに)「いやぁー、そんなに気にすんなよ。まぁ、そーゆーこともあらーな」

エルド:
 心なしかセルダルさんの口調がアゼルさんのことを見下しているようにも聞こえますね(笑)。

アゼル:
 アルさんにも謝っておこう。
「見張りを代わってもらって申し訳ない」

アル(GM):
「なに、大したことじゃない。それよりも、大事に至らずなによりだ」

アゼル:
「そう言っていただけると……」

エルド:
「僕も、昨晩の戦いではあまり役に立てなくてすみませんでした」

アル(GM):
「そんなに気にするな。あの手の堅い相手だと“エネルギー・ボルト”では歯が立たないしな。それよりも、炎や氷の魔法は使えないのか?」

エルド:
「残念ながら、いまはまだ……」

 ここでエルドは答えを濁しましたが、スペルリングに記憶させておらず、すぐに使える状態ではないものの、“ファイア・ボルト”と“アイス・ボルト”はすでに習得しています。

アル(GM):
「ならば仕方ない。昨晩できるだけのことは十分にしたさ」

イーサ:
 俺もそろそろ起きていこう。
「すまない。休ませてもらった」

アル(GM):
「疲れは取れたか?」

イーサ:
「ああ。身体の調子は悪くない。だが、当分のあいだ、魔法は使えなさそうだ」

アル(GM):
「そうか……。わかった」

GM:
 イーサが起きてからしばらくすると、ジェザもテントから出てきて全員が顔をそろえました。朝の簡単な食事を取るために、皆がたき火を囲みます。
 さて、昨晩戦闘があったことで皆さんお忘れかもしれませんので、ここで再び整理しておきましょう。隊商が保持している水の量は残り651リットル。食料は残り82キロ。現在の隊商の構成だと、どちらも4日で消費しきるくらいの量です。そして、ここからカルカヴァンの衛星都市であるカラーラまでは90キロ。来た道を戻れば、イスタス跡地まで70キロ。くわえて、馬1頭が捻挫、もう1頭が骨折している状況です。

イーサ:
 90キロの道のりはどれくらいで踏破できる?

GM:
 それは行軍速度によりますが、これまでは1日40キロの速度を目標として進んできました。現在、荷馬車が一度壊れ、馬が怪我していることを考えると、1日20キロ。無理して30キロ進めるかどうかといったところですね。

シシュマン(GM):
「さて、飯が終わったら早速ここを離れることになるが、その前に皆で話しておきたいことがある」

ギズリ(GM):
 シシュマンの言葉に続けて、ギズリが声を上げました。
「旦那。その件についてはオレから話させてくれないか?」

シシュマン(GM):
 シシュマンはギズリに目を向けると、少し考えてからこくりとうなずきます。

ギズリ(GM):
「本題に触れる前に確認しておきたいんだが……」そう言って、ギズリはイーサのほうを見ました。
「イーサ。お前は昨晩、今後の行程計画についてオレたちにこう言ったな。『明日の朝、天候が悪ければイスパルタに戻ることになった』と。だが、シシュマンの旦那に確認したところ、それは嘘だった。お前はなぜそんな嘘をついたんだ?」

イーサ:
「……それは……」
(少し口ごもってから)
「……不用意に本当のことを言って、皆に余計な心配をかけたくなかったんだ……」

ギズリ(GM):
「じゃあ、本当はどういう計画だったんだ? ここで全員がわかるように話してくれよ」

イーサ:
「……実は、このところ連続して馬や荷馬車が故障するアクシデントが発生していたことで、隊商の中に旅の妨害を企てている者がいるんじゃないかという疑いが挙がっていたんだ……。それで、今日の出発までに妨害者を捕まえることができなければ、来た道を戻ることにしようという話になっていた」

GM:
 その発言に、皆が互いの顔を見合わせます。

ニルフェル(GM):
「あの……妨害者がいるってどういうことですか? 何か根拠でも?」

イーサ:
「昨日、荷馬車が脱輪した付近に、あってしかるべき車輪の留め具が見当たらなかったんだ。つまり、人為的に車輪の留め具が外されていた疑いがある……」

ニルフェル(GM):
 ニルフェルはイーサの説明を聞いて首をかしげます。
「あの……。車輪の留め具が事故現場付近に見当たらなかったということですが、留め具がないと、どれくらい荷馬車を進めたところで車輪が外れるものなんですか?」

イーサ:
「え……? うーん、どれくらい……なんだ?」
 誰か答えられる人はいるだろうか?

一同:
 ……。

ニルフェル(GM):
「仮に10分くらい脱輪しなかったとして、そのあいだに荷馬車はどれくらい進むんでしょう? 事故現場付近というのがどれくらいの範囲を指しているのかはわかりませんが、もしかすると、留め具はその範囲よりも外で取れてしまったんじゃありませんか?」

イーサ:
「うっ……。そうかも知れない。少し疑心暗鬼になっていたのかもしれない。そう考えれば、馬の捻挫だって旅を続けていれば良くあることだよな。うん」

アゼル&エルド:
(苦笑)

 ニルフェルの指摘に、イーサはいとも簡単に考えを翻してしまいました。元々は留め具が事故現場付近に見つからなかったことだけでなく、車軸側に老朽化や衝撃を受けた痕跡が見受けられなかったことも、人為的に留め具が外されたとする根拠のひとつだったはずなのですが……。「妨害者を捕まえられなかったら来た道を戻る」と提案したものの、あとになってそのことを失敗だったと感じていたイーサにとって、ニルフェルのこの指摘はまさに渡りに船といった感じだったのでしょう。

ギズリ(GM):
「で……そもそも、お前たちが疑心暗鬼に陥る切っ掛けを作ったのは、アルが妨害者の存在をほのめかしたからなんだよな? そうなんだな、イーサ?」

イーサ:
「たしかに、そう言われてみればそうなのかもしれないが……」

アゼル:
 なんだ? まさか内部分裂するのか?

ギズリ(GM):
「隊商が引き返して損を被るのはオレたち商人だ。だが、逆に日払い契約を結んで護衛についてる者にとっては、到着までの日数が多いほうが得するとも考えられるよな……」

アル(GM):
「それはどういう意味だッ!」
 ギズリの言葉に、珍しくアルが声を荒げました。

ギズリ(GM):
「どうもこうも言葉通りだ。普通、護衛ってのはそれ専門で生計を立ててる素性が明らかな奴だけで構成するもんだ。だから、自ら進んで評判が落ちるようなことをする奴はいない。だが、お前たちは成り行きで護衛を務めることになっただけで、本職じゃないだろ? 特に、アル。お前に限っちゃ、カルカヴァンに到着したらそれで仕事納めだって話じゃないか。そういった事情を考えれば、この中に妨害者がいると仮定した場合、本当に疑わしいのは誰かってことになるだろ」

アゼル:
「ギズリさん。さすがにそれは言いすぎだ。アルさんも……俺たちだって、ここまで危険に身をさらして戦ってきたんだ。……つい昨晩だって、俺たちは命懸けで……」

ギズリ(GM):
「ふぅ……」
 少し上気していたギズリは、そこで一息つきます。
「まぁ……そりゃそうだ。何もオレだって、憶測で犯人を吊るし上げようなんてことは考えちゃいない。ただ、個人の視点から可能性を追っていったらそういう話にもなるだろうってことの例を挙げたまでだ」

アゼル:
 うーむ。そうなのか……。

ギズリ(GM):
「でだ。シシュマンの旦那が隊商長として独断で決めたって言うならまだしも、サブリさんとアルとイーサの3人に相談したってことは、先に進むか来た道を戻るか決めかねてたんだろ? だったら、そんな重要なことは一部の人間だけで決めるんじゃなく、全員で公正に決めるべきじゃないか? もし本当に妨害者がいたとして、その程度で隊商の総意が変わるっていうならオレも諦めがつく」

イーサ:
「ふむ。たしかに、そうしたほうが後腐れなくスッキリしそうだな」

アゼル:
「なるほど。納得だ。そういうことなら、俺もギズリさんの意見に賛成する。全員で決めたほうがいいだろう。だが、ここに来るまでだけでも、これだけの危険があったんだ。だから、まずなによりも自分たちの身の安全を考えて欲しい。商人の方たちには絶対にそのいことを忘れないで欲しい」
 特にサブリさんはな(笑)。

サブリ(GM):
「そうだな! ここは公正に決めよう。公正に! 昨晩は、まんまとイーサの口車に乗せられちまったからな。まったく……」

イーサ:
 おいッ!

アゼル&エルド:
(爆笑)

サブリ(GM):
「妨害者を捕まえてから先に進もうだなんて耳障りのいいこと言っておいて、はなから犯人を捕まえる気がなかったみたいだからな」

イーサ:
「いや、それは違う! 俺はただ、あんたたちを危険な目にあわせたくなかっただけだ!」

サブリ(GM):
「だったら、結果で示してもらわねぇとなぁ」

イーサ:
「うぐっ……」

 再び浮かび上がった、先へ進むか来た道を戻るかの二者択一問題。慎重派と強硬派の対立により、シシュマン隊商は一触即発です。この混迷の中、イニシアチブを奪取するのは一体誰なのでしょうか?




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