アゼル:
「ところで、ギズリさん。あなたが馬車を修理したとき、人為的な工作があったとは感じなかったのか?」
ギズリ(GM):
「ああ。そんな感じはまったくなかったな。ただ、車輪の留め具が見当たらなかったのはたしかだ。それが故意なのか偶然なのかはわからない」
イーサ:
もしかすると、実はただサブリが整備をしっかりしてなかったってだけの話なんじゃないか?
アゼル&エルド:
(爆笑)
アゼル:
「サブリさん。出発前に馬車の点検はしたのか?」
サブリ(GM):
「も……もちろん、したさ!」
アゼル:
「本当か?」
サブリ(GM):
「ああ! そんなことは商人にとっては当然のことだ! なんだよ、俺のこと疑うってのかよ!?」
アゼル:
うーん。なんだか怪しいよな……。
「俺にはわからないんだが、しっかりと整備されてる馬車の車輪の留め具が自然に外れるなんてことあるのか?」と誰にともなく口にする。
サブリ(GM):
「そりゃ、昨日から荒れ道に入ってきてるからな。あれだけ揺れれば壊れちまうことだってあるさ」
アゼル:
「アルさんも、留め具が人為的に抜かれたと確信しているわけではないんですね?」
アル(GM):
「可能性の話だ。あとは……俺の勘だ。俺は自分の勘に従う。これまでもそうやって生きてきた」
アゼル:
「なるほど。長年の勘ですか……」
また、誰にでもなく、「それじゃ、馬の捻挫の件に関してはどうだろう? 旅をしていれば当たり前のように発生することなんだろうか?」と投げかけてみよう。
ニルフェル(GM):
「あの……。関係あるかはわかりませんが、サブリさんの馬が足を痛める前に、随分と疲れた様子だったんですよ」
アゼル:
サブリさんのほうを見る。
「どういうことだ?」
サブリ(GM):
「ああ。そういえば、2日目の朝ごろから随分と疲れているみたいだったな……」
アゼル:
「それに気づいていながら、なぜ強行させたんだ?」
サブリ(GM):
「そ……そりゃ、体力のある馬を選んで連れてきたつもりだったからな。それに、絶対に疲れてたって確信を持って言ってるわけじゃねぇよ。今になって思えば、そんな風に見えなくもなかったってだけの話だ」
アゼル:
「そういうものなのか?」
サブリ(GM):
「そういうもんだろ!」
エルド:
アゼルさんの聞き方だと、サブリさんが嘘をついていても、強引に押し切られそうですね(苦笑)。
アゼル:
「皆のことを疑っているわけではないんだが、ほかにまだなにか話してないことはないか? どんな些細なことでも構わない」と、全員を見回して言ってみる。
一同:
……。
アゼル:
「なにも……ないのか(汗)?」
イーサ:
「特に思い浮かばないな……」
アゼル:
「なにもないんだな!?」
エルド:
「ありませんね……」
GM:
誰からも反応はないようです。
アゼル:
「じゃあ、俺は人為的な妨害はなかったんだと思う……」
それで、カラーラまで行くとすると、水と食料が足りないんだっけ?
GM:
いまのところかなりギリギリで、どこかで強行軍を挟まないと半日分足りなくなる計算となります。もし途中で再びアクシデントが発生した場合には確実に不足するでしょう。まあ、数度の食事を抜いたところで、すぐに死ぬというわけではありませんが。
アゼル:
うーん……。
ギズリ(GM):
「さてと。一通り確認したいことが出尽くしたなら、そろそろ多数決で先に進むか来た道を戻るかを決めるとしようか」
アゼル:
「待ってくれ! その前に、もうひとつ確認……というか全員で認識しておきたいことがある。先に進もうとした場合は水と食料に余裕がない。そのことを十分考慮して欲しい」
ギズリ(GM):
そのアゼルの言葉を聞いたギズリは、ニンマリと笑みを浮かべました。
「たしかに。特に水が足りなくなったら大問題だ。だが、雨が降れば問題ない――」
アゼル:
「なッ!? そんなに都合よく雨が降ると思うのか?」
ギズリ(GM):
「――というのはさすがに冗談だ」
アゼル:
冗談かよッ!
エルド:
アゼルさん、完全にもてあそばれてますね(苦笑)。
ギズリ(GM):
「水と食料のことについては、オレのほうからひとつ提案がある。いまここで骨折した馬をばらして食料にしよう。それで水と食料の問題は解決だ。これで1日分以上の余裕ができる」
イーサ:
ふむ……。馬肉を食料にするのはいいとして、水分は馬の血で補うってことか?
GM:
いいえ、そういうわけではありません。馬1頭は1日で30リットルの水を消費するんですよ。南アルダ街道上には給水できるポイントがほとんど存在しないため、馬などが消費する分の水も運搬しなくてはならないのです。そこが、南アルダ街道の旅が困難だとされる大きな要因のひとつです。
では、なぜ馬よりも道中の水の消費が少なくて済むラクダを使わないのかというと、ラクダは馬よりも値が張るということと、シシュマンたちはこの先乾燥地帯を離れて北上し、起伏の激しい道も進む予定なので、その場合は馬のほうが適しているという理由があるからです。それに、本来春先であれば適度に雨が降るので、馬の旅でも支障はないだろうという判断があったのでした。
アゼル:
そうか。なるほどな。
ギズリ(GM):
「ただ、そのためには馬の持ち主の許可を得ないとな。骨折した馬はサブリさんの荷馬車を引いてたわけだが、たしか元々はシシュマンの旦那が護衛用としてつれてきた馬だったよな?」
シシュマン(GM):
「ああ。そのとおりだ」
ギズリ(GM):
「旦那さえ了承してくれれば……」
アゼル:
「そうだな。シシュマンさんが馬を処分することを了承してくれるなら、俺は先に進んだほうがいいんじゃないかと思う」
ギズリ(GM):
ギズリはアゼルの言葉を聞いてかすかに口角を上げると、続けざまに、「サブリさん。処分する馬の代金の半額をあんたが負担するってのはどうだ?」と持ち掛けます。
「皆のために馬を処分するってのに、シシュマンの旦那だけにその対価を負担させようってのは道理に合わない。荷馬車の整備不良で馬を骨折させちまったのは、あんただしな」
サブリ(GM):
「ふむ。半額かぁ……。となると、荷馬1頭で1,500銀貨くらいだから俺の負担金は750銀貨ってところか。まぁ、それくらいならなぁ……」
ギズリ(GM):
(シシュマンに対して)「なあ、旦那。それくらいの負担なら、ここからイスパルタに出戻ったときにかかる費用とどっこいどっこいってところだろ?」
シシュマン(GM):
「いや……それはそうだが……」
シシュマンはなにやら悩んでいる様子です。
ギズリ(GM):
「だったらこうしよう。オレも負担する。3人で分ければひとりあたり500銀貨の負担で済む。これなら悪い話じゃないだろ?」
サブリ(GM):
ギズリの言葉に間髪入れずサブリが乗じます。
「よっしゃッ! のったッ! それだったらオッケーだ! それで手を打とう!」
アゼル:
サブリさんは現金だな(苦笑)。
GM:
ギズリとサブリが互いに目をあわせると、小さくうなずきあいました。
シシュマン(GM):
「まあ、馬を処分する分の負担は構わんのだが――」
ギズリ(GM):
「オッケー! 旦那の了承も得たところで、全員で多数決を取ろう!」
サブリ(GM):
音頭を取るギズリに目を細めながら、サブリは小声で「あいつ、しばらく会わないうちにやり口が上手くなりやがったな……」と呟きます。
イーサ:
ん……?
ギズリ(GM):
「それじゃ、先に進もうという者は手を挙げてくれ」
エルド:
はい。挙手します。
アゼル:
「シシュマンさんが馬を処分するというなら異論はないな」
手を挙げる。
イーサ:
「何の問題もなさそうだな」
挙手。
ギズリは思惑通り、どちらに転ぶか未確定であったアゼル、イーサ、エルドの3票を先に進む側の賛成票として早々に集めることに成功しました。これで、ギズリ本人と相棒ジェザ、そしてサブリの票をあわせれば、過半数以上を確保できたこととなります。
PCたちが即決していなければ、ほかの面々の出方を伺うことができるまたとない機会でもあったのですが……。誰もそこまで気が回っていませんでした(苦笑)。
GM:
ギズリとサブリももちろん手を挙げました。続いてセルダルとジェザとハージが手を挙げ、手が挙がっていないのはシシュマンとアルとニルフェルの3人だけになります。
アゼル:
やっぱり、ニルフェルは馬を処分することに抵抗があるのかな?
ギズリ(GM):
ギズリの視線がアルとニルフェルに向けられました。
アル(GM):
「心配するな。俺個人としては先に進むのに乗り気じゃないが、全員の決定には従う」
ニルフェル(GM):
「わたしも皆さんの判断に従います。どちらが良い選択なのか判断がつかなかったので、どちらにも手を挙げないつもりでしたし……」とニルフェルもアルの言葉に続きます。
ギズリ(GM):
「それじゃ、決定だな。馬の処分は……お前のもってる両手剣でやるのがよさそうだ。セルダル、頼めるか?」そう言って、ギズリはセルダルを指名しました。
「さあ、それじゃ、ほかの皆で出発の準備をしちまおう。旅の再会だ!」
アゼル:
それじゃ、アルさんのほうに寄って行こう。
アル(GM):
「どうかしたか?」
アゼル:
「なにか思うところがあって先に進むことに反対してたのか?」
アル(GM):
「言っただろ。悪い予感がしたってだけだ……。だが、皆の決定にこれ以上異論を挟むつもりはない。イスパルタを離れてからというもの、隊商の雰囲気は悪くなる一方だ。これ以上のゴタゴタは避けよう」
アゼル:
「そうだな……。妨害工作がないとは言い切れないから、そこは今後も警戒していこう」
そういえば、アルさんはスカウト技能を持ってるんだっけ?
エルド:
隊商の中でスカウト技能を持ってるのは僕だけのはずですよ。
アゼル:
そうか。それじゃ、エルドに頑張ってもらわないとな。あまり目立たないように振舞いつつ、エルドのほうに寄っていく。
「まだ完全に妨害工作がなかったとは言い切れない。しばらくのあいだ、気を抜かずに目を光らせておいてくれ」
エルド:
「言いたいことはわかります。ですが、具体的にどうすればいいですか?」
アゼル:
「え……? いや、それはわからないが……。そうだな。皆の行動を注意して見ていて欲しい。なにかあったら知らせてくれ」
エルド:
「さすがに全員の行動を視野に入れておくのは無理ですよ。まあ、盗聴だったらできますが……」
アゼル:
盗聴は……ありなのかな? それぞれの馬車に仕込んでおくとか?
「うーむ。まあ、疑いすぎても仕方ない。無理のない範囲で頼む」
エルド:
自分から目を光らせるように言ってきたわりに適当ですねぇ……(苦笑)。
アゼル:
さてと、あとはイーサだが、いまはイーサ株が下がっているから、そっちにまでは話を持ちかけないでおくか……。
イーサ:
……はっ?
GM:
大丈夫ですよ。巨大砂蟻から逃げだしてテントで震え上がっていたアゼルよりは株を下げていないですから(笑)。
エルド:
ですよねー(笑)。
アゼル:
まあ、まあ、それはこっちに置いといて(苦笑)。
GM:
では、あなたたちが出発の準備を進める中、少し離れた場所から、けたたましい馬の断末魔が聞こえてきました。その後、ギズリが慣れた手つきで馬を解体し、手ごろな大きさに捌いていきます。こうしてすべての準備を終えて野営地を出発したのは、イスパルタを出発してから4日目の7時過ぎのことでした。