LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第2話(23)

GM:
 では、隊商はカルカヴァンの衛星都市であるカラーラへと入っていきます。途中、街の周囲に巡らされている低い石垣が目につきます。国境付近の重要拠点である城塞都市イスパルタの堅固な市壁とは比べるまでもありませんが、野生動物の侵入を拒む程度の効果は見込めそうです。

エルド:
 街の様子はどんな感じですか? 活気はあります?

GM:
 特に目立つ建造物があるわけでもなく、目に入る人の数もほどほどです。変わったところといえば、一般市民の姿に混じって、革鎧などを身にまとった者の姿が散見されるところです。彼らはイスパルタで多くみられた傭兵とは違い、いかにもならず者といった風貌です。

アゼル:
 俺たちは街のどこに向かっているんだろう?

GM:
 シシュマンがひいきにする宿屋があるということで、現在そこに向かっているところです。カラーラはそれほど大きな街ではありませんので、ほどなくして目的の宿屋に到着しました。宿屋は2階建ての石造建築で、大きな馬小屋が併設されています。

シシュマン(GM):
「ここだ、ここだ」そう言うと、シシュマンは宿屋の中に入っていきました。

GM:
 宿屋の1階にはテーブルと椅子がいくつも並べられています。どうやらここは宿屋兼酒場として営業しているようですね。しかし、1階にほかの客の姿は見当たらず、閑古鳥が鳴いている状態です。

宿屋の主人(GM):
 カウンターの奥で暇そうに煙草を燻らせていた宿屋の主人は、扉を開けて入ってきたシシュマンの姿に気がつくと、「誰かと思ったら、シシュマンじゃねぇか」と気さくそうな声をかけてきました。

シシュマン(GM):
「おう、今回も世話になるぞ」とシシュマンもそれに応じます。
(首をめぐらし、周りを見渡してから)
「……しかし、随分と客足が遠のいてるみたいだな」

宿屋の主人(GM):
「ああ。ご覧のとおりだ。あの遺跡探索禁止令が出て以来、客足はぱったりさ。街の中にも管を巻いてる奴らが大勢いただろ? 遺跡探索に行けずにあぶれてる連中さ。近頃はいさかいを起こす輩も増え始めてるから、お前さんらも面倒ごとに巻き込まれないように気をつけな」
 宿屋の主人はシシュマンだけでなく、その背後にいる面々にも聞こえるように、大きな声でそう忠告しました。

GM:
 遺跡探索禁止令というのは、アゼル王の崩御直後にヤウズ王子が発令したもので、カーティス王国の聖域内にある神の遺産の所有権は国家にあるとして、許可のない者が聖域を探索し、その遺産を私物化することを禁じたものです。

 この時代、カーティス王国内での遺跡探索は犯罪行為となります。ただし、遺跡探索禁止令が発せられる以前に私物化された遺産の所有については黙認されています。また、法的には禁止されたもののそれを取り締まる体制がまだ整備されておらず、実際に遺跡に出入りする現場を押さえられなければ言い逃れが効くため、人知れず遺跡探索を続ける者もそれなりに存在しています。特に王都から離れた地方では、無視できないほどの影響力を持った遺跡探索者が存在し、そんな者たちに対しては役人も見てみぬ振りをしているような状態です。

宿屋の主人(GM):
「さてと、今回はいくつ部屋を用意すればいいんだ?」

シシュマン(GM):
 シシュマンは隊商の面々を確認してから、「6人部屋1つと、4人部屋1つ、あと2人部屋を1つで頼む。2人部屋は娘らが使うからできるだけ綺麗なところをな」と宿屋の主人に告げます。

ギズリ(GM):
 しかし、そのオーダーに対してギズリが異を唱えました。
「ちょっと待ってくれ。オレとジェザも2人部屋にしてくれ。だから4人部屋2つと2人部屋2つで頼む」

シシュマン(GM):
「部屋数を少なくしたほうが安上がりなんだがな……。なにか理由でもあるのか?」と、シシュマンはいぶかしげな表情を浮かべます。

ギズリ(GM):
 すると、ギズリは、「……何も四六時中顔を突き合せとく必要はないだろ? ……誰だって好き好んで息苦しい思いはしたくないさ……」とその理由を口にしたあとで、「金のことを心配してるんなら、部屋を別けたことで足が出た分はオレのほうで持つ。だから構わないだろ?」とさらにシシュマンに詰め寄ります。

シシュマン(GM):
 そのギズリの言い分に、シシュマンは少しムッとした顔をするのですが――

サブリ(GM):
「まぁまぁ、その分の金はギズリが出すっていうんだから、好きにさせようや」とサブリがその場を収めました。

アゼル:
 2人をいさめるなんて、サブリもいいところあるんだな……。

 こうして、部屋割りは4人部屋にシシュマン、サブリ、アルの3人、もうひとつの4人部屋にアゼル、イーサ、エルド、セルダル、2人部屋にギズリ、ジェザ、もうひとつの2人部屋にニルフェル、ハージということで決定し、荷馬車を馬小屋へと入れ終えると、各自が割り当てられた部屋へと別れていきました。

GM:
 では、あなたたちも自分たちの割り当てられた2階の部屋に入りました。部屋は値段相応の簡素なもので、4つの寝台が部屋のほとんどを占めており、そのほかには共用の机と椅子が一組置かれているだけです。

セルダル(GM):
 セルダルは早々に自分の使う寝台を決めると、その上に荷物を放り投げ、「んじゃ、オレはちょっくら外に出て剣でも振ってくるわ」と両手剣だけを手にして部屋を出て行きました。

アゼル:
「俺も暇だから、街を散策してくるかな」
 セルダルの隣の寝台に自分の荷物を置いて俺も外に出て行く。

エルド:
「イーサさんはどうします? 随分と疲れが溜まっているように見えますけど……。夕食の時間になったら起こしますから、ゆっくり休んではどうですか?」
 まだ精神点がほとんど回復してませんよね?

GM:
 これからすぐ休むのであれば、夕飯時までに精神点の自然治癒を1回行えますが、どうしますか?

イーサ:
 うーん。でも夕食まで休んでたら、街の店も閉まっちゃうんだろうな……。

GM:
 そうですね。ほとんどの店が18時には店じまいしてしまいます。ちなみに、開店は朝の8時からという店が多いようです。

イーサ:
 ならば、「いや、夕食までたいした時間でもないし、俺も街の様子を見てくることにする」と言って部屋から出て行く。

エルド:
 じゃあ、特にすることがない僕は、夕食の時間まで部屋でゆっくり過ごすことにします。

GM:
 では、それぞれの行動方針が決まったところで、順々に解決していきましょう。まず、先に部屋から出て行ったセルダルとアゼルですが――

セルダル(GM):
 セルダルは、自分たちの部屋を出るとシシュマンたちの部屋の扉を開け、「アル。いいか?」と声をかけます。

アル(GM):
 セルダルの言葉にアルは軽くうなずき、「ああ、わかった。直ぐ行くから先に下りていてくれ」と、答えました。

アゼル:
 じゃあ、俺もシシュマンさんと話をしておこう。
「シシュマンさん、明日の出発は何時になる予定なんだ?」

シシュマン(GM):
「いまのところ、出発は10時の予定だ。明日は整備された街道を進むことになるし距離も短い。昼過ぎまでにここを立てれば、日のあるうちにカルカヴァンに入れるだろうからな」

アゼル:
「10時出発だな。了解した」そう言って部屋から出て行く。

セルダル(GM):
 セルダルは階段を下りつつ、アゼルに、「どこか出かけるのか?」と訪ねてきます。

アゼル:
「ああ。ちょっと街にな。お前は?」

セルダル(GM):
「聞いてなかったのかよ? オレはこいつさ」そう言って、アゼルは背負った両手剣を指差して見せます。
「アルと一緒にいられる時間も、残り少ねぇからな。今のうちにアイツの戦い方を少しでもものにできればと思ってよ」

アゼル:
「なるほど。それじゃ、俺も出かける前に少し見学していくかな……。それにしても、お前は本当に新王の直属部隊に志願する気なのか?」

セルダル(GM):
 その問いかけにセルダルは鼻で笑いました。
「じょーだんでここまで来たりはしねーよ。けど、せっかく王都まで行っても不採用ってんじゃ洒落になんねーから、少しでも腕を磨いておかねーとな」

アゼル:
「そうか……。まあ、頑張れ」

GM:
 そうやってアゼルとセルダルが会話しながら1階に下りていくと、カウンター席に座ってチビチビと酒を飲んでいるギズリの姿がありました。

ギズリ(GM):
 2人が下りてきたことに気がついたギズリが、「お? 2人で仲良くお出かけか?」と声をかけてきます。

アゼル:
「いや、俺は街に出かけるが、セルダルのほうは剣の稽古だ」

ギズリ(GM):
 セルダルの格好を確認したギズリは、「はぁーん。そいつは随分と精が出るな」と感心したような声を漏らしました。

アゼル:
「ギズリさんはどこか出かけないのか?」

ギズリ(GM):
「いいや。ここは特に見て面白いもんがある街でもないしな……」そう言うと、ギズリは酒の入ったカップを持ち上げて、「なんだったら、一緒に飲まないか?」と続けます。

アゼル:
「そうだな……」
(少し考えてから)
「いや、やっぱり少し街を見て回りたいから、遠慮しておく」そう言って、外に出て行こう。

ギズリ(GM):
 では、外に出て行くあなた達の背中を見送ると、ギズリは再びチビチビと酒を飲み始めます。

GM:
 さて、宿の外に出た2人がアルのことを待っているあいだ、イーサのほうに場面を切り替えておきましょう。
 イーサが部屋の外に出ると、ちょうど向かいの扉が開いて、ニルフェルと顔をあわせることになりました。

イーサ:
「お、ニルフェルか。夕食まではまだ時間があるようだが、どこか出かけるのか?」

ニルフェル(GM):
「そうですね。もしかすると出かけることになるかもしれません。でも、その前に兄さんにちょっと……」

イーサ:
「アゼルの奴だったら、さっき散策してくるとか言って出て行ったぞ」

ニルフェル(GM):
(小声で)「それじゃ、もう出かけちゃったかな?」ニルフェルはそう呟くと、「ありがとうございます」という言葉を残して1階へと下りていきました。そして、宿の1階に下りると、すぐにアゼルの姿を探して外に出るのではなく、カウンターの奥の扉を叩いて、宿屋の主人と何やら話し込み始めます。

イーサ:
 そんなニルフェルを横目に見ながら、俺は宿の外に出て行こう。

GM:
 イーサが外に出て行くと、両手剣を素振りしているセルダルと、それを見ているアゼルの姿が目に入ります。

アゼル:
 いや、俺も剣を二刀流に構えて素振りしておこう。

イーサ:
「2人とも剣の稽古か。精が出るな」
 アゼルはいつの間にか二刀流にしたんだな。

アゼル:
 クルト・ソードをもらったからな。盾を装備したほうが攻撃を避けやすいんだが……。まあ、ビジュアル重視の装備だ。きっと、まだ見ぬオヤジが双剣使いとして名を馳せていたということで。
「イーサも一緒にどうだ?」

イーサ:
「いや、遠慮しておこう。俺は街を見てくる」そう言って街中のほうに歩いて行く。
 そういえば、こういった街で書籍を探したいときにはどこにいけばいいんだろう?

GM:
 それなら寺院ですね。しかし、カラーラにある寺院はイーサの信仰するハルヴァ神とは異なるエルバート神を奉っていますが、構いませんか?

イーサ:
 別に神様にこだわってないからそこはいいんだよ。まあ、知識くれるから良いんじゃね? みたいな。それじゃ、とりあえず街をぶらっと歩いてから寺院に行くことにしよう。

GM:
 では、イーサが街へと向かっていったので、いったん場面をアゼル側に戻します。イーサが出て行ってからしばらくすると、アルが宿の外に出てきました。そして、セルダルとアルは2人で実戦的な訓練を始めます。さすがに、今回は剣を鞘に収めた状態ですけどね(苦笑)。

アゼル:
 真剣での訓練は下手すると死人がでるからな(笑)。そんな2人の様子を横目に見ながら剣を振り続けている。

GM:
 横目に見る限り、セルダルはアルにやや押されているようです。たまにセルダルも鋭い一撃を放つのですが、やはり実戦慣れしたアルには一歩及びません。2人の動きを客観的に見比べると、アルのほうが洗練されて見えますね。
 さて、そんな訓練が繰り広げられるなか、宿の扉が小さく開いて、ニルフェルが外にでてきました。

ニルフェル(GM):
 ニルフェルはキョロキョロと周りを見渡してから、「あ、兄さん。まだ居たんだ?」と言ってアゼルのもとへと歩み寄ってきます。

アゼル:
「おう、ニルフェル。どうかしたか?」

ニルフェル(GM):
「兄さん、いま時間いいかな? もし手が空いているようなら、ちょっとお願いしたいことがあるの」

アゼル:
「ああ。まあ、手は空いているが……」そう言って、剣を鞘に収める。

ニルフェル(GM):
「それじゃ、とりあえず部屋にまで来てくれる?」そう言うと、ニルフェルはアゼルを連れて自室へと向かいました。


GM:
 ニルフェルが部屋の扉を開けると、中ではちょうどハージが出かける準備をしているところでした。

ニルフェル(GM):
 部屋に入ったニルフェルは、ハージに対して「ハージさん、許可とれましたよ」と言って、両手で丸マークを作ってみせます。

アゼル:
 ん? なんだろう?

ニルフェル(GM):
「協力、お願いしますね」とニルフェルがハージに対して言うと――

ハージ(GM):
 ハージは小さくうなずいて、「私はこれから寺院に行かなくちゃならないから、それが済んで戻ってきてからね」と言ってほほえみました。

ニルフェル(GM):
「ありがとう。ハージさん。頼りにしてます」

ハージ(GM):
「そうだ……。戻ってくるまでに1時間はかかると思うから、それまでに下ごしらえをしてもらえると助かるのだけれど、お願いできる?」

ニルフェル(GM):
「はい。任せてください!」

アゼル:
 下ごしらえ……。料理でもするのか。つまり、なんだ。買出しでもしてきてくれってことか?

ハージ(GM):
 ハージは手荷物だけを持って部屋を出て行こうとするのですが、その際、アゼルとすれ違ったときに、「よく気の利く妹さんね」と声をかけてきます。

アゼル:
「そうだろ。できた妹だ」

ハージ(GM):
 その言葉に目を細めると、ハージは一度ニルフェルのほうに視線を向けてから部屋を出て行きました。

ニルフェル(GM):
 そうしてハージのことを見送ると、部屋に残ったニルフェルは、アゼルに対してこれから行おうとしていることの説明を始めます。
「これはまだハージさん以外には話していないことなんだけれど、実はこれからお食事会をしようと思ってるの」

アゼル:
「そうか。久しぶりにニルフェルの手料理が食えるわけだな」

ニルフェル(GM):
「うん。あのね……。ここに来るまでのあいだ、みんなの雰囲気がなんだかギクシャクしていたでしょ? アルさんとは明日でお別れになっちゃうから、その前になんとかこのわだかまりを解いておきたくて……」

アゼル:
「そうか。それはいい考えだな。皆で一緒に美味いメシを食えばきっと雰囲気も改善するだろう」

ニルフェル(GM):
「それで、さっきお店の人には、台所と1階の半分を使わせてもらう許可をもらったの。お店に常備してある食材も使っていいって。あとは、足りない食材を揃えて料理を作るだけなんだけれど……」

アゼル:
「わかった。つまり、俺はその足りない食材を買ってくればいいんだな。それで、なにを買ってくればいいんだ?」

ニルフェル(GM):
 ニルフェルは笑顔でうなずくと、荷物の中から筆記具を取り出して、香辛料各種と鶏肉、玉子、野菜類……などをズラズラと書き込んだリストとそれらの材料費をアゼルに手渡しました。
「兄さんが買い物に出ているあいだ、わたしは今ある材料でできる範囲の下ごしらえを進めておくから、ハージさんが帰ってくるまでには買い物を終えて戻ってきてね!」

アゼル:
 となると制限時間は1時間ってことか……。
「了解した。では早速買出しに行ってこよう」と言って部屋を出よう。

GM:
 こうしてアゼルは買い物に出ることになったわけですが、ひとりで出かけますか? 部屋で寝ている人もいるようですが……。

シーン外のエルド:
 部屋でゆっくりしているとは言いましたが、別に寝ているわけではありませんよ。僕は部屋で書き物をしています。

アゼル:
 買出しの量はどれくらいあるんだろう?

GM:
 かなりの量がありますよ。ニルフェルは宿屋の主人にもお礼としてお裾分けするのつもりなので、全部で12人分になりますね。

アゼル:
 なるほど、わかった。そんなに多いなら、ニルフェルが俺に頼むのも無理ないな。ひとりで買い物するのもたいへんそうだし、一度部屋に行ってエルドも誘っておこう。
「エルド、暇か?」

エルド:
「まあ、暇と言えば暇ですが……。いったいどうしたんですか?」

アゼル:
「ニルフェルの奴が、今晩食事会を開くって言うんだ。それで、これからその買出しに出かけるところなんだが、暇なら付き合えよ」

エルド:
「……付き合ってあげてもいいんですが、人にものを頼むときには言い方というのがありますよね?」

アゼル:
「うっ……そうだな。すまなかった。あらためて、買出しの手伝いを頼めないか?」

エルド:
「……わかりました。それでは早速行きましょう」そう言うと、それまで書き物をしていた本を閉じます。
「ちなみに僕に声をかけたということは、ひとりでは持ちきれないほどの量なんですか?」

アゼル:
「そうだな。これくらいある」とニルフェルから渡された買い物リストを見せる。

エルド:
「これまた随分な量ですね。アゼルさんの背負い袋だけじゃ入りきらないかもしれません。予備の袋を調達してから出かけましょうか」

 こうして、アゼルとエルドは宿屋の主人に大袋を借りると、街に買い物へと出かけたのでした。




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