LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第2話(24)

GM:
 では、先に街に出ていたイーサのほうに場面を移しましょう。街をぶらついてからエルバート寺院に行くことしたイーサですが、寺院にたどり着くまでにどこか寄りたい場所はありますか?

イーサ:
 いや、特に目的もなく街全体をぶらぶらする感じかな。ところで、この街にはどんな施設があるんだ?

GM:
 カラーラにはこれといって特別な施設はありません。目に付くのは靴屋、それと食料品店、あとは修理がメインの武器・防具の店とか雑貨用品店ですね。一応、飲み屋らしき店もあります。しかし、どの店の規模もたいしたものではありません。
 そうやって、街をぶらついているイーサでしたが、ここで《スカウト技能+知力ボーナス+2D》による、(コロコロ)目標値9の判定を行ってください。

イーサ:
 なんだろう? (コロコロ)6で失敗。

GM:
 残念。それでは、イーサは特になにかに気づくこともなくエルバート寺院にたどり着きました。

イーサ:
 うーん。それじゃ、教会にある本に目を通そう。教会にはどんな本が置かれてるんだ?

GM:
 基本的には学術書の類ですね。専用の小さな書庫にたくさんの本が保管されています。娯楽小説などはありませんけどね。本の複製……つまり写本の作成は主に寺院で行われています。どこぞの国ではすでに活版印刷の技術もあるそうですが、カーティス王国ではまだ手書きで写本が作られています。

シーン外のアゼル:
 へぇ……。寺院は図書館としての機能も備えてるんだな。呪文書とかも置いてあるんだろうか?

GM:
 一般公開はされていないものの、信者であれば白魔法書を閲覧できます。ですが、さすがに黒魔法書は置かれていないようですね。

シーン外のアゼル:
 じゃあ、寺院の白魔法書から自分のスペル・リングに魔法を記憶させることはできるのか?

GM:
 白魔法書にかけられている合言葉がわからなければ、魔法の移し変えはできませんよ。それに、もし合言葉を探ろうとしようものなら、即座に取り押さえられてしまうでしょうね(笑)。

シーン外のアゼル:
 そうか(苦笑)。……あと、以前、俺も本をよく読んでるって言ったけど、クルト家には書庫があったのかな?

GM:
 書庫と呼べるほどの蔵書はなかったものと思われます。この時代において本は高価なものなので、書庫があればそれだけでひと財産できてしまいますから。もし本があるとすれば、クルト家が裕福な時代に購入していた古本が数十冊残っている程度でしょうね。

シーン外のアゼル:
 そうか。それじゃ、きっと俺はイスパルタにあるエルバート寺院に通って、本を読んだりしてたんだろうな……。

イーサ:
 ふむ。あらためて考えてみると、たいして読みたい本もないかな。だいたい、俺はイスパルタに行く以前にこの街に寄ってるんだよな。前に来たときにもこの寺院に立ち寄っていたなら、新しい本がないのも当然か。しばらくしたら寺院を出て、また街をぶらつこう。

GM:
 では、イーサが寺院を出ようとしているころ、アゼルとエルドの2人がどうしているかというと……。


エルド:
 とりあえず、街の繁華街まではアゼルさんと一緒に向かって、そこからは別々に行動することにしましょう。そちらのほうが早く買い物を終わらせることができます。

アゼル:
 そうだな。そうしておこう。

GM:
 繁華街は街の中心部付近にあります。寺院もちょうどその辺りですね。では、あなたたちはそれぞれひとりで街の中心部を歩き回っているということで……。全員、《2D》を振ってください。もっとも値の高かった人にイベントが発生します。

一同:
(コロコロ)

エルド:
 どうやら僕が一番高いみたいですね。

GM:
 それでは、エルドは自分の担当分の買い物を半分くらい終えたところで、人通りの少ない路地の先に見たことのある人影を見つけました。それは、どうやらハージのようです。彼女は通りの壁に背を持たれかけさせて、ひとりで空を見上げています。

エルド:
「あれは……」と呟いて、近づいていきます。

ハージ(GM):
 では、エルドの接近に気がついたハージは、壁から背を離すと、「あれ? エルドくん。こんなところでどうしたの?」と声をかけてきます。

エルド:
「ハージさんこそ、こんなところで何をしているんですか?」

ハージ(GM):
「私はエルバート寺院に行ってきた帰りなの」

エルド:
「ああ。たしか寺院もこのあたりにあるんでしたっけ……」

シーン外のイーサ:
 あれ? 俺と入れ違いになったのか……。

ハージ(GM):
「巡礼者は、巡礼中各寺院に立ち寄って洗礼を受けていかなければならないことになっているんだ」

シーン外のアゼル:
 そして、カードに判子を押していくわけだな。

GM:
 まるで、スタンプラリーですね(笑)。実際のところはその逆で、寺院に置かれた記名帳のようなものに、何月何日に誰が訪れたかというのを書いていくことになります。

エルド:
「なるほど。しかし、それがまた、なんでこんな路地裏に?」

ハージ(GM):
「寺院から宿に帰る途中、少し街中を回ってみようかと思ったのだけれど、歩いていたら気分が悪くなってしまって……。それで、人ごみを避けて、ここで休んでいたの。慣れない旅の疲れがでたのかな……」

エルド:
「それはいけません。安静にしていないと」

ハージ(GM):
「……エルドくんのほうは、どうしてここに?」

エルド:
「僕はアゼルさんに頼まれて、買い物の手伝いをしているところなんですよ」

ハージ(GM):
「あー。それって、例のアレね……」そう口にすると、ハージは合点がいったとばかりに小さくうなずきました。
「それで、買い物はどれくらい進んでるの? 材料の中でなにかわからないものとかある?」

エルド:
「残りはあと半分くらいですかね。実のところよくわからない材料も多かったので、全部お店の人に聞いて回ってるんですよ」

ハージ(GM):
「それじゃ、時間が掛かってしまうでしょう? もしよかったら、私も一緒についていってあげようか?」

エルド:
「いいんですか? 疲れていたようですけど」

ハージ(GM):
「そうね……。でも、ひとりで宿に戻るよりも、エルドくんと一緒にいたほうが安心かな。いざというときにはエルドくんが助けてくれるでしょう?」

エルド:
「わかりました。もしもの時には僕に任せてください」

GM:
 というわけで、エルドの買い物にハージが合流することとなりました。
 それからまたしばらく時間が経ちます。そのあいだに、アゼルは順調に買い物を済ませました。エルドのほうも、あと少しで買い物を終えようかというころ、露店で商品を物色しているハージに、突然、いかつい身体つきの男が声をかけてきました。

いかつい男(GM):
「お? ヒュリア? おまえ、もしかしてヒュリアじゃねぇか?」と、声をかけてきたのは30代半ばくらいの男です。
「久しぶりだな。3年振りか?」

ハージ(GM):
 突然かけられた言葉にハージは顔をこわばらせると、声をかけてきた男のことを無視して、「次のお店にいこ」とエルドの手をとりました。

エルド:
「あれ? 今の人は知り合いじゃないんですか? まあ、聞いたこともない名前を口にしていましたけど……」

いかつい男(GM):
 男は「おい、無視するなよッ!」と言いつつ、離れていこうとするハージの肩をその大きな手で無造作につかみます。そして、ハージの首筋に手を伸ばしてそのまま乱暴に髪を持ち上げると、あらわになった耳元で鈍く光る安物のイヤリングを確認して、「ほうら、やっぱりヒュリアじゃねぇか!」と声を上げました。

ハージ(GM):
 すると、ハージは男の手を払いのけ、これまで発したことのないような冷たい声で、「やめてください」と言って男を睨み付けます。

エルド:
 では、2人のあいだに無理やり割って入って、男性のほうに「ハージさんは嫌がっているようですけど、あなたはどういったご関係の方なんですか?」と聞いてみましょう。

いかつい男(GM):
「関係? なじみだよ。な・じ・み。だいたい、テメェには関係ねぇだろッ!」
 男はエルドを無視するように息のかかる距離までハージににじり寄り、「おいおい。久しぶりの再会だってぇのに、そんなにつれねぇ顔すんなよ。再会を祝して、今晩は2人で楽しもうぜ」と言いつつ、その腕をハージの背後に回そうとします。

エルド:
 GM、街中での乱闘ってまずいんですかね? この街にはならず者とかが結構いるようなので、喧嘩のひとつやふたつくらいあっても不思議ではなさそうですが。

GM:
 そうですね。流血沙汰にならなければ大丈夫でしょう。それ以上のことをした場合は官憲も黙っていないでしょうが、それも逃げ切れさえすれば……まあ……(苦笑)。

エルド:
 では、男の顔に手を当てて、“エネルギー・ボルト”を撃ち込みます。

GM:
 え……? それって、生撃ちでですか?

エルド:
 もちろん、生撃ちです。

シーン外のイーサ:
 魔法って手加減できるのか?

GM:
 いえ、魔法は手加減できません。下手するとクリティカルして致命傷ですよ。

 ソード・ワールドRPGの魔法は魔力を低下させることでダメージを減らせますが、LOSTの魔法は発動したら必ずある一定量のダメージになります。そして、同じ魔法であればその威力は術者のレベルに関わらず等しくなります。

エルド:
 手加減できなくても構いません。大丈夫です。そうそう死にはしませんよ。

GM:
 ……では、どうぞ。撃ち込んでください……。男の魔法抵抗値は、(コロコロ)10です。

エルド:
 行使値は、(コロコロ)14。ダメージは、(コロコロ)物理で10点です。

いかつい男(GM):
 ならば、男は“エネルギー・ボルト”を顔面に食らうと、勢いよく後方へと吹き飛びました。両手で顔を押さえて、「ぐわぁぁぁッ!」と呻き声を上げながら、地面を転がります。

エルド:
 ハージさんの手をとって、「残念ながら、平和的な解決はできませんでした。速やかにこの場を去りましょう」と言って人ごみの中に向かっていきます。

ハージ(GM):
 エルドのその行動にはさすがにハージも驚いた様子で、手を引くエルドの力にあがない、倒れた男のことを助けようと――

エルド:
 では、そんなハージさんに、「本当にその人と顔見知りで、見捨てて置けないというのでしたら、どうぞこの場に残ってください」と言います。

ハージ(GM):
 そう言われたのであれば、ハージはしばらく戸惑った表情をしていたのですが、やがて周囲の雑踏の目が集まりだしてきたことを感じると、地面を転がる男から目をそらしてエルドに手を引かれるままにその場をあとにしました。

アゼル:
 騒ぎになって人だかりができるなら、きっと俺もそれに気づいて、走り去っていくエルドとハージさんの姿を見かけることになるんじゃないか?

GM:
 うーん……。まあ、アゼルも近くで買い物をしていたはずなので、その騒ぎを見かけることになっても構わないでしょう。

アゼル:
 じゃあ、人ごみに近づいて行って、「いったいなにがあったんだ?」と近くの人に聞いてみる。

GM:
 そうすると、街の人たちは口々に、「喧嘩だってよ!」「またかよ……」などと声を上げています。

アゼル:
「喧嘩……?」
 それじゃ、エルドたちのあとを追いかけよう。大量の荷物を持ってのっしのっしと。

GM:
 では、エルドとハージはしばらく走って、人通りの少ない裏路地まで来ました。

ハージ(GM):
「ハァハァハァ……。エルドくん……あなた、なんてことを……」

エルド:
「僕、話を聞かない人って大嫌いなんですよ。それに、あのガタイなら心配しなくても大丈夫ですよ。死にはしません」

ハージ(GM):
「でも、ほかにもやりようはあったでしょう!? あなたは私のことを助けてくれたつもりなのかもしれないけれど――」

エルド:
「あー、すみません。それは誤解です。僕は単に話を聞かない人が嫌いなので懲らしめたまでです」

ハージ(GM):
「そ……そうなの……?」
 ハージは唖然とした表情をエルドに向けます。

GM:
 エルドとハージが路地裏でそんな会話をしているところで、アゼルが追いついてきました。

アゼル:
「お、おい。いったいなにがあったんだ?」

ハージ(GM):
 アゼルが2人に声をかけると、ハージが簡単にことの成り行きを説明してくれました。
「……私がごろつきに絡まれたところを、エルドくんが助けてくれたのだけれど……。魔法を相手の顔に放って、あんなことに……」

アゼル:
「なにぃ? エルド、それはいかんな……」

エルド:
「ですが、言葉が通じない相手だったんですよ。ほかにどうしようもないでしょう?」

アゼル:
「うーむ。まあ、言葉が通じないんじゃ仕方ないな」

エルド:
「よかった。アゼルさんだったらきっとわかってくれると思っていましたよ(笑)」

シーン外のイーサ:
 えーッ!? それで済んじゃうのかよ!

 エルドもエルドですが、アゼルもアゼルです。エルドがカオティックなキャラクターであることは第1話からわかっていたことですが、アゼルまでそれに同調してしまうとは。「困っている人を助けたい」と発言していたころのアゼルはどこへ行ったのやら……。

エルド:
「で、アゼルさん。買い物は終わったんですか?」

アゼル:
「ああ。終わった。おまえのほうは?」

エルド:
「まだ途中です。あと少しというところで変な男に絡まれてしまって……」

アゼル:
「そうか……。また、さっきの奴に絡まれてもなんだからな。エルドとハージさんは先に宿屋に戻っていてくれ。残りは俺が買って来よう」

エルド:
「そうですね。それでは、残りのリストを渡しておきますのでお願いします」

アゼル:
 それじゃ、俺は再び繁華街に戻って買い物を続けよう。

GM:
 では、エルドとハージは宿屋に戻ったということで……。
 その後、しばらくのあいだ街中を走り回る男たちの姿が広く目撃されることとなります。その男たちのうちひとりは、顔にグルグルと包帯を巻いており、わずかに見える肌は紫色になってパンパンに腫れ上がっていました。

いかつい男(GM):
「あいつら、見つけたらただじゃ済まさねぇぞッ!」

GM:
 買い物を終えたアゼルも、帰り道の途中でそんな男たちの姿を見かけることになります。

アゼル:
 すでに俺は先ほどの喧嘩のことは忘れている。その男たちのこともべつに気にかけないな。

GM:
 そうですか……。ならば、イーサのほうへと場面を移すことにしましょう。


GM:
 街をぶらついていたイーサも、街を走り回る男たちの姿を目撃することとなります。そして、そのうちのひとりで包帯を顔に巻きつけた男が、イーサに声をかけてきました。

いかつい男(GM):
「おい、そこの兄ちゃん。ここら辺でこれくらいの背格好の肌の黒いガキと、髪の長いこんな感じの女を見かけなかったか?」

イーサ:
「ん……? いや、そんな奴らは見かけなかったな」

いかつい男(GM):
「そうか……。もし、そいつらを見かけたら、ここまで知らせてくれ。礼は弾む」そう言うと、男はとある酒場の名前を告げます。

イーサ:
「喧嘩でもしたのか? 随分と顔が腫れ上がってるみたいだが……」

いかつい男(GM):
「昔なじみを見かけたから声をかけたら、いきなりそのツレにやられたんだ」

イーサ:
「そいつは酷いな……」

いかつい男(GM):
「ああいう奴には礼儀ってもんをきっちり教えてやらねぇとな」

イーサ:
「なるほど。それじゃ、そういった連中を見かけたら連絡するよ」と言って、男のもとから去っていく。

GM:
 では、イーサは宿屋の前まで戻ってきたところで、荷物を抱えて歩いているアゼルに出くわしました。

アゼル:
「おっ、イーサもちょうど帰りか?」

イーサ:
「ああ。そっちは随分と大荷物だな。いったいどうしたんだ?」

アゼル:
「ニルフェルの奴が食事会をするって言い出してな。その買出しだ」

イーサ:
「ほう、食事会か」

GM:
 せっかくニルフェルが皆のことを驚かせようと、アゼルだけを部屋に呼び出して話をしたというのに、アゼルは一切隠す気なしですね(苦笑)。

アゼル:
 なに? そうだったのか……。まあ、俺は察しの悪い男だからな(笑)。

イーサ:
「どうやら、だいぶ豪勢な食事会になりそうだな。そういうのは村の祭り以来だ。楽しみだよ」

アゼル:
「おう、楽しみにしておけよ。ニルフェルの料理は美味いぞ」そう言いながら宿屋の中に入っていった。




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