買出し部隊が宿屋に戻ってくると、ニルフェルの主催する食事会の準備が着々と進められました。そのあいだ、ニルフェルの命令で男性陣は1階に下りてくることを禁じられてしまいます。そして、日も完全に沈み、お腹の虫が鳴り出す頃になって、ようやくお呼びがかかったのでした。
ニルフェル(GM):
「みなさん、お待たせしましたーッ! それじゃ、1階に下りてきてくださいね」
アゼル:
「おう、出来たのか。それじゃ行くとするか」
GM:
1階に下りると、半数のテーブルが一箇所に集められており、その上には豪勢な料理が所狭しと並べられています。鶏の香草焼きにポテトポタージュ、野菜スティックなど、旅の途中ではなかなか食べられない料理ばかりですね。ちなみに、1階の酒場の半分だけを使わせてもらう約束ではありましたが、残り半分にも客の姿は見当たらず、完全に貸切り状態です。
さて、あなたたち以外の面々も、続々と1階へと下りてくるのですが、その中にジェザの姿は見当たりません。
アゼル:
じゃあ、ギズリさんに声をかけておこう。
「ジェザさんの姿が見当たらないようだが……」
ギズリ(GM):
まだ日のあるうちから酒を飲んでいたギズリは、赤ら顔でそれに答えます。
「ああ。あいつは体調が悪いから遠慮するってよ。あとで残った料理を適当に見繕って、部屋に持っていってやることにするよ」
アゼル:
「そうか。そいつは残念だな……」
ギズリ(GM):
「で、もう食ってもいいのか?」
今にもよだれを垂らさんばかりのギズリが、そう言って女性陣の顔をうかがいます。
ニルフェル(GM):
そうすると、発起人であるニルフェルが音頭をとり始めました。
「それでは……。コホンッ。みなさん、これまで道のりお疲れさまでした! みなさんのおかげで、ここまで無事にたどり着くことができました。今日はみなさんへの労いの気持ちを込めてハージさんと2人で心ばかりの晩餐を用意しましたので、ぜひご堪能ください! そして、明日からもまた全員の力をあわせて頑張りましょう!」
イーサ:
「こんな美味そうな料理は、俺の故郷の村じゃ見たことがないな」
GM:
小さな村レベルとの比較であれば、ハードルもさほど高くなさそうですね(笑)。で、実際の料理の出来栄えはというと、ニルフェルの料理の腕前は……。(コロコロ……出目は3)あ……。いや、でもハージがフォローしてるので……。(コロコロ……出目は4)あ……。ということで、まあ……妥当な味ですよ……。うん……妥当……。
一同:
(苦笑)
ニルフェル(GM):
「それでは、みなさん、カップを手に持ってください。……せーのッ、カンパーイッ!」
一同:
「乾杯ッ!」
GM:
こうして、隊商の面々の親睦を深めることを目的とした食事会が始まったのでした。
イーサ:
そういえば、エルドってまだ16歳だったよな。この国では未成年の飲酒も認められてるのか?
エルド:
ダメなら年齢詐称しますから問題ありませんよ(笑)。
GM:
それについては、カーティス王国に未成年の飲酒を禁じる法律はないので大丈夫です。
アゼル:
いやいや、それ以前にエルドは元奴隷だって話だから、そもそも酒を飲んだこともないんじゃないか? きっと泥水とかすすってたんだろ。
イーサ&エルド:
……。
このアゼルの差別的な発言はいったいなんなんでしょう? さすがに、アゼルが差別主義者であるということのアピールというわけではないのでしょうが……。
エルド:
この国の奴隷の扱いはそこまで悪くないはずなので、そんなことはないと思いますが……。
GM:
そうですね。奴隷は主人にとって一種のステータスシンボルとなるものですから、作法から勉学まで人並みかそれ以上の教育を受けていることも珍しくありませんよ。
さて、そうやって皆が食事を進める中、相変わらず、シシュマンとサブリ、セルダルとアル、そしてギズリが独り、といった感じでいくつかのグループにわかれてしまっています。そこにはまるで見えない壁が存在するかのようです。
ニルフェル(GM):
そんな面々を見て、ニルフェルが眉をしかめていると――
ハージ(GM):
「心配しなくても大丈夫。もう少しお酒が入れば、みんな徐々に打ち解けていくはずだから」と、ハージが優しく声をかけました。
ニルフェル(GM):
しかし、「そうだといいんですけれど……」と、なおもニルフェルは心配そうな顔をしています。
アゼル:
じゃあ、久々に酒を飲んだ俺は、早々に弾けて陽気になってる。
「サブリさん、お疲れッス! 飲んでますかぁ!?」
サブリ(GM):
「おう。飲んでるぞ! おまえこそお疲れさん。しかし、旅の途中でこんな催しを開いてもらえるなんて、ありがてぇよな……。飯も……まあ、なかなか美味いときてる」
アゼル:
「そうでしょう! そうでしょう!」
サブリ(GM):
「そうは言っても、うちのかみさんの手料理にはおよばないけどよ。あーあ。早く仕事を終えて、かみさんのところに帰りてぇなぁ……」
アゼル:
「帰還した際には、ぜひ一度ご相伴にあずかりたいところですな!」
サブリ(GM):
「いやいや、お前は王都に行くんだろ?」
アゼル:
「あー、そうでしたね! あっはっは」といった感じで一人ひとりに馴れ馴れしく接して回る。酒を注いだり、一気飲みしてみたり……。
この後しばらくのあいだ、アゼルによるサラリーマンの接待のような展開が続きましたが、それは割愛して……。
ニルフェル(GM):
皆にある程度酒が回り始めたところで、ニルフェルは部屋からサズを持ってくると、アップテンポの曲を演奏をし始めます。そして、その演奏がサビに近づき盛り上がってくると――
ハージ(GM):
ハージがニルフェルの隣に立ち、演奏にあわせて腰を大きく波打たせ、リズムを取りはじめました。ハージが踊り始めたのはベリーダンスですね。その姿はなかなか様になっていおり、かなり踊り慣れているように見えます。
実際のセッションでは、ここで参考としてサズの伴奏によるベリーダンスの動画を流しました。実際にそのとき使ったのがこちらのもの(YouTube)です。
イーサ:
ベリーダンスはここら辺ではメジャーな踊りなのか?
GM:
そうですね。ヤナダーグ・プラト地方では古くから広く伝わっている踊りです。もとは宗教的な踊りだったそうですよ。ですが、マーキ・アシャス地方出身のイーサにとっては、新鮮なものとして目に映るかもしれませんね。
アゼル:
「ウォォォッ!」と、歓声を上げながら踊りに合わせて手拍子を鳴らし始めた。
「ヒュー! ヒュー!」
ギズリ(GM):
ある程度踊りが続いて場が盛り上がってきたところで、それまでハージの踊りを目で楽しんでいたギズリが、アゼルに声をかけてきました。
「そうだ、アゼル。時間もあるし、一局勝負しないか? カルカヴァンに着く前に、おまえに土を付けておきたいからな」
アゼル:
「おおー、いいですなー。どんと来ーい! ですよ! はっはっは」
ギズリ(GM):
「よっしゃ! それじゃ、ジェザに食い物を運んでくるついでに、戦盤を取って来るわ」そう言って、ギズリは大皿に適当に料理を盛り付けると、それをもって2階へと上がっていきました。そしてしばらくすると、今度は皿の代わりにお手製の戦盤の駒と板を持って下りてきます。
GM:
テーブルの中央でアゼルとギズリの戦盤勝負が始まると、シシュマンとサブリもそのそばに集まってきました。皆が興味津々で盤面へと視線を向けます。
ギズリ(GM):
では、勝負。(コロコロ)11、(コロコロ)14、(コロコロ)9、(コロコロ)11、(コロコロ)9。
アゼル:
(コロコロ)10、(コロコロ)7、(コロコロ)14、(コロコロ)9、(コロコロ)8。
ギズリ(GM):
(ニヤリと笑って)「勝負、あったな」
アゼル:
「ぬぬぬ。参りました……」
むぅー。今日のギズリさんはいつもと違った。
ギズリ(GM):
「いやぁー、やっと勝てた。やっと勝てた」
アゼル:
「今日のギズリさんの戦術はなかなかでしたね」
ギズリ(GM):
「おう。お前と何度か指してみてひとつ気づいたんだ。これまでの俺の敗因は、目先の優位性だけにとらわれて手拍子で指しちまうことがあったってところだ。だが、その場限りの一手を指すと、相手に逃げる隙を与えちまう。大切なのはじっくりと腰をすえて、勝てる筋道が見えてから一気に手を進めることだったんだな」
アゼル:
「なるほど。勉強になります。たしかにそのとおりだ。俺もあまり考えずに指していたな……」
ギズリ(GM):
「よし、オレは更なる高みに昇ったぜ!」
ギズリは初めてアゼルに勝利したその余韻を噛み締めています。
サブリ(GM):
「ずいぶんと嬉しそうじゃねぇか。これまでアゼルにはずっと泣かされ続けてたから、リベンジできて大満足ってところか? まあ、俺はそんなギズリに泣かされ続けてるわけだがな(笑)」
アゼル:
そうなのか。
「サブリさんも一局どうですか? せっかくですから、何か賭けましょう」
エルド:
それじゃ、ただの弱いものイジメじゃないですか(苦笑)。
サブリ(GM):
「賭けか。いいだろう。それじゃ、俺はこの豚肉を賭けよう!」そう言って、サブリは自分の皿に確保していた豚肉を指差します。
アゼル:
そうきたか。
「ならば、俺はこの鶏肉を賭けましょう!」
GM:
そのような感じで、その後アルとセルダルも加わり、戦盤での勝負は大いに盛り上がりました。さて、ほかにこの場でなにかやっておきたいことはありませんか?
イーサ:
それじゃ、戦盤を眺めながら雑談をしておこう。
「そういえば、さっき繁華街から戻ってくるときに顔を腫らした男に声をかけられてな。なんでも、知り合いに声をかけたら、そのツレにいきなり顔面を殴られたらしいんだ。殴った奴らは黒い肌の男と髪の長い女の2人組で、そいつらの居場所を見つけたら報酬をくれるって話だった……」
エルド:
微妙に話がゆがんで伝わっていますね(笑)。
アゼル:
「ほう。それは物騒だな……。まあ、報酬はどうでもいいが、そんな危険な輩がいるならなんとかしたほうがいいな」
ハージ(GM):
あなたたちがそのようなことを話していると、「みなさん、なんの話で盛り上がってるんですか?」と言って、さっきまでダンスを踊っていたハージが肩で息をしながら近づいてきました。
イーサ:
「実は……」と、ハージにも同じ話をする。
エルド:
僕は少し離れた場所でご飯を食べながら、その話を耳にしてニヤッと笑っています。
アゼル:
「あれ? その話の2人組みって、なんだかハージさんとエルドに似てないか? ……まあ、似てる人間なんていくらでもいるけどな」
ハージ(GM):
ハージはチラリとエルドに視線を向けました。
エルド:
「他人の空似というやつですね」と言ってほくそ笑んでいます。
イーサ:
「それにしてもだ。ハージさんのさっきの踊りは、なかなか見応えがあったな。思わず目を奪われたよ」
ハージ(GM):
「ありがとうございます。でも、たしなみ程度のものですから、あまり持ち上げられると恥ずかしいです」そう言うと、ハージは少しはにかんでみせました。
アゼル:
「いやいや、謙遜することはないですよ。素晴らしかった!」
ハージ(GM):
「本当はニルフェルさんにも一緒に踊って欲しいところなんですけれど、そうすると伴奏がなくなってしまいますからね」
アゼル:
ん? ニルフェルも踊れるのか?
GM:
ええ。上手い下手の差はあれど、ヤナダーグ・プラト地方で暮らしている女性であればたいていの人は踊れます。
アゼル:
そうか。ほかの誰かが楽器を演奏できればよかったんだがな……。いっそ手拍子でってのはどうだ?
ニルフェル(GM):
まあ、そんな話をしていると、楽器を片付け終わったニルフェルもその場に来ました。そして、ハージに小声で話しかけます。
「ハージさん。ちょっといいですか? 今日作った料理の中に、あのときのスープがなかったようですが……」
ハージ(GM):
「あのときの?」
ニルフェルの言葉に、ハージは少し考えてから、水を勝手に使って注意されたときに作ったスープのことを思い出しました。
「……ああ、あれのことね。ごめんなさい。必要な香辛料が売り切れていたものだから、今回はつくらなかったの」
ニルフェル(GM):
「そうなんですか……。あのときのスープをもう一度みなさんに食べてもらいたかったんですけれど……。それなら、仕方ありませんね」
ハージ(GM):
残念そうにしているニルフェルを見たハージは、少し考える素振りをみせてから、「……そういえば、お店の人が、明日の朝市にはその香辛料が店先に並ぶだろうって話してたっけ……」と、思い出したように口にしました。
ニルフェル(GM):
その言葉を聞いたニルフェルは、グッと身を乗り出します。
「本当ですか!? でしたら、その香辛料を明日の朝市で買ってきますので、出発前の軽食として作ってもらえませんか?」
ハージ(GM):
「え、ええ。私は構わないけれど……」
ニルフェル(GM):
「ありがとうございます! それじゃ、明日の朝も調理場をお借りできるように、お店の人にお願いしてきますね!」そう言って、ニルフェルは宿屋の主人のもとへと向かっていきました。
アゼル:
ニルフェルは意外と行動的だな……。
GM:
意外でしたか? 最初から結構行動的な所を見せてきたつもりだったのですが……。
エルド:
僕の視点からは十分行動的な女性に見えていましたよ。きっと、アゼルさんの抱いていた印象は、ニルフェルさんが受身な女性であって欲しいという、アゼルさん自身の願望です(笑)。
ニルフェル(GM):
少しすると、ニルフェルがパタパタと小走りで戻ってきました。
「オッケーもらいました!」そう口にしたニルフェルは、満面の笑顔を浮かべています。
GM:
そんな感じで、食事会の楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。この食事会のおかげで、隊商内に漂っていた嫌な空気も少しは改善されたようでした。