LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第2話(28)

GM:
 さて、東の丘までは1時間ほどかかるため、一行は18時には宿屋をあとにすることになるのですが、そのくらいの時刻から、しとしとと雨が降り始めてきました。イスパルタを離れて以来、はじめての雨です。
 先行するのは、8つの木箱が乗せられた荷馬車で、その御者台にはアルの姿があります。そのうしろを、1キロ近く距離を置いて、アゼル、イーサ、エルド、セルダルの4人が追いかけています。
 ところで、エルド。“サウンド・キャリー”はどこにかけましたか?

エルド:
 うーん。たしか、アルさんは革鎧を装備しているんですよね? それじゃ、その革鎧にかけました。

GM:
 了解です。
 宿屋を出てから1時間ほど経過したところで、荷馬車は小高い丘へと到着しました。そのころには日も完全に落ちてしまい、周りは暗くなってきています。ちなみに、アルの乗る荷馬車の御者台にはカンテラが2つ付けられています。
 荷馬車が止まってからしばらくすると、エルドの耳にアルの声が届きました。

アゼル:
 その声はエルド以外には聞こえないんだよな?

GM:
 そうです。ですが、エルドが耳にしたことをすべて皆に伝えることを前提に、全員が聞いたことにしてしまって構いません。

エルド:
 では、聞こえたことをすべて伝えることにします。

GM:
 わかりました。では――

アルの声(GM):
(小声で)「北東に揺れる灯りが見える。どうやら誰かいるようだな。おそらく、案内人だろう。これからそちらに向かう」

GM:
 そんなアルの声に続いて、荷馬車が進む音が少しのあいだ続き、たいした時間をおかずにふたたびその動きを止めます。荷馬車が止まる直前、あなたたちの肉眼でも、遠く前方に揺れるあかりが確認できました。

案内役の男の声(GM):
「オマエがアルだな?」と、野太い男の声が聞こえます。

アルの声(GM):
「そうだ。お前はカダの使者だな?」

案内役の男の声(GM):
「まあ、そういうこった」
(しばらく間をあけてから)
「ふむ。どうやら指示どおりひとりで来たようだな」

アルの声(GM):
「当然だ。人質に取られている2人に危害を加えられては困るからな」

案内役の男の声(GM):
「殊勝な心がけじゃねぇか。いいだろう。そんじゃ、荷馬車にオレを乗せてこれから指示する場所へ向かってもらおうか」

GM:
 その男の言葉に続けて、ギシギシと荷馬車の上に何者かが乗ったような音が聞こえてきます。そして、先ほどよりも近い場所から、案内役の男の声が聞こえてきました。

案内役の男の声(GM):
「まずはあっちのほうに馬を進めろ」

アルの声(GM):
「東か……。そっちでカダが待ってるんだな?」

案内役の男の声(GM):
「答える必要はねぇ」

GM:
 そんなやり取りに続けて、馬に鞭を入れる音がエルドの耳に届きました。

エルド:
「動き始めましたね。どうやら東に向かうようです」

アゼル:
「よし、追いかけよう」そう言って、走り出す。

アルの声(GM):
「……ところで、人質は2人とも無事なんだろうな?」

案内役の男の声(GM):
「もちろんだ。この積荷との交換が終わるまでは、かすり傷ひとつつけねぇよ。念のために言っておくが、変な気は起こすなよ。少しでもおかしなことをしたら、二度とあの娘たちとは会えなくなるからな……」そう答えた男の声は、緊張のためか少しこわばって聞こえました。

GM:
 それから丸1時間が経過し、荷馬車は平野から茂りのあるほうへと進み、ついには林の中へと入っていきます。途中、北へ東へと進行方向がころころと変わりましたが、その都度アルが言葉で方角を示してくれたため、あなたたちは荷馬車を見失くことなく追跡することができました。整地されていない土地を、ゴトゴトと大きな音を立てて荷馬車が進んでいきます。

案内役の男の声(GM):
「もう少しだ。前方に明かりが見えてきただろ? あそこに向かって進んでもらおう」

GM:
 案内役の男はそう言いましたが、後方からついてきているあなたたちには、まだその明かりは見えません。逆に、林の中に入ってからというもの、荷馬車に掲げられた明かりすらおぼつかなくなっています。そして、さらに少し過ぎたところで――

案内役の男の声(GM):
「ここだ。もう少し前まで馬を進めて止めろ」

GM:
 その案内役の指示に従い、馬が止められます。

アルの声(GM):
「明かりは崖の上に見えるようだが……。そこまで荷馬車を運ばなくていいのか?」と確認するアルの声が聞こえました。

案内役の男の声(GM):
「ああ。崖の下がオマエの場所だ」

アルの声(GM):
「なるほど。それじゃ、崖の上はカダの場所ってことか」

GM:
 そのアルの言葉に対して、案内役の男ものとは違う聞き覚えのある声が返ってきました。

カダの声(GM):
「そうさ。上に立つ者と、下を這いつくばる者。今のオレたちに相応しい場所だろ?」その鼻にかかった声は紛れもなくカダのものです。

エルド:
「どうやら目的の場所についたようですね。急いで近くまで向かいましょう」そう言って、林の中を荷馬車のわだちを頼りに走ります。

アルの声(GM):
 そんなエルドの耳に、取引場所の様子を必死に伝えようとするアルの声が聞こえてきます。
「俺たちに相応しいかどうかは知らないが、人質交換にはこれ以上ないってほど絶好な場所だな。左右は荷馬車を進められそうな、なだらかな坂。それでいて、目の前の崖は上り下りには適さない高い絶壁。よくこんな場所を見つけたもんだ……。それで、こっちは約束通り積荷を持ってきたが、そっちも人質は連れてきているんだろうな?」

カダの声(GM):
「おい、見せてやれ」

GM:
 カダの命令の後に「んーッ! んーッ!」と、かすかにうめく女性の声が聞こえました。どうやら猿ぐつわのようなものを咥えさせられているようです。

アルの声(GM):
「たしかに、2人とも無事なようだな」

カダの声(GM):
「もちろんだ。人質には怪我ひとつ負わせちゃいねぇよ。さて、それじゃ、テメェに持ってこさせた積荷の確認をさせてもらおうか。おい、適当に積荷の中を確認してみろ」

案内役の男の声(GM):
「へい、おかしら!」
 カダの命令に案内役の男が応じたあと、しばらくすると荷台から箱をこじ開けようとする音が聞こえてきました。

アゼル:
 積荷の確認が始まったか……。まずいな。このままだと、あと少しで積荷の中身が偽物だってことがばれるぞ。急いで現場に向かいたいが、あとどれくらいの距離があるんだ?

GM:
 1キロぎりぎりまで離れていたので、走っても3分程度はかかります。

アゼル:
 そうか……。じゃあ、ここらへんで作戦を相談したいから、一旦シーンの進行を止めてくれないか?

GM:
 了解です。

イーサ:
 ちなみに、どれくらいの距離まで近づくと気づかれるもんなんだ?

GM:
 金属鎧を装備している人もいませんし、50メートルまでなら判定なしで近づけたことにして構いませんよ。さらに距離を詰める場合には、《スカウト技能+実質敏捷度ボーナス+2D》の判定を行ってください。

アゼル:
 さて、どうする? さっきアルさんが話していた情報によると、中央が崖になっていてその左右が坂になっているようだが……。左右に別れて挟撃するか?

イーサ:
 左右に別れると、そのあとは互いに連絡を取れなくなるぞ。突撃のタイミングあわせとか難しくならないか?

アゼル:
 敵に気づかれない距離は50メートルだろ。そうすると、左右に別れた距離は100メートルくらい。それくらいなら、互いの存在を目視できないか?

イーサ:
 それで目視できるくらいなら、敵にも発見されるだろ。

GM:
 雨が降る夜の林の中で、100メートルちょっと離れた相手を目視するというのは難しいですね。暗視能力があるなら認めますが。

イーサ:
 ってことは、俺の“インフラビジョン”を使えば目視できるってことか……。だが、それでも双方向での情報伝達はできないし、“インフラビジョン”の効果時間中は、逆に明かりのあるところでの戦闘にペナルティがつくんだよな……。

エルド:
 だったら、僕の“サウンド・キャリー”とあわせて使いましょう。そうすれば、お互いに意志疎通できますよ。集音源となる小石かなにかをイーサさんに渡しておきますので、それで突撃タイミングを合図してください。ついでに、“インフラビジョン”の効果が切れる直前までアルさんの時間稼ぎが持てば、ペナルティも受けずに済みますよ。たしか、“インフラビジョン”の効果時間は3分でしたっけ?

アゼル:
 よし、とりあえずその作戦で行こう。所定の位置について“インフラビジョン”の効果が切れたら“全力移動”で突っ込むってことでいいんだな?

イーサ:
 いや、人質を盾に使わせないためにも、ぎりぎりまでは“忍び足”で距離をつめたほうがいいだろうな。

アゼル:
 ふむ……。了解だ。

 こうして、“インフラビジョン”と“サウンド・キャリー”を頼りに、アゼルとエルド、イーサとセルダルの2組に分かれて、カダたちの左右から挟撃をしかけることとなりました。

GM:
 はい、相談はそのくらいでいいですかね? では、そろそろ時間を進めます。あなたたちが所定の位置に向かって走り出してからしばらくすると、カダの命令で荷物の中身を確認しようとしていた案内役を務めていた男が木箱の蓋を外し終えました。

案内役の男の声(GM):
「おかしら! 木箱の中には石が詰まってます!」

カダの声(GM):
「そうか……。どうやらちゃんと持ってきたようだな。それじゃぁ、取引を始めるとしよう」

アゼル:
 おや? 積荷が偽物だってばれなかったのか?

GM:
 どうやらそのようですね。
 さて、あなたたちが所定の位置に急ぐ一方で、アルは少しでもカダの注意を引き付けておこうと会話を続けています。

アルの声(GM):
「なあ、カダ。取引の前にひとつ確認しておきたいんだが、お前はなぜ、わざわざ人質と荷物の交換なんて面倒なことを持ち掛けたんだ? サブリの商売を邪魔することが目的なら、ほかにいくらでも簡単な方法があっただろ? 俺をおびき寄せるためか?」

カダの声(GM):
「はぁ? テメェ、頭がいかれてんのか? 荷物を奪うのは金になるからに決まってんだろうがよ! そんなくだらねぇ話をするためにテメェをここに呼んだわけじゃねぇんだよ。無駄口叩かずに、まずはその荷馬車から降りろ! さっさとしねぇと、この小娘の耳を切り落とすぞッ!」

GM:
 カダのがなり声が響いたあとで、アルが馬車から降りる音が聞こえました。

カダの声(GM):
「よし、それじゃオマエ――」と、カダは案内役の男に命じます。「アルの手足を縛れ」

アルの声(GM):
「手足を縛るだと? ふざけるなッ! そんな条件が飲めるかッ!」

カダの声(GM):
「おやぁ? 人質がどうなってもいいのか?」

アルの声(GM):
「くっ……。ならば、カダ、約束しろ! 俺が従えば、人質は必ず解放すると!」

カダの声(GM):
「安心しろ。オレは積荷とテメェ以外には興味ねぇからよ。神に誓って約束しよう」

アゼル:
 怪しい……。カダが約束を守るとは思えん。

カダの声(GM):
「……が、どちらにしろ、テメェに選択権はねぇんだよ。あと10数えるうちに言うことを聞かねぇなら、この小娘の耳を切り落とす」そう言って、カダはニルフェルの耳にダガーの刃を近づけます。

アルの声(GM):
「くっ、この卑怯者めッ!」そう言いつつも、アルは抵抗せずにされるがまま手足を縛られます。

アゼル:
 うーむ。これで、アルさんは戦力外になってしまったな。

カダの声(GM):
 カダは手足の自由を奪われたアルの姿を満足そうに眺めると、案内役の男に次の命令を与えました。
「よーし。それじゃ、オマエは明かりをひとつアルのそばに置いてから、荷馬車をこっちまで運んで来い」

GM:
 カダの指示に従い、案内役の男はカンテラのひとつをアルの近くに置くと、自分は荷馬車の御者台に座り、荷馬車を緩い坂の始まりへと進めます。

カダの声(GM):
「さあて、アル。これまで、よくも散々オレの邪魔をしてくれたな。これからその恨みをようやく晴らせるかと思うと、これ以上ないほど健やかな気分だぜ。じっくりといたぶってやるから、よぉ~く味わってくれよ。まずは、その右脚だな」
 カダは弓を手に取り、矢をつがえると、アルの右脚に狙いを定めて矢を放ちました。(コロコロ)

アルの声(GM):
「うぐッ!」
 右脚に矢を受けたアルは苦痛に顔を歪めます。

カダの声(GM):
「ケッケッケ。無様なもんだなぁ。こんな女のために命を捨てることになるとは。テメェとは何の関係もねぇ女なんだろう? そんな女の前でもいい恰好がしたかったのか? この格好つけ野郎がッ! まだまだ行くぜ! 次は左脚だ」

アゼル:
 もはや単なる格好つけレベルじゃないよな。アルさんは善良すぎるほどだ。そのアルさんをいたぶるとは……。くそー、カダの奴めぇ……鼻を削ぎ落してやるッ!

カダの声(GM):
 カダの放った2射目は、(コロコロ)おっと、クリティカルしました。

アルの声(GM):
「ぐぁぁぁッ!」
 その痛みに耐えかねたアルは、たまらず膝を折り、地面を転がり回ります。

エルド:
 まずいですね。いまの一撃は脚を貫通したんじゃありませんか?

イーサ:
 くそッ。まだ3分経たないのか?

GM:
 まだですね。3分って結構長いですよ。

カダの声(GM):
「おいおい、もう立ってられないのかよ。案外根性ねぇんだな。でもなぁ、そうやすやすとは楽にしてやんねぇぜ? 次は……左腕ッ!」

アゼル:
 せめてもの救いは、カダの奴にアルさんをすぐに殺すつもりがないことだな。アルさん、もう少しだけ我慢してください。

GM:
 そうはいっても、LOSTは部分ヒットポイント制ではないので、カダの意思にかかわらず大ダメージが出たらアルは死んじゃいますけどね(苦笑)。

カダの声(GM):
「手元が狂ったら悪りぃな……」
 左腕を狙って矢を放ち、(コロコロ)ちょこっとダメージ。

アルの声(GM):
「ぐわぁぁぁぁッ!」
 ここでアルの生命点が半分を切ったので、士気判定を行います。結果は、(コロコロ)成功したので、苦痛の声は上げますが、泣き言は口にしません。

カダの声(GM):
「んー、いい声だ……。さあて、次はオレの鼻の骨を折ってくれた、その忌々しい右腕だ!」(コロコロ)

アルの声(GM):
 士気判定、(コロコロ)成功。右腕に矢を受けたアルでしたが、今度は声を漏らしませんでした。

カダの声(GM):
「ありゃ? 反応が鈍くなっちまったな……。もっと遊んでいたかったんだが、もう、おしまいかぁ?」そう言いながら、カダは次の矢を矢筒から引き抜きます。
「そうそう。お亡くなりになる前に言っておくことがあった。約束どおり、この女たちは間違いなく解放してやる。オレはこいつらには興味がねぇからな。だが、そのあとで手下たちがなにをしようと、オレは知らねぇよ。それは約束には含まれてなかったことだからな。この女たちが無事に街に戻れるといいなぁ。ケッケッケ」

アルの声(GM):
「貴様ッ! カダーッ!」

カダの声(GM):
「そうだッ! もっと呻けッ! もっと叫べッ!」

GM:
 さて、こうして4発の矢がアルに撃ち込まれ、カダがさらなる一撃を放とうかといったところで、あなたたちは所定の位置に到達しました。まもなく、イーサのインフラビジョンの効果も切れそうです。
 移動中、あなたたちの目に入った地形と人の配置はこんな感じでした(と言って、戦闘フィールドを公開する)。

戦闘フィールド

GM:
 アルの近くに明かりがひとつ。崖の横手にある坂を上り始めている荷馬車に明かりがひとつ。そのほかに、崖の上にも2つの明かりがあり、その明かりの近くには幾人かの人影が見えました。崖の上には人質2人の姿もあり、彼女たちは両手を前で縛られ、口には猿ぐつわをされています。




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