GM:
カダが倒れると、残りの部下たちは一目散に林の中へと逃げ去っていきます。
イーサ:
ハージさんはどうなった?
GM:
ハージは背中に深い傷を負ったものの致命傷には至らず、絶え絶えではありますが呼吸もあります。カダの得物が短剣だったのが幸いしましたね。もう少し重量のある武器だったら致命傷になっていたでしょう。
イーサ:
「ハージさん、しっかりしろッ!」
“瞑想”して“キュア・ウーンズ”を唱える。(コロコロ)4点回復。もう1回、(コロコロ)3点回復。
(ダイスを手に取って、さらにハージに“キュア・ウーンズ”をかけようとする)
ハージ(GM):
ハージはイーサの手を握ると、それ以上魔法を使おうとするのを止めます。
「私はもう大丈夫。それよりもほかの人の傷を癒してあげて……」
イーサ:
「……ああ。わかった」
エルド:
イーサさん自身が危険な状態なのでは?
アゼル:
まず自分を回復しろ、自分を(笑)。
イーサ:
いや、先にアルを回復しないと……。崖の下に降りていく。
「アル! 大丈夫か?」
アル(GM):
アルは苦痛に顔を歪めています。
「か……勝ったのか……? カダの野郎はどうなった?」
イーサ:
「ああ、なんとか勝った。カダも倒して捕らえたよ」
アル(GM):
「……そうか。よくやったな……」
イーサ:
「これから矢を抜いて傷を癒す。ちょっと痛むが、我慢してくれよ」そう言って、アルの身体に刺さった矢を引き抜く。
アル(GM):
アルの身体から矢を引き抜くと、鮮血が勢いよく飛び散ります。
「ぐあああああああああああああッ! 畜生ッ! カダの野郎ッ!」
イーサ:
“キュア・ウーンズ”を唱える。(コロコロ)7点回復。(コロコロ)3点回復。これで打ち止めだ。
GM:
十分です。イーサの治療により、アルは自分の足で歩けるまでに回復しました。そして、イーサがアルの治療を行っているあいだに、崖の上ではハージがアゼルの傷を癒しています。
ハージ(GM):
(コロコロ)7点回復。(コロコロ)1点回復。(コロコロ)7点回復。
アゼル:
それで全回復。
ハージ(GM):
アゼルの治療を終えたハージは、イーサのもとまで歩み寄ると、「あとはあなただけですね」と言って、その傷を癒します。
(コロコロ)6点回復。(コロコロ)7点回復。
イーサ:
「すまない。助かった」
ハージ(GM):
ハージは、イーサの傷を癒し終えると、カダのほうへと視線を向け、「……彼の傷も癒して構いませんか?」とイーサに問いかけます。
イーサ:
「なんだと? そいつは俺たちを殺そうとした奴だぞ?」
ハージ(GM):
「では、イーサさんはここで彼に止めを刺すつもりですか?」
イーサ:
「それは……」
(少し考え込んでから)
「……ふむ。どうやら、俺にもアゼルの馬鹿がうつったみたいだ。いまの俺に、無抵抗な奴の命を奪うことはできそうにない……。わかった。そいつの傷も癒してやってくれ」
アル(GM):
そこで、2人の会話を聞いていたアルが口を挟んできました。
「ちょっと待ってくれ。今後、要らぬ禍根を残さないためにも、カダの息の根はここで止めておくべきじゃないか? どうせ役人に捕まれば死罪は避けられない奴だ。別に構わないだろ。それともなにか? カダを死なせたくない理由でもあるのか?」
ハージ(GM):
そのアルの言葉に、ハージは戸惑いを見せます。
アゼル:
普段は空気の読めないアゼルだが、ここは察しておこう。
「ハージさん。まさか、カダとのあいだになにかあるのか? もし俺たちに隠していることがあるなら、いまここで話してくれないか?」
ハージ(GM):
アゼルの追及に、明らかに動揺した様子で身体をこわばらせたハージでしたが、しばらくすると落ち着きを取り戻し、やがて意を決したようにうなずきます。
「わかりました。すべてお話します……」
アゼル:
もしかすると、ハージさんはカダの女だったんじゃないか?
エルド:
そうだとすると、命懸けでハージさんを助けようとしていたイーサさんがなんだか哀れですね(苦笑)。
ハージ(GM):
「これまで、私はあなたたちのことを騙していました……。私は、イスパルタからあなたたちの行動をずっと監視し、旅の妨害をしてきたんです。……なぜなら、私も彼らの仲間だから……。人質にとられた振りをしていたのも、いざというときにあなたたちの妨害をするためで……」
アゼル:
「そうだったのか……」
(少し考えてから)
「だが、それならば、なぜイーサを庇うようなまねを……?」
ハージ(GM):
「それは……」
(チラリとイーサの顔を見てから)
「命懸けで私のことを助けようとしてくれているイーサさんの姿を見ているうちに、騙し続けることに耐え切れなくなって……」
イーサ:
「……」
アゼル:
「しかし、なぜ、あなたのような人がカダなんかと手を組んでいるんだ?」
ハージ(GM):
ハージはしばらく押し黙ったのちに、ゆっくりとその問いに対する答えを口にしました。
「……カダは……私の兄なんです……」
一同:
えーッ!?
アゼル:
そういうことだったのか……。
エルド:
今回、一番の衝撃です。
アゼル:
「……にわかに信じられないな……。あなたが、そんな悪事を働く人だったなんて……」
ハージ(GM):
ハージは小さく首を横に振ります。
「これまで、私たち兄妹は、自分たちが生きぬくことをなによりも優先してきました。そのために罪を犯すことも少なくありませんでした。この地で生きていくためには、そうするしかなかったんです……」
アゼル:
「……本当にそうなのか? 犯罪に手を染める以外にも生きていくための手段はあったんじゃないのか? 兄妹2人でなら、もっと違う生き方ができたんじゃないのか?」
ハージ(GM):
「……違う生き方……?」そう口にして、ハージは冷ややかな視線をアゼルに向けます。
「先の戦役終結以降、亡きアゼル王は軍の縮小化を図り、それに伴い多くの兵士や傭兵たちが職を失いました。それら職を失った者たちが、その後どうなったのかはアゼルさんもご存知ですよね?」
アゼル:
知っているんだろうか?
GM:
もちろん、知っているでしょう。身近なところにジャナンという人物もいたわけですからね。
ジャナンはたまたまクルト家の厚意によってその地で生活することができましたが、それでもわずかな日銭を稼いでようやく暮らしている状態です。それ以外の職にあぶれた兵士達がどうなったかと言えば、野盗と化したり、逆にそれを討伐するための部隊に傭兵として参加するなどして、かつての同胞による共食いが繰り広げられています。
ハージ(GM):
「傭兵を生業としていた私の父も、職を失い……そして死にました。それからというもの、まだ幼かった兄と私は2人で生きてきたんです……。私たちに出来たことと言えば、物乞いをし、盗みを働き……そして……自らの心と身体を切り売りすることくらいでした……。でも……いつまでもそんな暮らしを続けることに耐えられなかった……。罪を犯してでも、幸せな生活を手に入れたかった!」
一同:
……。
アゼル:
「これまで、俺はわりと苦労を知らずに生きてきてしまった。いわば世間知らずだ。この世界には、俺の知らない事情というものがあるのかもしれない……。だが、もしもあんたらと同じような境遇に追いやられたとしても、俺は、自分の心を汚してまで悪に染まりたいとは思わないッ! あんたらの境遇に同情して、それも仕方がないことだなんて認めるわけにはいかないッ!」
ハージ(GM):
「……そうですね……。私もこれ以上あがなうつもりはありません。役人に突き出すというのであれば、それに従います……」
アゼル:
「あんたには、これまでも何度か助けてもらった。今回イーサが無事だったのも、あんたのおかげだ。それに免じて、今後二度と俺たちの前に姿を見せないと約束するのであれば、ここは見逃してやる。だから、カダを連れて、いますぐ俺たちの前から消えてくれ。アルさんもそれでいいな?」
アル(GM):
「おいおい、アゼル。お前、なんだかんだ言いつつ、結局情に流されてるんじゃないのか? 言っておくが、こいつらはすでに何人もの人の命を奪ってるんだぞ。役人に引き渡せば、まず間違いなく死刑になるような奴らだ。それでもお前はこいつらのことを見逃すというのか?」
アゼル:
「情に流された……? そうだな……。そうなのかもしれない。それでも、もう一度だけチャンスを与えてもいいんじゃないか? イーサの命を救ったハージさんなら、きっともう同じ過ちは犯さないはずだ」
アル(GM):
「エルド。キミはどう思うんだ? この中ではキミが一番彼女たちの境遇に近いはずだ。そんなキミから見て、人様に迷惑かけてでも幸せになりたいっていう彼女の言い分は甘えだと思わないか?」
エルド:
「そうですね……。自分たちで決めた道を進んできたわけですから、奴隷になるよりは随分幸せな人生だったんじゃないかなと思いますけど……。自由というものを与えられていなかった僕にとっては、たとえそれがどんな自由であったとしても、うらやましく思えます」
アゼル:
いまのエルドが自由奔放なのはその反動か(笑)!
エルド:
「それより、カダさんの話も聞いてみましょうよ。拘束して自由を奪ってしまえば、傷を癒すくらいは構わないですよね? ハージさん、これからカダさんを縛りますから、それが終わったら傷を癒してもらえますか?」
GM:
では、そのエルドの提案に従い、ハージの癒しを受けたカダが目を覚ましました。
カダ(GM):
目を覚ましたカダは、自分のおかれた状況に気がつくと、「ハージ。テメェ、裏切りやがったなッ!?」と毒づきます。
ハージ(GM):
「兄さん……。もう終りにしよう?」
カダ(GM):
「バカなこと言ってんじゃねぇぞッ! テメェ、誰のおかげでいままで生きてこれたと思ってんだッ!」
アゼル:
「話はハージさんからすべて聞いた。もう、あんたらも子供じゃないんだ。犯罪に手を染める以外にも、ほかの生き方があるだろ……? このまま役人に引き渡せば、きっとあんたらは死罪となるだろう。だが、その前に、もう一度だけチャンスをやる。今後二度と俺たちの前に姿を見せるな。そして、悪事から足を洗うんだ」
カダ(GM):
「……はぁ? なにを言うのかと思えば、くっだらねぇなぁ。聖人君子でも気取ってんのか? ほかの生き方があるだって? 犯罪者としての生活にどっぷり浸かったオレたちに、いったいどんな暮らしがあるってんだ? いまさらまっとうに生きようとしても、野垂れ死にすんのがオチだ。現実が見えてねぇガキはテメェのほうだろうがッ! この世の中は、テメェが考えてるほど甘くねぇんだよッ!」
アゼル:
「考えを改めるつもりはないか……」
カダ(GM):
「さあな……。だが、見逃してくれるってなら、ぜひそうしてくれよ。テメェが望むなら、いくらでもお望みの言葉を言ってやるからよ。『勘弁してください』『もうこんなことは二度としません』『命だけはお助けを』ってなッ!」そう言い放つカダの身体は、挑発的な言葉とは裏腹に小刻みに震えています。
アゼル:
「……お前には何を言っても無駄なようだな……」そう言って、剣の刃をカダに突きつけつつ、顔はハージさんのほうに向ける。
「この場は見逃してやる。そのかわり、あんたがこの男を止められず、俺たちの前にふたたび姿を現すようなことがあれば、俺が必ず殺してやるッ! いいなッ!」
カダ(GM):
「おい、兄ちゃん。そんなこと言っても無駄だぜ? オレは、金輪際この女とはつるまねぇ。ドジふんだのは、このバカ女のせいだからなッ!」そう言って、カダはハージに唾を吐きつけます。
ハージ(GM):
ハージは無言のまま顔を背け、視線を地面へと落としました。
アゼル:
うーん、そうか。そうなるのか……。
アル(GM):
「アゼル。お前はカダの口約束が欲しいのか? たとえ、この場でカダがなんと言おうが、俺にはカダが心を入れ替えるとは到底思えん……。ならばいっそ――」
アゼル:
「もういいッ! カダ、お前はどこにでも行けッ! あとは知らんッ!」
カダ(GM):
その言葉にカダは立ち上がると、あなたたちに背を向けて、縛られた腕を突き出しました。
「そんじゃ、お言葉に甘えて、これで無罪放免だな。ほれ。さっさと外してくれよ」
アゼル:
くぅーッ! 切り殺したいッ! だが、助けるといった手前、そうもいかん。縄を切って逃がしてやる。
カダ(GM):
では、両手が自由になったカダは、縄の痕をさすりながら、「後悔するなよ?」とアゼルの目の前で笑みを浮かべてみせます。
「そうだ……次に会うときのために聞いておいてやるよ。テメェの名前はなんていうんだ?」
一同:
(爆笑)
以前、エルドがカダに対して自分の名前を「アゼル」だと騙っていたために、ちょっと可笑しいシーンになってしまいました(苦笑)。
アゼル:
くっそーッ! エルドと名乗ってやりたいが、ここは仕方ない……。
「アゼルだ」
カダ(GM):
「……アゼル? いま、アゼルって言ったのか? フッフッフ……ヘッヘッヘッ……ヒッヒッヒッ……ヒャーッヒャッヒャッ!」
カダは腹を抱えて笑い転げます。
「くだらねぇ! くだらねぇよ! そうか……あの愚王の名前をテメェも名乗るのか! オレたちを不幸にした根源。あのアゼルの名を!」
アゼル:
この名前になったのは俺のせいじゃなーい!
GM:
いや、事前に公開しておいたNPC情報を無視した上に、キャンペーン開始前の段階で指摘したにも関わらず変更しなかったんですから、完全に自業自得でしょう(苦笑)。
カダ(GM):
「アゼル……ねぇ。忘れねぇ。忘れようがねぇな。その名前は……。テメェらも、今日のことを忘れるんじゃねぇぞ。必ず、今日のこの決断を後悔させてやるッ! 次に会ったとき、テメェらは必ずこう言う。『あのときに殺しておけばよかった』ってなッ!」そのような捨て台詞を残して、カダは林の中へと姿を消していきました。
アゼル:
前回に引き続き、また捨て台詞を吐いてった(笑)。
ハージ(GM):
カダの姿を追って、ハージもその場を立ち去ろうとします。
イーサ:
「ハージさん!」と、立ち去ろうとするハージさんを呼び止めた。
ハージ(GM):
イーサの声を背に受けて、ハージの足が止まります。
イーサ:
「……あんたが巡礼の旅をしてるって話は嘘だったのか……?」
ハージ(GM):
「ごめんなさい……」そう言って、ハージは目を伏せました。
イーサ:
「神への信仰も……嘘だったのか?」
ハージ(GM):
「……これまで、どんなに苦しくても……どんなに祈っても……私たちに救いの手を差し伸べてくれる神様なんていなかったもの……」
イーサ:
「そうか……。まあ、俺も神に祈ったりする口じゃないんだが、熱心に祈りを捧げるあんたの姿を見てるうちに、もしかしたら、いずれ本当に神の祝福があるんじゃないかって……そんな気にさせられてたんだ。もっとあんたのことを見続けていれば、いつかそれが見れるんじゃないかって……」
(一度押し黙ってから)
「……そうか……信じてなかったのか……」
ハージ(GM):
「期待に添えなくてごめんなさい……」
イーサ:
「いや、いいんだ……」
(しばらくの沈黙を挟んでから)
「あんたの踊り、すごく良かったよ。メシも美味かった。あんなに美味いメシを作れるなら、きっと……きっと上手くやっていけるさ」そう言って、ハージに背中を向けた。
ハージ(GM):
では、そのイーサの言葉を受けて、ハージは静かにその場を去っていくのですが、最後に彼女はこのような言葉を残していきました。
「もし……。もし、神様に祈りの言葉が届くのであれば、どうかみなさんが無事に旅の目的をはたせますように……。ありがとう。さようなら……」
一同:
……。
イーサ:
……なんだろう……。小さな恋が崩れ去ってしまったような気がする……。
ハージとの別れに、ちょっと傷心ぎみのイーサなのでした。微笑ましくてとても良い反応です。
そして、残された一行は……。
アル(GM):
「あーあ。結局、カダの奴を逃がしちまったな……。あいつを生かしておいて一番苦労するのはカルカヴァンに残る予定の俺なんだぞ。わかってるんだろうな?」
アゼル:
「すまない(苦笑)」
アル(GM):
「法を遵守するなら、やはり役人に引き渡すべきだったろうな。だが、俺も法を破って遺跡探索をしてる身だ。お前の今回の決定に異を唱えられる立場でもないか……」
アゼル:
「そういうことにしてもらえると助かる」
アル(GM):
「さてと、それじゃすべてのかたがついたところで……貸してた指輪を返してもらえるか? あれは買い手が見つかれば10万銀貨はくだらない代物なんだ。かなり役に立っただろ?」
一同:
(爆笑)
アゼル:
「い、いや……そのことなんだが……(汗)」
こうして、その後、魔力を失った指輪について責任の所在を巡るてんやわんやはあったものの、なんとか全員無事にカラーラへの帰路につくことになったのでした。
アル(GM):
「それじゃ、カラーラの街に戻るとするか!」
一同:
「オーッ!」
GM:
アルが馬に鞭を入れると、ゴトゴトと音を立てて荷馬車が動きだします。
ニルフェル(GM):
そんな帰りの荷馬車の上で、ニルフェルがアゼルに対して小声で話しかけてきました。
「兄さん……」
アゼル:
「ん? どうかしたか?」
ニルフェル(GM):
「もし、わたしたちがハージさんたちと同じような境遇にあったとしたら、兄さんは罪を犯してまでわたしのことを守ってくれる? それとも、やっぱりハージさんに言ったように、それはいけないことだと……」
アゼル:
(しばらく悩みこんでから)
「……きっと……そのときには俺も同じことをしてしまうんだろうな。お前のためなら……」
ニルフェル(GM):
その答えに、ニルフェルは喜びとも悲しみともつかない表情を浮かべました。
「……もしかすると……。ううん、きっと、わたしたちは自分たちが思っていたよりもはるかに恵まれた暮らしの中にいたんだね……」
アゼル:
「そうだな……」と言いながら、子供の頃にもそうしたように、ニルフェルの頭を撫でてやる。
GM:
こうして、荷馬車は一路カラーラの街へと戻っていったのでした。
――といったところで、宮国紀行の第2話を終了します。お疲れさまでした。
一同:
お疲れさまでした。