LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(02)

GM:
 さて、今回はカダとの戦いを終えた翌日、隊商がカラーラからカルカヴァンへと向かうところから始まります。カラーラを出発するまでに6時間の休憩がとれるので、いまのうちに自然治癒判定をしておいてください。

イーサ:
(コロコロ)なんとか精神点を1点回復。

エルド:
(コロコロ)僕は精神点を3点回復させました。

イーサ:
 相変わらず、エルドの精神点回復力はすごいな……。それに比べると、俺は神経質で、寝床が変わると眠れないタイプってわけだ(苦笑)。

アゼル:
 イーサらしいじゃないか(笑)。

GM:
 はい。そのようにして一晩休んだあなたたちは、カルカヴァンに向けて朝7時にカラーラを出発しました。天候は晴れです。カルカヴァンまでの街道は整備されており、途中で魔物などに襲われることもありませんでした。

 実は、すでに前回のセッション中にカルカヴァンまでの遭遇判定は済ませており、行軍経験点にもその分が含まれていたのですが、リプレイとして書き起こすうえでは蛇足だったので割愛してあります。

GM:
 カラーラから北上していくと、街道沿いの景色が、これまでの乾いた土色から、草木の緑へと徐々に変化していきます。
 現在地からでは霞がかっているため見えませんが、遠く北東の方角にはボルグヒルド山がそびえ立っており、カルカヴァン沿いにはそこを源流とするニメット川が流れています。地表に現れない地下水脈もあるようで、それらの影響で植物が自生しやすくなっているようです。
 また、イスパルタに比べると、心なしか涼しくなってきたようにも感じられます。これは、緯度の影響というよりも、標高の差が強く影響しているためです。

アゼル:
 イスパルタを出発してからここままで、俺たちは緩やかに登ってきていたわけだ。

GM:
 そうです。これまでの道のりは200キロ以上に渡るとてもなだらかな登りだったため勾配を感じさせませんでしたが、その始点と終点の標高差は実に1,000メートル近くにもなります。
 さて、変わりゆく風景を目にしながら街道を進み、やがてお昼を過ぎる頃になると、あなたたちの視界にイスパルタに並ぶほどの規模を誇る市壁が見えてきました。ただ、イスパルタの市壁は幾度となく戦いを潜り抜けてきた年季を感じさせるものであったのに対し、いま眼前に見えている市壁は、まだ外敵の攻撃を受けたことがないであろう美しい壁です。
 ここでカルカヴァンに関する知識判定をしておきましょう。《スカラー技能+知力ボーナス+2D》の判定で、目標値は10以上です。

アゼル&イーサ:
(コロコロ)成功。

GM:
 では、アゼルとイーサは次のことを知っています。
 まず、現在のカルカヴァンは15年ほど前に遷都したばかりの新しい都市です。その開発にあたってはカーティス王国の最新技術が余すところなく投入され、国内初の上下水を完備した都市として広く知られています。
 ちなみに、遷都する以前の旧カルカヴァンは、もう少し東にある小高い丘の上にありました。遷都後、カーティス王国最高の黒魔法使いとして誉れ高かったウォーベックという人物が、廃墟となった旧カルカヴァンの古城を隠居後の研究施設として買い取り、移り住んでいたのですが、そのウォーベックも昨年の夏に他界しています。なお、ウォーベックがこの地に移り住んだのは、近隣に聖域が多数存在するからだと言われており、それを裏付けるようにカルカヴァンの街には聖域の探索を生業とする遺跡探索者たちが多く集っています。
 また、カルカヴァンには、ヤナダーグ・プラト地方の総督府も置かれています。現総督はハイダール・アルカンという人物です。加えて、アスラン商会の本部とヤナダーグ・プラト地方の商人ギルドの本部もカルカヴァンにあります。これら大組織の拠点を抱えるカルカヴァンは、イスパルタと比べると経済的にも文化的にも大きく発展しています。

アゼル:
 ヤナダーグ・プラトの中枢都市カルカヴァンか。ちょっとしたおのぼりさん気分だな。

GM:
 そのまま、あなたたちが市壁に向かって進んで行くと、ぽつぽつと民家が見えてきました。ただ、街道の東側には一般的な建屋が並んでいるのに対し、西側にはあばら家しか見当たらず、東と西とでその様相が大きく異なります。
 そして、市壁付近まで近づくにつれ、道の西側に見えていたあばら家はさらに密集し、集落と呼べる規模になっていきました。どうやら貧民街のようですね。

アル(GM):
 貧民街を目にしたアルが言葉を発します。
「ここからが最後の大仕事だな。気を引き締めていくぞ」

GM:
 商人たちの表情も、心なしか固くなっているようです。そうこうしているうちに、遠くに小さな人影が見えてきました。

アゼル:
「なんだあれは?」

GM:
 アゼルが目を凝らして見ると、その人影はどうやら子供のようです。10人ほどのみすぼらしい服を着た子供たちが、「めぐんでおくれよ!」「兄ちゃん、これ買ってくれよ!」などと口にしながら、わらわらとあなたたちの周りに集まってきました。

アゼル:
 なーんだ、子供か。ギブミーチョコレートって来たわけだな。だが、生憎と恵んでやれるほどの金はない!

エルド:
 あれ? そこまでお金に余裕がないんでしたっけ?

アゼル:
 自由に使えるのは小銭だけだ。小銭以外は、いざというときのためにとっておくつもりだからな。

GM:
 さて、少年たちはあなたたちのうち、誰かひとりに狙いを定めてまとわりついてくるのですが……。誰にしようかなっと、(コロコロ)あー、やっぱりアゼルですか。

一同:
(笑)

GM:
 まあ、アゼルは金属鎧を身に着けているわけですしね。おそらく身なりを見て、一番お金を持っていそうだと判断したのでしょう。貧民街の少年たちが、アゼルの周りに群がってきました。

貧民街の少年(GM):
「兄ちゃん、兄ちゃん、恵んでくれよ! オイラたち、昨晩からなにも食べてないんだ……」

アゼル:
 そんなのが群がってきてるわけだ。ふむ。それなら5銀貨渡そう。
「しかたないなぁ。これで皆となにか食え」

イーサ:
 おいおい! 金を渡すのかよ!?

貧民街の少年(GM):
「やったーッ! ありがと、兄ちゃんッ!」
 5銀貨を手にした少年は大喜びして跳ねます。そして、続けてこう言いいます。
「みんな、この兄ちゃんが銀貨をくれたぞ!」

アゼル:
 えっ(汗)?

GM:
 少年の一声で、ほかの少年たちも一斉にアゼルに詰め寄ってきます。そこらへんに自生していそうな野草の花を手に持った少女が、「お花買って!」と言ってきたり、手に薄汚れた布キレを持った少年が「靴を磨くよ!」と言ってきたりで、アゼルは身動きするのも困難な状態となりました。

イーサ:
 ほらみろ。言わんこっちゃない。

アゼル:
「うー、えーと。花はいくらなんだ?」

花売りの少女(GM):
「銀貨10枚だよ! とっても綺麗なお花だよ!」

アゼル:
 野草の花程度で10銀貨もするのかよ……。

GM:
 なにせ、なんの見返りもなしに5銀貨くれた人に花を売るわけですからね。売り物があるからには、それ以上の値段で買い取ってもらわないと(苦笑)。

アゼル:
 くそッ。俺はみんなでわけろと言ったんだ。この小僧どもめッ! うーん、しかたない。ここは花も買ってやろう。

イーサ:
 あっ、馬鹿……。

花売りの少女(GM):
「やった! ありがとう!」

GM:
 もちろん、こうなったらそれだけでは終わりません。

靴磨きの少年(GM):
「兄ちゃん、汚れた靴を磨いてやるよ! 汚い靴のままじゃ市内に入れないかもしれないよ!」

アゼル:
「ええい、靴はこのままでいい! 金をやるから、とにかく離れろッ!」そう言って5銀貨やろう。

GM:
 それでも、まだまだ詰め寄る子供たちはあとを絶ちませんよ。「兄ちゃん!」「兄ちゃん!」「兄ちゃん!」と怒涛のごとく押し寄せてきます。10人中3人に対して恵んだので、残り7人います。

アゼル:
 くぅ……。ここは大きい男だってことを示しておこう。3銀貨ずつ7人に配る。
「ほら、並べ。ひとりにつき3銀貨ずつやるから、もらったら離れるんだ!」

GM:
 はい。そうやって少年たちに銀貨を配るアゼルの目の端には、一番最初に金を恵んだ少年が、「おーい、みんなー!」と声を上げながら、貧民街のほうへと走っていく姿が映りました。

イーサ&エルド:
(爆笑)

GM:
 少しすると、貧民街のほうから幾人もの人影が押し寄せてきます。今度は子供たちだけでなく、大人の姿も見えます。こうして馬車の周りには数十人の人だかりができてしまい、ついにあなたたちは身動きの取れない状態となってしまいました。

アゼル:
 うわぁ……。しまった……。

GM:
「兄ちゃん、もっと恵んでくれよ!」とか、「アイツには恵んだんだろ!? だったら、オレにも恵んでくれよッ!」などと口にする貧民街の住人たちは、ますますヒートアップしてきています。

エルド:
 卑しさマックスですね(苦笑)。こういう輩は無視してやり過ごすのが一番なのに、アゼルさんがつまらないところで見栄を張るからこうなるんですよ。

アゼル:
「くそッ! もう、恵んでやる金はないッ! ないったらないんだから離れろッ!」

貧民街の少年(GM):
「金がないなら、物でもいいよ! そのマントくれよ!」

アゼル:
「マントはダメだッ!」

貧民街の少年(GM):
「じゃあ、オイラはこの古そうな剣でいいよ!」

アゼル:
「ふざけるなッ! キサマらッ!」
 畜生。恵んでやったのは失敗だったな。だが、仕方ない。アゼルは世間知らずなんだ。

アル(GM):
「まったく、あの馬鹿が……。こうなったからには仕方ない……」
 アルは軽く舌打ちすると、鞘に収められたままの剣で、馬車の進行を妨げる貧民を殴り倒していきます。
「邪魔だッ! どけッ! どけッ!」

エルド:
「アゼルさん。この事態を招いた責任を取るために、ここは一肌脱いで、僕たちが街に入るまでのあいだ、時間稼ぎしてくださいよ」

アゼル:
「えー!?」

イーサ:
「なるほど、そいつはいい考えだ。まったく、アゼルのお人よしにも困ったもんだな」
(貧民たちに対して)
「シッシッ! ほら、あっちに行けッ!」

GM:
(コロコロ)ふむ……。では、ここでエルドに《スカウト技能レベル+知力ボーナス+2D》で目標値10の判定を行ってもらいましょう。

エルド:
 スリにでもあいましたかね? (コロコロ)14で成功です。

GM:
 ならばエルドは、貧民街の男のひとりが、あなたの懐から小銭袋を盗もうとしていることに気がつきました。

エルド:
 では、その男の手を捻り上げます。

貧民街の盗人(GM):
「痛てててて……。な、なにすんだよ!」

エルド:
「それはこっちの台詞です。あなた、いま僕の財布を盗ろうとしたでしょう?」

貧民街の盗人(GM):
「そ、そんなこと……。気のせいだ……。オレはまだなにもしちゃいないんだから、放してくれよ」

エルド:
「まだ……ね。見逃してあげてもいいですが、その代わりにこの貧民街の連中を追い払ってもらいましょうか。それができなければ、窃盗罪であなたを役人に突き出すことにします」そう言って腕の力を強めます。

貧民街の盗人(GM):
「か、勘弁してくれよぅ。お、追い払えって言われたって、こいつら、オレの言うことなんか聞きやしねぇよ。もうアンタたちには近寄らねぇから、とにかく放してくれ……」

エルド:
「ふむ。それじゃ、こういうのはどうです? 荷馬車の反対側にいる金属鎧を身に着けた男に、貧民たち全員が集まるように仕向けてください。それで荷馬車が進めるようになれば、今回の件は見逃してあげます」

アゼル:
 バカッ! 余計なこと言うんじゃないッ(笑)!

貧民街の盗人(GM):
「え? え?」
 盗人はしばらく状況が飲み込めてないようでしたが、「とにかく、あっちに皆を誘導すればいいんだな?」と、拘束から逃れるためにエルドの条件を受け入れました。

エルド:
「わかったなら、僕の気が変わらないうちに、さっさとやっちゃってください」と、笑顔を浮かべながら盗人の手を放します。

貧民街の盗人(GM):
 自由になった盗人はエルドから後ずさり、荷馬車の反対側へと回ると、「皆ーッ! 鎧を着けた旦那が、早い者順でオレたちに金を恵んでくれるってよッ!」と大声を張り上げます。

GM:
「なにィッ!? 早い者勝ちだとッ!?」
 荷馬車を囲んでいた貧民たちは、その声に反応して一気にアゼルへと押し寄せます。

エルド:
「アルさん、いまのうちです。僕たちは先を急ぎましょう」

アル(GM):
「了解だ」

エルド:
「アゼルさんには悪いですが、あとでお酒の1杯でもおごれば大丈夫ですよね」

イーサ:
「まあ、自業自得だし、大丈夫だろ。あいつの長所はお人好しなところだからな」

GM:
 では、荷馬車はカルカヴァンの市門を目指してふたたび動き始めます。
 アゼルはそのまま皆が市門に着くまで足止めとして貧民たちの中に残るということで構いませんか?

アゼル:
 うむ。仕方ない。しばらくその場に留まって貧民たちを引き付けておこう。

GM:
 それでは、貧民たちに揉みくちゃにされたアゼルは戦闘行為と等しい行動をとったということで、今回から追加された戦闘疲労が適用されます。《12-20レーティング》分の疲労を負ってください。

アゼル:
(コロコロ)うわっ! 疲労が11点も溜まった。

GM:
 貧民たちの相手はかなり疲れたようですね(笑)。
 こうして、一行はカルカヴァン市門まで到達し、アゼルも皆に遅れること十数分後に合流することができました。

エルド:
「たいへんでしたね、アゼルさん。汗が滝のように流れてますよ」

イーサ:
「まあ、これでまたひとつ学んだだろ」

アゼル:
 なんだか皆冷たくないか? 俺はいいことしたはずなのに……。

セルダル(GM):
 セルダルがそんなアゼルを見て、やれやれといった表情をします。
「ホント、オマエは世間知らずだよなぁ。ここまで来ると、さすがに呆れるぞ」

アゼル:
「そう言わず、ああいうときは助けてくれよ」

セルダル(GM):
「やなこった。困ってるのがニルフェルちゃんならともかく、誰がオマエなんかの道連れになるかよ。だいたい、アルの警告を無視したオマエが悪いんだろ?」

アゼル:
「え? なんか言ってたか?」

セルダル(GM):
「最後の大仕事だ。気を引き締めて行け――って言ってたろ」

アゼル:
「あー。なるほど。あれはそういう意味だったのか……」




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