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宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(03)

GM:
 さて、貧民街を抜けて市門前まで来たあなたたちでしたが、まだカルカヴァン市内には入れません。なぜなら、カルカヴァンの市門では人の出入りがとても厳しく管理されており、入市許可札を発行してもらわないと市内に入ることができないからです。現在、その許可を得るため、総督府付きの役人たちによる荷物検査を受けているところです。
 荷物検査が行われているあいだ、門番のひとりが入市許可札の利用方法や市外へ出るときの手続き方法について説明してくれます。

門番(GM):
「では、これからカルカヴァンの出入りについて説明するから、よく聞いておくように。まず、カルカヴァン市内に入るときには入市許可札が必要だ。こいつの発行には、50銀貨の手続き費用が掛かる」

アゼル:
 うお。ここで50銀貨支払うことになると、イザというときのためにとっておこうとした資金に手をつけることになるじゃないか!

イーサ:
 じゃあ、今がそのイザというときなんだろ(苦笑)。

GM:
 入市許可札発行の費用は、途中の宿代などと同じく隊商の諸経費扱いのため、報酬から差し引かれます。この場であなたたちが支払う必要はないので、安心してください。

門番(GM):
「逆に市外に出るときだが、これには2つのケースがある。ひとつは長期的に市外に出る場合。もうひとつは当日中に戻ってくる予定の一時的な外出だ。前者は入市許可札を市門で返却するだけでいい。その場合、市内にもう一度入るためには再度入市許可札の発行手続きを行わなくてはならない。で、一時外出の場合だが、このときは市門で入市許可札を預かる代わりに、一時外出札を発行する」

アゼル:
「その一時外出札の発行にも費用が掛かるのか?」

門番(GM):
「いや。一時外出札の発行は無料だ。ただし、一時外出札は発行した当日中、発行した市門でしか使えないから、その点には気をつけて欲しい。日を跨いでしまったときや、ほかの市門から入ろうとした場合は、新規に入市許可札の発行手続きを行わなくてはならなくなる」

エルド:
「市門というのはいくつあるんですか?」

門番(GM):
「このカルカヴァンには東西南北の4箇所にそれぞれ市門がある。いまいるここが南門だ。ほかになにか確認しておきたいことはあるかね?」

エルド:
「この街は随分と栄えているようですが、宿屋はいくつくらいあるんですか?」

門番(GM):
「宿屋は、各区画に最低1軒はある。私が知るだけでも20軒以上あったはずだ。なにせ、この街にはよそから多くの人間が来るからな」

エルド:
「20軒以上ですか……。宿屋のリストとかはありませんか?」

門番(GM):
「探せばあるのだろうが……。君達は商人ギルドの関係者なんだろう? ならば、商人ギルド本部にいけば、ギルド系列の宿屋を紹介してもらえるんじゃないか?」そう言うと、門番はシシュマンのほうに目を向けます。

シシュマン(GM):
 その言葉を受けたシシュマンはエルドに対し、「ああ。宿屋のことだったら、ギルド本部についてから詳しく紹介してやるぞ」と言います。

エルド:
「それは楽しみですね。よろしくお願いします」

GM:
 そのようなわけで、あなたたちがカルカヴァンの出入手続きについての説明を受け終えるころには、入市検査も終わり、無事に入市許可札を発行してもらえました。
 その後、市内に入ったシシュマンは、皆を先導してまずエルバート寺院へと向かいます。カルカヴァンの見取り図はこんな感じですね(と言ってカルカヴァン市街地図を広げる)。

カルカヴァン市街地図

GM:
 南門からエルバート寺院に向かうには、中央通りを真っ直ぐ北上し、歓楽区と富裕区をとおり抜けて行くことになります。時間帯がまだ早いので、歓楽区に並ぶ娼館や高級酒場などはまだ営業していません。

アゼル:
 娼館ってイスパルタにもあったのか?

GM:
 ありました。娼館はごく一般的な娯楽施設であり、無い都市を探すほうが難しいですね。
 さて、あなたたちが歓楽区を抜けて富裕区へと入って行くと、そのあたりで、正面に日傘を持った黒い肌の男2人を従えて歩く人物の姿を見かけることになります。その人物は、長身で色白。若いころはさぞモテただろうと思しき端整な顔立ちの中年男性です。
 男はシシュマンの姿に目をとめると、あなたたちのほうへと近づいてきました。

長身で色白な男(GM):
(オネエ系の口調で)「あ~ら、誰かと思ったら、シシュマンじゃないの。お久しぶり」

一同:
(失笑)

シシュマン(GM):
 男から声をかけられたシシュマンは、あからさまに嫌そうな顔をします。

サブリ(GM):
 そんなシシュマンの影に隠れるようにして、サブリがあなたたちに小声で説明してくれました。
「ありゃ、アスラン商会ナンバー3のタルカンだ。いきなり嫌な奴に会っちまったな……」

タルカン(GM):
 シシュマンたちのあからさまな態度を気に掛ける様子もなく、タルカンは一方的に話し続けます。
「アナタたちの到着日が遅れていたみたいだったから、てっきり野盗にでも襲われたんじゃないかと思って心配していたのよ。うちの幹部会でも、来週まで音沙汰がないようだったら、街道の安全確保のために私兵を出そうかって話をしていたのだけれど、どうやら取り越し苦労だったみたいで安心したわ」

アゼル:
 なんだか、イラッとする話し方だな。だいたい、カダの裏で糸を引いていたのはアスラン商会なんだろう?

GM:
 それはシシュマン個人の推測であって、いまのところそれを裏付ける証拠はありませんけどね。

シシュマン(GM):
「そいつはどうも。だが、心配はご無用だ。たしかに街道沿いに野盗は出没してたが、それは、護衛についてるこいつらが蹴散らしてくれたよ」そう言って、シシュマンはあなたたちのことを親指で指し示めしました。

タルカン(GM):
「あらあら。まあ。それはたいへんだったわね。でも、無事で何よりだわ。ワタシたち、一応商売敵ではあるものの、お互いに高めあうライヴァルだものね。ほら、困ったときはお互い様って言うでしょ? なにかあったら、気兼ねなく相談してね」そう言いながら、タルカンは満面の笑みをたたえています。そして、その笑みはシシュマンの親指の先を追って、あなたたちへと向けられました。タルカンの瞳はキラキラしています。
「アナタたちが野盗を追い払ってくれたわけね? 素晴らしいわ」

アゼル:
 少しビビッて後ずさりそうになる。オカマは苦手だ。

タルカン(GM):
 タルカンは、ひととおりあなたたちの顔を見渡したあとで、(コロコロ)イーサに目を向けると、「アナタ、商人ギルドさんの専属なの?」と問いかけてきます。

イーサ:
「いや、専属というわけではないが……」

タルカン(GM):
「あら、そうなの? それじゃ、もし仕事が欲しくなったら、いつでもワタシのところに相談に来てね。歓迎するわ」そう言って、タルカンはイーサに向けてウィンクしてみせました。

イーサ:
 ブッ(失笑)!

アゼル:
 アゼルは鳥肌の立った肌をさすっている。

シシュマン(GM):
「あー、ワシらは急いでるんだ。すまんがこれで失礼する」そう言うと、シシュマンはタルカンを振り払うようにして、ふたたび歩き始めました。

タルカン(GM):
「あら、残念。それじゃあ、またね~」
 あなたたちの背後では、タルカンが手をヒラヒラと振って見送っています。

アゼル:
 ふぅ。一難去ったな……。怖い。あいつ怖い。なんか得体の知れない生き物だ。

GM:
 さて、タルカンと別れてからしばらく歩くと、すぐに中央広場に出ます。
 ちょうどバザーが開かれている時間帯だったこともあり、中央広場は人であふれ返っていました。やはり、イスパルタに比べると人の数が多く、栄えているように見えます。加えて、中央広場のある区画には、総督府や富豪たちの豪邸など城のような巨大な建造物がいくつも建ち並んでいるのが見えます。
 そのような街並みを抜けてしばらく歩くと、あなたたちはエルバート寺院にたどり着きました。

 寺院では、イーサ以外の各々がここまでの旅の無事を感謝し、エルバート神に祈りを捧げました。その後、シシュマンが寺院の責任者である導師長との事務的な会話を終えるのを待ってから、一行は商人ギルドの本部へと向かい、そこでようやく一段落つくことができたのでした。

シシュマン(GM):
「みんな、ここまでご苦労だったな。道中いろいろあったが、なんとかここまで無事にたどり着くことができた。ひとまず、お疲れさん。それじゃ、ここでいったん、清算するぞ。まず、エルド」

エルド:
「お疲れさまです」

シシュマン(GM):
「これが、諸経費を差し引いた分の報酬だ」
 シシュマンはエルドに715銀貨を支払いました。続けて、シシュマンはアルとイーサとセルダルにも同額渡していきます。最後に、シシュマンはアゼルのほうを向いて、「お前さんの同行者の支払い分は、護衛の報酬から差し引くということでよかったな?」と確認してきます。

アゼル:
「ああ。そうしてくれ」

シシュマン(GM):
「ならば、アゼル。お前さんは185銀貨だ」そう言うと、シシュマンはアゼルのほうへ空のままの手を出してきました。

アゼル:
 ん……? え? もしかして、逆にこっちが金を払うのか!?

GM:
 現在の隊商は総勢10人。護衛はそのうち半数の5人。護衛に支払う費用は護衛以外の参加者が折半して支払うことになっているので、アゼルの護衛報酬分である900銀貨はニルフェルが支払う分で相殺。それ以外の食料や水、途中の宿代、入市許可札の発行費など、もろもろの諸経費をあわせると185銀貨のマイナスになります。

イーサ&エルド:
(爆笑)

アゼル:
 うーん。仕方ない……。払おう。

セルダル(GM):
 アゼルが自分の財布に手を持っていこうとしたところで、セルダルが口を挟みました。
「オレもニルフェルちゃんの同行者としてこの隊商に参加してんだ。だから、ニルフェルちゃんが支払う護衛費の半分はオレが持つ」そう言って、先ほど渡された自分の分の報酬をシシュマンに返します。

アゼル:
 おお、さすが親友!

エルド:
 別にアゼルさんのためじゃなくて、ニルフェルさんのためなんじゃありませんか(苦笑)?

GM:
 こうして、アゼルとセルダルはそれぞれ265銀貨受け取ることになりました。

シシュマン(GM):
「清算はこれで完了だな。それじゃ、このあとの確認だが、カルカヴァン出発は3日後の朝になる。2日後の夜に出発前の打ち合わせを行うから、そのときにまたここに集まってくれ。それまでは各自の自由にしてもらっていい」そう言って、シシュマンはその場をいったん締めました。

アル(GM):
 シシュマンが話し終えると、続いてアルが皆に別れの挨拶をします。
「イスパルタを出発する前に話したとおり、俺はここでお別れだ。皆の旅の無事を祈ってる」そう言ってから、アルはイーサに近づいていき、「お前はこの先どうするんだ? 俺と一緒にここに残って遺跡探索に付き合ってみないか?」と、イーサに今後の身の振り方を確認してきます。

イーサ:
「うーん。まあ、遺跡探索も面白いとは思うんだが、一応、俺には人を探すっていう目的もあるし、このままこいつらと一緒に王都まで行ってみようと思う。それに、この先こいつらだけじゃちょっと不安だしな」

アル(GM):
「そうか……。お前だったらいい遺跡探索者になると思ったんだが……。まあ、お前自身が決めたことならば、これ以上無理は言わないでおくか。道中、くれぐれも、気をつけてな」そう言って、アルは少し残念そうな顔をしてから、その場を立ち去ろうとするのですが、途中なにかに気がついた様子で、背負っていた鞄を一旦床に下ろすと、その奥をあさりはじめました。
「そうだ。せんべつとしてこいつをお前にやるよ。時間があるときにでも覚えてみてくれ」
 アルが鞄の中から取り出したのは魔法のスクロールです。
「遠慮しなくていいぞ。俺には使えないもんだったし、寺院の定めた禁呪だったりすると、なにかと面倒だしな」

イーサ:
「ありがとう……」と言って、そのスクロールを受け取る。

アゼル:
 スクロールの内容って簡単にはわからないものなのか?

GM:
 知識を持った人が調査すればわかりますが、素人が見ただけではわかりません。アルの言動からすると、このスクロールには白魔法が書かれているのでしょう。ちなみに、スクロールに書かれた魔法を魔法書に写し取るときの判定に失敗すると、スクロールを失ってしまうこともありますので注意してください。

アル(GM):
「お前たちも、明後日まではこの街にいるんだろ? 俺は宿木亭っていう宿屋を拠点として活動してる。もし出発前に用事があったら、そこを訪ねてきてくれ。それじゃ、俺はこれで」そう言い残して、アルはその場から去っていきます。

イーサ:
 ……思っていたよりさっぱりした別れになってしまったな。

GM:
 せんべつまでもらっておいて、言うことはそれですか(苦笑)。

アゼル:
 実は、イーサってあまりアルさんと仲良くなかったんじゃないか(笑)?

エルド:
(ニヤニヤしながら)「あれ? そういえば、アゼルさん、なんだか安心したような顔してませんか?」

アゼル:
「え? 何のことだ?」

GM:
 たしかに、使い物にならなくしてしまった“見えざる甲冑の指輪”の弁償代を請求されなくて良かったですね(笑)。

アゼル:
 あッ? あーッ! すっかり忘れてた(笑)。

エルド:
 その自分に都合の悪いことをきれいさっぱり忘却してしまうアゼルさんの記憶力はさすがです。

ギズリ(GM):
 さて、アルが立ち去ったあと、皆が解散する前に突然ギズリが声を上げました。
「悪いが、オレもここで抜けさせてもらう」

サブリ(GM):
 その言葉を聞いて、サブリが驚いた表情を浮かべます。
「はッ? おいおい、ギズリ。お前、ヤナダーグ・プラトを出るまでは一緒についてくるんじゃなかったのか?」

ギズリ(GM):
「ああ、最初はそのつもりだったんだが、気が変わった。ここからは、アンタらとは別行動を取らせてもらう。別に一蓮托生の取り決めがあったわけじゃないんだ。構わないだろ?」そう言うと、ギズリはシシュマンのほうに目を向けました。

シシュマン(GM):
「それはそうだが……」
 突然のことに、シシュマンも少し困惑しているようです。

ギズリ(GM):
「んじゃ、旦那も認めてくれてるようだし、まあ、そういうことで――」

イーサ:
「ギズリが抜けるってことは、ジェザも一緒に抜けるってことか?」

ギズリ(GM):
「ああ、そうだ」

イーサ:
 そうなると、人数が一気に減ってしまうな……。まあ、ここから先は、南アルダ街道よりは安全そうだが。

アゼル:
 新たに隊商の参加者を募集しないといけないかもな。

サブリ(GM):
 立ち去ろうとするギズリに対して、サブリが食って掛かります。
「おいおい、ギズリ、ふざけるなよ。なんでだ? なんで別行動を取る必要があるんだ?」

アゼル:
 まさか、本人を前にしてサブリさんが原因だとは言えないよなぁ(笑)。たしかに、はた迷惑な人ではあるけどさ。

ギズリ(GM):
「なんで? なんでって、原因は、そこにいる護衛の兄ちゃんたちだよ」そう言って、ギズリはアゼルたちを指差しました。

アゼル:
 俺たちかよッ(笑)!
「なに? それはいったいどういう意味だ?」

ギズリ(GM):
「どうもこうも……。オマエら、このあいだ、カダって奴を逃がしちまったんだろ? それじゃ、今後そいつからどんな妨害を受けることになるかわからないじゃないか。それに、アルが抜けた戦力で無事に旅を続けられるとは思えない。なにせ、ここまで無事に来られたのはアルのおかげだと言っても過言じゃないからな。巨大砂蟻を倒せたのも、ジャッカルを上手く追い払えたのも、アルの力と経験があってこそだ。カダから人質を救えたのだって、アルが身を呈してまでおとり役を引き受けてくれたおかげだろ?」

アゼル:
 うっ……。返す言葉も無い。

ギズリ(GM):
「これまで、オマエらはアルを頼ってばかりだったじゃねぇか。そんなおもりが必要な奴らと一緒に行動してたら、いつ目的地にたどり着けるかわかったもんじゃない。とにかく、オレは1日も早く、グネ・リ――」
(言い直して)
「目的地に着きたいんだ」

エルド:
 いま、グネ・リマナって言おうとしてましたか? それって、西海岸の南の港ですよね?

GM:
 はい。グネ・リマナはビューク・リマナ地方の南部にある港湾都市です。

ギズリ(GM):
「まあ、そんなわけだから、オレはここで抜けさせてもらう」

シシュマン(GM):
 シシュマンは大きく呼吸してから皆の顔を見渡しました。
(しばらく反応の有無を確認してから)
 そして、誰からもそれ以上声が挙がらないことを確認すると、ギズリに向かって「好きにしろ……」と言います。

GM:
 こうして、ギズリはジェザを伴い、自分のロバを引いてギルド本部から出て行きました。

サブリ(GM):
「なんだ、なんだ、ギズリの野郎め! まさか、あんなクズ野郎だとはよ。せっかく、これまで面倒みてきてやったっていうのに!」そう言って、サブリが舌打ちします。

アゼル:
「すまない……。俺たちのせいでこんなことに……」とシシュマンさんに詫びておこう。

シシュマン(GM):
「いや、気になさんな。ワシはお前さんらの働きを十分評価しているよ。たしかにアルが抜けた穴は大きい。だが、お前さんらの力だって相当なもんだ。それに、イスパルタからここまでのあいだにも、学んだことはたくさんあるだろ。この調子で経験を積んでいけば、そう遠からず立派に護衛を務められるようになるさ……」そう言うと、シシュマンは身を正し、アゼルたちに頭を下げます。
「同じギルドに所属するもんが、あんな物言いをしてしまったことをすまなく思う。本当に申し訳なかった」

アゼル:
「そんな。謝るのはこちらのほうだ。アルほど上手くはできないかもしれないが、この先の道中もよろしく頼む」

 こうして、イスパルタを出るときには11人で構成されていた隊商でしたが、ハージが去り、アルが去り、ギズリとジェザが去ったことで、残り7人となってしまいました……。




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