LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(05)

GM:
 目的地であるインサンラールは、似たような外観の店が数多く並ぶ通りの一角にありましたが、カルカヴァンの街に詳しくないあなたたちにも一発でそれとわかりました。なぜなら、お店の前に、「インサンラール新装開店オープン」と書かれた大きな横断幕が掲げられていたからです。
 雨が降っているにもかかわらず、インサンラールの軒下には入店待ちしている団体客の姿があます。ちょうどあなたたちがお店に近づいてきたタイミングで、店の中から店員が姿を見せると、待っていた団体客を店内へと案内していきました。

イーサ:
「なかなか繁盛してるみたいじゃないか」

エルド:
「お店の外で待たされている客がいたってことは、結構待たされるかもしれませんね」

アゼル:
 とりあえず、店のドアを開けて中に入って行ってみるとしよう。

GM:
 では、アゼルが店の中に入ると、口髭を生やした店員らしき男が近づいてきました。

口髭の男(GM):
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」

アゼル:
 予約!? インサンラールって、大衆食堂だったんじゃないのか?
「い、いや……予約はしていないんだが……」

口髭の男(GM):
「ご予約いただいてない? そうなりますと――」そう言って、男は満席の店内を見渡します。

GM:
 このお店は1階と2階に客席があり、2階の半分以上が吹き抜けになっています。そのため、アゼルの位置からでも全席の様子が一望できます。見たところ、どうやら1階席は満席のようです。しかし、2階席に客の姿はなく、空席があるように見えました。

口髭の男(GM):
「只今満席ですので、しばらくお待ちいただくことになってしまいますが……」

アゼル:
「2階席は空いてるようだが?」

口髭の男(GM):
「申し訳ございません。生憎と、2階は全席ご予約が入っておりまして……」

アゼル:
「なるほど、そういうことか。それなら仕方ないな……。もし待つとしたら、どれくらいの時間がかかりそうだ?」

口髭の男(GM):
「ほかのお客様との兼ね合いとなりますので確約は致しかねますが、1時間程度でご案内できるかと……」

アゼル:
「わかった。少し連れ合いと相談してみる」そう言って、店の外に出て行く。
「1時間ほど待つそうだがどうする?」

エルド:
「1時間ですか……」

イーサ:
 いまの雨の強さはどのくらいなんだ?

GM:
 まだ小雨ではありますが、雨脚は徐々に強まっているようで、本降りになりつつあります。

エルド:
「シシュマンさんから教えてもらった情報によれば、ここから少し離れた富裕区に、デミルというお店もあるようですけど、今日のところはそちらに行ってみませんか?」

アゼル:
「そうだな。雨の中で1時間も待つのはたいへんだし、そっちに行ってみるか」
 それじゃ、デミルのある富裕区に移動しよう。

GM:
 では、あなたたちがインサンラールの店先から離れようとしたところで、前方から傘を差した一団が近づいてくるのが目に入りました。

アゼル:
 え? この世界に傘なんてものがあるのか!?

イーサ:
 傘は傘でも雨傘じゃないんだよ。よく思い出してみろ。日傘だったらすでに出てただろ。

エルド:
 ちょっと嫌な予感がするので、僕はアゼルさんの背後に身を隠しておきます。

GM:
 なかなか鋭いですね(笑)。イーサとエルドが察したとおり、雨の中近づいてきた人物は、アスラン商会ナンバー3のタルカンでした。あいかわらず、たくましい身体つきをした黒い肌の男2人を従えています。

タルカン(GM):
「あ~ら、アナタたち。また会ったわね♪」

アゼル:
 げげッ! 俺はエルドを盾にしてうしろに下がろうとする。

エルド:
 ダメですよ。僕のほうが先にアゼルさんの背後をとったんですから。下手な動きをとるようであれば、うしろから短剣で刺しますよ(笑)?

タルカン(GM):
「ん? どうしたの? お店に入らないの? このお店はワタシの『オ・ス・ス・メ』なのよ♪」

エルド:
(小声で)「イーサさん、昼間はこの人と仲良くしてたじゃないですか、なんとかしてください」

イーサ:
 別に仲良くはしてないだろ(苦笑)。
(タルカンに対して)「いや、ここで食事をしようかと思っていたんですが、なかなかの人気店なようで、満席でしたよ。なので、これから別の店に行こうかとしていたところです」

エルド:
 いつの間にか、イーサさんが敬語になってる(笑)。

タルカン(GM):
「あら、そうなの?」そう言いつつ、タルカンはお店の中をチラリと確認します。そして、先ほどの口髭の男に対して、「ちょっと、店長」と声をかけて呼び寄せました。

インサンラール店長(GM):
「あッ! これはこれは、タルカン様! お待ちしておりました!」

タルカン(GM):
「ねぇ。2階席にお客様の姿が見当たらないけれど、予約でいっぱいなの?」

インサンラール店長(GM):
「いえ……それは……。タルカン様がお見えになるとのことでしたので……」

タルカン(GM):
「ワタシが予約したのは1席だけだったはずよ。もしかして、気を利かせて2階にある席をすべて貸切にしてくれたってことなのかしら?」

インサンラール店長(GM):
 タルカンの質問に対して、インサンラールの店長は、「は、はぁ……」と曖昧に答えを返しました。

タルカン(GM):
「ふうん。でも、そんなことされたって、ワタシは1席分の料金しか支払うつもりはないわよ。同じ料金をお支払いいただいているお客様に対して同等のサービスをご提供するのは、基本中の基本でしょう? この雨の中、わざわざ足を運んでくださったお客様を追い返そうだなんて……。そんなことではお客様は離れて行ってしまうわよ」

エルド:
 なんだか、タルカンさんって、思っていたよりよさそうな人じゃありませんか?

アゼル:
 たしかに。オカマのくせに言うことは正論だな(笑)。

GM:
 タルカンはオネエ言葉を使ってはいますが、オカマだとは一言も言ってませんからね。登場したときにも言いましたが、彼の見た目はあくまで男性として美形です。年齢的には渋いという表現のほうがあいそうですが。

タルカン(GM):
「んもう。アナタのお店を高く評価したからこそ、多額の融資をしたのだから、しっかりしてよね」

イーサ:
 ん? 融資? シシュマンは、商人ギルドの系列店だってことで、このお店を俺たちに紹介してくれたんじゃなかったのか?

GM:
 ええ。間違いなく、シシュマンはそう言ってましたよ。

アゼル:
 あっ! お店の前に「新装開店オープン」って横断幕が掲げられているのは、そういうことか! つい最近になって、アスラン商会に乗っ取られたんだ!

GM:
 乗っ取られただなんて人聞きの悪い(苦笑)。たしかに融資とは言いましたが、誰も買収したとまでは言ってませんよ。

タルカン(GM):
 タルカンはインサンラールの店長に一通り苦言を言い終えると、「それに、この人たちはワタシのお友達でもあるのよ。だから、2階席に空きがあるようなら、一緒にとおして頂戴。ねえ、そうしましょう?」と言って、あなたたちにほほえみかけます。そして、イーサの耳元に口を寄せると、「ワタシ、アナタたちとお話したいと思っていたのよ。お食事しながら色々聞かせて頂戴」と、囁きました。

アゼル:
 いつの間にかにお友達宣言(苦笑)。

インサンラール店長(GM):
 インサンラールの店長は、あなたたちの反応をうかがっています。

エルド:
 僕は困った表情をしてイーサさんに目を向けます。

アゼル:
「ど、ど、どうする?」と俺もイーサの判断を仰ぐ。

イーサ:
「そうだな。友人と言うにはまだ浅い縁かもしれないが、袖触れ合うも他生の縁。せっかくのご好意だ。ご一緒させてもらおう」

アゼル:
 たしかに、ここで断るのは失礼な気がする。……相手はオカマだが……。

エルド:
「僕は構いませんよ。女性をいつまでも雨空の下にいさせるわけにもいきませんしね」と言って、ニルフェルさんのほうへと目を向けます。

タルカン(GM):
「さっ、そういうことだから、ボサッとせずに席まで案内してちょうだい。新装開店キャンペーン中が勝負なのよ。ひとりでも多くのお客様に、このお店の料理を味わってもらわないとダメでしょう?」

インサンラール店長(GM):
「は、はい!」
 タルカンに促されると、店長は慌ててあなたたちを2階席へと案内していきます。

エルド:
 お店の中にはタルカンさんの部下も一緒に入ってくるんですか?

GM:
 はい。2人の部下はタルカンのそばから片時も離れようとしません。肩につけられた焼印から、彼らが奴隷であることがわかります。かなりの戦闘訓練を積んでいるようで、見事に鍛え抜かれた身体つきをしており、腰にはメイスが提げられています。
 さて、インサンラールの2階にはテーブル席が3つあったのですが、その内2つを寄せることで、タルカンとあなたたちが使う席が用意されました。タルカンは一番奥の席に座り、奴隷たちはその左側の席に2人並んで座ります。

エルド:
 成り行き上当然のこととはいえ、やはり合席にされてしまいましたか……。問題はここからですね。誰がどの席に座るか。

アゼル:
 タルカンの隣はイーサだろう(笑)。

イーサ:
 もちろん、俺はタルカンさんに一番近い席に座るつもりだ。

 イーサはすすんでタルカンに近い席を選択しましたが、アゼルとエルドはタルカンのそばに座ることを嫌がり、押し付けあった結果、次のような配置で座ることになりました。縮尺の関係で護衛Aがテーブルからはみ出てしまっていますが(苦笑)。

インサンラール座席順

GM:
 こうして、ひょんなことからタルカンとの食事がはじまりました。まず、タルカンは自己紹介をはじめます。

タルカン(GM):
「それじゃあ、あらためて自己紹介をさせてもらうわ。ワタシはタルカン・トゥルナゴル。アスラン商会の役員を務めているわ。以後、よろしくね♪ それで、アナタたちは?」

アゼル:
 オカマ相手に名乗りたくないが、相手から名乗られた以上は仕方ない。そういう風に教育されてきたからな……。
「アゼルだ」

タルカン(GM):
「あら、アゼル? あの賢王と同じ名前だなんて、良い名前じゃないの! それじゃあ、これからその名に恥じぬくらいの大願を果たせると良いわね。及ばずながらワタシも応援させてもらうわ♪」

アゼル:
「あ……ありがとうございます……」
 まずい、このままでは気に入られてしまう(汗)。

イーサ:
「俺はイーサ」

エルド:
「僕はエルドです」

GM:
 あなた達に続いてセルダルとニルフェルも挨拶し、奴隷2人を除いた全員が自己紹介を終えました。

タルカン(GM):
「そう言えば、シシュマンはアナタたちが野盗を退治してくれたって話をしていたけれど、具体的にどういうことがあったの? 差支えなければ、詳しく教えて頂戴」

 そのようにして話を切り出すと、タルカンは野盗退治の話に始まり、カルカヴァンに到着するまでに一行にあった出来事を根掘り葉掘りと聞いてきました。タルカンのおかげで店に入ることができたこともあり、イーサはカダとハージのことは伏せた上で、これまでの旅の経緯をタルカンに語って聞かせました。

タルカン(GM):
「なるほどね。だいたいのことはわかったわ。でも、本業の護衛というわけでもないのに、大したものね」
 タルカンはあなたたちのこれまでの活躍に、賛辞の言葉を惜しみません。そのうえで、こう質問してきました。
「それで、アナタたちはどこまで向かう予定なの?」

イーサ:
「隊商としては、クゼ・リマナまで行くことになってます。その後は北上しようかと……」

タルカン(GM):
「北へ向かうとなると、王都にでも行くのかしら? なにか目的でもあるの?」

イーサ:
「まあ、せっかくだから王都をひと目見ておこうかと……」

アゼル:
「俺も見聞を広めようかというくらいで……」

タルカン(GM):
「ふうん。アナタたち、全員が物見遊山なの?」

セルダル(GM):
「おいおい、そいつらと一緒にしないでくれ。オレは新王直属兵になるために王都に行くんだからよ!」

エルド:
「あ、僕も新王直属兵の募集に志願するつもりなんです」

アゼル:
 え? そうだったのか? エルドが志願目的だったとは意外だったな。

タルカン(GM):
 エルドとセルダルの答えを聞いたタルカンは、合点がいったとばかりに手を打ちます。
「なるほど。どうりで腕が立つはずね。直属兵の志願者がいるのなら納得だわ」
 続けて、タルカンはニルフェルにも答えを促しました。

ニルフェル(GM):
「わたしは王都で教育を受けることになっています」

タルカン(GM):
 全員の目的を聞いたところで、タルカンは大きくうなずきます。
「なるほど。どうやら、イーサとアゼル以外は明確な目的があるようね。それじゃあ、残念だけれど、ここで勧誘することはできないわ」
(イーサとアゼルに顔を向けて)
「でも、アナタたち2人のほうは大丈夫そうね。王都やほかの街を見て回って見聞を広めるのが目的ならば、アスラン商会の一員として働きながらでもはたせるわよ。アスラン商会には、直接王都へ向かう隊商もあるの。よかったらウチで働いてみない?」

アゼル:
 うおっ! そうきたか。
「申し訳ありませんが、商人ギルドと契約しているので……」

タルカン(GM):
「もちろん、すでに結んでいる契約が完了してからで構わないのよ。商人ギルドさんの護衛は、クゼ・リマナまでなんでしょう? ワタシ、アナタたちをひと目見て、ピンと来たのよ。ね、前向きに検討してみて頂戴♪」

アゼル:
 い、嫌だぁ。ピンと来ないで欲しい(汗)。
「そ、そうですね……。考えておきます」

GM:
 そんな話を交えつつ、食事は進んでいきます。テーブルの上には、タルカンがオーダーした彩り豊かな料理が、ところ狭しと並べられています。

エルド:
 商人ギルド系列だったときには大衆食堂だったそうですが、新装開店したせいか、ずいぶんと洒落た雰囲気じゃないですか。せっかくだからできるだけ味わっておきましょう。

アゼル:
 おいおい。こいつの振舞う料理を無警戒に食べちゃっていいのか?

イーサ:
 別に構わないだろ。ここまで接してきた感じだと、タルカンさんは好人物だと思うぞ。俺は食べられるだけ食べておく。

エルド:
「いやぁ、タルカンさん。ここの料理は美味しいですね」

タルカン(GM):
「そうでしょう? ここのお店は特別高級な食材を使っているわけではないのだけれど、その代わりに素材の鮮度にこだわっていて、一定の技量を持った料理人のみを調理場に立たせ、決められた調理法にしたがって調理しているから、この値段でこれだけの味が出せるのよ」

イーサ:
「なるほど。店が混雑するのも納得だな」

タルカン(GM):
「まあ、それに関しては、新装開店のキャンペーン戦略が功を奏したといったところかしら。でも、キャンペーンのあいだに足を運んで、このお店の料理を口にしてくれたお客様は、きっとその後もリピーターになってくれるわ。ワタシはこのお店にはその価値があると確信しているの」

アゼル:
 くそぉー。このオカマ野郎が、正論ばかり言いやがって! 付け入る隙が見当たらない。だんだんと、シシュマンさんたちよりタルカンのほうがいい商人のように思えてきた。いかん。これはまずい。

エルド:
「あれ? アゼルさん、手が止まっているようですが、食欲がないんですか?」

イーサ:
「もったいないな。美味いぞ。遠慮せずに食えよ」

アゼル:
 このままだと泥沼に嵌ってしまいそうな気もするが……。仕方ない。食おう。

エルド:
「いやぁ、でも、タルカンさんの言葉の端々からは商才を感じますね」

タルカン(GM):
「ふふふ。ありがとう。でもね、そうでなくちゃ、アスラン商会の役員は務まらないわ」

エルド:
 タルカンさん、格好いいー!

アゼル:
 駄目だ皆。目を覚ませ! こんなオカマ野郎に取り込まれちゃいけないぞッ!

GM:
 ……(苦笑)
 さて、話が一区切りついて皆が食事に舌鼓を打っているころ、階下からはなにやら騒がしい音が聞こえてきました。

アゼル:
 いったいなんだ?

GM:
 階下に目を向けると、お店の入り口近くには、屈強な身体つきをした坊主頭の男が、2人の巨漢を付き従えて仁王立ちしています。そして、鬼の形相で店内を見渡すと、2階席にタルカンの姿を見つけ、「ここにいやがったかッ! タルカーンッ!」と、耳をつんざくほどの怒号を響き渡らせました。




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