LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(06)

GM:
 ドンッドンッドンッと荒々しい足音を響かせて、男たちが階段を上ってきます。その途中で店員が、「ほかのお客様のご迷惑になることはお控えください――」と、声を張り上げながら男たちを制止しようとしたのですが、簡単に殴り倒されてしまいました。
 乱入してきた男たちは、2階まで上ってくると、あなたたちと対峙します。坊主頭の男の手には肉切り包丁、うしろの男2人の手には片手剣がそれぞれ握られており、それを見たタルカンの護衛たちは、主人を守るべく素早くメイスを手にとって身構えました。

エルド:
 僕も念のためスタッフを手にとっておきます。

アゼル:
「なんだ、お前たちは!」

タルカン(GM):
 坊主頭の男の顔を見たタルカンはこう言います。
「あ~ら、これはトップラムのご主人じゃない。うしろにいるのは、アナタのお店の従業員……というわけではなさそうね。そんな喧騒で、いったいどうしたの?」

トップラム主人(GM):
「どうしたのだと!? すっとぼけたこと言ってんじゃねぇッ! あんた、ウチの店に融資してくれるって言ってたじゃねぇか! それが、なんで、ウチを放っておきながらこっちの店に融資してんだよッ! 約束が違うだろッ! ウチは神代から100年以上も続く老舗で、カルカヴァンじゃ知らない奴はいないってほどの有名店なんだぞッ!」

イーサ:
 なるほど、そういうことか……。

タルカン(GM):
「あら? ワタシはそんな約束なんてした覚えがないのだけれど、契約書でもあるって言うの?」そう言うと、タルカンは呆れた顔をして、ため息をつきました。
「なにか勘違いをしているようだけれど、ワタシはアナタのお店への融資を検討するって言ったのよ。それで、客観的に検討した結果、アナタのお店よりもこのお店に融資したほうが有益だと判断したからそうしたの。ただそれだけのことよ。勝手な思い込みだけで、ワタシの憩いの時間を邪魔しないで頂戴。だいたい、融資対象に選ばれなかったのは、アナタ自身に問題があったからなのよ。アナタ、ワタシに融資依頼した日から今日までのあいだに、少しでも自分のお店を良くしようと努力したのかしら? 新メニューの考案。接客サービスの向上。新規顧客獲得のための宣伝。やれることはいっぱいあったはずなのに、なにひとつしてこなかったわよね……。でも、ここのお店はそれをやったの。かしかに、まだ至らないところもあるけれど、いまも日々改善努力を続けているの。この大きな違いがわかる?」

アゼル:
 正論だ。悔しいが、いい事言いやがる。

タルカン(GM):
「いいこと。認識不足のアナタに教えてあげるわ。いまのこの国は、嘗ての栄光だとか、名声だとか、家柄だとか、そんなことは一切関係ない、完全な実力主義の競争社会なの。努力した者が、運をつかんで初めてのし上がれる国なの。そんな国にあって、老舗の看板なんて糞――」そう言って、タルカンは慌てて口を押さえます。
「あら、ごめんなさい。食事の席で口にする言葉じゃなかったわね。とにかく、アナタみたいになんでも他人頼みで、自らの足で前に進もうとする気概もない屑は、さっさと奴隷にでもなるといいわ。まあ、ワタシなら、アナタのような醜い豚なんて、奴隷としてだっていらないけれど」

アゼル:
 うむ。言ってることは酷いが、反論の余地がない。

トップラム主人(GM):
 罵倒されたトップラムの主人は、怒髪天を衝く勢いで顔を真っ赤にさせます。
「言わせておけば、貴様ッ! タルカーンッ! ぐわぁぁぁッ!」
 もはや人間のものとは思えないほどの咆哮をあげながら、トップラムの主人は肉切り包丁を振りかざし、タルカン目掛けて突進しようとします。

アゼル:
 それを阻害してタルカンを守ろう。

エルド:
 アゼルさん、いいんですか? ここでタルカンさんを守ったりしたら、さらに気に入られてしまうと思いますけど……。

アゼル:
 それはそうだが、一応、俺は善人だし、一応、食事をご馳走してもらったし、一応、ここは止めておかないとダメだろ。

エルド:
 一応、一応……って、いちいち言い訳がましいですね。さっき、タルカンさんの言葉に共感してたじゃないですか。タルカンさんのことを好きになってしまったのなら、素直にそう言っちゃっていいんですよ(笑)。

GM:
 では、ここから戦闘に入ります。トップラムの主人は皮鎧に肉切り包丁を装備。肉切り包丁は片手剣扱いです。トップラムの主人のうしろにいる2人は、皮鎧に片手剣を装備しています。

セルダル(GM):
「おいおい、どーするよ!?」
 セルダルは身構えたまま、あなたたちの判断を待ちます。

タルカンの護衛A(GM):
「タルカン様。ここはお下がりください」そう言って、護衛Aはタルカンの前に進み出ました。

タルカン(GM):
「そうさせてもらうわ。後始末がたいへんだから、ここできれいさっぱり処理しちゃって頂戴ね」

タルカンの護衛A&護衛B(GM):
「承知いたしました。タルカン様」

トップラム主人(GM):
 トップラムの主人はテーブルに飛び乗り、雄叫びを上げながらタルカンに向かって猛突進してきます。
「タルカーンッ! 二度とそのふざけた口をきけないようにしてやるゥーッ!」

アゼル:
 トップラムの主人の前に立ち塞がって、タルカンのところまで突進しようとするのを阻めないだろうか?

GM:
 行動順で負けてしまったので進路上に立ち塞がることはできませんが、目の前をとおり過ぎようとしたところで“離脱阻止”はできますよ。

アゼル:
 なら、武器を持ってないから、素手で“離脱阻止”。(コロコロ)命中値は16。

トップラム主人(GM):
 トップラムの主人の回避値は、(コロコロ)13なので“離脱阻止”成功です。しかし、頭に血が上った状態にあるトップラムの主人は、アゼルの牽制も無視して突進を続けます。もし、そのまま攻撃するのであれば、追加ダメージ+10の必中攻撃を加えても構いませんよ。

アゼル:
 了解。ダメージは、(コロコロ)13点!

イーサ:
 素手なのにとんでもない威力だな。

 このときのルールでは、“離脱阻止”や“範囲支配”を強行突破した相手に対する攻撃には、固定で10点の追加ダメージが加算されることになっていました。しかし、これだとたとえ金属鎧を装備していようとも無手の人の隙間を突破することができないバランスだったため、この後、追加ダメージは武器の威力に依存するように改定しました。

トップラム主人(GM):
 アゼルの強烈な一撃を受けたトップラムの主人でしたが、それでもまだひるみません。
「この金の亡者がァーッ!」

タルカン(GM):
「あらあら。もう客観的に物事を見る目もなくしてしまったのね。いまのアナタの姿こそ、亡者と呼ぶにふさわしいと思うけれど……」そう言うと、タルカンは護衛の2人に命じます。
「さあ、アナタたち、やっておしまいなさい!」

セルダル(GM):
 アゼルの一撃を見たセルダルは、「やるのか? やるんだな!?」と言って、背後の壁に立てかけておいた両手剣を手に取りました。

タルカンの護衛A(GM):
 護衛Aが手に持ったメイスでトップラムの主人に殴りかかります。(コロコロ)命中してダメージは10点。

アゼル:
 俺の鉄拳のほうがメイスより強いな(笑)。

トップラム主人(GM):
「これしきの痛みでオレの恨みが消し飛ぶと思うなよッ!」
 トップラムの主人はまだ戦意を喪失しません。

エルド:
 仕方ありませんね。一飯の恩に報いぬわけにもいきませんから、僕もタルカンさんを手助けすることにします。“エネルギー・ボルト”を撃つために“瞑想”しておきます。

トップラムの傭兵A(GM):
 では、トップラムの主人に従う傭兵Aが、“瞑想”を始めたエルドに隣接します。

イーサ:
「くそッ。こんなところでやるって言うのかッ!?」と言いつつ、俺もダガーを抜いておくか……。

 こうして、なし崩し的に戦闘に参加することになった一行に対して、敵の傭兵は数的不利を覆そうと、戦闘力の無いニルフェルを狙ってきました。

トップラムの傭兵B(GM):
「へっへっへ。この小娘を人質に取っちまえば……」

アゼル:
 うッ! やばい。さっき、トップラムの主人に攻撃しちまったからまだ動けないし、俺のいる位置からだとニルフェルに対する攻撃を“範囲ディフレクト”できないぞ。

セルダル(GM):
 では、傭兵Bの動きにセルダルがいち早く反応します。
「そーはさせねぇーよッ! ニルフェルちゃんにゃ、指一本触れさせねぇ!」そう叫ぶと、セルダルは“迎撃移動”でニルフェルと同じマスに移動します。2人が同一マスに存在するあいだ、敵の1ゾロ以外の攻撃はすべてセルダルに自動命中します。

イーサ:
 セルダルの奴、格好いいじゃないか。

アゼル:
 くそッ。さっき、トップラムの主人に攻撃してなければ、俺がニルフェルのこと守っていたはずなのに……。しかたない。それじゃ、俺はエルドとセルダルに対する攻撃を“範囲ディフレクト”できる位置に移動しておこう。

トップラムの傭兵A(GM):
 続いて、トップラムの傭兵Aがエルドに対して攻撃します。(コロコロ)命中値は10です。

アゼル:
 その攻撃を“範囲ディフレクト”。(コロコロ)ディフレクト値は13で、その攻撃を弾いた! よっしゃ、初の“範囲ディフレクト”成功だ!

トップラムの傭兵B(GM):
 ならば、その直後にトップラムの傭兵Bがニルフェルに向かって斬りかかってきます。そして、ニルフェルに対する攻撃は、セルダルに自動命中します。

アゼル:
 うっ。せっかくいいポジションに移動してきたのに、自分の手番が回ってきてないから、そっちまでは守れない。

トップラムの傭兵B(GM):
 傭兵Bの攻撃は、(コロコロ)セルダルに命中して12点のダメージです。

セルダル(GM):
 斬りつけられたセルダルの肩口から、大量の鮮血が飛び散りました。ダメージが生命力の半分を超えたので、士気判定を行います。(コロコロ)士気判定には成功。

ニルフェル(GM):
「セ、セルダルさんッ! 大丈夫ですかッ!?」

セルダル(GM):
「なんのこれしきッ! 絶対守り通すから、オレのうしろに隠れててくれよッ!」

エルド:
 セルダルさんとニルフェルさんは、なかなかいい感じじゃないですか。でも、同郷なのに、2人のあいだにはアゼルさんの「ア」の字も出てこないんですね(苦笑)。

 この後、ニルフェルがセルダルの後方に下がると、それぞれのポジショニングが固まり、足を止めての斬り合いが続きました。

トップラムの傭兵A(GM):
 では、傭兵Aが“瞑想”しているエルドに対して攻撃します。

エルド:
 これはさすがに、“瞑想”を中断して回避しないと不味いですかね……。

アゼル:
 大丈夫だ。俺が“小移動”で方向転換して、“範囲ディフレクト”する。

トップラムの傭兵A(GM):
 傭兵Aの命中値は、(コロコロ)10です。

アゼル:
(コロコロ)ディフレクト値は12で成功!

エルド:
「アゼルさん、ありがとうございます。助かりました」

アゼル:
「うむ」
 しかし、セルダルより俺のほうが戦闘に貢献しているはずなのに、いまいち地味だな……。

 TRPGは数値だけのゲームではありません。数多くの判定を成功させ、敵に大ダメージを与えることよりも、なんのために行動したのかといった意思決定の理由のほうが重要なのではないでしょうか。そのような視点で考えると、敵に最も近い位置にいたニルフェルのことを放置して、トップラムの主人への攻撃を優先してしまった段階で、アゼルが地味になることは決定していたような気がします(苦笑)。

タルカンの護衛B(GM):
 そして、タルカンの護衛Bがトップラム主人に対して攻撃します。(コロコロ)この攻撃で、ようやくトップラムの主人を昏倒させることに成功しました。

タルカン(GM):
「ようやくうるさい鳴き声が止んだわね。この調子でゴミはきれいに掃除しちゃって頂戴」

イーサ:
 ハッ! お任せください、タルカン様!

一同:
(爆笑)

アゼル:
 完全にタルカンに取り込まれてるじゃないか(笑)。

エルド:
 それはともかく、早く戦闘を終結させてしまいましょう。“エネルギー・ボルド”を傭兵Aに。(コロコロ)抵抗されて、ダメージは15点。

トップラムの傭兵A(GM):
 それで、傭兵Aはかなりのダメージを負いました。(コロコロ)ですが、士気判定は成功。まだ戦意を喪失しません。

タルカンの護衛A(GM):
 続いて、タルカンの護衛Aですが、彼はテーブルの上に倒れて痙攣しているトップラムの主人の頭部にメイスを叩き付けます。(コロコロ)その攻撃でトップラムの主人は絶命しました。

イーサ:
 おっ!? タルカン様がきれいにって言ってたから、殺さずにってことかと思ったら、違ったのか……。

GM:
 ただしくは、「きれいに」ではなく「きれいさっぱり」ですからね。

 トップラム主人の絶命後、さらに少し戦闘が進み、エルドが“エネルギー・ボルト”で傭兵Aを絶命させたところで、アゼルが敵に対して降伏勧告を試みました。

アゼル:
「もう勝負はついた! 無駄な抵抗はやめて大人しく降伏しろッ!」

トップラムの傭兵B(GM):
「わ、わかった……。命だけは勘弁してくれ……。オレは金で雇われただけなんだ」

タルカン(GM):
 命乞いをする傭兵のことを見て、タルカンは小さく息をつきます。
「そうね……。どうやら、トップラムと深い関係があるわけでもなさそうだし、アナタは法で裁いてもらうことにしましょうか。今回の件についても色々証言してもらわないと、なにかと面倒だしね」

GM:
 こうして、トップラム主人によるタルカン襲撃は、あなたたちの協力もあり、未遂に終わったのでした。

GM:
 戦いが終わると、タルカンの指示で2つの遺体は布に包まれ、速やかに店の外に運び出されます。そして、トップラムの主人に雇われていた男はお店の通報によって駆けつけた官憲に捕らえられ、連行されていきました。タルカンも事情聴衆のため、官憲詰め所に赴くようです。

アゼル:
 そのあいだに、傷ついたセルダルの止血をしておこう。(コロコロ)成功。

セルダル(GM):
「くッ。すまねぇ」

ニルフェル(GM):
 ニルフェルは心配そうな表情をしながら、苦痛に顔を歪めるセルダルに寄り添っています。

タルカン(GM):
 さて、タルカンはその場を去る前にあなたたちのところまで来ると、「助太刀してくれて、ありがとう。それと、せっかくの食事を台無しにしてしまってごめんなさいね。お詫びとお礼の代わりに、これをあなたたちにあげるわ」と言って、縦2センチ、横5センチ程度の小さなプレートを各人に1枚ずつくれました。

アゼル:
 なんだこれは?

GM:
 プレートの表面には、人の横顔とハートマークがあしらわれています。どうやら、その横顔はタルカンのものであるようです。

アゼル:
 うーむ。あまり持っていたくないなぁ。デロデロデロデロデロデロ~♪ アゼルは呪われてしまった(苦笑)。

タルカン(GM):
「アスラン商会系列のお店でそれを見せれば少しは融通が利くから、遠慮なく使って頂戴。それと、なにか困ったことがあったら直接ワタシの家に訪ねて来てもらっても構わないわ。それじゃ、また近いうちに会えるといいわね」そう言って、タルカンは護衛2人と共にあなたたちの前から去っていきました。

アゼル:
 これ以上関わり合いになりたくないから、すぐにでも王都を目指そう!

イーサ:
 冗談はさておき、とりあえず宿に帰るとするか……。
「しかし、とんだ飯になっちまったな」

セルダル(GM):
「まあ、大半を食ったあとだったのが不幸中の幸いだったな。予想以上にうまかったし」

エルド:
「ええ。あれだったら、また食べに行っても良いですね」

ニルフェル(GM):
「でも、あのお店、もう商人ギルド系列のお店ではなくなってしまったんですね……」

アゼル:
「そうだなぁ……。つい最近のことだったから、シシュマンさんもそのことを知らなかったんだろうな」

GM:
 そんなことを話ながら歩いているうちに、あなたたちは宿屋の前に到着します。今日は、そのまま休みますか?

エルド:
「あ、すみません。まだ時間も早いですし、僕は少し街をぶらついてくることにします」

アゼル:
「ん? そうか?」
 俺は疲れたからこのまま宿で休むことにする。

イーサ:
 俺も剣の稽古と戦闘でかなり疲労が溜まってるからな。

セルダル(GM):
「おっ。もしかして……」
 セルダルは顔をにやけさせながらエルドに対して小指を立てて見せます。これはもちろん、大人の遊びでもしてくるつもりかって意味ですね。

エルド:
「いや、ははは。とても口に出しては言えませんよ」と、軽く笑ってはぐらかします。

セルダル(GM):
「オレもこの怪我さえなけりゃ、一緒に繰り出すところなんだけどなぁ……。まあ、今日のところはぐっすり寝て、傷を治しておくから、明日の夜は一緒に行こーな!」そう言うと、セルダルは今度はサムズアップしてみせました。

エルド:
「そうですね(苦笑)。それじゃ、明日、セルダルさんの体調が良くなっていたら一緒にということで」
 それでは、僕は皆と別れて街中へと消えていきます。




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