LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(07)

GM:
 さて、現在の時刻は20時。カルカヴァンの街には本格的に雨が降り注いでいます。エルドだけは夜の街にくりだしていったわけですが、ほかの人はそのまま休んだということでよろしいですか?

イーサ:
 一応確認しておくんだが、20時以降に開いてる店っていうと、どんなところがあるんだ?

GM:
 カルカヴァンの南側に広がる歓楽区であれば、酒場、高級酒場、見世物小屋、娼館など、まだ開いてる店も多いですよ。むしろ、賑わうのはこれからという場所もあります。逆に北側の区画は、ほとんどのお店が21時までには店じまいしてしまいます。

シーン外のエルド:
 イーサさんはいつも精神点が底をついてるんですから、そんなことを気にするより、ゆっくりと休んだほうがいいですよ。

イーサ:
 ふむ、それもそうか。精神点があと1点しかないからな。ならば宿に着くなり、「疲れが溜まってるから、俺は早めに休ませてもらう」と言って部屋で寝ることにする。この機会に精神点を一気に回復させておこう。

セルダル(GM):
 では、イーサの発言にセルダルも続きます。
「オレも怪我を早く治しておきてぇからな。しばらくは部屋で大人しく休ませてもらうわ」

 ここで、なぜセルダルの傷を魔法で癒してしまわなかったのかというと、イーサの精神点が残り少なかったこともありますが、それ以上に、LOSTの回復魔法が生物本来の自然治癒力を無理やり促進して発現させるものであるということが影響しています。つまり、過度な回復魔法の使用は、本来の治癒力を失わせてしまうことになりかねないという設定なのです。そのため、この世界に暮らす人々は、ゆっくりと休む余裕がある場合は魔法に頼らず自然に回復させるように努めます。

ニルフェル(GM):
「それじゃあ、わたしもセルダルさんの看病についています」
 ニルフェルは、自分を庇うために傷を負ったセルダルのことを気にしている様子です。

アゼル:
 うーん。俺も休もうかと思っていたんだが、まだ時間も早いし、やっぱり少し外に出てこようかな……。

イーサ:
 アゼルが夜の街にくりだすなんて意外だな。

アゼル:
 いや、そういうわけじゃなくて……。
 俺は宿屋の主人に、「すまないが、宿木亭の場所を教えて欲しい。知人を訪ねに行きたいんだ」と声をかける。

竜のねぐら亭の主人(GM):
 声をかけられた竜のねぐら亭の主人は、「宿木亭なら、そこの通りを南に行って、酒場が集まる区画にある尾長鳥の看板を掲げた店ですよ」と丁寧にその場所を教えてくれます。竜のねぐら亭からはだいたい徒歩で30分くらいの距離ですね。

アゼル:
 それが確認できたなら、早速、宿木亭に向かおう。

GM:
 では、ほかの人に動きはないようですので、アゼルの場面を解決していきます。
 アゼルはひとり、宿木亭を目指して雨の降る夜の街へと出て行きました。ほどなくして、酒場が並ぶ通りにある尾長鳥の看板が掲げられた宿屋を見つけました。

アゼル:
 店の中に入っていって、店の主人に、「すまない。人を探しているんだが」と声をかける。

宿木亭の主人(GM):
 アゼルが声をかけた宿木亭の主人は随分と年老いた男で、掠れ声で「おや。こんな遅くに人探しかね?」と返してきました。

アゼル:
「ああ。ここにアルという名前の探索者が泊まっているだろう? 彼に会いに来たんだ」

宿木亭の主人(GM):
「はあ……」と曖昧な声を漏らしながら、老人は怪訝そうな眼でアゼルを見ます。
「ところで、そういうあんたはどこのどなたで?」

アゼル:
「俺はアゼル。この街に入るまでアルさんと一緒に旅をしていた者だ」

宿木亭の主人(GM):
「ふむ。アルさんなんて泊まってたかねぇ? ちょっと確認してくるから少しここで待っとってくれよ」そう言って、宿木亭の主人は階段を上って宿の2階へと消えていき、しばらくしてから戻ってきます。
「ああ、たしかにアルって名前のお客さんがいたようだね。あんたのことを話したら、ここで待っていて欲しいって言ってたよ。下りて来るまで、そっちの席に座って待ってな」

GM:
 宿屋の主人が指差した先には、いくつかのテーブルと椅子が置かれており、そのうちのひとつでは、いかつい身体つきの男2人が持ち込んだ酒をチビチビと飲んでいます。

アゼル:
 この宿屋の1階は酒場になってるのか?

GM:
 いいえ。ただのエントランスホールです。どうやら、持ち込んだ飲食物の飲み食いは自由に行えるようですが、酒や食べ物の販売自体は行われていません。竜のねぐら亭もそうでしたが、カルカヴァンの街中にある宿屋はそのほとんどが飲食サービスを扱っていません。宿屋や飲食店はそれぞれ専業化して、提携関係を結んでいるんですよ。

アゼル:
 なるほど。それじゃ、空いてる席に座ってアルさんが来るのを待っているとしよう。

GM:
 アゼルが席に着くと、先客である男たちがチラチラとあなたのほうへ視線を向けたのがわかりました。

アゼル:
 こちらも、チラチラと男たちの様子を伺おう。

GM:
 2人の男はどちらも20代半ばくらいで、その風貌からすると、そこそこ場数を踏んでいるようです。やがて、男たちはアゼルに対する値踏みが終わったのか、その存在を忘れたかのようにふたたび2人でたわいない話しに花を咲かせています。

アル(GM):
 しばらくすると、アルがゆっくりと階段を下りてきました。
「おう、アゼル。待たせたな」

アゼル:
「いや、こっちこそ夜遅くにすまない。急に酒が飲みたくなったんだが……これから酒場にでも行かないか? この機会を逃したら、もうアルと飲む機会はないかもしれないしな」

アル(GM):
「まあ、そいつは構わないが……」そう言って、アルは頭を掻きます。
「この時間からくりだすとなると、ゆっくりできる店はどこも結構お高めの店になるが、いいのか?」

アゼル:
 えーと、それって高級酒場のことだよな? 金は足りるかな?

アル(GM):
 財布の中身を気にしだしたアゼルの様子を見たアルは、「もし、懐具合が暖かくないようなら、今日のところはここで一杯やらないか?」と提案します。

アゼル:
「あ、ああ。俺はそれでも構わない」

GM:
 2人がそんな話をしているところで、隣の席からガシャンッ!と激しい音が聞こえました。見ると、つい先ほどまで談笑していたはずの男たちが互いの襟元を掴んで睨み合っています。

酔っ払いの男A(GM):
「人がしようとしてることにいちいちケチつけんじゃねぇよッ! なんの仕事をしようと、オレの勝手だろうがッ!」

酔っ払いの男B(GM):
「ふざけんなッ! ヤウズの犬になるってことは、オレたちを裏切るってことだぞッ!」

酔っ払いの男A(GM):
「犬とはなんだ、犬とはッ! テメェこそ何様のつもりだッ!?」

GM:
 男2人の口論は、一気にエスカレートしていき、すぐに殴りあいに発展しました。

アゼル:
 あいだに割って入って喧嘩を止めよう。
「おい、やめろ!」

酔っ払いの男B(GM):
「邪魔すんじゃねぇッ! ガキは引っ込んでろッ!」そうがなり立てた男の拳がアゼルに向けられます。お酒が入っているので、命中力にペナルティ-2を負った状態で、(コロコロ)命中値9です。

アゼル:
 ペナルティ付いてもそれかよ。結構な実力者だな。(コロコロ)9でギリギリ回避成功!

アル(GM):
 アルがアゼルの腕を引っ張って男たちから離れさせます。
「やめておけ。下手に手を出すと怪我するぞ」

アゼル:
「そうは言っても……。このままじゃ店に迷惑だろ」

宿木亭の主人(GM):
 そんな騒動が目の前で起きているにも関わらず、宿屋の主人はどこ吹く風といった様子です。

アル(GM):
「喧嘩なんて、ここじゃそう珍しいことでもない。それに、あいつらにはガス抜きが必要なんだ。放っておけよ。それよりも、さすがにここじゃなんだから、俺の部屋に行って飲むとしよう」そう言うと、アルは宿屋の主人のところまで歩いていき、「そういうことだから、部屋に人を入れるが、構わないよな?」と確認を取ります。

宿木亭の主人(GM):
「まあ、構わんよ。しばらく収まりそうにないしなぁ……」そう答えた宿木亭の主人は、呆れ顔で、男達の喧嘩の様子を眺めています。

アル(GM):
 アルはそのままアゼルを連れて2階へと上がっていきます。アルが入っていった部屋は小さな個室でした。
「突然の喧嘩で面食らったかもしれないが、このところは日常茶飯事になっててな。ヤウズ王子による探索者への締め付けの話はお前も知ってるだろ? それに加えて、今度は直属兵の募集だ。そんな状況だから、ヤウズ王子に反感を抱く奴らと、ヤウズ王子に乗っかろうとする奴らとのあいだで、つまらない喧嘩が増えてるのさ」そう言いながら、アルは自分の荷物袋の中から酒の入った袋を取り出します。そして、部屋の中に転がっていた適当な器2つに酒を注ぎました。
「さて、とりあえずはカルカヴァンまで無事にたどり着けたことに乾杯だ」

アゼル:
「ああ。乾杯!」
(軽く酒を飲む仕草をしてから)
「しかし、自分で誘っておきながら、逆に酒を出してもらうことになってしまい、申し訳ない……」

アル(GM):
「そんな小さなことをいちいち気にするなよ」

アゼル:
「あと、それだけじゃなくて……。えーと……。あの時に貸してもらった指輪をダメにしてしまったことも、ちゃんと謝ってなかったし……」

アル(GM):
 そのアゼルの言葉に、アルは酒を飲む手を止めると、大きくため息をつきました。
「ああ……あれかぁ……。あれは俺にとっての貴重な生命線だったんだ……。あれのおかげで、何度命を救われてきたことか……。そうでなくとも、売れば10万銀貨はくだらない価値の代物だったのになぁ……」

アゼル:
「本当にすまないと思っている! いつか、必ず、この借りは返す!」

アル(GM):
「なーんてな。まあ、過ぎたことだ。あまり気にするな」そう言って、アルはケラケラと笑いながらアゼルの肩を叩きます。
「しかしなんだ。それじゃ、お前はわざわざそのことを謝るためにここに来たのか?」

アゼル:
「まあ、それもあるんだが……」そう言ってから、アゼルは器の中の酒を一気に飲み干して、「なあ。アルさんは、なんで遺跡探索者なんかになろうとしたんだ?」と本題を切り出した。

アル(GM):
「んー。なんでだったかな……。まあ、しいて言えば、それ以外に生活していく手段がなかったから……かな」

アゼル:
「そうなのか? 生活のためとはいえ、命を失う危険性が高すぎるんじゃないか?」

アル(GM):
「そりゃ、俺もこの仕事をはじめて、かれこれ10年くらい経つからな。肝を冷やしたことは一度や二度じゃないぞ。だが、そうはいってもほかに職にありつける当てがなかったし、そのまま遺跡探索をはじめないでいれば、そう遠くないうちに飢えて死ぬのは目に見えていたからなぁ……。なにもしないで確実な死が訪れるのを待つよりは、一か八か勝負しようって考えるのは普通のことなんじゃないか?」

アゼル:
「それじゃ、アルさんは死に直面したときに怖くならないのか?」

アル(GM):
「そりゃ、怖いさ。死に直面しなくとも、怖い思いをすることなんて仕事中はしょっちゅうだ」
(手に持った器に目を落としてから)
「ただな、大切なのはその恐怖に慣れておくことだ。恐怖で身がすくめば、それこそ死に飲み込まれる。だが、恐怖を危険に対する警告として受け取ることができれば、死から一歩遠ざかることができる……。それが、これまで生きてきたなかで俺が得た、恐怖ってやつに対する実感だな」

アゼル:
「そうか……。それじゃ、俺は運がよかっただけだな……」

アル(GM):
「運がよかった?」
 アルはアゼルの言葉の意味するところがわからずに首を傾げます。

アゼル:
「今回の旅の途中で巨大砂蟻と戦ったとき、俺は怖くて逃げ出してしまった……」

アル(GM):
「ああ。あのときのことか。ケツまくって逃げ出したお前の姿は傑作だったな(笑)」

シーン外のイーサ&エルド:
(失笑)

アゼル:
 うっ……。まあまあ……(苦笑)。
「俺はそれまで口では仲間を守りたいとか言っていたくせに、あのとき仲間を見捨てて逃げ出してしまった……」そう言って、顔を伏せる。

アル(GM):
(頭を掻いてから)
「まあ、それが普通の人間の行動ってやつだろ。たしかに自慢できることじゃないが、特別恥じるようなことでもない」

アゼル:
「そうかもしれない……。だが、もしまた同じような状況になったら、俺はそのときも仲間を見捨ててしまうんじゃないかと思えて……怖いんだ……」

アル(GM):
「……」
(何か言おうとした言葉を飲み込んでから)
「……言っておくが、俺は話を聞いてやることはできても、これといったアドバイスはしてやれないぞ。そういうのは、人の話を聞いたからってすぐにどうこうなるもんでもない。お前自身が何とかしようと意識してれば、いつのまにか乗り越えてるたぐいのもんだ」

アゼル:
「そうか……。たしかに、俺は誰かに話を聞いてもらいたかっただけなのかもしれない。ただ、さすがに身近な人間には話せなくて……。アルさんに話したら、少しスッキリしたよ。ありがとう」

アル(GM):
(鼻で笑って)「まあ、お前がスッキリしたって言うんなら、そりゃよかった。だが、心底スッキリするためには、もっと飲んだほうがいいぞ」そう言って、アルはアゼルの空いた器に酒を注ぎます。

アゼル:
 そのまま1時間くらいアルさんと飲み交わしてから、自分の宿に帰ろう。

GM:
 では、アゼルが帰ろうとすると、アルが宿の前まで見送りに出てきてくれます。

アル(GM):
「たしか、お前たちがカルカヴァンを発つのは明々後日だったか?」

アゼル:
「ああ。ここまでの道中、アルさんがいてくれたおかげで助かったよ。本当にありがとう」

アル(GM):
「まあ、もしまた会うことがあったら、そのときには今度こそ酒をおごってくれ。壊した俺の指輪分な(笑)」

アゼル:
「わかった(笑)。いつか必ず。それまで、お互いに頑張ろう」

GM:
 2人がそんな挨拶を交わしていると、宿屋の中から再び激しい喧騒が聞こえてきます。先ほど争っていた2人の男が、またもや喧嘩を始めたようです。

アル(GM):
「おっ、また始めやがったな……」

アゼル:
 さっき、アルさんも放っておけって言ってたし、今度は気にしないでおこう。

GM:
 どうやら、先ほどの喧嘩のときよりもさらに大事になっているらしく、物の壊れる音や金属同士が打ち付けられる激しい音が鳴り響きます。

アル(GM):
「やれやれ。さすがに鬱陶しいな……。ここは遺跡探索する身にとっては使い勝手がいいから気に入ってたんだが、ほとぼりが冷めるまでのあいだ、別の宿屋に移るとするかな……」

アゼル:
「おっ。そういうことなら、俺が泊まっている竜のねぐら亭って店に来たらどうだ?」

アル(GM):
 アルは手を振ってその誘いを断りました。
「いいや、その店は遠慮しておく。あそこは一般人向けの店で、探索者にとっては風当たりが強い。俺たちがやってることは、悪く言えば空き巣みたいなものだからな。そんな俺たちを受け入れてくれる居心地のいい宿屋ってのは、結構限られてるんだ」

アゼル:
「なるほど。探索者ってのも色々とたいへんなんだな……」

アル(GM):
「まあ仕方ないさ……。それじゃ、王都までの道中、気をつけてな」

アゼル:
「ああ。ありがとう……。それじゃ、これで。おやすみ」

GM:
 こうしてアゼルはアルと別れると、竜のねぐら亭へと帰っていきました。
 では、翌日になるまでの回復判定を行っておきましょうか。ちなみに、エルドは何時くらいに宿屋に戻ってきました?

エルド:
 精神点を回復させるために、9時間は寝ておきたいところですから、23時には戻ってきます。帰ってきたらすぐに休んで、翌日の朝8時ごろに起床予定です。

イーサ:
 エルドはひとりで外出してきて、いったいなにをしてきたんだ?

エルド:
 特になにもありませんよ。それよりも、昨日までの疲労は睡眠で全快させてしまっていいんですよね?

GM:
 はい。夜間に特別な行動を取らない限り、全快させてしまって構わないです。




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