LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(09)

GM:
 では、誰も特別な行動は取らないようですので、時間を21時まで進めてしまいます。そのころになると、18時過ぎからふたたび降ってきた雨が勢いを増し、宿屋で休んでいるあなたたちの耳にも、天井に打ち付ける雨音が聞こえてきます。さて、その時間帯に起きているのは、アゼルとニルフェルの2人だけなのですが、アゼルはなにをしていますか?

アゼル:
 そうだな……。部屋でニルフェルと戦盤でもしてるかな。

GM:
 了解です。せっかくですから、ニルフェルの戦盤の腕前を知るためにも勝敗の判定をしておきますか。

 軽い気持ちではじめた戦盤の判定でしたが、これが予想外に良い勝負となります。3勝差をつけたほうが勝ちとなるルールですが、9回の対抗判定を行ったところでようやく決着となりました。

ニルフェル(GM):
「あ~あ。負けちゃったか」

アゼル:
「いやいや、いつの間にかに強くなったな。負かすのに随分と苦労するようになった」

GM:
 そんなことをしているところで、目標値10の聞き耳判定を行ってもらいましょう。寝ている人も達成値-2で判定を行ってください。

アゼル:
(コロコロ)13で成功!

GM:
 成功したのはアゼルだけでしたか。では、いったん視点を宿屋の外に移します。
 強い雨が降っているため、夜の街を歩く人の姿は見当たりません。しかし、竜のねぐら亭の前には、馬に乗った黒ずくめの集団の姿がありました。その集団の先頭にいる人物が手で合図をすると、ほかの者たちは馬から降り、竜のねぐら亭の周りを取り囲むような配置につきます。その際に馬の1頭がいななき声を上げました。アゼルが耳にしたのはその声です。

アゼル:
「ん? 馬のいななき?」

ニルフェル(GM):
「え? どうかしたの?」
 ニルフェルは外の音に気がついていないようです。

アゼル:
「いや、外から馬のいななき声が聞こえてきたような気がしたんだが……。なんだろう?」
 窓を開けて外を見てみよう。

GM:
 アゼルが木窓を開けて窓の外へと目を向けると、まず宿屋の前に馬が数頭止められているのが目に入ってきました。そしてその手前には、数人の人影が宿の中に入ってくる様子も見えます。彼らが宿の中に入るとき、わずかではあるもののガチャガチャと金属のぶつかる音が響きました。

ニルフェル(GM):
 ニルフェルが戦盤の駒を片付けながら、「外でなにかあったの?」とたずねてきます。

アゼル:
「武装した者たちが数人、宿に入ってきた。随分と物々しいな。いったいなんだろう……」
 万が一のこともあるかもしれないから、寝ているセルダルを起こしておこう。
「起きろセルダル」(と言いながら殴る仕草)。

セルダル(GM):
「ぐふッ! な、なにしやがるッ!」

アゼル:
「用心のためだ。この雨の中、数人の武装した者たちが宿の中に入ってきた。馬に乗ってきている」

セルダル(GM):
「はぁ? もー少しわかりやすく話してくれよ」

シーン外のエルド:
 相変わらず、説明下手ですね(苦笑)。

GM:
 ここで全員、ふたたび聞き耳判定を行ってください。今度は目標値8です。

イーサ&エルド:
(コロコロ)成功。

GM:
 では、アゼルはセルダルに状況を説明していたので気がつかなかったようですが、イーサとエルドは階段のきしむ音と金属のこすれる音を耳にしました。2人はこの段階で目を覚まして構いません。ここからはイーサとエルドのほうに視点を移します。

エルド:
「イーサさん。階段を上ってくる物音に気がついていますか?」

イーサ:
「ああ。いったいなんだろうな……」
 ずっと寝てたから、少し気だるそうにしている。

GM:
 その足音は、あなたたちの部屋の前まで来たところで止みました。

エルド:
「ちょっと嫌な予感がするので、僕は“カメレオン”の魔法で姿を消しておきます。あとはよろしくお願いしますね」

イーサ:
「え? お、おい……」

エルド:
 では、ベッドの下に潜り込んでから“カメレオン”を発動させます。(コロコロ)姿を消しました。

GM:
 ちょうどエルドが魔法で姿を消したところで、あなたたちの部屋の扉がノックされました。

イーサ:
 エルドが消えちまった以上、俺が対応するしかないか……。

GM:
 催促するかのように扉がふたたびノックされます。

イーサ:
「あー。いま行くから、ちょっと待ってくれ」
 水袋を手にして、寝起きののどの渇きを潤してから、扉のほうへと歩いていく。
「こんな時間に、いったいどこのどいつだ?」と言って、扉を開けた。

GM:
 すると、扉が開いた瞬間にわずかな隙間からスッと手が伸びてきて、あなたの腕をつかみました。あなたの腕をつかんできたのは甲冑を身にまとった長髪の男で、その外見は20代前半といったところです。

甲冑の男(GM):
「私はイスパルタ当主ジェラルが三男、イスメト・イスパルタだ。部屋をあらためさせてもらう」そう言うと、イスメトと名乗った男は問答無用で部屋の中に押し入ってきました。

GM:
 イスメトに続いて、2人の甲冑をつけた男が部屋の中に入ってきます。

イーサ:
「おいおい! いきなりなんだってんだ!?」

イスメト(GM):
「我々は商人ギズリとその同行者の行方を捜している。君たちは商人ギルドのシシュマンが率いる隊商の護衛についている者たちだな?」

イーサ:
「ああ。それはそうだが……。ひょっとして、ギズリの奴がなにかやらかしたのか?」

イスメト(GM):
「ギズリには、我がイスパルタ家家宝の窃盗容疑がかけられている。そして君たちにはその共犯の疑いがな……。ギズリはどこだ? 素直に白状したほうが身のためだぞ」

イーサ:
「ギズリだったら、この街に着いてすぐに別れた。ここからは別行動を取るって、あいつから言い出したんだ。それに、窃盗の共犯だなんて俺にはまったく身に覚えがないことだ」

GM:
 イーサとイスメトが会話しているあいだに、残り2人の男が棚をすべて開け、ベッドの毛布をめくり上げるなどして、人が隠れられそうな場所を一通り確認しました。ベッドの下も覗き込んだのですが、魔法で姿を消していたエルドの存在には気がつかなかったようです。そして、「イスメト様! この部屋には2人滞在しているようですが、もうひとりの姿が見当たりません!」と、イスメトに報告しました。

シーン外のアゼル:
 エルドの奴、余計なことしやがって(笑)。

イスメト(GM):
「まさか、ギズリをかくまっているのではなかろうな?」と言って、イスメトは冷たい視線をイーサへと向けます。

イーサ:
「いや、違う。たしかに、この部屋にはもうひとり泊まっているが、それはギズリじゃない。俺と一緒に隊商の護衛を務めているエルドという男だ。そのことは、向かいの部屋に泊まっている仲間も証言してくれるはずだ。俺もいまさっきまで寝ていたから、あいつがどこに行ったのかまではわからないが、きっと手洗いにでもいってるんだろ」

イスメト(GM):
「その言葉が嘘でないと良いな。私もあまり手荒なことはしたくない」そう言って、イスメトは空いたベッドのそばまで歩み寄ると、その上に手を当てて余熱を確認します。

イーサ:
「ああ。神に誓って、俺は盗人の手助けなんてしてない」

イスメト(GM):
「なるほど。では、事情聴取のためにご同行願おう。うしろめたいことがないのであれば問題あるまい? ただし荷物には触れず、このままにしていってもらう。こちらで内容をあらためる必要があるからな」そう言って、イスメトは部屋から出るようにイーサを促します。

イーサ:
「わかった」
 ここは、イスメトの指示に大人しくしたがっておこう。

GM:
 一方、それとほぼ同時進行で、アゼルたちのいる部屋にもイスメトの配下の者が押し入ってきます。

アゼル:
 じゃあ、俺は部屋の扉が叩かれたところで、扉の横に剣を立てかけておいて、いつでも抜けるようにしておく。そうしておいてから扉を少しだけ開けた。
「いったいなんの用だ!?」

GM:
 そうすると、扉の前にいた者のうちのひとりがイスパルタ私兵団を名乗り、ギズリにイスパルタ家家宝窃盗の容疑がかけられていることと、あなたたちにもその共犯の疑いがかけられていることを告げ、大人しく指示に従うようにと言ってきます。

アゼル:
「お前たちがイスパルタ私兵団の者である事を証明するものは?」

イスパルタ私兵(GM):
 そう言われた男は、外套を少しめくり、鎧の胸元に刻まれたイスパルタ私兵団の紋章を見せました。そして、「イスパルタ本家のご子息であるイスメト様もこちらにいらっしゃっている」と付け加えます。

アゼル:
「ギズリが盗みを働いたということの証拠は?」

イスパルタ私兵(GM):
「そんなことは、お前たちの嫌疑が晴れたあとで確認するがいい」イスパルタ私兵は高圧的にそう言い放つと、力尽くで扉を押し開けて部屋の中に押し入ってきます。

GM:
 3人のイスパルタ私兵は部屋の中に入ってくるなり、怯えるニルフェルやベッドに横になっていたセルダルを押しのけて、家捜しを始めました。

アゼル:
 その様子を見たなら、こう言っておこう。
「こちらには怪我人がいるんだ。丁重に扱って欲しい」

GM:
 イスパルタ私兵はアゼルの言葉を特に気にする様子もなく、部屋の捜索を続けます。しかし、めぼしいものはなにも見つけられないようでした。

イスメト(GM):
 しばらくすると、隣の部屋でイーサとのやり取りを終えたイスメトが、こちらの部屋にも入ってきます。
「なにか見つかったか?」

イスパルタ私兵(GM):
 イスメトの声に私兵のひとりが振り向いて、「ダメです。なにも見つかりません」と報告します。

イスメト(GM):
「そうか……」そう呟くと、イスメトはアゼルたちに目を向けます。
「君たちには事情聴取のためにご同行願おうか。荷物には一切手をつけず、このままで。すでに隣の部屋にいた男には従ってもらっている」

アゼル:
「わかった……」
 抵抗はしないが、不服そうな顔をしている。

イスメト(GM):
「それと、エルドという者はどこにいる?」

アゼル:
「エルド? エルドなら隣の部屋にいるはずだが……」

イスメト(GM):
「いいや、隣の部屋には見当たらなかった。まさか、エルドという名前が偽名ということはないだろうな?」

アゼル:
「ん? それはいったいどういう意味だ?」

イスパルタ私兵(GM):
 私兵のひとりがアゼルに詰め寄り、「ギズリかその同行者に、エルドという名前を名乗らせていたんじゃないかと言ってるんだ!」と、アゼルの耳元で荒々しい声を上げました。

アゼル:
「それはない。エルドはギズリやジェザとは別人だ。そもそも、俺たちは隊商の同行者として一緒に行動してただけで、ギズリの窃盗だとかの話には一切関わっていない! それに――」

イスメト(GM):
 イスメトは手を広げて、アゼルの言葉をさえぎります。
「ここでこれ以上の話は不要だ。あとはイスパルタ本家の別宅でゆっくりと聞かせてもらうことにしよう。すでにシシュマンとサブリにも来てもらっている」

アゼル:
「……そうか。ならば同行には従おう。だが、イスパルタ私兵団というのは、随分と礼を欠いた行動をとるんだな」

イスメト(GM):
「奪われたモノがモノだけに、なんと言われようが一刻も早く取り戻さなくてはならんのだ」

GM:
 こうして、あなたたちは着の身着のまま1階に集められました。しかし、そこにエルドの姿は見当たりません。行方をくらました者がいたことで、イスメトやイスパルタ私兵たちがあなたたちに向ける疑惑の目は強くなっています。

イーサ:
 なんの前触れもなくイスメトたちが来たのにも関わらず、エルドが察しよく姿を隠したのは不自然じゃないか? もしかして、エルドはギズリたちとつるんでいたとか?

アゼル:
 たしかに(笑)。昨晩の単独行動も怪しいしな……。このままだとパーティー内でも疑惑が生まれてしまうぞ。

シーン外のエルド:
 いやいや。ただ単に、元奴隷として危険を察知する能力に長けていたというだけのことですよ(笑)。

イスメト(GM):
 イスメトはイーサのすぐそばまで歩み寄ると、冷たい眼差しを向けました。
「この宿中どこにもエルドという人物の姿は見当たらないようだ。宿屋の主人にも確認を取ったが、夜になってから外出した者はいないそうだよ……。どうやら、消えたひとりのことも含めて、君たちには色々と聞かなくてはならないことがあるようだな」そう言って、イスメトはあなたたちを連れて宿屋の外に出て行きます。

GM:
 宿屋の外にはさらに5人のイスパルタ私兵が控えていました。イスメトは私兵のうち4人だけをその場に残し、その者たちに荷物の内容を確認した上でイスパルタ本家の別宅まで運ぶようにと指示します。そして、あなたたちを自分たちが乗ってきた馬の前に乗せると、そのままカルカヴァンの富裕区へと馬を走らせました。

アゼル:
 いまさらなんだけど、俺はイスメトのことをどれくらい知っているんだろう? イスパルタ本家の子息ってことなら、まったく知らないってことはないよな?

GM:
 そうですね……。では、このタイミングで、イスパルタ本家についてあなたたちがどれくらい知っているかの知識判定を行っておきましょう。目標値は8・10・12・14の4段階です。ヤナダーグ・プラト地方出身であるアゼルの判定値には+2のボーナスを加えてください。

アゼル:
(コロコロ)12。

イーサ:
(コロコロ)9。

シーン外のエルド:
(コロコロ)11。

GM:
 では、まず全員が現イスパルタ本家の当主であるジェラル・イスパルタのことを知っています。ジェラルは50代の男性で、世渡り上手なことで有名です。カーティス王国の平定戦争中、カーティス王国軍に対して抵抗していた自分の父親を失脚させて、王国に対して服従の意を示しました。その甲斐あって、地方勢力の元支配者でありながら、家門の取り潰しを回避することに成功しています。ほかの地方で元支配者の家門が存続しているところはありませんので、例外中の例外です。また、その妻であったミネ夫人が十数年前に他界していることと、跡取り息子であるビュレントが、現在は宮廷官吏として王都カドゥンで暮らしていることを知っています。ちなみに、ビュレントは現在25歳です。
 続いて、アゼルとエルドはイスパルタ本家次男のニハトについても知っています。彼は24歳です。街の娘に手をつけて問題沙汰を起こすなど、放蕩息子として知られています。女癖が悪いだけでなく金遣いも荒いようで、行商人から異国の品々を買い漁っているとの噂があります。それと、イスパルタ本家三男であるイスメトについても、イスパルタ本家男子の中で最も優れた剣の使い手であることを知っています。
 さらにアゼルは、イスパルタ本家四男のアフメトのことも知っています。まだ20歳に満たない青年ですが、学術に秀でているとのことです。そして、イスパルタ本家にはあとひとり、娘がいたはずなのですが、達成値が14に届きませんでしたので、その詳細な情報については知りませんでした。
 というわけで、イスパルタ本家は四男一女で、なかなかの子たくさん家族だと言えます。

アゼル:
 跡取りとなる男子がいなくて困っているクルト家とは大違いだな。

GM:
 続けて、もうひとつの知識判定も行ってもらいましょう。目標値は12で、今度はマーキ・アシャス地方出身であるイーサの判定値に+2のボーナスが加わります。

シーン外のエルド:
(コロコロ)14で成功です。

GM:
 では、エルドはマーキ・アシャス地方にあるイルヤソール家当主の妻であるボレン夫人が、ジェラル・イスパルタの実の妹であるということを知っていました。

アゼル&イーサ:
 なんでエルドがそんなことを知ってるんだ(笑)。

GM:
 なぜか調べる機会があったんでしょうね(苦笑)。
 さて、ベッドの下に隠れたままのエルドはこれからどうしますか? ずっと隠れたままでいるならば、一度部屋を去ったイスパルタ私兵が戻ってきて、あなたたちの荷物の中身を調べ始めます。エルドの荷物も端から端まですべてあらためられてしまい、日記の内容までも読まれてしまいますよ。

エルド:
 日記にはつい最近の出来事しか書かれていないので大丈夫です。

GM:
 では、イスパルタ私兵たちは荷物の内容確認を終えると、それらをまとめて持っていってしまおうとします。

エルド:
 うーん。それは困りますね。それじゃあ、私兵が部屋から出て行ったところで魔法を解いて姿を現します。それで、窓を開けると着ていた服を雨で濡らして、あわせて天井と床も水で濡らしました。準備が済んだら、私兵を追いかけていって、背後から声をかけます。
「あの……。部屋がもぬけの殻になっていたんですが、なにかありましたか?」

イスパルタ私兵(GM):
 エルドが声をかけると、イスパルタ私兵たちは驚いてあなたのほうを振り返えります。
「貴様は何者だ!?」

エルド:
「え? いや、そこの部屋に泊まっている者ですけど……。雨漏りしていたので、屋根に上って修理していたんですが、戻ってみたらいつの間にか荷物がなくなっていて、廊下に出てみたらあなたたちが僕たちの荷物を持って立ち去っていく様子だったので声をかけたんですよ」

イスパルタ私兵(GM):
「まさか……お前がエルドか?」

GM:
 イスパルタ私兵たちは互いに顔を見合わせます。そして、「ひっ捕らえてイスメト様のところまで連れて行こう!」と意見を一致させて、一応状況についての説明をしたうえでエルドを拘束します。

エルド:
 抵抗せずに拘束されます。

イスパルタ私兵(GM):
「まったく、手間をかけさせやがって……」

エルド:
「いやぁ、そう言われても……。眠れないくらいに雨漏りがひどかったんですよ」

GM:
 イスパルタ私兵はエルドたちが泊まっていた部屋を再度覗き込み、天井から滴る水滴と床に溜まった水を見ると、少し腑に落ちない様子で小首を捻ります。しかし、それ以上詮索することなく、エルドのことを連れて宿屋をあとにしました。

 雨漏りを修理していたというエルドの言い訳はかなり強引でしたが、アイディア自体は面白いものでしたし、イスパルタ私兵からしてみれば拘束さえできればあとでいくらでも追及できるので、この場でそれ以上の追及はしませんでした。

 こうして、無事(?)に全員がイスパルタ本家の別宅へと連行されることとなりました。さて、第3話はここからが本番です。




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