LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(10)

GM:
 イスパルタ本家の別宅は、富裕区の中でも総督府にほど近い、城と見まごうような建物が並ぶ一角にあります。夜遅く雨が降る中、あなたたちはイスメト率いる一団に連れられて、イスパルタ本家別宅へと入っていきました。そして、会議で使うようなテーブルと椅子が並ぶ大部屋へと通されます。そこには、あなたたちよりも先に連れてこられたであろう、シシュマンとサブリの姿もありました。

イスメト(GM):
 あなたたちが部屋に入ると、イスメトはまずこのような確認をします。
「隊商として行動を共にしていた者のうち、この場にいないのは、ギズリ、アル、エルド……そして、ジェザの4名だったな。その4名の中で居場所のわかる者がいれば、いまのうちに教えておいて欲しい」

イーサ:
「アルだったら、宿木亭に泊まっているはずだが……」

イスメト(GM):
「そこならば、すでにシシュマンたちから聞いて調査済みだ。だが、部屋を引き払ったあとだった。もしかすると、ギズリたちと合流したのかもしれんな……。ほかに居場所のわかる者はいないか?」

一同:
「……」

イスメト(GM):
「ふむ。誰も語らずか……。では仕方ないな。これからはひとりずつ順番に、隣の部屋で話を聞かせてもらうとしよう。まずは、そこの……イーサといったか。キミに話を聞くとしよう。ついてきたまえ」

 こうしてイスメトは、シシュマン隊商に参加した者をひとりずつ尋問していきました。しかし、誰も新たな情報をイスメトに提供することはなく、逆にアゼルがイスメトに対して自身の抱く疑問をぶつけてきました。

アゼル:
「あなたたちは窃盗犯としてギズリさんを追っているようだが、ギズリさんが犯人であるという証拠はあるのか?」

イスメト(GM):
「証拠か……」イスメトはそう呟くと、少し考える素振りをしてから答えます。
「キミも耳にしたことがあるかもしれないが、私の兄ニハトには希少品や珍品の収集癖があってな。素性の知れぬ行商人を屋敷に招いては、くだらぬガラクタを買い漁っているのだ。その行商人のひとりがギズリであり、ちょうどギズリが行商に来た翌日、宝物庫からいくつかの貴重な物品がなくなっていたのが確認されたというわけだ」

アゼル:
「イスパルタ本家に出入りしていた者は、ほかにもいたんじゃないのか?」

イスメト(GM):
「もちろん、ほかにも出入りしていた者はいる。だが、よそ者で出入りしていたのはギズリだけだった。事件のあった前後に身内の者が宝物庫に立ち入っていないことも確認済みだ。まあ、もとより身元がしっかりしている身内の者が犯行におよぶなど、ありえぬ話だがな。それに、聞いたところによれば、ギズリは急きょイスパルタを離れることになったために、旅の準備もおろそかだったそうじゃないか。私には、ギズリを疑うには十分過ぎるほどの状況証拠がそろっていると思えるのだがね」

アゼル:
「うーん。だが、ギズリさんが犯人だとは、にわかに信じがたいな……」

イスメト(GM):
「勘違いしてもらっては困るが、我々とて現段階でギズリが犯人だと断定しているわけではない。状況的に疑わしい彼を、最重要容疑者として捜しているのだ。彼を捕まえ、その真偽を明らかにするためにな――」

GM:
 そのとき、部屋の扉をノックしてイスパルタ私兵が入ってきました。

イスパルタ私兵(GM):
「イスメト様! エルドという者を捕らえました!」

イスメト(GM):
「そうか。ならばちょうどいい。次はそのエルドという者に話を聞くことにしよう。すぐに連れてきてくれ」報告に来た部下に対してイスメトはそう指示します。そして、アゼルには隣の部屋に戻るように命じました。

アゼル:
 部屋を出て行く前に、これだけ言っておこう。
「ひとつ頼みがある。皆にあまり手荒なことはしないでくれ」

イスメト(GM):
「キミたちに非や偽りがなく、我々の捜索に素直に協力してくれるのであれば、こちらも手荒なことをせずに済むのだがね」

アゼル:
 だったら大丈夫だ。俺たちには非はない! 俺はエルドのことも信じてる!

 そして、アゼルに続いてエルドがイスメトの尋問を受けることになりました。

イスメト(GM):
「さて、たしかキミはエルドといったな。いままでいったいどこでなにをしていたのだ?」

エルド:
「兵士の方にも話したんですが、屋根の修理をしていたんですよ」

イスメト(GM):
「ほう。どのようにしてだ?」

エルド:
「どのようにって……。雨漏りを防ぐために、屋根に板を乗っけていたんですけれど……」

イスメト(GM):
「なるほど……。では、次の質問だ。カルカヴァンに着くまでのあいだ、キミたちの中に怪しい行動を取る者はいなかっただろうか?」

エルド:
「うーん。怪しいといえば、ギズリさんとジェザさんの行動には不審な点が多かったですね。ギズリさんは行商人だと話していたわりに商品を運んでいる様子ではありませんでしたし、ジェザさんはほかの人との接触を極端に避けていて、一切会話しようとしませんでした。あと、ジェザさんは道中やたらと後方を気にしていましたね」

イスメト(GM):
 エルドの証言を聞いたイスメトは、納得したといわんばかりにうなずきました。
「それで、ギズリたちは、自分たちの行き先についてなにか話していなかったかね?」

エルド:
「行き先ですか? うーん。そういえば、なにか言っていたような……」そう言って、言葉を濁しながら、物欲しそうな顔でイスメトに目を向けてみます。情報と引き換えに、なにかもらえませんかね?

シーン外のアゼル:
 うわッ! こんなところで取引しようってのかよ。

イスメト(GM):
(吐き捨てるような声で)「なんだその目は? 現在、我々はキミたちにギズリの共犯者としての嫌疑をかけているのだよ。キミはなによりもまず、己の潔白を証明すべきではないのかね?」

エルド:
 ちっ、まったく融通が利かないったらありゃしない。これだから武人タイプは……。しかし、ここでゴネてもしかなたいですか……。
「そうですね……。たしか、グネ・リマナに行くつもりだって言ってました」

イスメト(GM):
「グネ・リマナだと? そうか、なるほどな……」
(少し考える素振りを見せてから)
「その話はキミだけが聞いていたことなのか?」

エルド:
「いいえ。全員聞いていたはずですよ」

シーン外のアゼル:
 エルドの奴、なんてこと言いやがるんだ!

イスメト(GM):
 イスメトの表情が険しくなります。
「全員知っていたのか……。そうか、そうか。よく話してくれたな。ありがとう。キミがみつかってよかったよ」

エルド:
「あの……。知っていることはお話ししましたが、この後、僕たちはどうなるんでしょうか?」

イスメト(GM):
「そうだな。少なくともギズリを捕まえるまでのあいだは、ここに滞在してもらうことになるだろう。キミの教えてくれた情報の真偽も定かではないからな」

エルド:
「だったら、グネ・リマナにも捜索の手を伸ばしたほうがいいですよ。ギズリさんたちはかなり急いでグネ・リマナに行こうとしていたようなので、すでにこの街の外に出てしまったかもしれませんから」

イスメト(GM):
「ご忠告ありがとう。だが、心配は無用だ。それに、仮にそうだとしても、キミたちに対する扱いは変わらない。さて、個別に話を聞くのはこれくらいでいいだろう。あとは隣の部屋に移って、皆の前で話すとしよう」

 こうして個別尋問を終えると、イスメトは全員がいる部屋へとエルドを連れて行きました。

エルド:
「いやぁ。どうも、皆さん。なんだかたいへんなことになっているみたいですね」

GM:
 部屋に入ってきたエルドに対して、セルダルとニルフェルが視線を向けました。セルダルはエルドをにらみつけています。

アゼル:
 不審な行動をとってたエルドに対してどう接したらいいのか、いまいち反応に困るな(笑)。

エルド:
「いやぁ、イーサさん、雨漏り直すのに苦労しちゃいましたよ」

イーサ:
(目をおよがせて)「あ、ああ……」

イスメト(GM):
 イスメトがエルドの肩をポンポンと叩きました。
「彼が知っていることをすべて話してくれたよ。ギズリがグネ・リマナに急いで向かおうとしていたということもね。なんでも、そのことは全員が耳にしていたそうじゃないか。そうだったな、エルド君」

エルド:
「はい。そのはずです」

イスメト(GM):
 イスメトはエルド以外の面々に笑顔を向けるのですが、その目は笑っていません。
「キミたちがどういうつもりかは知らないが、我々が求めているのは真実だ。快く協力してもらえないのであれば、それ相応の手段を取らなくてはならなくなる。もちろん、そのことは理解しているのだろうね?」

一同:
「……」

セルダル(GM):
 沈黙に耐えられなくなったセルダルが、「悪りぃ! オレ、ド忘れしてたわ!」と言って手を合わせました。
「たしかに、ギズリの奴がなんとかリマナに行くって言ってたのを聞いたよーな気もする。けどよ、オレは物覚えが悪りぃからホントに忘れてたんだ」

エルド:
 セルダルさんがそう言ったのにあわせて、アゼルさんとイーサさんにも目配せします。

アゼル&イーサ:
(無言で視線を逸らす)

エルド:
 なんでそこで目を逸らすんですか(笑)?

アゼル:
 俺はギズリさんのことを疑っていないから、無言を貫いている。

イーサ:
 俺はセルダルと同じく、素で忘れてた……。

アゼル&エルド:
(笑)

イーサ:
「俺はギズリたちのことをあまり気にしてなかったから、覚えてなかった。別に隠そうとしてたわけじゃない」

アゼル:
 むむ。そうなると、結局ギズリさんのことを信用してるのは俺だけなのか?

エルド:
 それじゃ、僕はアゼルさんのほうを見ながら、イスメト様に対して、「アゼルさんはギズリさんと戦盤を指したりして仲がよかったみたいですから、疑いたくないんじゃないですかね」と言っておきます。

イスメト(GM):
「仲がよかった……ね」イスメトはそう口にしてアゼルをにらみつけてから、「では、あらためて聞こう。ギズリたちの行動で、なにか変わったことはなかったか?」と問います。

一同:
「……」

イスメト(GM):
「本当に知らない、あるいは知っていても話したくないか……。まあいいだろう。すでにヤナダーグ・プラト総督であるハイダール様にお願いし、市門には検問を敷いてもらっている。これまでの出入記録によれば、ギズリはまだこの街の中にいるはずだ。しらみつぶしに探すのは手間だが、これ以上の情報を得られないようであればそれも仕方あるまい」そこでイスメトはいったん言葉を切ると、鋭い眼差しをあなたたちに向けます。
「だが、よく覚えておきたまえ。もし、ギズリが犯人として捕まれば、そのときは仮にキミたちがギズリの共犯者でなかったとしても、幇助罪に問われることとなるだろう」

アゼル:
「ひとつ聞いておきたいんだが、ギズリさんが捕まるまでのあいだ、俺たちはこの屋敷から出られないのか?」

イスメト(GM):
「この屋敷……ではない。この部屋からは、一歩たりとも外に出さん」

アゼル:
 うへ。部屋に監禁かよ。早くニルフェルのことを王都まで連れていってやりたいのに……。
「そうだ。ギズリさんのことを探すのならば、俺たちも捜索に同行させてもらえないだろうか?」

イスメト(GM):
「馬鹿を言え。そんなことをして、我々にとってなんのメリットがあるというのだ?」

アゼル:
「俺たちは先を急いでいる。ここで足止めを食うわけにはいかない。それに、ギズリさんはきっと無実だ。だから、ギズリさんには直接出てきて疑いを張らして欲しい。そのためにも、俺はギズリさんを探し出したいんだ」

イスメト(GM):
(呆れた様子で)「アゼルといったか……。はっきり言って、キミたちの都合や気持ちなどはどうでもいいのだよ。そんなことよりも、私が聞きたいのは、キミたちを同行させることで我々にとってどんなメリットがあるかということだ。たとえばだ、キミたちが魔法でたちどころにギズリの居場所を特定してくれるというのであれば、案内を頼むとしよう。だが、ただ単に捜索に同行させてくれといわれても、それではキミたちがギズリの協力者であった場合、かえってギズリを逃がしてしまう危険性を高めてしまうだけなのではないかね?」

アゼル:
 うっ……。うーん。
「そこは俺たちのことを信じてもらうしかない」

イスメト(GM):
「てんで話にならん。つい先ほどまで隠し事をしていたのはどこの誰だったかな? それが、今度は信じてくれだと? ふざけるのもいい加減にしたまえ。やはり、キミたちにはこの部屋に居続けてもらうのが最善のようだ」

アゼル:
 くぅ、まったく覆せない。

エルド:
 いや、覆せないもなにも、話がかみ合っていませんでしたから(苦笑)。

GM:
 実際、共犯者として疑われているあなたたちに対して、イスメトはかなり譲歩してると思いますよ。自分たちにとってメリットがあることを示してくれれば、あなたたちがギズリ捜索に加わることを容認するような言い方をしていますからね。

イーサ:
 ここで足止めされることに対して、サブリはいつもみたいになにか言ってこないのか?

サブリ(GM):
 そうですね……。そのとき、サブリがどうしているかというと……。
「市門で検問が行われてるってなら、袋のネズミだな。どうせ出発は明後日の予定だったんだ。そのころまでには、ギズリの奴も捕まるだろ。それまでは、せいぜいのんびりさせてもらえばいいさ。それに、ここで出されるメシは、そこいらの飯屋ででてくる料理より数段美味いんだぞ」と、いまいち危機感のない様子です。

一同:
(笑)

イーサ:
 うーん。イスメトに対して、俺たちのスカウト技能やハンター技能による追跡能力を売り込めないもんかな?

アゼル:
 お、それはよさそうだな。それで持ちかけてみるか?

GM:
 言っておきますが、イスパルタ私兵団には斥候もいれば、魔法使いだっていますからね。実力的にみても、あなたたちと同等かそれ以上です。だいたい、ギズリを捕まえようとしているイスメトが、重装兵しか引き連れて来なかったと思いますか?

エルド:
 それもそうですね。

アゼル:
 ぐぬぅ。押し黙るしかないな。

イスメト(GM):
「さて、これ以上話すことがないようであれば、私はこれで外させてもらう。この部屋に寝台は用意できないが、毛布くらいは用意させよう。まあ、ギズリたちが捕まるまでのあいだ、ゆっくりしていってくれたまえ」イスメトはそう言うと、4人の兵士を監視として部屋に残し、退室していきました。

アゼル:
「ふう……。とんだことになってしまった」

セルダル(GM):
「まったくだ。ギズリの野郎、面倒なことに巻き込んでくれやがって!」

アゼル:
「いや、まて。まだギズリさんが犯人だって決まったわけじゃない」

セルダル(GM):
「犯人だろーがそーじゃなかろーが、オレたちを巻き込んだことは事実だろーが! ギズリの野郎さえいなけりゃ、こーはならなかったはずだぞ。それに、オマエだってよく言ってただろ。火のないところに煙は立たないってよ」

アゼル:
「うっ……。それはそうだが……。しかし、ギズリさんはそんなに悪い人には見えなかった」

セルダル(GM):
 セルダルはアゼルの態度に少し苛立ちながら、こう口にします。
「世間知らずのオマエに、ひとつ教えといてやるよ。本当に悪い奴ってのは、得てして普段はそー見えないもんだ」

アゼル:
「そ、そうなのか? ……いや、だがギズリさんに限ってそんなことはない。きっと何か誤解があるだけだ。ここまで一緒に命懸けで旅をしてきた仲間なんだ。俺は信じている!」

セルダル(GM):
「命を懸けてたのはオレたち護衛であって、あいつはただ一緒についてきただけだろーが! それに、思い返してみりゃ、ギズリの野郎は隊商の安全のために一度イスパルタに引き返そーかって話になったとき、アルを悪役にしてまで強引に先に進むよーに仕向けたよな。あと、隊商から離脱したときには、オレたちのことを力量不足だと罵りやがった」

アゼル:
「ま、まあそうだが、友好的なところだってあったさ。俺たちが力量不足なのは事実だし、それがギズリさんのことを疑う理由にはならないだろ?」

エルド:
 誰か、このなんでも自分の都合のいいように思い込もうとする人のことを止めてくれませんかね……(呆)。

イーサ:
(チラチラとエルドのことを見ている)

エルド:
「ん? なんですか、イーサさん? さっきから、人の顔をジロジロみたりして」

イーサ:
(小声で)「おまえ、なんであのとき姿を消したんだよ。おかげでこっちは色々と面倒な目にあってたんだぞ」

エルド:
「いやぁ、実は朝食に出たときにタルカンさんからもらったプレートを使ったんですよ。それで、もしかしたらタルカンさんに恨みを持った人が逆恨みで僕のことを襲いにきたんじゃないかと思って、ビックリして隠れたんですよ」

イーサ:
「ふむ……。まあ、さすがにエルドがギズリの片棒を担いでいるなんてことはないよな……」

エルド:
「ははは。もし僕が窃盗の片棒を担いでいたのなら、もっと上手くやりますよ。しかし、困りましたね。僕たち、ギズリさんが捕まるまで、ずっとこの部屋に監禁されることになるんでしょうか……?」

 もちろん、積極的に行動しなければ、その分監禁されている期間は長くなる仕組みです。さて、そのような状況で、はたして一石を投じようとする者は現れるのでしょうか?




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