LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(13)

GM:
 こうしてアゼルとエルドは、タルカン自らの案内でトゥルナゴル邸へと赴くこととなりました。
 トゥルナゴル邸は総督府を挟んでイスパルタ別宅と対角をなす位置にあり、周囲のほかの建物に負けず劣らず豪邸と呼ぶに相応しい佇まいです。
 タルカンが敷地内に入っていくと、何十人もの使用人たちが中央の道の左右に並び、主人の帰宅を出迎えました。

使用人たち(GM):
「旦那様、お帰りなさいませ」

アゼル:
 おー、いかにも金持ちって感じだな。それを目にしたアゼルは驚いている。

エルド:
 僕はこういうところは苦手なので、しばらくアゼルさんにお任せします。

GM:
 使用人たちのあいだを抜けて屋敷の入口まで進むと、正面玄関の前にはひとりの太ったおばちゃんの姿がありました。

太ったおばちゃん(GM):
「おかえりなさい。あなた」

タルカン(GM):
「ただいま、アーニャ」
 タルカンは小走りで太ったおばちゃんのもとへと駆け寄ると、彼女と抱擁を交わします。

アゼル:
 えーッ!? もしかして、このおばちゃんはタルカンの嫁なのか!? 信じられん。絶対ソッチの気の人だと思ってたのに……。

GM:
 アゼルはそう思い込んでいたようですが、タルカンがソッチ系だとは一切言っていませんでしたよね? 途中で念押ししましたし……。

タルカン(GM):
「う~ん、ワタシの可愛いアーニャ。今日も一段と綺麗ね」

GM:
 タルカンの腕の中にいる女性は、どうみても人並み以下の容貌しか持ち合わせていない中年女性です。全体的にぽっちゃりしていて、おばちゃんと形容するのがもっとも相応しく思える外見です。

アゼル:
 な、なるほど……。いや、これはこれで微笑ましい光景だな(笑)。

タルカン(GM):
 タルカンは片腕をアーニャの腰らしき位置にまわしたまま、あなたたちのほうを向きました。
「紹介するわ。妻のアーニャよ」

アーニャ(GM):
 紹介されたアーニャという女性は、「主人がいつもお世話になっております」と挨拶してうやうやしく頭を下げます。彼女が身体を折ると、お腹まわりの肉がよりいっそう強調されます。

アゼル:
「これはこれは。ご機嫌麗しゅう」

タルカン(GM):
 続けて、タルカンはあなたたちのことをアーニャに紹介します。
「彼らが先日話した、インサンラールでワタシを守ってくれたコたちなのよ。バスカン一座のところで偶然見かけたから、晩餐にお誘いしたの」

アーニャ(GM):
「まあ、そうでしたか。その節は本当にありがとうございました。そのような方たちと一緒にお食事できるだなんて、光栄ですわ。それでは食事の席までご案内いたしますので、こちらにどうぞ」
 アーニャはその丸い顔に穏やかな笑みをたたえ、あなたたちを屋敷の中へと招き入れます。

アゼル:
「では失礼します」

GM:
 外見からして立派な佇まいのトゥルナゴル邸でしたが、内装はそれにも増して豪勢なものでした。ところどころに置かれた調度品はいずれも趣があり、どれもこれもかなり高価なものであるように思えます。そのようなものを視界の端に入れつつ、あなたたちが案内されていったのは、大きなホールでした。
 そこはイスパルタ別宅に閉じ込められたときの会議部屋よりもさらに広く、部屋の真ん中には長いテーブルが置かれています。あなたたちはそのテーブルに座り、タルカンとその妻であるアーニャと共に晩餐をとることとなりました。
 豪勢な食事に舌鼓を打ち、あたりさわりのない上品な談話を交えつつ、優雅な時間が過ぎていきます。

タルカン(GM):
 そうしてひととおり食事を終えると、タルカンは、「では、アーニャ。ここからは仕事の話になるから、席をはずして頂戴」と言って、アーニャを退席させます。

アーニャ(GM):
「わかりました。それでは皆さん、どうぞごゆっくり」そう挨拶すると、アーニャは静かに退席していきました。

GM:
 現在その部屋にいるのは、あなたたちとタルカン、そしてタルカンの護衛を務める2人の奴隷だけです。

アゼル:
 仕事の話か……。ちょっと怖いな。

タルカン(GM):
「さてと……。最初に忠告しておくけれど、あまりつまらない隠し事や誤魔化しはしないほうがいいわよ。あとになってそのことが判明した場合、通常よりも関係を悪化させることになるものね。ワタシ、今のところアナタたちとは協力しあえる間柄だと思っているのよ。アナタたちもそう思わない?」

エルド:
(小声で)「アゼルさん。ここは腹を割って、タルカンさんにすべてのことを話しておくべきではありませんか?」

アゼル:
(小声で)「うーん、どうなんだろうな……(汗)」

タルカン(GM):
 ひそひそ話をするあなたたちを前にして、タルカンはにっこりとほほ笑みます。
「さて、それじゃあ本題なのだけれど、実は一昨日からこの街にイスパルタのお坊ちゃんが来ているらしいの。そして、なぜだかそれと同じタイミングで、街中でなにやら慌ただしい動きが起こり始めたみたいなのよね……」

アゼル:
 うわぁ……。こりゃあ、もうバレバレだなぁ……。

GM:
 まあ、イスメトがカルカヴァンに来ていること自体は、タルカン以外にも多くの人が知っていることだと思いますよ。それに、市門には検問が敷かれているわけですから、慌ただしい動きがあることはほとんどの市民が察しています。

タルカン(GM):
「もしかして、イスパルタのお坊ちゃんがこの街に来たことと、アナタたちがギズリを探していることにはなにか関係でもあるのかしら? もし知っていることがあるなら教えて欲しいのだけれど」

アゼル:
「そうですね……(汗)。実は……イスパルタの私兵団がギズリさんのことを捜しているようなんですよ」

タルカン(GM):
「まあ、そうなの? イスパルタのお坊ちゃんが自ら私兵団を率いて行方を捜しているだなんて、ギズリはいったいなにをしでかしたのかしら?」

アゼル:
 どうしよう。このまま話し続けると、全部聞き出されてしまうような気がする……。

エルド:
 アゼルさんは情報を隠すつもりなんですね? ならば、ここは交渉ごとが苦手なアゼルさんに代わって僕が対応しましょう。
「ギズリさんがなにをしたのかはわかりません。それは僕たちも教えてもらっていません。ただ、ギズリさんを捜すようにと言われたんです」

タルカン(GM):
「教えてもらっていない? ギズリを捜すように言われた? ……ふ~ん。イスパルタのお坊ちゃんが、アナタたちにギズリを捜すように命じたというの? だとしても、なぜアナタたちがその命令を聞かなくてはならないの?」

エルド:
「え……。えーと、僕たちもギズリさんがなにをしたのかはわからないのですが、なぜか僕たちまで追及されてしまいまして……」

タルカン(GM):
「僕たちまで追及……? もしかして、ギズリは犯罪でも犯したの? それで、アナタたちにもその嫌疑がかけられたってことかしら?」

エルド:
 うっ……。
(言葉をなくしてうなだれる)

アゼル:
 おいおい、その言い方じゃ完全に墓穴掘ってるだろ(苦笑)。仕方ない。ここは潔く認めよう。
「……そうですね……」

タルカン(GM):
「話をまとめると、ギズリはイスパルタ私兵団に追われるような罪を犯していて、ここまでギズリと共に旅をしてきたアナタたちにも共犯の嫌疑がかけられた。その嫌疑を晴らすために、アナタたちはギズリの行方を探している。それで、ギズリが連れていたと思しきロバをバスカン一座の宣伝行進で見かけたから、それを確認しようとしていた。ということで良いのかしらね?」

アゼル:
「お……おっしゃるとおりです……」

タルカン(GM):
「ふーん。それじゃあ、あらためて聞くけれど、ギズリはいったいなにをしでかしたの?」

アゼル:
「えーと、そこまでは教えていただけなかったので……」

タルカン(GM):
「そうなの……」
 タルカンは顎に手を当てて目を閉じると、しばらくのあいだ思考を巡らせます。
「ギズリが見つかろうが見つかるまいが、ワタシにとってはどちらでも構わないけれど、ギズリがなにをしでかしたのかってことにはちょっと興味があるわね……。もしかしたら、商売のタネになるかもしれないわ」そう言って見開いたタルカンの眼は、玩具を見る子供のように爛々と輝いています。

アゼル:
「な、なるほど……」

タルカン(GM):
「たとえば、人殺しとか……?」

アゼル:
「いやぁ、そこまでの話は聞いてませんが……(汗)」

エルド:
「もし殺しだったら、もっと情報を公にして大々的に捜査するんじゃありませんか?」

タルカン(GM):
「それもそうね。それなら、誘拐は?」

エルド:
「誘拐だったら、逆に犯人を刺激しないためにも、もっと秘密裏に捜査していると思います」

タルカン(GM):
「なるほど……。となると、ほかに考えられるのは盗みってところかしら」そう口にしたタルカンは、あなたたちの目を見ながら口角を持ち上げます。

一同:
(爆笑)

アゼル:
 ぐはッ! まんまと誘導された(笑)!

エルド:
「……ですが、イスパルタ本家の面子もあるでしょうし、盗み程度でここまで大げさな動きはしないんじゃないですか? 本当のことを教えてもらえない以上、いくら考えても推測の域をでませんよ」

タルカン(GM):
「そうねぇ……。まあ、そういうことにしておきましょう」そう言ってタルカンは少し考える素振りをしてから、「ねぇ、アナタたち。もしこの先、面白い情報が手に入ったら、ワタシに売ってみる気はない?」と取引をもちかけてきました。

エルド:
「取引ですか……。その前に、こちらからも質問させてもらっていいですか?」

タルカン(GM):
「あら、いったいなにかしら?」

エルド:
「タルカンさんは、ギズリさんのことをご存知なんですか?」

タルカン(GM):
「もちろんよ。言っておくけれど、ヤナダーグ・プラトの商人ギルドに所属している商人だったら末端の者のことまで知っているわよ。商材としてなにを扱っているのかというところから、どんな取引先と付き合いがあるのかってところまでね。これ、商売人としてはあたりまえのことよ?」

エルド:
「なるほど……。さすがはタルカンさんですね。いや、個人的な付き合いでもあるのかなと思ったものですから。でも、そこまでの情報を持つタルカンさんの耳にも、ギズリさんが現在いる場所の情報までは入ってきていないんですよね?」

タルカン(GM):
「そうね。というか、ギズリが身を隠しているということ自体、アナタたちの話を聞いて初めて知ったわけなのだけれど……」

エルド:
「そういえばそうでしたね」
 うーん。もしかして、タルカンさんとギズリさんがうしろで繋がっているのではないかと疑っていたのですが、これは脈なしですかね……。

タルカン(GM):
「それで、面白い情報が手に入ったらワタシに売るって話、請けてもらえるかしら? 商売のタネになるようだったら、高値で買い取るわ。それに、アナタたちがこの街でギズリを捜すというなら、ワタシが協力できることも多いと思うの。ねぇ、悪い話ではないでしょう?」

アゼル:
「なるほど。わかりました。もし面白い話が手に入ったらということで」

タルカン(GM):
「ああ、それともうひとつ確認しておくけれど、アナタたちに嫌疑がかけられているということは、シシュマンとサブリも同じ状態にあるということよね? 2人はいまどこにいるの?」

アゼル:
 もう隠しても仕方ないか(苦笑)。
「イスパルタ本家の別宅に監禁されています」

エルド:
 あ……。なんてことを……。僕はアゼルさんに向けて冷ややかな目線を送ります。

アゼル:
 ん? なにかまずいこと言ったか?

タルカン(GM):
「そう。わかったわ。ありがとう」

アゼル:
「では、そろそろおいとましようと思います」そう言って席を立つ。

タルカン(GM):
「いい情報が入ってくることを楽しみにしているわ。頑張りなさい。それと、シシュマンのところに行ったはずのイーサにもよろしく伝えておいてね」そう言って、タルカンは含み笑いを浮かべつつアナタたちを見送りました。

アゼル:
 あ……(絶句)。

一同:
(失笑)

アゼル:
 結局、ほとんど見抜かれてしまったな(苦笑)。

エルド:
 アゼルさんが余計なことばかり口にするからですよ(苦笑)。おかげで僕たち、いろんな人から疑いの目を向けられていますよ。

アゼル:
 まあまあ、ギズリさんを見つけ出せばすべて解決するはずだ。あまり心配するな。

シーン外のイーサ:
 そういえば、結局戦盤はしなかったんだな。

アゼル:
 あ、本当だ。まあ、戦盤は口実のようなものだったしな。タルカンのところにはまた足を運ぶことになりそうだし、そのうち戦盤を指す機会もあるだろ。




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