LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(17)

 エルドのことを牡牛の角亭に残してほかの店へと聞き込みに向かったアゼルとイーサでしたが、2時間かけて聞き込みを行ってみたものの、これといった情報を得ることはできませんでした。その一方で、ひとり宿屋に残されることとなったエルドはというと――。

GM:
 さて、宿屋でじっと待機を続けることとなったエルドですが、宿屋のどのあたりで待機していますか?

エルド:
 エントランスに待合用のテーブルとかがあれば、そこにいることにします。

GM:
 そうすると、エルドはカウンターから少し離れたところにあるテーブルに座って、宿屋への人の出入りを観察しているということになりますね。では、しばらく時間を進めます。
 エルドが観察をはじめてから1時間ほど経過したころに、フード付きマントを羽織ったひとりの男性が牡牛の角亭を訪れました。その男はカウンターの前まで歩いてくると、そこでフードをおろします。エルドの座っている位置からだと背中しか見えませんが、その男の髪がやっとつかめる程度にまで短く刈り込まれた黒髪であることはわかりました。

短髪の男(GM):
「私はベキルという者だ。実は、ハイローにこの宿屋まで来るように言われたのだが、いま彼はこちらに居るだろうか?」宿屋の主人に対してそう口にした男の声は20代そこそこといった印象でしょうか。

牡牛の角亭の主人(GM):
「いいや、せっかく足を運んでもらったところで悪いんじゃが、ハイローはいま出払っておってここにはおらんよ」

ベキル(GM):
「そうか……。では、また日をあらためることにしよう」そう言うと、ベキルと名乗った男はふたたびフードをかぶって宿屋の外へと出て行こうとします。

エルド:
 そのベキルって人の声に聞き覚えはありませんか?

GM:
 では、過去の記憶と照合して聞き覚えのある声かどうかを判断することになるので、記憶術判定を行ってください。目標値は、(コロコロ)4です(苦笑)。

エルド:
(コロコロ)13で成功しました。

GM:
 それならば、ベキルの声はあなたの記憶しているギズリの声と同質であるように思えました。まあ、素人が声色と口調を変えただけのものだったので、確信を持てるレベルでわかりましたよ。

エルド:
 それでは、宿屋を出ていこうとする彼に対して声をかけてみます。
「あの、ちょっといいですか? あなた、ハイローさんに会いに来たんですよね?」

ベキル(GM):
 ベキルと名乗った男は、まるでエルドの声が聞こえないかのように、足を止めることなく宿屋の外へと出ていきました。

エルド:
 あ……。どうしようかな……。
(少し考えてから)
 とりあえず、あとを追いかけてみます。

GM:
 エルドが宿屋の外に出て辺りを見渡すと、中央広場のほうへと早足で立ち去ろうとしているベキルのうしろ姿を見つけました。
 さて、どういった手段で追いかけますか? 走って追いつこうとするのか、はたまた気づかれないように“尾行”を試みるのか?

エルド:
 そうですね……。ここは“尾行”してみましょう。うまくすれば、潜伏先まで追跡できるかもしれません。

GM:
 それならば、《スカウト技能レベル+実質敏捷度ボーナス+2D》でこちらとの対抗判定を行いましょう。判定に勝つごとに移動エリアひとつ分追いかけられます。(コロコロ)こちらの達成値は7です。

エルド:
 敏捷度勝負ですか。きついなぁ……。敏捷度関連の判定はあまり得意じゃないんですよね。(コロコロ)9です。

GM:
 では、エルドはベキルのあとを尾行して中央広場まで到達しました。中央広場の道端には大勢の人が並んで立っています。どうやら、ちょうど旅芸人一座の宣伝行進が行われているようです。
 中央広場に入ったところで、ベキルの歩みはさらに速くなりました。それは、もはや駆け足です。

エルド:
 ん! このままだと人ごみに紛れて逃げられてしまう。これは不味いですね……。

GM:
 この状況で、もう一度、尾行判定をどうぞ。身を隠しやすい状況になったので、ベキル側の達成値には+2の修正が入ります。(コロコロ)ベキルの達成値は10。

エルド:
(コロコロ)あー! 残念ながら9です。撒かれてしまいました。くそー。旅芸人一座の宣伝行進さえなければ……。まだそう遠くへは行っていないと思うのですが、“捜索”で見つけられませんかね?

GM:
 いいでしょう。まだ、見つけられる余地はありそうです。うまくいけば、どちらの方向へ逃走していくのかわかるかもしれませんので、目標値10での判定を行ってください。

エルド:
(コロコロ)ダメです。8しかない(苦笑)。でも、“捜索”は再判定可能ですよね? まだ皆が戻ってくるまでには時間があるので、再判定をしておきます。

 再判定が可能な行為は、一度判定に失敗しても、さらに多くの時間を費やすことで再度判定を行えることになっています。今回エルドが行った“捜索”は本来10分で完了する行為であり、次の再判定には1時間を費やすことになります。

GM:
 了解です。ですが、今回のケースでは相手も移動しているので、時間が経てば経つほど難易度はあがりますからね。それでよければ、目標値14で判定してください。

エルド:
 うわ。さすがに高いですね。どうしようかな……。

シーン外のアゼル:
 6ゾロを出せば大丈夫だ!

エルド:
 まあ、それはそうですけど(笑)。(コロコロ)あ……13。あと一歩及ばずでした。悔しいですが、ここであきらめて牡牛の角亭に戻ります。

 こうして、ギズリらしき人物にあと少しのところまで迫ったエルドでしたが、残念ながらその姿を見失ってしまいました。


 意気消沈したエルドが牡牛の角亭に戻ってきたころには、アゼルとイーサも聞き込みを終えて宿屋に戻ってきており、合流した3人はそれぞれの首尾を報告しあいます。そして、これから行うべきことについての相談を始めました。

エルド:
「あの声は絶対ギズリさんだったと思うんですよ。ただ、背後から見た限りでは、髪型が大きく変わっていて、アルさんくらいに短く刈り込んだ黒髪になっていたのですが……」

アゼル:
「そうだったのか……。まあ、髪型はなんとでもできるし、そのベキルと名乗った男がギズリさん本人だった可能性は高いな……」

イーサ:
「なあ。牡牛の角亭の主人は、そのベキルって男の顔を正面から見たんじゃないのか?」

エルド:
「それもそうですね」
 主人のところまで行って、「ご主人。さっききたお客さんのことでちょっと聞きたいことがあるんですが……」と話しかけます。 

牡牛の角亭の主人(GM):
「ああ。ハイローを訪ねてきたさっきの男のことじゃな」

エルド:
「ええ。ご主人は彼の顔を見ていますよね。彼の顔は、僕たちが見せた似顔絵に似ていませんでしたか?」

牡牛の角亭の主人(GM):
 その質問に対して、宿屋の主人は大きく頭を振りました。
「いいや、似ても似つかん顔じゃったよ。似顔絵とは違って、目はたれ目じゃったし、鼻もまん丸かった。ありゃ、どう見たって別人じゃ」

エルド:
「そうですか……。うーん。たしかに声はギズリさんのものだと思ったのですけれどね……」

アゼル:
(腕組みしてしばらく考え込んでから)
「魔法の中には、姿を変えることができるものとかもあるのか?」

イーサ:
「ああ、あるぞ。白魔法には術者の顔を変える“ディスガイズ”ってのがある。もし魔法で顔を変えているとすれば、シジルって老人もギズリが化けていた可能性が高いな。それなら、宿屋の主人が変装だと見破れなかったとしても不思議じゃない」

GM:
 いまのイーサの説明に少し補足しておきます。
 通常、白魔法は寺院で教えてもらうことができるのですが、“ディスガイズ”は犯罪に用いられやすいことからその対象外となっています。そのため、“ディスガイズ”を使えるのは、白魔法使いの中でも異端者か、あるいは遺跡探索などによって“ディスガイズ”の呪文書や、同等の効果を秘めた遺産を入手した者に限られます。

イーサ:
 なるほど。そうすると、“ディスガイズ”の線は薄いのか? いや、だがイスメトが話していた盗まれた家宝の中にその手のアイテムがあったとしてもおかしくはないか……。
「しかし、どうしたもんかな。魔法を使って変装しているかどうかは“センス・マジック”を使って魔力感知の目で見ればわかるんだが、そのためにはもう一度ギズリらしき人物を見つけないといけないぞ」

エルド:
「シジルと名乗った老人がこの宿屋を訪れたのは4日前、ベキルと名乗った人物が来たのが今日……。どちらもギズリさんが変装していた姿であったとすれば、この先しばらくギズリさんがこの宿屋に来ることはないと思いますが……」

アゼル:
「……そうなると、あとできることといえば、ハイローという人物がどういう人間なのか調べるくらいか」

イーサ:
「そうだな……。ギズリたちよりも先にハイローと接触できれば、ギズリがハイローのことを訪ねてきたところで捕まえることもできそうだが……」

アゼル:
「よし、それなら、ハイローの情報を集めて行き先や戻ってくる日を調べよう!」


 こうして当面の調査対象をギズリからハイローへと切り替えた一行は、情報収集のしやすさも考慮して、アスラン商会系列の酒場の中でも遺跡探索者がよく利用するという店を訪れました。

GM:
 もうすぐ夕食時ということもあり、あなたたちが訪れた酒場はなかなかの賑わいを見せています。話に聞いていたとおり、遺跡探索者御用達の店なのでしょう。客席に座っているのは、皆いかつい身体つきの者たちばかりです。

酒場の主人(GM):
 店に入ってきたあなたたちに対して、カウンターの中に立っていた酒場の主人が声をかけてきました。
「いらっしゃい。3人だったら奥のテーブル席にどうぞ」

アゼル:
 とりあえずテーブル席に座って注文するか。
「エールを3つ頼む」

酒場の主人(GM):
 酒場の主人がエールの入ったカップをテーブルまで運んできます。
「はい、エール3杯で3銀貨ね」

アゼル:
 3銀貨払いつつ話を聞こう。
「すまないが、ハイローという人物についてなにか知らないか?」その言葉と共にタルカンからもらったプレートを主人に見せる。

酒場の主人(GM):
 プレートを目にした酒場の主人は、表情を和らげて滑らかに話し始めます。
「ああ、ハイローさんね。昔はお仲間の方たちと一緒によく足を運んでくれてたんですが、このところはさっぱり顔を見てませんね。ハイローさんがどうかしたんですか?」

アゼル:
「いや、ハイローに直接関係があるわけではないんだが、ハイローを探している人物を追っているんだ。近頃ハイローのことを訪ねてきた人物はいなかったか?」

酒場の主人(GM):
「いえ。少なくともここしばらくはいなかったですね」

アゼル:
「ふむ……。ちなみに、俺はハイローという人物のことをよく知らないんだが、いったい何歳くらいの人なんだ?」

酒場の主人(GM):
「そうですね……。直接歳を尋ねたことはありませんが、おそらく30半ばくらいだと思います」

アゼル:
「そうなのか。それじゃ、そのハイローさんがよく利用する店とかは知らないか? もしくは、ハイローさんについてよく知る人物とかがいるなら教えて欲しい」

酒場の主人(GM):
「さあ? 特定の店をひいきにしてるってことはなかったんじゃないですかね。あと、ここらの店に出入りしている人間なら、みんなハイローさんのことはよく知ってますよ。なにせ、このカルカヴァンじゃ、一番の腕利き探索者ですからね。まあ、剣の腕前とかの話になればまた別なんでしょうけど、こと遺跡探索にかけてはね」

アゼル:
「なるほど。どうもありがとう」

イーサ:
「大した手がかりはなしか……。せめてハイローがいつごろ戻ってくるかだけでもわかればな……」

酒場の主人(GM):
 イーサの言葉に反応した酒場の主人が、「あの……。ハイローさんは、いま仕事に出てるんですか?」と尋ねてきました。

イーサ:
「ああ。そうらしい。ハイローが部屋を取っている宿屋の主人がそう話していた」

酒場の主人(GM):
「そういうことですか。だったら、ハイローさんが戻ってきたらすぐにわかるはずですよ。なんせ、ハイローさんの帰還の噂が広まるのは速いですからね。歓楽区で客引きしてる女どもなんかは、ハイローさんが戻ってくると我先にってハイローさんの取り合いをおっぱじめるんです。遺跡探索から帰ってきたばかりのハイローさんは、とんでもなく羽振りがいいですからね」

アゼル:
「ほほう。なるほど、つまり娼館だな」

エルド:
「いやいや、そこは高級酒場でしょう? それとも娼館に興味があるんですか?」

アゼル:
「い、いや、そんなことはない……。それじゃ高級酒場をあたってみるか?」

イーサ:
「うーん。ハイローの帰還を確認することが目的なら、高級酒場をあたるよりも市門で出入記録を確認してもらったほうが確実じゃないか? そうすれば、いつごろ、どの方面に向かったのかもわかると思うが……。まあ、俺たちが聞きにいったところで教えてもらえるかはわからないが……」

GM:
 そうですね、一般人がいきなり市門の出入記録を教えてくれと押しかけていっても、そう簡単には教えてくれないでしょう。まあ、イスメトやタルカンに働きかけてもらえば教えてもらえるかもしれませんが……。

アゼル:
「それじゃ、次の定期報告のときにイスメトに調べてもらえるように言っておこう。ほかにいまの段階でなにかできることはあるか?」

イーサ&エルド:
「……」

アゼル:
「なければ、あとは待ちだな」

イーサ:
(しばらく悩んでから)
「エルドも言っていたが、シジルとベキルがどちらもギズリの変装した姿だと仮定した場合、4日空けてハイローを訪ねてきたわけだろ。単純に考えれば次に来るのはさらに4日後だ。それまで悠長にしてられるのか?」

アゼル:
「う……。うーん……。ハイローさんが帰ってきてくれれば状況も変わると思うんだがなぁ……」

エルド:
「はたしてそんなに早くハイローさんが帰ってきますかね? そうそう都合よくはいかないと思いますけど」

一同:
「……」
(それぞれ無言のまま悩み続ける)




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