LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(18)

 イスメトの監視下から逃れるべく、ギズリたちの行方を捜索するPCたちでしたが、ハイローの情報を集めだしたところで手詰まりしてしまいました。このまま強制的に時間を進めてもストーリーは進むのですが、そうするとおのずとミッション失敗の可能性が高まってしまいますし、GM側にもう少しPCたちのほうから能動的に仕掛けてもらいたいという思いもあったので、強制進行の前にもう一度、少しわかりやすい切っ掛けを出してみることにしました。

GM:
 では、あなたたちがそんな相談を続けているところで、店内に女性の甲高い声が響き渡ります。それは給仕を務める若い娘のものでした。

給仕の娘(GM):
「キャーッ! マスターッ! ネズミですッ! また、ネズミがでましたーッ!」

酒場の主人(GM):
「なんだとッ! 今度こそ逃すなよッ! 絶対に捕まえるんだッ!」
 これまでによほどネズミから被害をうけていたのか、酒場の主人は営業中にも関わらず給仕の娘にネズミの捕獲を厳命します。

給仕の娘(GM):
 雇い主からの指示を受けた給仕の娘は、ほうきを両手に握りしめてバタバタと店内を走り回り、お客そっちのけでネズミとの追いかけっこを繰り広げはじめました。
「こら~ッ! まて~ッ!」
 そして数分後……。
「あちゃ~。マスター。また、穴の中に逃げられちゃいましたぁ……」

酒場の主人(GM):
「なんてこったい。こん畜生めッ!」

酒場の客(GM):
 そんな主人と給仕のやり取りを見ていた客のひとりが、身を乗り出してきます。
「はっはっはっ。ネズミはそうやって追い掛け回したって、簡単に捕まえられるもんじゃねぇよ。そういうすばしっこい奴は、罠を仕掛けて捕まえるのが一番だ。ちょうどいいものがある。ここはオレに任せてみな」そう言うと、その男は自分の荷物袋の中から小さなトラバサミ型の仕掛けを取り出して、その釣り餌として食べかけのパンを取り付けました。
「こうしておけば、あとは向こうさんから罠に飛び込んできてくれるって寸法よ」

酒場の主人(GM):
 客からの思わぬ協力を受けて、酒場の主人は恐縮しきりです。
「どうもありがとうございます。いやぁ、本当に助かりますよ。近頃ネズミの被害が多くて困っていたところだったんです」

酒場の客(GM):
「まあ、いいってことよ。それより、メシ食ってるところでこれ以上お嬢ちゃんに店ん中走り回られたら堪んねぇからな。わっはっはっ!」

給仕の娘(GM):
 そう客から指摘された給仕の娘は、自分の失態を思い出して、ばつが悪そうに顔を真っ赤に染めたのでした。

GM:
 ――と、そんな一幕がありました。

イーサ:
 ふむ、罠でおびき寄せるか……。なるほど……。
(しばらく考えてから)
「なあ、たとえばハイローが帰ってきたという噂を流してみるってのはどうだ? ハイローが帰還したって噂がギズリの耳に入れば、すぐにでもまた牡牛の角亭を訪ねてくるんじゃないかと思うんだが」

アゼル:
「なるほど。ハイローさんが帰還した噂はすぐに広まるって話だったしな。しかし、ギズリさんだって警戒してるだろ。そうすんなりと釣られてくれるか?」

エルド:
「シジルとベキルと名乗った男がどちらもギズリさんだったと仮定すれば、何度もハイローさんのもとを訪ねてきているのは、それだけハイローさんの力を必要としているってことだと思います。ならば、たとえ警戒していたとしても、確かめずにいられないのではありませんか?」

アゼル:
「たしかに、それもそうか……。まあ、なにもせずに待っているよりはやったほうがよさそうだ。だが、そうだとして、実際にハイローさんを訪ねてきた人物がいたときにはどうやって対処する?」

エルド:
「それなら僕に考えがあります。僕たちも牡牛の角亭に部屋を取りましょう。そして、牡牛の角亭の主人に協力してもらい、ハイローさんを訪ねてきた人がいたら、僕たちの部屋に案内してもらうえるようにしておくんです」

イーサ:
「なるほどな。よし、それじゃ、その作戦を決行するとしよう」

アゼル:
「じゃあ、噂を流す役はイーサに頼めるか? 俺はイスメトのところにこれまでの経過の報告に行ってくる」

イーサ:
「ああ。言い出したのは俺だしな。任せておけ」

エルド:
「それじゃ、僕は牡牛の角亭に戻って部屋を取っておきます。宿屋の主人にも協力してもらえるように話を通しておきますね」

 こうして、ネズミ捕りからヒントを得た一行は、ギズリをおびき出して捕まえる作戦を決行することにしました。

 少し誘導が過ぎた気もしますが、PC側から罠を仕掛けるというのは盛り上がる展開ですし、なにより3人が役割分担などしてようやくパーティーらしく行動する切っ掛けとなったので良しとしましょう。

GM:
 では、さっそく作戦を決行……といきたいところですが、その前にいくつかのシーンを挿入しますのでしばらく聞いていてください。


GM:
 カルカヴァンの西方に広がる地平線に夕陽が沈み、あたりが薄暗くなってきたころのことです。カルカヴァンでの興行を続けるバスカン一座の座員たちは、その日の公演を終えてそれぞれが片付けに取り掛かっていました。
 その中に、ひとりだけ作業の手を止めて飼葉を食むロバを眺めている筋肉質な男の姿がありました。バスカン一座の座員クロードです。

バスカン座長(GM):
 そんなクロードの姿に気づいたバスカン座長が声を荒げました。
「クロード! いまは片付けの時間だぞ! そんなところでいつまでもボサッとしてるんじゃない!」

クロード(GM):
 クロードはバスカン座長の叱咤に、頭に手を当てて「すんません」と詫びつつも、どうも納得がいかないといった様子で言葉を続けます。
「あの……。実は、昨日タルカン様が話していた件で、ちょっと気になることがありまして……」

バスカン座長(GM):
「ん? 昨日の件がどうしたって?」

クロード(GM):
「つまりですね……。うちのロバって11頭でしたっけ?」そう言って、クロードは柵の中のロバに目を向けます。

バスカン座長(GM):
「11頭だと? 10頭の間違いじゃないのか?」
 バスカン座長は頭を傾げてから、柵の中のロバを数え始めました。
「にの、しの、ろの、やの……ん? もう1回。にの、しの、ろの、やの……」

バスカン座長&クロード(GM):
「……」

バスカン座長(GM):
「お、おいッ! 今すぐミドハトを呼んで来いッ!」

GM:
 バスカン座長が声を裏返して叫ぶと、クロードは慌ててミドハトという名の座員を探しに駆け出しました。そして、しばらくすると、クロードは小柄な男の首根っこをひっつかんで、バスカン座長の前まで戻ってきます。

ミドハト(GM):
 小柄な男はなぜ自分が呼ばれたのかわかっていない様子で、「座長。お呼びみたいっスけど、なんかあったんスか?」と、あっけらかんとした緊張感のない声でその理由についてたずねました。

バスカン座長(GM):
「ミドハト。ロバの管理担当はお前だったな?」

ミドハト(GM):
「そりゃそうっスよ。ロバに限らず動物の管理担当は全部オレじゃないっスか。任命したのは座長本人っスよ。まさか、もうボケちゃったんスか? なんちゃって。えっへっへっ。で、なんかあったんスか?」

バスカン座長(GM):
 バスカン座長はしかめっ面をして、柵の中にいるロバを指さしました。
「いま、ここには11頭のロバがいるが、うちで飼っていたロバは10頭のはずじゃなかったのか?」

ミドハト(GM):
「あー、そのことっスか。もちろん、うちのロバは10頭っスよ。もう1頭は知り合いに頼まれて預かってるもんっス」

バスカン座長(GM):
 その答えにバスカン座長は眼球が飛び出んほどに目を見開きました。そして、「なんで報告しなかったッ!」と声を張り上げます。

ミドハト(GM):
「いやぁー。座長は公演が始まってからずっと忙しそうっしたし、あとで落ち着いてから報告するつもりだったっスよ。それに、今回はロバを買ったわけじゃないっスしね。逆にロバを預かっておくかわりに代金ももらってるっスから、ミンナに迷惑をかけるようなことはないっスよ!」

バスカン座長(GM):
 ミドハトの言い分を聞いているあいだ、バスカン座長は顔を真っ赤にさせて身体をわなわなと震わせていました。そして、ミドハトがその言葉を言い終えると、火山が噴火するがごとく――。
「バッカモーンッ!」

シーン外の一同:
(爆笑)

バスカン座長(GM):
「お前がそんな適当なことばかりしとるから、以前この街で興行したときにも、貴重な動物を逃がしちまったんだろうがッ!」

ミドハト(GM):
「えっへっへっ。こりゃまた懐かしい話っスね。でも、心配ご無用っスよ。この柵からロバが逃げ出すなんてことは神に誓って絶対にないっス! 安心して任せてくださいっス!」

GM:
 ミドハトの言葉を聞いていたバスカン座長とクロードは互いに顔を見合わせると頭を抱えました。

バスカン座長(GM):
「……ロバを預けていったっていうお前の知り合いはなんていう奴だ?」

ミドハト(GM):
「行商人のギズリって奴っスけど、そのギズリがどうかしたっスか?」

バスカン座長(GM):
 バスカン座長はやっぱりかという表情をしてから、目眩を振り払うかのように頭を左右に振りました。

クロード(GM):
「座長……。どうします?」
 事情を知っているクロードは、心配そうにバスカン座長のほうへと目を向けます。

バスカン座長(GM):
「どうもこうもあるか……。片付けはお前らに任せたぞ……。私はこれからタルカン様のところに行ってくる!」その言葉を言い終えるや否や、バスカン座長はトゥルナゴル邸を目指して一目散に走りだしました。


GM:
 一方、それとほぼ同時刻。映像は薄暗い室内に移ります。
 室内には蝋燭が1本だけ灯されており、その揺れる炎の灯りがある人物の姿を浮かび上がらせています。その人影は、自分の前に置かれた戦盤の駒を手に取ると、ひとりでそれを動かしています。どうやら、棋譜を並べているのでしょう。
 盤面上にはいくつかの駒が確認できるのですが、そのうち騎馬を示す駒だけが他の駒と違い、急造の仮彫りです。ニス塗りもまだ施されていないようで、生の木の明るい色が目を引きます。
 その部屋に突然、乱暴に扉を開く音が響き渡りました。棋譜を並べていた人影が騒音の先へと顔を向けると、そこには部屋の扉を押し開いた格好のまま、肩で大きく息をするギズリの姿がありました。

ギズリ(GM):
「ハァ……ハァ……ハァ……」
 ギズリは部屋の中を見回すと棚の上に置かれた水袋に目を止めてそれを手に取り、一気にあおります。そして、額を流れる汗を服の袖で拭って一息つくと、「畜生ッ! ハイローのところにエルドの奴がいやがったッ!」と荒々しく言い放ちました。

人影(GM):
 ギズリのその言葉遣いに対して、棋譜を並べていた人影は不服そうな態度を示します。

ギズリ(GM):
 するとギズリは、「あ、いえ……。いまのは独り言みたいなもんで……」と弁明してから、あらためて「ハイローが部屋を取っている宿屋にエルドがいました」と報告しなおしました。
「宿屋の主人にハイローが戻ってきたかどうかを確認してたところ、突然背後から声をかけられました。ですが、大丈夫です。気づかないふりをして立ち去ってきましたから。念のために人ごみに紛れ込んでから遠回りして帰ってきました。そのせいでこんな時間まで戻ってこれなかったというわけで……」

人影(GM):
 ギズリの報告を聞いた人影は、ギズリに対してなにやら言葉を発しました。

ギズリ(GM):
「そうですね。あいつらが出発予定日を過ぎてもこの街にいたってことは、イスメト様のほうについてオレたちのことを探している可能性が高いでしょう。街中を捜索してるイスパルタ私兵の数が思ったよりも少ないところからすると、オレたちがグネ・リマナへ向かおうとしてたって偽情報も、まんまとリークしてくれたみたいだし……」

人影(GM):
 少し浮かれた様子のギズリに対して、ふたたび人影が言葉をかけます。

ギズリ(GM):
「もちろん、これまで以上に慎重に行動します。ですが、なんとかしてハイローの協力を得なけりゃ、この街の外に出るのは無理ってもんですよ。なにかいい方法はありませんかね?」

人影(GM):
 ギズリの問いかけに対して、人影は戦盤の駒を手に取って少しのあいだ考えを巡らせると、次の一手を指しつつギズリになにかを伝えました。

ギズリ(GM):
「なるほど。そりゃいい。偽情報の件といい、身の隠し場所のことといい、さすがです。イスメト様やあいつらを欺く程度のことは朝飯前って感じですね。え? オレが単純なだけ? いやいや、オレだってちゃんと考えて行動してますって」

人影(GM):
 自分をおだてつつ軽口を叩くギズリに対して、人影は忠告するとともに念を押しました。

ギズリ(GM):
「安心してください。ここまできておいて、いまさら裏切るようなことはしません。必ず目的地までは送り届けます。ですから、報酬のほうはよろしく頼みますよ」

人影(GM):
 人影はギズリに対して小さくうなずきました。


GM:
 ――といったところで、ギズリ捕獲作戦を開始しましょう!

シーン外のアゼル:
 なるほど……。こうやって舞台裏が見えるのはいいな。




誤字・脱字などのご指摘、ご意見・ご感想などは メールアイコン まで。