LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(22)

GM:
 ――というわけで時間が過ぎ、21時ごろ。場所はふたたびタルカンの執務室。今度は3人でタルカンの前に来ました。時間が経過したので、エルドに掛けられていた魔法の効果も切れています。

タルカン(GM):
「それで、アナタたちの中の誰が決定権を持っているのかしら?」

エルド:
「アゼルさんです!」

アゼル:
 お、俺?
(イーサとエルドの顔を見渡してから)
「……どうやら、そういうことらしいです……」

タルカン(GM):
「ふうん……。なんでも、ワタシにギズリ捜索の協力をして欲しいそうね?」

アゼル:
「はい。タルカンさんのお手を煩わすのは心苦しいのですが……」

タルカン(GM):
「そんな取り繕った言葉なんていらないわ。ワタシが欲しいのは対価なの。すでに、そこにいるイーサには話したけれど、アナタたちがこれ以上ワタシの協力を得るために必要な対価は、ギズリたちの身柄よ」

アゼル:
 うむ……。この条件、受けてもいいよな?
(確認するようにイーサとエルドの顔を見る)

イーサ:
 はぁ? だったら、さっき俺に待ったをかけたのはなんだったんだ?

アゼル:
 いや、あのときイーサはどっちについてもいいようなことを言ってただろ? そんなことをタルカン本人の目の前で口にするのはまずいと思ったんだよ。

イーサ:
 え……? 本人の前でそんなこと言うはずないだろ?

 アゼルは先ほどのイーサのプレイヤー発言をキャラクター発言だと勘違いしていたのでした。そんな勘違いのためにタルカンに軽んじられることになってしまったイーサが気の毒です(苦笑)。

タルカン(GM):
「もし、ギズリたちの身柄をワタシに引き渡すと約束してくれるのであれば、全面的に協力してあげてもよくってよ」

アゼル:
「イーサも話したと思いますが、自分たちはイスメトに人質を取られています。その人質を安全に取り戻せるのであれば、ギズリさんたちを引き渡すことを……承諾します」

タルカン(GM):
「なんだか変な条件を付けたけれど、人質を安全に取り戻せない状況ってどんなことを想定しているの? アナタ、イスメトに人質を傷つけることができるとでも思ってるの?」

イーサ:
 イスメトがこのカルカヴァンで好き勝手できる立場にないなら、危害を加えるわけにはいかないよな。そんなことが表沙汰になったらそれこそ大問題だ。

アゼル:
 そうか……。ならば。
「わかりました。ギズリさんたちを捕まえたら、その身柄はタルカンさんに引き渡します」

タルカン(GM):
「グッドッ!」そう言って手を叩くと、タルカンは机の引き出しの中からペンと紙を取り出しました。そして、2枚の紙に素早くペンを走らせると、書き終わったそれをアゼルの目の前に突き出します。

アゼル:
「これは?」

タルカン(GM):
「契約書よ。どうも、アナタたちは口約束だけじゃ守ってくれないみたいだからね。今度約束を守ってもらえなければ、そこに書かれた代償をきっちり払ってもらうわ」

アゼル:
「なるほど……」
 俺たちまったく信用されてないな……(汗)。で、契約書にはいったいなんて書かれてるんだ?

GM:
 そこには、だいたい次のような内容が書かれていました。

 タルカン・トゥルナゴル(以下、甲)と、イーサ、アゼル、エルドの3名(以下、乙)は、次の通り契約を締結する。
 甲は乙が行商人ギズリとその同行者を捕えるにあたり、乙の求めに応じてできうる限りの協力をする。その見返りとして、乙は捕えたギズリとその同行者の身柄を甲に引き渡す。
 もし、乙がこの約束を果たさずにカルカヴァン市外へと出た場合には契約放棄とみなし、乙は甲の所有物として甲の命じる労働に従事する。
 また、行商人ギズリとその同行者がカルカヴァン市内に存在しないことが甲と乙の両者によって認められた場合には、その時点よりこの契約は無効となる。

GM:
 まあ、早い話、約束を破ったらタルカンの奴隷になれということですね。

アゼル&イーサ:
 奴隷!?

タルカン(GM):
「あとはアナタたちがそれにサインしてくれれば効力を発揮するわ。お互いに1枚ずつ手元に保管しておきましょう。まあ、契約内容を守りさえすればなんの意味も持たない紙切れになるのだから、そんな大層なものでもないわよ」そう言いつつ、タルカンはほくそ笑んでいます。

アゼル:
 う……。本当にこれにサインして……いいのか?

イーサ:
 少し驚いたが、まあ、いいんじゃないか? ほかに頼れるあてもないし。契約内容を果たせば問題ないんだから。

エルド:
 僕は元奴隷だったので、条件のことはあまり気にしませんよ。

アゼル:
 そうか……。よし、それじゃサインしよう。

GM:
 こうして、3人全員がその契約書にサインしました。では、タルカンと交わした契約書の1枚を所持品に加えておいてください。もう1枚はタルカンが保管します。

アゼル:
 なんだろう。悪の道に堕ちたような気がする……。

一同:
(苦笑)

タルカン(GM):
「さてと……それじゃあ、まずどんなことを知りたいの?」

アゼル:
「では、ハイローという人物についてなにかご存じありませんか?」

タルカン(GM):
「ハイローといったら、この街で一番の腕利きと目されている遺跡探索者のことね? 剣の腕前はそこそこって言われてるけれど、神々の遺産をたくさん持っているから、敵に回さないほうが賢明よ。彼は今年で32歳になるわ。出身地は不明。でも、あの黒い肌からすると、きっと南方のほうの出身なんじゃないかしら。いま彼が部屋を取っている宿は牡牛の角亭。特に行きつけの店が決まっているわけではないけれど、うちの系列店のうち、あそことあそことあそこに足を運ぶことが多いみたいね。8日ほど前に東門から市外に出て行ったけれど、まだ戻ってきた様子はないわ」

アゼル:
 おお! そこまでわかるとは。さすがはタルカン。
「ちなみに、タルカンさんはハイローさんと面識があるのですか?」

タルカン(GM):
「ええ。何度かお話したことがあるわ。結構陽気な男よ。ただ、近ごろはこの周辺の遺跡探索にも飽きてきていたみたいで、最後に会ったときにはそのことをぼやいていたわ」

アゼル:
「ギズリさんはハイローさんと接触を取ろうとしていたようなんですが、2人の関係についてなにかご存じありませんか?」

タルカン(GM):
「詳しくは知らないけれど、あの2人は結構前からの知り合いみたいよ。まあ、お互いに人里離れた場所を旅するのが好きなようだから、どこかで面識を持ったんでしょうね。ワタシがハイローについて知っていることはそれくらいよ。ほかになにか聞いておきたいことはある?」

エルド:
「では……。前回お会いしたあと、ギズリさんのことでなにか新たな情報は入りましたか?」

タルカン(GM):
「そうね……。まずひとつ。昨晩入った情報だけれど、旅芸人一座のバスカン座長から、一座で飼っているロバの中にギズリから預かったロバが1頭紛れていたという報告があったわ」

アゼル:
「ギズリさんがロバを預けていった?」

タルカン(GM):
「ええ。一座の動物を管理していた男がギズリの知り合いだったらしくて、座長に報告せずにロバを預かっていたそうなのよ。ギズリがロバを預けていったのは5日前のこと。そのときギズリは、1ヶ月分の預かり料を支払ったうえで、いずれ引き取りに来るつもりではあるけれど、もし1ヶ月以上引き取りに来ない場合には自由にして構わないと話していたそうよ」

エルド:
「5日前というと、僕たちがこの街についた日のことですね」

タルカン(GM):
「ワタシ、てっきりこの情報はアナタたちも手に入れてるものだとばかり思っていたのだけれど、この話を知らなかったってことは、アナタたち、ギズリの連れていたロバを探すことは途中でやめていたの?」

エルド:
「いやぁ……アゼルさんがもうロバのことは探さなくてもいいと言っていたものですから」

アゼル:
 おい! なにを勝手なこと言ってるんだ(笑)!

タルカン(GM):
「そうなの? ずいぶんと移り気なのね。そんなずさんな捜索では、捕まえられるものも捕まらないわよ」

アゼル:
「……そうですね……。詰めが甘かったようです……」

タルカン(GM):
「ちなみに、バスカン一座の動物使いの男にギズリの行方についてなにか聞いていないかも確認したのだけれど、なにも聞かされていないようだったわ」

エルド:
「肝心のギズリさんの行方については手がかりなしですか……」

タルカン(GM):
「それともうひとつ、面白い話を聞いたわ。これは、イスパルタから来たうちの隊商長から聞いた話なのだけれど……」と、ここでタルカンは一度言葉を止めました。そして、真剣な顔つきをして、アナタたちにこう問いかけます。
「その話をする前にひとつ確認しておくことがあるわ……。アナタたち、いったい誰のことを追っているの?」

アゼル&エルド:
「誰……?」

イーサ:
(ハッとしてから無言で考え込む)

アゼル:
「誰って……行商人のギズリさんとその相方のジェザさんですが……」

タルカン(GM):
「本当に? なにか隠していることがあるならば、いまのうちに話しておいたほうがお互いのためよ?」

アゼル:
 ……そうだな。もう契約まで結んでしまったし、知ってることは全部話しておくか。
「実は……イスメトから口止めをされていたので黙っていたのですが、彼は盗まれたイスパルタ本家の家宝を追ってこの街に来たんです。ギズリさんたちはその容疑者というわけで、そういう意味で言えば、イスメトが追っているのはギズリさんたちというよりは、むしろ家宝のほうで――」

イーサ:
「いや、アゼル。おそらくタルカンさんが言っていることはそういうことじゃない……」(ゆっくりと考えて言葉を選びつつ)「もしかしたらとは思っていたが……。タルカンさん、あなたはジェザが何者であるかをご存じなんですか?」

タルカン(GM):
 タルカンはイーサの言葉にかすかな笑みを浮かべてこう返しました。
「さあ、どうかしらね? イーサ。よかったらあなたの考えを聞かせてちょうだい」

アゼル:
「お、おい、イーサ。いったいどういうことだ?」

イーサ:
「確信が持てなかったからあえて口にはしなかったんだが、いくつか不思議に思っていたことはあったんだ。たとえば、イスメトは家宝が盗まれたことがおおやけに知れると家名に傷がつくと言っていたが、本当にその程度のことで家名に傷がつくものなんだろうか? そして、イスメトは俺たちに一度としてイスパルタ本家の家宝を取り戻せとは言わなかった。なあ、アゼル。イスメトが俺たちになんて命じたか覚えてるか?」

アゼル:
「それは……。たしか、ギズリさんとジェザさんを無傷で捕まえろって言ってたか?」

タルカン(GM):
「あら面白い。家宝が盗まれたというのに、それを取り戻せとは命じずに犯人を無傷で捕まえてこいなんて命じていたの?」

アゼル:
「いや、だがそれは、ギズリさんたちを捕まえれば、おのずと家宝も取り戻せるってことなんじゃ……?」

イーサ:
「それだけじゃない。イスメトは最初、ジェザの名前や容姿を知らなかった。にも関わらず、ギズリとジェザは常に共に行動しているはずだと断言していたり、ジェザがギズリに代わってなにかするなど考えられないなどと口にしていた。……つまり、これらのことが示しているのは、俺たちが知っているのとは別のジェザをイスメトが知っていたってことだ」

エルド:
「なるほど。僕たちはギズリさんが魔法の道具などを使って変装してるのではないかと考えていましたが、だとしたら、僕たちと一緒に旅をしていたときにジェザさんが同じことをしていたのだとしても不思議ではありませんね……」

アゼル:
「だったら、ジェザさんはいったい何者だっていうんだ?」

エルド:
「ジェザさんの正体ですか……。そういえば、行商人であるギズリさんの相方というわりには旅慣れていない様子でしたね……」

イーサ:
(エルドの言葉にうなずいてから)
「そうだ。きっと間違いない……。旅慣れていなかったのも、ギズリに代わってなにかするなど考えられないとイスメトが断言していたのも、ジェザが身分の高い人物だからだ。イスパルタで身分が高い人間なんて限られてる。おそらく、ジェザはイスメトの身内、イスパルタ本家の人間なんだよ! そう考えれば、俺がジェザは髭面だって言ったときに、イスメトがあれほど驚いていた理由にも納得がいく。イスメトはジェザの本当の顔をよく知っていたからこそ、髭面であるなんて想像もつかなかったんだ!」

タルカン(GM):
「……どうやらただの馬鹿ではなかったようね」
 タルカンはイーサのことを見て目を細めました。

アゼル:
 おっ! タルカンからの評価が回復したな(笑)。

イーサ:
 ……まあ、それはどうでもいいが、俺はイスパルタ本家について詳しく知らないからこれ以上の情報を出せないんだよ……。
「たしか、イスパルタ本家には放蕩息子がいたんだっけか? ジェザの正体はそいつなのかもな」ってわけで、アゼル、あとは頼んだ。

アゼル:
 え……?
(突然のバトンタッチに少し戸惑いつつ)
「い、いや。ちょっとまてよ……。たしか、イスパルタ本家の末娘がいるはずなんだ。もしかして、その娘のほうなんじゃないか?」
 話を振られたはいいが、俺も名前までは知らないんだよな(苦笑)。

タルカン(GM):
「イスパルタ本家の末娘といえば、ギュリス・イスパルタ。たしか、今年で17歳になるコよ」

イーサ:
「そうか……。それじゃ、盗まれた家宝って言うのは、本当はその娘のことなんじゃないか?」

エルド:
「ですが、だとしたらなんでイスメト様は妹が誘拐されたって言わなかったんです?」

アゼル:
「それは、ギュリスって娘が自らの意志で家を出てきたからだろ。たとえば駆け落ちとか……」

エルド:
「ギズリさんと?」
 舞台裏の様子からしても、そんな風には見えませんでしたが……。

アゼル:
 あ、いや、このタイミングで家出する理由がもうひとつあった。
「あるいは、もしかすると、新王の妃として後宮入りすることを拒んだんじゃないか?」

エルド:
「あー。それですか。たしかに、イスパルタ本家のお嬢様が後宮入りを拒んで家出したって話がおおやけになったら、イスパルタ家の面目は丸つぶれですね」

イーサ:
「タルカンさん。あなたはこのことを知っていたんですか?」

タルカン(GM):
「いいえ。もちろん、知らなかったわ。数時間前にイスパルタから来た隊商長の報告を受けるまでは、そんなこと考えもしなかった。ただね、隊商長がこんな話を聞かせてくれたの。先日予定されていた、ギュリス・イスパルタ主催で定期的に開催されているお茶会が、主催者の体調不良ということで突如取りやめになったんですって。それで、もしかしたらと思って、アナタたちにカマをかけてみたのだけれど……。話を聞く限り、どうやらその可能性が高そうね」

アゼル:
「ギュリス嬢は体調不良になったのではなく、行方不明になっていた……と。これはもう決まりでしょう」

タルカン(GM):
「まあ、本人を確認するまでは断言できないけれどね……。でも、もしギュリスちゃんをこちらで確保することができれば、イスパルタ本家といろいろな取引ができるようになるわ。アナタたち、なんとしてもギズリたちを見つけ出してちょうだい!」そう言うと、タルカンは口角を持ち上げてニヤリと笑いました。

アゼル:
 うわっ。完全に悪者っぽいな(笑)。




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