アゼル:
「しかし、ジェザの正体がわかったとしても、肝心の潜伏場所がわからないことには捕まえようがないわけで……」
タルカン(GM):
「……ひとつ確認しておきたいのだけれど、アナタたちはこれまでどこを捜索してきたの?」
ここで一行はあらためてタルカンにこれまでに行った捜索内容について詳細に説明しました。
タルカン(GM):
タルカンはテーブルの上に広げたカルカヴァン市街地図を眺めて呟きます。
「見世物小屋、宿屋、酒場、雑貨屋……。ずいぶんとありきたりなところばかり探し回っていたのね。そんなところはイスメトたちだって探していたんじゃなくて?」
イーサ:
「まあ……。途中からはイスメトたちが捜索に手こずってたアスラン商会系列の店に絞って聞き込みをしてたんですが……」
タルカン(GM):
「手当たり次第に調べていけば、いずれ見つけられるかもしれないけれど……。こういうときには逃亡する側の視点に立って考えてみるべきよ」
イーサ:
「ふむ。名門イスパルタ本家のお嬢様の視点か……」
エルド:
「追跡してくる相手が自分のことをよく知っている人物なんですから、普段自分が行きそうにない場所に隠れたほうが見つかりにくいと考えるんじゃありませんか?」
アゼル:
「なるほど……。だったら娼館なんてどうだ? 逃亡者が男ならまだしも、年端もいかない豪族の娘が娼館に潜伏するとは考えにくいだろ……。あ……でも、娼館に何日も潜伏し続けるのはさすがに無理か? それとも、頼めば部屋だけ貸してくれたりもするのか?」
タルカン(GM):
「あら? あなたたち、娼婦通りを歩いたことはないの? あのあたりには連れ込み宿もたくさんあるわよ」
アゼル:
「連れ込み宿?」
タルカン(GM):
「そう、連れ込み宿。男女がプライバシーを保って利用できる宿のことね。通りに立って客引きしている街娼たちがよく使うのよ」
エルド:
「たしかに、そういった場所なら潜伏先としての条件は満たしてますね。イスメト様のようなお堅い頭の人には想像しにくそうな場所ですし……」
イーサ:
「ジェザが男だと思い込んでいた俺たちにとっても想像しにくい場所だしな」
アゼル:
「よし、それじゃちょうど夜だし、さっそく連れ込み宿に行ってみよう!」
タルカン(GM):
「ちょっと、アナタたちどうやって調べるつもりなの? まさか、この街の中にある連れ込み宿を手当たり次第に聞き込んで回るつもりじゃないわよね? プライバシーを保てることがウリの宿なのよ? 泊まってる客の情報をそう簡単に教えてくれるわけがないじゃないの」
アゼル:
「あ……。それもそうですね……。でも、それならどうすれば……」
(しばらく考えてから)
チック、チック、チック、ポーン♪ アゼルには妙案が思いつかない。
イーサ&エルド:
(笑)
アゼル:
「タルカン様。もしギズリさんたちが連れ込み宿に潜伏しているとしたら、どうやって見つければいいんでしょうか? 妙案があったら教えてください」
GM:
ここまできて丸投げですか(笑)。できれば、PC側からアイディアを出して欲しかったところなのですが……。
(少し考えてから)
まあ、いいでしょう。タルカンも全面協力を約束したわけですし。
タルカン(GM):
「そうね……」そう呟くと、タルカンは目をつむってしばらく考えます。
「できる限り人目に触れたくないはずのギズリたちが1晩ごとに潜伏先を変えているとは考えにくいわ。きっと連泊しているんじゃないかしら? だとすれば、清掃が行われるときにも窓を閉め切っている部屋が怪しいのではなくて? 連泊している部屋には清掃に入れないでしょう?」
アゼル:
「なるほど、それでかなり絞り込めそうですね。それじゃさっそく――」
タルカン(GM):
「ちょっとお待ちなさい。その調査を行うためには複数の連れ込み宿を常時監視していなくてはならないのよ。アナタたち3人ではどうしようもないでしょう? そこまではワタシのほうで確認してあげるわ。でも、ある程度の絞込みが済んだら、あとはアナタたちでなんとかしなさいね」
アゼル:
おお! 至れり尽くせり。ありがとう、タルカン様!
タルカン(GM):
「とりあえず明日の14時ごろ、またここにいらっしゃい。それまでにできる限り調査を進めておくわ」
アゼル:
「わかりました。それと、ひとつお伝えしておかなければいけないことが……。実は、自分たちはイスパルタ別宅へ戻るたびに帯剣ベルトに盗聴魔法をかけられてしまうので、その効果中はこちらに来ることができないんです。それと、イスパルタ私兵に尾行されているので、多分いまここにいることもイスメトに筒抜けなんです……」
タルカン(GM):
「あら、そうだったの……。でも、そんなことわかってしまえば大した問題じゃないわよ。ちょうどいいわ。だったら、明日は盗聴魔法が切れる前にいらっしゃい。なんとしても、イスメトのことを出し抜いてギュリスちゃんを見つけましょう。もし、ギュリスちゃんがイスメトの手に渡りでもしたら、本人が望みもしない結婚をさせられてしまうかもしれないんだからね。アナタたちだって、できることなら彼女を救ってあげたいでしょう?」
アゼル:
おお! そうだ!
「ええ、その通りです! よしッ、なんとしても彼女を救わなくては!」
タルカン(GM):
鼻息を荒くするアゼルを前にして、タルカンは小さく鼻で笑いました。
アゼル:
「では、タルカン様。今日のところはこれで失礼します。また明日こちらに参ります」
それじゃ、先の見通しが立ったところで、牡牛の角亭に戻るとしよう。
GM:
了解です。……しかし、いつの間にかアゼルはあんなに毛嫌いしていたタルカンのことを様付けで呼んでいるんですね。
一同:
(爆笑)
GM:
さて、ほかになにもなければ翌日の昼前まで時間を進めてしまいます。予定されている行動としては、アルとの接触、イスメトへの報告、そして14時にタルカンのところへ向かうといったところですかね。
イーサ:
それじゃ、アルのところには俺が行ってこよう。12時近くになったら寺院に向かう。
GM:
了解です。では、寺院を訪れたイーサが神に祈りをささげる姿勢をとっていると、不意にその肩が何者かの手によって叩かれます。しかし、イーサの近くには誰の姿も見当たりません。
イーサ:
何事もなかったかのように祈りをささげ終えて寺院からでると、人通りの少ないところに歩いていく。それで、周りに人の姿が見当たらなくなったら、小声で“センス・マジック”を唱えて、自分に魔法がかけられていないか確認。なにも見つからなければ、市壁に沿って時計回りに進む。
GM:
はい。オッケーです。そうすると、隣からアルの声が聞こえてきました。
アルの声(GM):
「3日ぶりだな。いったいなんの用だ?」
イーサ:
「実は――」と切り出して、アルにこれまでの経緯をすべて説明する。
アルの声(GM):
「なるほどな。ギズリの奴、あのハイローと知り合いだったのか。たしかにハイローの手を借りれば、この街から脱出するのも不可能じゃないのかもしれないな……」
イーサ:
「ハイローはそこまで凄い奴なのか?」
アルの声(GM):
「まあな。なにせ、あの黒魔法使いウォーベックのお抱え探索者だった人だからな。お前もウォーベックの名前くらいは聞いたことがあるだろ?」
ウォーベックとはカーティス王国で最も著名な黒魔法使いとして名を遺した人物であり、彼の書いた黒魔法の手引書は、黒魔法使いを志す者たちの聖典として広く普及しています。
長年宮廷魔術師として王家に仕えていたウォーベックでしたが、晩年に旧カルカヴァンの古城を買い取って移り住み、昨年の夏に77歳でこの世を去るまでのあいだ、自由気ままな隠居生活を送っていました。
ウォーベックは隠居生活に入ってからも独自に神々の遺産に関する研究を続けていたようで、自分の眼鏡に適ったごく一握りの優れた探索者を雇っては、己のみが知る手つかずの遺跡を探索させていました。ハイローはそのウォーベックの眼鏡に適った数少ない探索者のうちのひとりというわけです。
アルの声(GM):
「当然、神々の遺産も多く所有してるだろうから、壁をすり抜けたり、空を飛んだりできる代物を持っていたりするかもしれないな」
イーサ:
「そうか……。そうなると、なんとしてもハイローと接触を取られる前にギズリたちを捕まえないとな……。そこで、アルに頼みがあるんだが、ギズリたちを捕まえるにあたってアルにも協力してもらえないか? アルだって、このままずっと身を隠しているのはなにかと不都合だろ?」
アルの声(GM):
「ふむ……」
アルはしばらく黙り込みます。そして、熟考したうえで次のように答えました。
「ギズリたちを捕まえるだけならまだしも、それをタルカンに引き渡すとなれば、イスメト個人だけでなくイスパルタ家そのものを敵に回すことになる。きっとこの件が片付いたとしてもそれは払拭されないだろう。それに、下手するとギュリス・イスパルタを誘拐した犯人として仕立てられる可能性もある。そんなことにでもなったら、もうこの土地では暮らしていけなくなる。それは、いま自由に動けないでいることとは比べものにならないほど大きなリスクだ……。だから、悪いんだが……」
イーサ:
「そうか……。そうだな。じゃあ、せめてアドバイスだけでももらえないか?」
アルの声(GM):
「……アドバイスと言われても、これからお前たちがどんな局面に立たされるのか見当もつかないからな……。うーん。そうだな……。だったら、アドバイス代わりにいいものを貸してやろう。とりあえずついて来てくれ」
アルは尾行がついていないことを入念に確認してから、イーサを裏通りにある螺旋階段亭という遺跡探索者御用達の宿屋へと連れて行きました。
アル(GM):
アルは魔法を解いて姿を見せるとイーサを自分の部屋へと連れて行き、そこに置かれた荷物袋の中から小さな杖を取り出しました。
「ほら、こいつを貸してやるよ」
イーサ:
「その杖はいったいなんなんだ?」
アル(GM):
「こいつは、“黒魔法貯蔵の杖(ブラック・スペル・ストアリング・ワンド)”だ。まずこの杖を握って適当な合言葉を口にする。続けて杖を握ったまま黒魔法を唱えると、唱えた魔法は発現せずに杖に封じられる。あとは、魔法を封じてから24時間以内に合言葉と共に杖を振れば、封じた魔法が発動するって代物だ。まあ、封じられる魔法の容量には上限があるんだけどな」
GM:
アルが取り出した“黒魔法貯蔵の杖”の具体的な容量は6です。ただし、封じた魔法を使っても、魔法を封じてから24時間は空き容量が回復しないということに注意してください。
イーサ:
「なるほど……。だが、俺たちにこの杖を有効利用できるかな?」
アル(GM):
「この杖の便利なところは、魔法を封じる者と魔法を発動させる者が同一人物でなくてもいいってことだ。俺が魔法を封じておけば、直接協力しなくてもそれなりに助けになるだろ?」
イーサ:
「おお。たしかにそれは助かる!」
アル(GM):
「じゃあ、さっそく、この杖に封じておく魔法を指定してくれ」
ここでアルが使えることを明らかにした魔法は次のものとなります。
プレイヤーたちはじっくり相談したうえで、“エネルギー・ボルト”と“インビジビリティ”を1回ずつ杖に封じてもらうことにしました。
GM:
ちなみに、杖に魔法を封じるときに行使判定を行う必要があるのですが、そのときのダイスの目が4以下だった場合、魔法を封じることに失敗したうえ杖の耐久度が下がります。耐久度がゼロになると以後魔力が消失します。
また、発動時にも魔法を封じた人の行使力を基準とした行使判定を必要とし、その達成値が実際の魔法の行使値となります。こちらの判定で杖の耐久度が下がることはありません。
シーン外のアゼル:
やっぱり壊れるのか(笑)。
アル(GM):
「さてと、これでいいだろう。有効に使えよ」そう言って、アルは魔法の封じられた杖をイーサに手渡しました。
イーサ:
「恩に着る。必ず目的を果たして返しに来るよ」
アル(GM):
「ああ。成功を祈って待ってる。そうなれば、俺も晴れて自由の身だからな。それじゃ、またな」
イーサ:
よし、それじゃ皆と合流しに戻ろう。
こうして、アル本人の参加は取り付けられなかったものの、代わりに便利なアイテムを貸してもらうことができました。
この“黒魔法貯蔵の杖”、一見地味ですが、レベル5以下の黒魔法を精神点を消費せずに瞑想なしで即発動できるという、かなり危険な代物です。
GM:
時を同じくしてイスメトへの報告ですが、アゼルとエルドのどちらが行くつもりですか?
エルド:
前回の様子からすると、イスメト様もそろそろキレそうでしたからね(苦笑)。ダイス勝負で決めましょう。
アゼル:
わかった(笑)。
アゼル&エルド:
(コロコロ)
アゼル:
俺かッ(苦笑)!
今回の報告は難しいぞ……。タルカンと契約したことがイスメトにばれないようにしないとな……。
GM:
では、シーンを移して、イスメトの目の前で報告しているところからスタートします。
イスメト(GM):
予想通り、イスメトは眉間にシワを寄せて厳しい表情をしています。
アゼル:
それじゃ、報告を。
「俺たちは牡牛の角亭でギズリさんがハイローという人物を訪ねてくるのを待ち構え――」
イスメト(GM):
(苛ついた声で)「それはすでに聞いている」
アゼル:
「そうか。それじゃ、ハイローが戻ってきたという偽情報を流して――」
イスメト(GM):
(さらに苛ついた声で)「それもすでに聞いた」
アゼル:
「え? あ、そうか……。そうだ。そうだったな」
イスメト(GM):
「いい加減にしたまえ! いったいいつになったらキミたちは成果を見せてくれるのだね!?」
アゼル:
うん、そうだなぁ……(苦笑)。
イスメト(GM):
「昨晩遅くもタルカンの屋敷へ行っていたそうじゃないか。そのようなところに、いったい何をしに行ったというのだ!?」
アゼル:
「情報収集だ」
イスメト(GM):
「ならばその報告をしたまえ! タルカンからはどんな情報を得たのだ!?」
アゼル:
えーと、なんて言ったらいいのかな……?
(しばらく長考を続ける)
イスメト(GM):
「……もういい……。捜索に進展がないというのであれば戻ってきたまえ。キミたちはもうギズリたちに警戒されてしまった。これ以上、キミたちを泳がせておいても得るものはなにもない……。違うかね?」
アゼル:
うー、どうしよう……。
(さらに悩み続ける)
イスメト(GM):
「……結局、ギズリたちは街の外へは出ていなかったのだろう? あちらがハイローと接触を図ろうとしているのであれば、こちらが先にハイローを押さえてしまえばよいだけのことだ。もうすぐ、グネ・リマナ方面へと向かわせた兵たちも戻ってくる。あとは人海戦術でギズリたちを探すとしよう」
アゼル:
「ま、待ってくれ! 俺たちはこれまでの捜索で、旅芸人一座のテントに怪しい人物が出入りしていることをつかんだんだ。それで、昨晩は旅芸人一座を支援しているタルカンに、その怪しい人物の情報を聞きだしに行ったんだ。タルカンはその人物について調べること約束し、またあとで来るようにと言っていた。だから、せめてその人物のことが調べ終わるまで、もう少しだけ時間をくれ!」
イスメト(GM):
「……ならば、速やかにその調査を進めるのだな。だが、その結果に関わらず次の報告時刻には3人揃って戻ってきたまえ。それまでが、キミたちに与える最後の猶予だ」
アゼル:
「クッ……。わかった。次に来るときには必ずいい報告を持って来よう……」
(少し間をおいてから)
「そういえば、ひとつ気になったことがあるんだが」
イスメト(GM):
「ん? なんだ?」
アゼル:
「どうも、俺たちの周りをうろついている輩がいるようなんだ。そいつらのせいでギズリさんたちに警戒されてしまったようだ」
イスメト(GM):
「それはおそらくキミたちの行動を監視していた私の部下だ」
アゼル:
え……? すんなり認めるの……?
イスメト(GM):
「それがどうしたというのだ? いまキミたちが気にすべきことは、残された時間でどうやってギズリたちを捕まえるかということのはずだ。くだらない話をする余裕があるなら、その時間を惜しんで行動したまえッ!」
アゼル:
「うっ……。なるほど……。では、行ってくる」
イスメト(GM):
(小声で)「クルト家の者は口のきき方も知らんのかッ。何様のつもりだッ」イスメトは吐き捨てるようにそう言いました。
最後通告を突きつけられ、いよいよイスメトとの対立の色が濃くなってきた一行。はたして無事にイスメトの拘束を逃れ、旅を再開できるのでしょうか?