LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(26)

イーサ:
「どうやら無事にギュリス嬢を捕まえることができたみたいだな」

アゼル:
「ああ。だが、少し込み入った話になった。それを説明する前に、どこか身を隠せる場所に移動しよう」

イーサ:
「身を隠せる場所? タルカンさんのところに向かうんじゃないのか?」

アゼル:
 やっぱり説明しないとダメか……。
「実は、ギュリスの逃亡に手を貸すことになった」

イーサ:
(アゼルを見て大きなため息をついて)
「またお前の悪い癖がでたな……。いったいどこをどうやったらそんなことになっちまうんだか……」

アゼル:
「まあ、詳しい話はあとだ」

ギュリス(GM):
「そうそう。まずは急いで人目につかない場所に案内してちょうだい。イスメトとタルカンの目が届かないような場所にね」

イーサ:
「人目につかない場所と言われてもな……。俺たちはこの街に詳しいわけじゃないし、かといって適当な宿屋に入ろうにも、イスメトの手が回っている可能性が高いしな……」
(少し考えてから)
「そうすると、あそこしかないか……。案内するからとりあえずついて来てくれ」そう言って、アルの泊まっていた宿屋までみんなを案内して行く。

GM:
 了解です。ではイーサの案内で、あなたたちはアルの泊まる螺旋階段亭へと向かいました。


アル(GM):
 螺旋階段亭の狭い一室であなたたちを前にしたアルは、ひどく陰鬱な表情をして頭を押さえています。
「……なんで連れてきた……」そう言うと、アルは恨めしそうな顔をして、イーサをにらみつけました。

一同:
(笑)

イーサ:
「すまない。最後の最後まで面倒をかけてしまうな。だが、ほかに思いつく場所がなくて」

アル(GM):
(大きくため息をついて)
「まあ、連れてきてしまったことを嘆いても仕方ない。こうなったからには、さっさとギズリたちをタルカンに引き渡して、この問題を終わらせてくれよ」

イーサ:
「いや……それが……。実を言うと、俺たちはギュリス嬢の逃亡に手を貸すことにした。つまり、イスメトだけでなく、タルカンさんのことも裏切る」

アル(GM):
「なッ!?」
 アルは信じられないといった様子で目を大きく見開きました。

イーサ:
「というわけなんで、今後の方針について、これからここで相談させて欲しい」

アル(GM):
「なん……だって……?」

エルド:
 アルさんが頭を抱えている絵面が容易に想像できますね(笑)。

一同:
(笑)

イーサ:
「でだ……。まずはアゼル。ギュリス嬢にどこまで協力することを約束したのか教えてくれ」

アゼル:
「ああ。約束したのは目的地まで送り届けるってことなんだが……。そういえば、その目的地っていうのはどこなんだ?」そう言って、ギュリスのほうに目を向けてみる……。

ギュリス(GM):
 ギュリスは少し考えるそぶりをしてから、「……いまはまだはっきりとは言えない……」とだけ答えました。

イーサ:
「せめて目的地までかかる日数を教えてくれないか?」

ギュリス(GM):
「……そうだな……。片道10日くらい?」

アゼル:
「遠いな……」
 そんなに時間をかけてたらサブリさんが破産しちゃうぞ(笑)。完全にダブルブッキングだ。

エルド:
 後先考えずに安請け合いするからこんなことになってしまうんですよ。

イーサ:
「知っているとは思うが、俺たちはサブリの護衛をしてクゼ・リマナまで行かなくちゃならない。嬢ちゃんの目的地は同じ方面ってわけじゃないのか?」

ギュリス(GM):
「残念ながらね」

エルド:
「アゼルさん、どうするつもりですか? サブリさんのことを助けるんだって、あれほど息巻いてたじゃありませんか。いまの話からすると、どちらか一方との約束しか果たせそうにありませんよ」

アゼル:
「そうだな……。うーん」

ギュリス(GM):
「ちょっと! ここまできて、いまさらそんなこと言い出さないで! あなた、あたしに信じてくれって言ったじゃない! それともだましたのッ!?」そう言って、ギュリスがアゼルをにらみつけました。

アゼル:
「い、いや、だましたわけじゃない……」

イーサ:
 まあ、まだサブリから報酬を受け取ったわけじゃないしな……。サブリのほうは切るか。

エルド:
 でも、成功報酬2万銀貨は魅力的ですよ。

イーサ:
 それを踏まえたって、オッサンを助けて旅するよりは、ヒロインと一緒に旅するほうがいいだろ?

エルド:
 うわっ、イーサさんって女好きだったんですね(笑)。意外です。

イーサ:
 いまさらなにを言ってるんだ。俺は女性を救うために“可能性”を全部使い切った男だぞ。相手が男だったら絶対に使うもんか(笑)。

一同:
(爆笑)

イーサ:
「まあ、サブリには悪いが、ここから先の道中は俺たち以外の護衛を雇ってもらうしかないだろ」

エルド:
「サブリさんのことはそれで構わないとしても……。アゼルさん。ニルフェルさんのことはどうするつもりですか? セルダルさんに任せてしまうつもりですか?」

アゼル:
「そうだな……。仕方ない。イーサとエルドには、ニルフェルとサブリさんの護衛についてもらい、俺はギュリスを目的地に送り届けるってことで――」

イーサ:
「いや、そういうわけにはいかないだろ」っていうか、それって第1話のときと同じパターンじゃないか(笑)。

ギュリス(GM):
「あのねぇ……。こっちについて来るのがアゼルひとりだけだなんて、あたしだって認めないからね。道中の安全のためには、最低でもここにいる3人には揃ってついて来てもらわないと」

イーサ:
「まあ、それもそうだな。……ん? だが、それなら俺たちの協力が得られなかったらどうするつもりだったんだ?」

ギズリ(GM):
 イーサの問いかけにはギズリが答えました。
「言っちゃあなんだが、ハイローひとりいればオマエら3人以上の働きをしてくれるよ。むしろそっちのほうが安全なくらいだ」

一同:
(苦笑)

エルド:
「まあ、そういうことであれば、僕はギュリスさんの護衛としてついていくことに異論ありませんよ」

イーサ:
「そうだな……。道中でもっとも過酷な南アルダ街道は越えたし、サブリやニルフェルにはほかの護衛を付けてもらうことにするか。まあ、セルダルもいるし大丈夫だろう……」

アゼル:
「うーん……。そうするしかないか。ギュリスを目的地まで送り届けたあとでニルフェルたちのことを追いかけることにしよう……」

イーサ:
「よし。とりあえず、ギュリス嬢への協力内容についてはわかった。それじゃ次の確認だが、この街を出るにあたってイスメトとタルカンのことをどうにかしないとまずいよな。まず、イスメトのほうはどうするつもりなんだ?」

ギュリス(GM):
「あたしが書いた手紙をイスメトに渡してもらえば、そっちはなんとかなると思う。その手紙には、あたしが家出した顛末を詳細に書いておくの。それはイスメトにとって……というよりも、イスパルタ家にとって公にしたくないことだからね。特に、イスメトはイスパルタ本家の家宝を盗んだ犯人を追っていると偽ってハイダールの協力を仰いでいたみたいだから、ハイダールの目に晒されることは絶対に避けようとするはずだよ」

アゼル:
「だが、わざわざその手紙をイスメトのところに持って行ったとして、その場で手紙ごと押さえられたら意味がないんじゃないか?」

ギュリス(GM):
「……ひょっとして、あなた馬鹿なの?」
 ギュリスは信じられないものを見たといった表情で、アゼルのことをまじまじと見つめました。
「顛末を書いた手紙は2通用意しておくに決まってるじゃない。それで、イスメトには、シシュマンたちを解放したうえで私兵を率いてイスパルタに帰還しなければ、仲間が同様の手紙をタルカンに渡す手はずになってるって伝えるわけ。まあ、実際に手紙を2通用意しなくても、建前だけそういうことにしておけばいいんだけどね」

イーサ:
「なるほど……。しかし、なぜハイダールでなくタルカンさんに手紙を渡すことにするんだ?」

ギュリス(GM):
「ハイダールに直接手紙を渡すことは難しいし、途中で妨害される可能性も高いでしょ? その点、あなたたちはタルカンと直接取引できる間柄らしいからそっちのほうが真実味が増すし、それに、イスメトだってその手の情報がタルカンの手に渡るのがどれほど厄介なことなのかくらいはわかってるだろうしね」

イーサ:
「ふむ。たしかにその方法でイスメトの追跡からは逃れられそうだな……」

ギュリス(GM):
「ただし、あたしがその手紙を書くのは、無事にカルカヴァンを出られてからだからね。そのあとで、あなたたちのうちの誰かが街に戻ってイスメトのところへ手紙を持って行くってことにしてちょうだい。それくらいの保険は掛けさせてもらってもいいでしょ?」

イーサ:
「……わかった。その程度のことなら構わないだろう。それじゃ、タルカンさんのほうはどうするんだ?」

エルド:
「それについては、契約書の内容に穴があるんです。契約書に書かれているのは、ギズリさんとその同行者を引き渡すってことで、どこにもギュリスさんを引き渡すとは書かれていません。ですから、ウッド・サーバントを同行者だということにして、ギズリさんと共にタルカンさんのところまで連れて行きます」

ギュリス(GM):
「ギズリには悪いんだけれど、見合う分の報酬はあげるからそれで納得してね。あと、ウッド・サーバントは使役者からあまり離れることができないから、あなたが直接使役してちょうだい」そう言うと、ギュリスは自分の荷物の中から小さなオーブを取り出して、それをギズリに渡しました。

ギズリ(GM):
 ギズリは、「わかりました」と言ってオーブを受け取ると、それに意識を集中して小さく呟きます。

GM:
 すると、ギズリが手に持ったオーブの中から、小さな種が零れ落ちます。その種は急激な速度で成長し、みるみるうちに人間サイズの木偶人形になりました。

イーサ:
「なるほど。これが、ウッド・サーバントか……」

GM:
 あくまでもいまの描写は遺産版のものであり、黒魔法の“クリエイト・ウッド・サーバント”とはちょっと勝手が異なりますけどね。本当ならば、あらかじめ媒介となる人間大の木偶人形を作っておく必要があります。

ギュリス(GM):
「あとは、こいつにこれを付けて……」そう言って、ギュリスは自分の顔から百面相の仮面を外すと、それをウッド・サーバントの頭部にを取り付けて、なにやら呟きます。

GM:
 それによって、のっぺらぼうだったウッド・サーバントの顔が、人間のものへと変わっていきました。長い髭を蓄えたその中年男性の顔は、旅の途中で目にしていたジェザのものとよく似ています。フード付きローブを羽織らせてしまえばあなたたちにも見分けがつかないほどです。

ウッド・サーバント(GM):
「……」

イーサ:
「たしかに、これはギズリの同行者だったジェザそのものだな。こいつを連れて行けば、タルカンさんとの契約は果たされるってことか」

ギュリス(GM):
「あとは、この街から脱出する方法について考えないとね……」

アゼル:
「ん? イスメトとタルカンの両方と話をつければ、あとは堂々と市門から出ていけるんじゃないのか?」

ギュリス(GM):
「……あのねぇ……。いくら容疑が晴れたにしたって、一度指名手配がかかったあたしたちが市門を通って街を出ようとすれば、いろいろ詮索されるに決まってるじゃない。魔法で顔を偽っていることがばれれば、さらに詳しく追及されることは避けられないだろうし……。できることなら、あたしだってイスパルタ家の問題をおおやけにしたくはないの。それに、タルカンに関しては、契約を無効化させるってだけで、この件から完全に手を引かせられるわけじゃないでしょ?」

アゼル:
「なるほど……」
(少し考えてから)
「そういえば、ギュリスはハイローさんを雇っていた場合、どうやてこの街の外に出るつもりだったんだ?」

ギズリ(GM):
 その質問に対しては、ギュリスに代わってギズリが答えました。
「以前ハイローから聞いた話によれば、あいつ、石壁に穴をあけることができる遺産を持ってるはずなんだ。それが使えれば手っ取り早いと思ってたんだがな」

アゼル:
 遺産かよッ! さすがにその方法は俺たちには無理だな……。
「だが、もしハイローがすでにその遺産を手放していたら、そのときはどうするつもりだったんだ?」

ギズリ(GM):
「その場合は、ほかになにかいい方法がないかハイローと相談することになってただろうな……。でも、あいつのことだから、きっとほかにもなにかいい遺産を持ってると思うぞ」

イーサ:
「ふむ。となると、ハイローがいないいま、街から脱出する手だてはないってことか……」

一同:
 うーん……。

アル(GM):
「そういうことなら、もう地下水道を通るしかないんじゃないか?」と、そこまで黙ってあなたたちの会話を聞いていたアルが口を挟んできました。

イーサ:
「ん? たしか地下水道は封鎖されているんじゃなかったのか?」

エルド:
「それに、たとえ地下水道に降りれたとしてもその中は迷宮のようになっていて、一度迷ったら最後、とてもじゃないが抜け出せないって聞きましたよ」

アル(GM):
「ああ。おおよそその通りだな。だが、俺は以前、地下水道の構造を知っている人物がいるって話を一度だけ耳にしたことがある。その人物は高額な報酬と引き換えに、地下水道を案内してくれるらしい。そいつに頼めば、地下水道を通り抜けることも可能なんじゃないか? まあ、同業者が酒の席で酔って口にしたことだから、どこまで信憑性があるのかはわからないんだがな……」

イーサ:
「それは、どこの誰なんだ?」

アル(GM):
「その人物はミマールという名前で、貧民街にいるって話だ……」

エルド:
「貧民街ですか……。では、アゼルさんに貧民街に行ってもらって、ミマールという人を探し出してきてもらいましょう」

イーサ:
「そうだな。ほかに手がないし、ミマール探しは貧民街の連中と仲良くしてたアゼルに任せるとしよう。そのあいだに、俺とエルドはタルカンさんのところまでギズリとジェザもどきを連れて行って、契約を終わらせてくる」

アゼル:
「別に俺は貧民街の連中と仲良くしてたわけじゃないんだが……」

イーサ:
「ただの役割分担なんだから文句言うなよ。もう時間がないんだ。18時を過ぎたら、俺たちが報告に戻らないことでイスメトが動き始めるだろう。そうなったら、俺たちも市門を出入りできなくなる可能性が高い。それに、そのころになればタルカンさんもトゥルナゴル邸に留まり続ける理由がなくなるんだ。それまでに契約を完了させておかないと面倒なことになるぞ」

アゼル:
「そうか……。そうだな。わかった。だが、首尾よくミマールって人をみつけられたとして、高額な報酬ってのはどうするんだ?」

ギュリス(GM):
「それは、あたしが払うよ。とりあえず、これを報酬代わりに渡してみて」そう言って、ギュリスは自分の両手首に嵌められた腕輪を外してアゼルに手渡しました。洗練されたデザインの中に、バランス良く大粒の宝石が埋め込まれた腕輪です。
「たぶん、売ればひとつ1万銀貨くらいにはなると思うから」

アゼル:
 おおーッ! 2つあるなら、うまく交渉して地下水道の案内を腕輪ひとつだけで頼むことができれば、もうひとつは俺のものに(笑)。

イーサ:
「それじゃ、俺たちはタルカンさんのところに行ってくるからな」

アゼル:
「了解だ。それじゃ、俺は貧民街に行ってくる」

アル(GM):
 部屋を出て行こうとするアゼルをアルが呼び止めます。
「そうだ、ちょっと待ってくれ。ミマールを探すときには、サイ・カルカヴァンの紹介だって言っておけよ。サイ・カルカヴァンってのは、オレにその情報を教えてくれた奴の仲間の名前で、なんでも貧民街の奴らとつながりがあるらしい。貧民街の奴らは自分たちの身内の情報をよそ者に流すことを嫌うからな。特に地下水道の案内人が実在するなら、色々な理由でそれを付け狙う輩もでてくる。ただたんにミマールを探し歩いていたんじゃ、きっと警戒されるだろう」

アゼル:
「わかった。サイ・カルカヴァンだな。了解した」

 こうしてカルカヴァン脱出に向けての下準備が開始されました。




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