LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第3話(27)

GM:
 では、イーサとエルドがギズリとその同行者に扮するウッド・サーバントを連れて、タルカンの前に戻ってきたところに場面を移しましょう。場所はタルカンがひとりで戦盤を指していたあの部屋です。

タルカン(GM):
 部屋の中に入ってきたあなたたちを、タルカンは戦盤の前に座った状態で迎えました。そして、あなたたちと共に部屋に入ってきたギズリたちの姿を確認すると、「あら、約束通り連れてきてくれたのね」と声を発しました。

エルド:
「ええ。ちゃんと連れてきましたよ」

タルカン(GM):
 タルカンはとても喜ばしげな笑みを浮かべています。
「ギズリの隣にいるのが……ギュリスちゃんなのね?」そう言って、タルカンは身を乗り出しました。

イーサ:
「どうなんだ、ギズリ? その同行者、いったい何者なんだ?」

ギズリ(GM):
 イーサに促されると、ギズリは同行者のローブに手をかけて一気にそれをはぎ取りました。
「ギュリスってのはいったい誰のことだ?」そう口にしたギズリの視線の先にあるのは、魔法によって生命を与えられた木偶人形です。
「こいつは荷物運びに役立つ俺の同行者さ。オレはジェザって呼んでるんだけどな」

タルカン(GM):
 木偶人形を目にしたタルカンの表情が驚きで固まります。
「これは……いったいどういうことなの?」

エルド:
「どうやらギズリさんの同行者というのは、この人形のことだったようですね」

タルカン(GM):
 タルカンの表情がみるみる険しくなっていきました。
「あなたたち、本気でそんなことを言ってるの?」

イーサ:
「本気も何も、ギズリ本人がこう言っているんですから間違いないでしょう。約束どおり、行商人ギズリとその同行者の身柄はあなたに引き渡します」
(笑みを浮かべて)
「これで契約は果たされましたね」

タルカン(GM):
「ワタシは、こんな木偶人形を連れてこいなんて言った覚えはないわよ……」

イーサ:
「ですが、契約書を書いたのはあなた自身です。もう一度、文面をよくご覧になってはいかがですか?」

タルカン(GM):
 その言葉に、タルカンは鋭い眼光をイーサへと向けました。そしてジッとにらみつけます。
「……そう……。これがギズリの同行者。あなたたちはあくまでもそう言い張るのね?」

イーサ:
「ええ。間違いなく、これがギズリの同行者です」

タルカン(GM):
「わかったわ……」そう言うと、タルカンは懐の中から契約書を取り出します。そして、「ちょっと書くのが早すぎたかしらね……」と呟いてから、あなたたちの目の前でその契約書を破り捨てました。
「ギズリにも……もちろん、そんな木偶人形にも用はないわ。用件が済んだのであればさっさと出ていきなさい」

エルド:
 では、言われた通り部屋から出て行くとしましょうか。

タルカン(GM):
 ならば、そのまま部屋から出て行こうとするあなたたちをタルカンが呼び止めます。
「ちょっと待ちなさい。そこにあるあなたたちの荷物、置いていかれても迷惑だわ。全部持って行ってちょうだい。いま着ている服はあげるから、着替えていく必要はないわ」

イーサ:
 あ、そうだった。危うく防具を置いていくところだった。

タルカン(GM):
「それともうひとつ。もう二度とあなたたちにうちの正門をまたいで欲しくないわ。裏口から出て行きなさい」

イーサ:
「……ええ……。そうさせていただきます。では、これで失礼します」
 それじゃ、荷物を全部持って部屋を出て行こう。

タルカン(GM):
 タルカンは微動だにせず、視線だけを部屋から出ていくあなたたちへと向けていました。そして、あなたたちの姿が見えなくなると、自分だけが残った部屋の中で一息ついて目を閉じ、「そういう選択をしたのね……。本当に面白いコ……」と呟いてかすかに笑みを浮かべました。


GM:
 一方そのころ。南門から市街に出て、ひとりで貧民街へと向かったアゼルはというと……。

アゼル:
 イスメトやタルカンの部下にみつからないかと、ビクビクしながら市門から外に出た。

GM:
 イスメトの配下の者の尾行はトゥルナゴル邸でまいてますし、服装を変えたこともあって、誰かに呼び止められるということはありませんでした。
 こうしてアゼルが貧民街に到着したのは、16時半を少しまわったころになります。

アゼル:
 貧民街の様子はどんな感じなんだろうか?

GM:
 表立ったところには木造建築の建物が並んでいますが、少し奥へと足を踏み入れれば、雨風を凌げるだけの掘っ建て小屋や、布を張っただけのテントに近い住居がひしめいています。
 そんな貧民街に仕立ての良い服を着たアゼルが足を踏み入れると、その姿を目にした貧民街の子供たちが「恵んでくれよ!」と口々に叫んで周りを取り囲んできます。

アゼル:
 また金を渡すととんでもないことになるんだろうな……。しかし、誰かしらの協力を仰がないとミマールは見つけられないだろうし……。とりあえず、手近な子供に話しかけよう。
「すまないが、ミマールという人を知らないか?」

貧民街の子供たち(GM):
 アゼルがミマールという名前を口にすると、子供たちは互いに顔を見合わせました。
「知らないよ」
「オイラもしらないな」
「ボクも知らない」
「あたちだってしらないもん」

アゼル:
「そうか……知らないか……」
 それじゃ、懐からギュリスの腕輪を取り出して――

貧民街の子供たち(GM):
 それを目にした子供たちはいっせいに目を輝かせます。
「スゲーッ!」
「綺麗ッ!」
「高そうッ!」
「たぶんあれ、1,000銀貨くらいするよな」

アゼル:
「フフン」(と鼻で笑ってから)
「誰かミマールに心当たりのある者はいないか? ミマールのところに案内してくれるなら、これをやろう」と言って、腕輪をチラつかせる。

貧民街の子供たち(GM):
 そのアゼルの言葉に、子供たちはふたたび互いに顔を見合わせます。
 しばらく沈黙を続けた子供たちですが、そのうちのひとりが、「俺知らねぇッ!」と叫ぶと、「わたしも知らない」「ボクも知らないよ」とほかの子供たちも口々にミマールのことは知らないと言い始めました。

アゼル:
「そうか……残念だ。……ほら」そう言って、子供たちの手の届くところに腕輪を出した。

貧民街の子供たち(GM):
 すると、ひとりの少年が「いただきッ!」と言って、その腕輪に手を伸ばします。

アゼル:
 それじゃ、腕輪を渡してしまおう。

シーン外のエルド:
 あー。駄目ですって。それは最悪の行動ですよ。アゼルさんは貧民街の住人のことを全然わかっていませんね……。

アゼル:
 え?

貧民街の子供たち(GM):
 少年の手に腕輪が渡ると、今度はその少年にほかの子供たちが群がり始めました。
「これは俺のだぞッ!」
「いや、オイラのだッ!」
「いいえ、わたしのものよッ!」
 そのもみあいは、すぐに力づくの奪い合いへと発展していきます。

アゼル:
 うはははは(笑)。こうなるのか。これ、どうしたらいいんだ? こいつら、皆で分配する程度のこともできないのか?

貧民街の子供たち(GM):
 子供たちはお互いに殴りあったり、噛みついたり、髪を引っ張ったりと、見るに堪えない醜い争奪戦を繰り広げています。

アゼル:
 う、うーん。どうしたもんだろうな……(汗)。

GM:
 すると、子供たちの背後から怒号が響きました。

貧民街の年長の少年(GM):
「オマエら、いったいなにやってんだよッ!」
 叫びながら駆け寄ってきたのは、ほかの子供たちよりは一回り大きな、12、13歳くらいの男の子です。
 その少年は群がる子供たちを掴んでは投げ、または殴り倒し、素早く騒ぎの中心まで行くと、子供たちから腕輪を取り上げました。

アゼル:
「おい、お前。やめろッ!」そう言って、その少年の腕をつかむ。

GM:
 ならば、命中判定をどうぞ。

貧民街の年長の少年(GM):
 少年の回避値は(コロコロ)13です。

アゼル:
 うおッ! 出目良過ぎだろッ!? こっちの命中値は(コロコロ)11。

貧民街の年長の少年(GM):
 では、少年は一足飛びでアゼルの伸ばした手を逃れました。その動きは少なくとも素人のものではなく、軽戦士の動きに近いものでした。

アゼル:
「おい、お前。それは俺がこの子たちにあげたものだ。お前にやったわけじゃない。返してもらおう」

貧民街の年長の少年(GM):
「心配しなくても、こいつはオイラが換金してミンナに取り分を分配してやるよ。それよりもアンタ、こんなに高額な代物をこんなところでチラつかせて、いったいなんのつもりだッ! 殺し合いにでもなったらどうするつもりだったんだッ!」
 少年は怒りを帯びた瞳で、アゼルのことをにらみつけます。

アゼル:
 う……。ここは素直に謝っておこう。
「そうか……。すまない。それには気がつかなかった」

貧民街の年長の少年(GM):
 しばらくアゼルのことをにらみつけていた少年でしたが、やがてなにかに気がついて眉をしかめました。
「ん? アンタの顔、どっかて見たことがあるな……。そうだ。たしかアンタ、数日前に市内に入っていった隊商の護衛についてただろ?」

アゼル:
「ああ。そうだ」

貧民街の年長の少年(GM):
「やっぱりか。アンタみたいな世間知らずがそうそういるわけないもんな」

アゼル:
(苦笑しつつ)「すまなかったな。こういうところはあまり慣れてないんだ」

貧民街の年長の少年(GM):
「だったら、今後は慣れないところにあまり足を踏み入れないことだな。ここはアンタみたいな人が来るような場所じゃない」少年はそうアゼルに言うと、ほかの子供たちに目を向けて、「よし、それじゃオマエらもいったん解散だッ!」と命令します。

貧民街の子供たち(GM):
 子供たちはおどおどした様子でその指示に従い、四散していきました。

貧民街の年長の少年(GM):
「んじゃ、オイラもいくからな」
 少年は腕輪を宙に軽く放り投げてそれを素早く掴みとると、「約束どおり、この施しはミンナで分配するから安心しな」と言って、来た方向へと走りだします。

アゼル:
「必ずだぞ! お前のこと信じるからな!」と声をかけて見送ろう。で、少年の姿が見えなくなったら、「ハァ……」とため息をついて肩を落とす。腕輪ひとつを無駄にしてしまった……。

シーン外のイーサ:
 そういうところ、アゼルらしいよな。お人好しというかなんというか……。

シーン外のエルド:
 とても知力が19もある人の行動とは思えません(苦笑)。

GM:
 さて、日が傾きつつありますが、どうしますか?

アゼル:
 うーん、所持金をばらまくわけにもいかないしなぁ……。とにかく、貧民街の住人にミマールのことを知らないか聞いて回ろう。

GM:
 ……了解です。では、特に策もなく聞き込みを続けるのであれば、1時間ほど時間を進めてしまいます。
 アゼルが貧民街を聞き込んで回ってみても、それに対して望むような返答する者はいませんでした。そんなアゼルの前に、あの少年がふたたび姿を見せます。

貧民街の年長の少年(GM):
「おい、そこの世間知らずの兄ちゃん。まだこんなところうろついてたのかよ」
 その少年は呆れ顔をしています。

アゼル:
「ああ、お前はさっきの。お前こそどうした。家に帰らないのか?」

貧民街の年長の少年(GM):
「家に帰るだって? それを言うなら、ここら一帯がオイラの家みたいなもんだよ」そう言って少年は両手を広げてみせます。

アゼル:
「なるほど」
 ずっと歩き回っていたから汗だくになっているアゼルは、ため息をついてその場に腰を下ろした。
「まったく、俺は本当に世間知らずだったようだ」そう言って、頭をガシガシとかいた。

貧民街の年長の少年(GM):
「さっき、兄ちゃんがくれた腕輪って、かなり値の張るもんだったんだろ? 兄ちゃん、金持ちなのか?」

アゼル:
「残念ながら俺自身は金持ちじゃない」

貧民街の年長の少年(GM):
「だったら、なんであんなもん持ってたんだよ。盗んだのか?」

アゼル:
「盗みはやらない。ある事情があったんだ」

シーン外のイーサ:
 そこは展開を読んでもっと詳しく話せよ(苦笑)。

GM:
 まあ、それについては少年のほうからも聞いてきますよ(笑)。

貧民街の年長の少年(GM):
「ある事情って?」

アゼル:
「ちょっと訳ありで、仲間が街の外に出られない状態なんだ。それで、地下水道の道案内ができるっていうミマールという人物を探しにここに来た。さっきの腕輪は、ミマールって人への報酬として仲間から預かってきたものなんだ」

貧民街の年長の少年(GM):
「それじゃ、あの腕輪をオイラたちにくれちまったら、ミマールに払える報酬はもうないじゃんか」

アゼル:
「まあ、腕ははあとひとつあるから……」

貧民街の年長の少年(GM):
「そっか。あとひとつあるのか」

アゼル:
「あっ、駄目だぞこれは。ミマールに渡さないといけないからな」

貧民街の年長の少年(GM):
「ああ、オイラたちはひとつで十分だよ。それより、地下水道を使って街の外に出たいだなんて、兄ちゃんの仲間ってのは犯罪者なのか?」

アゼル:
「犯罪者ではないんだが、身に覚えのない容疑をかけられているんだ……。俺はそいつらを助けてやりたくてな」

貧民街の年長の少年(GM):
 少年は興味深そうにアゼルのことを見ています。
「ふーん。それじゃ、ミマールを見つけられるといいね」

アゼル:
「そうだな……。しかし、どうしたらミマールを見つけられるんだろうな……」
 ある程度休んだところで、また腰を上げて聞き込みを再開する。

貧民街の年長の少年(GM):
 では、少年もある程度の距離をおいて、アゼルのあとをついてきます。

GM:
 アゼルが聞き込みを再開しても、貧民街の住人たちの反応は相変わらずですね。一方的に施しを求めてきて、肝心のミマールについての情報は一切得られません。成果を得られないまま時間だけが過ぎていき、ついに18時を回ってしまいます。本来だったらイスメトのもとへ報告に行く時間となってしまいました。
 一応ここで確認しておきますが、アゼルはアルの言葉を覚えていないのですか?

アゼル:
 ん? アルさんの言葉……?
(なにかに気がついて)
 あ、そうか! そうだった! 失敗した。なんで最初からサイ・カルカヴァンの名前を出さなかったんだろう……。

シーン外のイーサ&エルド:
(苦笑)

貧民街の年長の少年(GM):
 聞き込みを続けるアゼルの背後から少年が声をかけます。
「兄ちゃん、そろそろ諦めたら?」

アゼル:
「そういうわけにはいかないんだ……」と言ったところで、アルさんの言葉を思い出して、「あッ! しまった……。サイ・カルカヴァンの紹介だって言うのを忘れてた……」と口に出す。

貧民街の年長の少年(GM):
「ん? 兄ちゃん、いまなんて言った?」

アゼル:
「なんて言ったって……? サイ・カルカヴァンのことか?」

貧民街の年長の少年(GM):
「兄ちゃん、その人と知り合いなのか?」

アゼル:
「ああ。そうだ。その人からミマールの話を聞いたんだ」っていうのは嘘だけどな(苦笑)。

貧民街の年長の少年(GM):
「へぇー。そういえば、兄ちゃん、名前はなんていうの?」

アゼル:
「俺はアゼル。お前の名前は?」

貧民街の年長の少年(GM):
「オイラの名前はシナン」
 シナンと名乗った少年は、暮れていく空を見上げました。
「……もうそろそろ晩飯どきだけど、アゼル兄ちゃんは晩飯どうするつもりなんだ? ミマールを見つけるまではここにいるつもりなんだろ? さっきの腕輪の礼にごちそうしてやるから、よかったらうちに来なよ」

アゼル:
「そうだな……。そうさせてもらうか……」

シナン(GM):
 では、シナンはアゼルを案内して貧民街を奥へ奥へと歩いていきます。

アゼル:
 そのあとをついていく。
「そういえば、お前のさっきの身のこなし、なかなかのもんだったな。なにかやってるのか?」

シナン(GM):
 シナンはアゼルに背中を向けたまま、それでも右手の人差し指で鼻のしたをこする仕草は見て取れるのですが、「ま、ちょっとね」と少し誇らしげに答えました。
 やがて、しばらく歩いたところでシナンはとある住居の中へと入っていきます。

GM:
 その住居は地面に突き立てた柱に布を張って中をいくつかの空間に区切っただけのもので、床は土をむき出しにしたままですし、布のところどころに空いた穴から隙間風が入ってくるなど、かなりお粗末な作りです。

シナン(GM):
「まあ、大したところじゃないけど、ゆっくりしてってよ。そこらへんで適当にくつろいでいいからさ」そう言うと、シナンはアゼルを残して奥の部屋へと入っていきました。
 シナンが入っていった部屋からは、水を注ぐ音や、なにかを火にかける音が聞こえてきます。どうやら料理をしているようです。

アゼル:
 それじゃ、それが出来上がるまで座って待っていよう。

シナン(GM):
 さほど時間をかけずに、シナンが戻ってきます。その両手にはそれぞれ木の器が持たれており、シナンはそのうちのひとつをアゼルのほうへと差し出しました。
「ほい」

アゼル:
「ありがとう」

GM:
 その中身は雑草スープです。

アゼル:
 う……。

シナン(GM):
「どうしたの? 食いなよ」

アゼル:
 ……。

シナン(GM):
「毒なんて入ってねぇよ!」

アゼル:
「そんなこと思ってない! そうじゃなくて……お前の大事な食糧を、俺なんかが食っちまっていいのか?」

シナン(GM):
「はぁ? 兄ちゃんがくれた腕輪の価値に比べたらなんてことないだろ?」

アゼル:
「まあ、それはそうなんだが……。わかった。それじゃ遠慮なく食わせてもらう」

シナン(GM):
 シナンはアゼルが食事に手を付けたのを見ると満足気にうなずいて、もうひとつの器を持って、先ほど料理のために入った部屋とは別の部屋へと歩いていきました。そして、手ぶらでアゼルのところまで戻ってきます。

アゼル:
「ん? さっきの器はどうしたんだ?」

シナン(GM):
「ああ。あれはうちの爺ちゃんの分だよ。オイラは作りながら食ったんだ。うち、皿が2つしかないからさ」

アゼル:
「お前は爺さんと2人暮らしなのか。だったら、挨拶しておいたほうがいいか?」

シナン(GM):
「いいよ、いいよ。爺ちゃん、人と顔をあわせるの嫌いなんだ」

アゼル:
「そうか……。そんなところに押しかけてしまって悪かったな……」

シナン(GM):
「兄ちゃんをうちに誘ったのはオイラのほうなんだから気にすんなよ。それよりさ、兄ちゃんがなんで地下水道を使ってまで街を出ようとしてるのか、そいつを詳しく聞かせてくれよ。さっきはなんだかはぐらかされちまったからな」

アゼル:
「そうだな……。どこから話したもんか――」

 アゼルは、サイ・カルカヴァンとの関係はごまかしたうえで、これまでの経緯をシナンに語って聞かせました。

アゼル:
「――というわけなんだ」

シナン(GM):
「へー。なるほどね。だいたいのところはわかったよ。まあ、なんか雲の上の人たちの話でチンプンカンプンなところもあったけど……。それと、オイラ個人としては、別にそのギュリスって人に同情もしないんだけど……」

アゼル:
「そうなのか? かわいそうだろ?」

シナン(GM):
「えー? だって、わがままじゃん。苦労せずにメシにありつけるだけでも幸せだろ? それに、王様のお嫁さんになったらきっと贅沢し放題だよ。かわいそうどころか、むしろ恵まれてるって」

アゼル:
 うむ。それもそうだな(苦笑)。

シナン(GM):
「でもさ、その話からすると、兄ちゃんゆっくりしてる時間なんてないじゃん」

アゼル:
「ああ。ないな」

シナン(GM):
「そんなにのんびりしてていいのかよ。もう18時は過ぎてるよ?」

アゼル:
 そうなんだよな(苦笑)。市門は何時に閉まるんだっけ?

GM:
 市門が閉まるのは20時ですが、18時にイスメトのところに誰もいかなかったからには、イスメトがなにかしらの行動に出ていたとしてもおかしくありませんよ。

アゼル:
 うーん。もう手遅れか……?

シーン外のイーサ&エルド:
(苦笑)

シナン(GM):
 シナンは少し大きめの声で、奥の部屋に向けてこう言います。
「――まあ、そんな話らしいんだけど、爺ちゃん、どうよ?」

アゼル:
「は?」
 シナンが声をかけたほうに目を向けよう。

GM:
 まあ、目を向けても間仕切りの布が見えるだけなんですが、その奥からは人の気配を感じます。そして、そちらからシオンの問いかけに対する答えが返ってきました。それはずいぶん年老いた男性の声です。

老人の声(GM):
「よい」

シナン(GM):
「おっ! よかったな、兄ちゃん。案内してくれるってよ」

アゼル:
「は? どういうことだ? まさか、お前の爺さんって?」

シナン(GM):
 シナンはアゼルの顔を見てニヤニヤしています。

アゼル:
 気配のする布のほうを向いて、「ミマールさんなのか? 俺たちのことを案内してくれるのか?」と声をかける。

シナン(GM):
「だから、いいって言ってんじゃん。あんまりクドイと爺ちゃんへそ曲げちゃうよ? あと、地下水道の案内を頼む分の報酬はちゃんと出してくれよな。腕輪、もうひとつあるんだろ?」

アゼル:
「ああ、もちろんだ! 助かった。これで街の外に出られる」
 喜んでシナンにもうひとつの腕輪も渡そう。

シーン外のエルド:
 あまい。あまいですね……。実は声の主が本物のミマールさんじゃない可能性だってあるんですよ(笑)!

GM:
「ヒャッホゥッ! やったぜ、爺ちゃん! 間抜けから腕輪2つを巻き上げたよ!」「うむ。よくやったぞ、我が孫よ!」っていう展開ですね。

一同:
(爆笑)

GM:
 幸いにも、そういったことはありませんでした(笑)。ありませんでしたが、たしかにその可能性もゼロではないので、アゼルは今後もう少し警戒したほうがいいですね。

ミマールの声(GM):
 さて、布の奥からはミマールの声が聞こえてきます。
「今宵、日の変わるころ。鍛冶屋通りの2本東を走る裏通りにある地下水道の点検口まで来るのじゃ。そこで点検口の蓋を4度叩け。中から2度返す音が聞こえたら、周囲を確認し、誰の目にも触れていないことが確認できたら、ふたたび蓋を2度叩け。もしそうでなければ、叩かずにいるか、あるいは3度叩け」

アゼル:
「わかりました。ではよろしく頼みます。それじゃ、俺はさっそく仲間のところに戻ります」そう言って、立ち上がった。
 あ、そうだ。シナンに「メシ、ありがとな」と礼は言っておく。

シナン(GM):
 そんなアゼルに対してシナンは、「戻る途中で捕まんなよな。でも、兄ちゃんはトロくさいから無理かなぁ……?」と返して笑ってみせました。

アゼル:
 苦笑いしてから出て行くとしよう。

GM:
 了解です。こうしてアゼルはミマールとの約束を取り付けて、皆の待つ螺旋階段亭へと戻っていきました。
 アゼルが南門へと戻ったのは19時過ぎのことでしたが、幸いにも検問で取り押さえられることはありませんでした。タルカンとの会話で18時の報告には間に合わないと話していましたからね。それを耳にしていた尾行者からの報告で、イスメトにはあなたたちは多少遅れて戻ってくるはずだと伝わっていることでしょう。




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