LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第4話(06)

GM:
 ファジルたちの野営地では夕食としてリゾットが振る舞われました。夕食の頃になると上空には薄らと雲が張り出し始め、輝き始めた月を徐々に覆っていきます。

ファジル(GM):
 ファジルは食事をとりながら空を見上げて、「明日は天気が崩れそうじゃの」と呟いて渋い表情をしました。

イーサ:
 まあ、雨が降ったら測量もできないだろうしな……。

ファジル(GM):
「さて、ではあらためて、ここからカルカヴァンまでの道のりについて、オヌシらの知りうる限りの情報を教えてもらうとするかの」そうやって切り出すと、ファジルはここまでの道のりにどういう起伏があったのか、周囲の様子はどうだったのか、などの質問を次々にあなたたちへとぶつけてきます。

アゼル:
 では、いままでの道のりを話そう。

ファジル(GM):
「ふむ。40キロほど進めば農道に出るのじゃな。では、無難にその農道につなげるのが良いかのぅ。しかし、最短距離を結ぶのであれば、少し農地に被らせたほうが……。いやいや……」
 あなたたちから情報提供を受けたファジルは、地図を片手に頭をひねり、さまざまな考えを巡らせているようです。

エルド:
「さすがに農地をつぶして街道を走らせるというのは、人々の反感を招くのではないでしょうか? それよりも、川沿いに道を伸ばすというのはどうですか?」

ファジル(GM):
「川沿い……? さすがにそれはないじゃろ」

アゼル:
 それじゃ、明らかに遠回りになるもんな(笑)。

ファジル(GM):
「ニメット側左支流沿いにはすでに西アルダ街道が走っておるし、川沿いならば道を作らなくとも小型船を使って川を下る手段があるからの……。今回の街道計画は、あくまでも王都からカルカヴァンまでの最短陸路の確保が命題じゃからな」

イーサ:
 ファジルさんは王都から来たんだよな。途中でバジェオウルとかを通ってきたのか?

 バジェオウルというのはイーサの故郷である村の近隣にある都市のことであり、王都とカルカヴァンを直線で結ぶと、その少し東側に位置することになります。

GM:
 それを知りたければファジルに直接質問してみてはどうですか?

イーサ:
 あまり興味ないからいいや。

アゼル&エルド:
(爆笑)

アゼル:
 そこまで聞いておいて興味ないって言うか(笑)!

エルド:
 さすがリーダー、言うことが違いますね(笑)!

イーサ:
 いや、機密情報っぽいし、聞いたとしても無駄話になってしまうかもしれないし……。

GM:
 ……まあ、その無駄話をするためのシーンなので、遠慮されても困りますが(苦笑)。

イーサ:
 じゃあ、ファジルさんとの会話を盛り上げたほうがいいか?

エルド:
 不用意に話すと、リーダーがまた暴言をはきそうで怖いですけどね(笑)。

アゼル:
 そうそう。下手に話を聞こうとすると、こちらの情報も言わなきゃならなくなるのが嫌なんだよな。墓穴を掘りたくないから、俺も何を話していいかわからないんだよ。

エルド:
 では、ここは僕が。
「もし差支えなければお教えいただきたいのですが、どういった目的があって王都からカルカヴァンまで街道を敷こうとしているのですか?」

ファジル(GM):
「……王が公共事業を執り行うのは、何も珍しいことではないじゃろ? 至極当然のことじゃよ。はっはっは。……あ、じゃが、街道の話は正式な発表があるまで秘密じゃぞ」ファジルは冗談めかしてそう言いました。

GM:
 キャラクターの共通知識として、初代カーティス国王メーメットと二代目国王アルダがそれぞれ自分の名前を冠した街道整備を行ったことは知っていて構いません。これまでもアルダ街道を旅してきましたしね。ちなみに、3代目国王アゼルは在位中にあらたな街道を敷くことはありませんでした。

アゼル:
「王都とカルカヴァンが結ばれれば、交易が活発化するでしょうね」

ファジル(GM):
「そうじゃな。これまでヤナダーグ・プラト地方と王都との交易には海路が使われておったが、それじゃと遠回りなうえに、天候に左右されやすかったからの。近頃は海賊もでておって難儀しておったのじゃよ」

イーサ:
「なるほど……」

ファジル(GM):
「先王は街道整備にはあまり興味を示しておらなかったから、通商の便は30年前からほとんど変わっとらんのじゃ」

エルド:
「ファジル様。もう1つお伺いしてもよろしいですか?」

ファジル(GM):
「おお、構わんぞ。ワシのような老いぼれは、若い者にものをたずねられると、つい色々と話したくなるもんなんじゃ。なんじゃったら、ワシの若い頃の武勇伝を語って聞かせようかの?」

エルド:
「あ、いえ。一番美味しいところはもう少し後になってから聞かせていただきます。その前に……もしよろしければ、ヤウズ王子のお人柄についてお聞かせいただけませんか? ファジル様は王家の方と近しい立場にあるのですよね? さっきもお話したとおり、僕は王直属部隊に志願するつもりでいるのですが、その募集要項の条件に新王への忠誠というものがありました。ですが、僕はヤウズ王子がどんな方なのかよく知らないのです……」

ファジル(GM):
「なるほど、なるほど」
 ファジルは深くうなずきました。
「そういうことであれば、少し昔話をするとしようかの。ワシはその昔、王立大学で教鞭をとっておったことがあるんじゃが、そのときの教え子の1人としてヤウズ王子を受け持ったことがあった。まだアルダ王がご健在でいらっしゃった頃のことじゃな」

アゼル:
「それはそれは」

ニルフェル(GM):
 突然始まったヤウズ王子の話に、ニルフェルは食事の手を止めて真剣なまなざしで聞き入っています。

ファジル(GM):
「ヤウズ王子の神童ぶりは、噂話として国民の多くが知るところじゃが、実際のところ……それは噂話で語られる以上のものじゃった。ヤウズ王子は、ワシら教師の講義を1度耳にするだけでワシらよりもわかりやすく講義することができた。たびたび行われた試験でも、当然のように常に満点じゃったよ。まあ、試験で満点をとる者は他にもおったが……。それ以上に語り草となっておったのは兵棋演習の成績のほうじゃったな」

エルド:
「兵棋演習?」

ファジル(GM):
「そうじゃ。まあ簡単に言えば複雑な戦盤と言ったところかの。もともと士官教育の一環として行われていた兵棋演習を簡略化したものが戦盤なのじゃよ。その兵棋演習において、ヤウズ王子は十数手指し進めたところで対局者の癖を見抜き、終局図を描くことができた。読みの深さと精度が他の者とは段違いだったのじゃな。じゃから、兵棋演習でヤウズ王子に適う者はおらず、大学を卒業するまでの間、ついに一度として負けることはなかった。ワシもヤウズ王子と数度対局したことがあったのじゃが、その足元にも及ばなかったの」

アゼル:
「ほう……。ヤウズ王子はずいぶんと聡明な方のようで……」

エルド:
 ファジルさんの実力がわからないので、いまいち実感が湧きませんね。アゼルさん。せっかくですからファジルさんに戦盤でお手合わせ願ってはいかがですか?

アゼル:
 ギュリスに負ける俺では、それこそファジルさんの足元にも及ばないだろ(苦笑)。
「では、そのヤウズ王子が王位につけば、この国の未来も安泰ですかね?」

ファジル(GM):
「そうじゃな……。じゃが、他の者の何歩も先を見通したヤウズ王子の行動は、誤解されることも多くての。被害を最小限に抑えるために、ためらうことなく犠牲を払おうとするヤウズ王子に対して、非情な人間じゃと非難の声を挙げる者も少なくない……。ヤウズ王子もそのような誤解に対して弁明を述べるようなお方ではないからの……。あまつさえ、そんな噂話を聞きかじったのみで、まるでヤウズ王子のことを知った風に悪く言う輩もおる。そのような本質を見ずして風評だけでものを語ろうとする者の存在こそ、国家を腐らせておるのだということに彼らは気づいておらぬのじゃな。これは、じつに嘆かわしいことじゃ」

イーサ&エルド:
(アゼルのことを見て苦笑)

アゼル:
「……まったくもってその通りです!」

ファジル(GM):
「じゃが、すべての者に正しく理解され、賛同を得ようというのは途方もなく難しい。もしかすると、それは不可能なことなのかもしれん……。もし、不平不満を言う輩全員の声を封じる方法があるとすれば、それは彼らに益をもたらすことじゃ。つまり優先すべきは国益を上げるということじゃな。ヤウズ王子はそれを理解しておるからこそ、あえて弁明を述べようとせぬのかもしれんの」

エルド:
「なるほど……。ところで、ヤウズ王子は文武両道なんですか?」

ファジル(GM):
「あ、それはない。武に関してはさっぱりじゃったな。ヤウズ王子は剣の稽古にはほとんど興味を示さなかった」

アゼル:
 だからこそ、直属部隊を組織しようとしてるのか?

ファジル(GM):
「これは剣の師範を務めていた者から聞いた話なのじゃが、まったくと言っていいほど剣技の授業に参加しようとしないヤウズ王子に対して、その者が『なぜ剣の稽古をなさらないのですか? 他の学生はあなたの何倍も多くの時間を費やして剣技を学んでいますよ』と苦言を呈したことがあったそうじゃ」

エルド:
「ヤウズ王子は授業をさぼるような人物だったんですか?」

ファジル(GM):
「いやいや、どの講義を選択するのかは学生の自由だったんじゃ。じゃが、男子たるもの、やはり剣の腕前で評価されることが多いからの。剣技の授業はほとんどの学生が専攻しておった。……でじゃ。師範からの苦言に対しヤウズ王子は、『私は兵に指示を出す立場にあり、前線に立って剣を振るう者ではありません。剣を学ぶために時間を費やすのであれば、その分の時間を兵法を学ぶために費やしたほうが有益だと判断しました』と答えた。実に若輩者らしい生意気な答えじゃな。これを受けた師範は、まだ若く視野の浅い王子をたしなめようとして、『剣を学ぶということは、兵士の心を学ぶことにも繋がるのです。兵士の心を理解せぬ者が、正しく兵士を率いることができるとお思いですか?』と説いたそうじゃ」

アゼル:
「うんうん。その師範の言葉はもっともですね」

ファジル(GM):
「ふむ。そうじゃな……。ところが、それに対して王子はこう返した。『剣を振るわずとも兵士の心は理解しております。しかし、もし剣を振るわねば兵士の心を理解できぬという言葉が真実であれば、国王たる者もまたより多くの民の心を知るために鍬を持ち田畑を耕すべきでしょう』とな」

エルド:
(感嘆の息をついて)凄い! ヤウズ王子は凄い人物ですね!

ファジル(GM):
「ヤウズ王子は、想像すれば他者の気持ちを察することくらいできると、そう言ったんじゃ。……いや、仮にある程度それができたとしても、それを公言するとはなんと不遜なことじゃろうか!?」

一同:
(笑)

エルド:
 それを言ってのけるところがヤウズ王子の凄いところです!

ファジル(GM):
「で、結局のところヤウズ王子は在学中、ほとんど剣を握ることはなかった。逆に、弟のガリプ王子のほうは剣の申し子のようなお方なんじゃがな……」

エルド:
「ヤウズ王子は、いろんな意味で凄い人なんですね」

ファジル(GM):
「そうじゃな。傑出した人物であることには間違いない。むしろ、それくらいでなければ数多の民を束ねる王という役目は務まらぬのかもしれんな……」

エルド:
「ヤウズ王子がそれだけ傑出した人物であるということは、その直属部隊にも相当優秀な人材が求められているんでしょうね」

ファジル(GM):
「それは……まあ、そうなんじゃろうな」

GM:
 直属部隊の採用条件は、秀でた戦闘能力と王への絶対的な忠誠の2つのみですけどね。

アゼル:
 実力不足で日和見な俺にはハードルの高い条件だな(苦笑)。

GM:
 他にファジルに聞いておきたいことはありますか?

一同:
 ……。

GM:
 なければ、それまで聞き手に徹していたニルフェルが口を開きました。

ニルフェル(GM):
「あの……。わたしも1つお伺いしたいのですが……」

ファジル(GM):
「ん? なんじゃ? なにが聞きたいんじゃ?」
 若い娘から話しかけられたことで、ファジルは好々爺らしい満面の笑みを浮かべました。

ニルフェル(GM):
「先ほど、ファジル様はヤウズ王子に対して教鞭をとられたことがあると仰っていましたが、教鞭をとられている方のなかにフェザという名前の方はいらっしゃいませんでしたか? 宮廷で教育係を務められていたことがあると伺っているのですが……」

ファジル(GM):
「おお。教育係のフェザか。懐かしい名前を聞いたの。ずいぶん前に宮廷を離れて隠居したと聞いておるが……。なぜその者の名前を?」

ニルフェル(GM):
「わたしはそのフェザ先生から宮廷教育を受けるために、王都を目指して旅をしているんです」

ファジル(GM):
「おお。そうじゃったか。そういえば、そなたの名前はニルフェル・クルトじゃったか。クルト本家のご息女は、王の妃になることをお望みということかな?」

ニルフェル(GM):
「……はい。仰る通りです」

ファジル(GM):
「フェザに師事するとは、なかなかよい縁をもったの。あやつは作法教育に関しては他の誰よりも長けておったから、妃候補の教育役としてはまさにうってつけじゃよ」

ニルフェル(GM):
 それを聞いたニルフェルは安堵の表情を浮かべました。

イーサ:
 そういえば、アゼルたちはそれば目的だったんだよな。

アゼル:
 ああ。それが目的だ。頻繁に横道にそれてはいるがな(苦笑)。

GM:
 雑談が一通り終わったところで、ファジルのもとに騎士が歩み寄ってきました。

騎士(GM):
「ファジル様。湯浴みの準備が整いました」

ファジル(GM):
「おおそうか」
 ファジルはうなずくと、あなたたちに次のように説明します。
「大きなテントに併設されている、小型のテントがあるじゃろ。あれが湯浴み場になっておる。1人ずつ順番に湯浴みを済ませるといい」

GM:
 ――ということで、湯浴みを済ませたらあとは就寝するだけなんですが、その間に何かする人はいますか?

一同:
 ……。

GM:
 では、何事もなく翌朝を迎えることとなります。

アゼル:
 てっきり、エルドが湯浴み覗きでもするかと思ったが、結局動かなかったな(笑)。

エルド:
 さすがに小型のテントの中じゃ、“カメレオン”で隠れていてもすぐにばれてしまいそうですからね(笑)。




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