GM:
戦いが終わると、離れたところで待機していたギズリとニルフェルもあなたたちのもとへと近づいてきました。
ギズリ(GM):
「リカオンを苦にせず追い払うとは、さすがだな」と、あなたたちの戦いぶりにギズリは感心した様子です。
アゼル:
「まあ、思ったより手応えはなかったがな」
ギュリス(GM):
アゼルの言葉に、呆れた様子でギュリスが突っ込みを入れました。
「はぁ? 深手を負っておきながら、どの口で調子に乗ったこと言ってんの?」
アゼル:
ぶはッ(笑)! そういえば、そうだった。
イーサ:
「どれ、傷を見せてみろ。魔法で癒してやる」
(コロコロ)とりあえず、生命点を5点回復。
アゼル:
よし。全快とまではいかなかったが、あとは寝た時の自然治癒でなんとかなるな。
さて、落ち着いたところであらためて周りを見渡してみるが、人の姿は発見できるだろうか?
GM:
アゼルが周囲を見渡してみた限りでは、人の姿は見当たりませんでした。リカオンが漁っていた荷物が残されているだけです。
アゼル:
「やはり誰もいないようだ」
それじゃ、次は荷物の中身の確認だな。
GM:
リカオンたちが漁っていた背負い袋の中身を確認してみると、まず食い散らかされた保存食が目につきます。他には火口箱や地図などの旅道具が入っているようです。それと荷物の中からは袖付きの肌着が出てくるのですが、そのサイズは成人男性のものと比べると少し小さめです。
アゼル:
他に一般的な旅人が所持していないような代物が入ってたりしないか?
GM:
そうですね……。必ずしも普通の旅人が持っていないものとは言い切れないのですが、荷物の中には白魔法書も入っていました。ただ、未開の地を旅する人は戦闘技能を持っていて当然ですし、それがホワイト・マジシャン技能であった場合、白魔法書を所持しているということは護身用の武器を携帯しているのと同じような意味になりますからね。
アゼル:
なるほど……。
イーサ:
「持ち主はこの近くには居ないようだが、周辺を探してみるか?」
アゼル:
「ああ、そうしよう。セルダル、“捜索”を頼めるか?」
セルダル(GM):
アゼルに声をかけられたセルダルは、あからさまに不満そうな表情を浮かべます。
「……なんでリーダーでもねぇオマエが仕切ってんだよ。それに、オレ1人に“捜索”させる気か? やるなら、全員で探すべきだろーが」
アゼル:
「そうか……。そうだな」
イーサ:
「それじゃ、全員で手分けして人の痕跡がないかを調べるとしよう」
GM:
では、全員、捜索判定を行ってください。
エルド:
(コロコロ)僕が最高値で11です。
GM:
その値だとセルダルと同値なので、PC優先でエルドが先に気がついたことにしましょう。エルドは川の周辺を“捜索”している途中、上流から何か小さな布きれのようなものが流れてきたことに気がつきました。
エルド:
川の中に入って、その流れてきたものを手に取ってみます。
GM:
了解です。布きれが流れていたのは、エルドの居る岸側に近い場所だったのですが、それでも、布きれを掴める位置まで川の中へ入ると腰まで水につかることになります。そうやって、エルドがつかみ取ったものは黒ずんだハンカチでした。
エルド:
黒ずんだ?
GM:
はい。その黒ずんだシミは、どうやら血の汚れのようです。
エルド:
血ですか……。それじゃ、それを持って岸に上がります。
アゼル:
川の中に入って行ったエルドを見たなら、近づいて声をかけよう。
「どうした? 何かあったのか?」
エルド:
「それが、上流からこんなものが流れてきたんですが……」そう言って、血で汚れたハンカチをアゼルさんに渡します。
アゼル:
「ハンケチか……。ん、この汚れは……血? これが上流から流れてきたってことは、そこに負傷者がいるってことか?」
エルド:
「そうですね。まあ、生存しているとは限りませんが……」
アゼル:
他の皆にもこのことを報告しておこう。それで、上流に向かうことを提案してみる。
イーサ:
「ふむ……。予定していたルートからは外れることになるが、少しだけ上流に向かってみるか」
……でもなぁ、これで上流に行って負傷者を見つけたことで大きなイベントが始まったら、ギュリス嬢のことをイルヤソールに送り届けるのが遅れるんじゃないか? サブリのことを目的地まで送り届けられなかったこともあるし、これ以上中途半端なことになるのは嫌なんだよな……。
アゼル:
まあ、大丈夫だ。ギュリス嬢以上の大物が出てこない限り、ギュリス嬢のことを後回しにすることなんてないだろ。それこそ、ヤウズ王子が出てくるとかしなければな(笑)。
イーサ:
本当か? もし助けを求める人が登場しても、アゼルはそれを断れるんだな?
アゼル:
うッ……。うーん……。(言葉に詰まってしまう)
イーサ:
ふぅ……。まあ、とりあえず100メートル上流まで行ってみるか。
GM:
川の南岸を上流に向かって登って行くということでよろしいですね? では、上流へと進んで行きますと、徐々に川幅が狭まっていきます。100メートル進んだ段階では、何も見当たりませんでした。
アゼル:
それじゃ、さらに50メートル上流へ。
エルド:
そんなにチマチマ刻まず、一気に進みましょうよ。300メートル上流へ進みます。
GM:
300メートル上流ですか……。ならば、そこまで行かず、200メートルほど上流へ進んだところで、あなたたちは対岸にうつ伏せに倒れている革鎧を身に着けた人の姿を発見しました。その人物は長い赤毛を後ろで1つに束ねて三つ編みにしていることがわかります。
イーサ:
おッ!? 女じゃないか?
アゼル:
なんだか、嬉しそうな反応だな(笑)。
イーサ:
そりゃ、男よりは女のほうがいいだろ。だが、もう死んでるんじゃないか?
アゼル:
よし、駆け寄ってみよう。
エルド:
ちょっと待ってください。その人が倒れているのは対岸なんですよね? アゼルさんは鎧着たまま川を渡る気ですか?
アゼル:
あれ? この川ってそんなに深いんだっけ?
GM:
いまいる地点だと、もっとも深いところで水深2メートルほどあります。リカオンたちと戦ったところであれば、1メートルくらいの深さのところもありましたけどね。
アゼル:
水深2メートル? それじゃダメだ。頭まで沈んでしまう(笑)。一度下流に戻って渡れそうなところを探して迂回してこよう。
GM:
一応、軽装であれば川を泳いで渡っていったり、中洲のようになっている部分を“幅跳び”で越えていくこともできますが……。
エルド:
“幅跳び”で渡れるんですね? だったら、スカウト技能を持っている者として、やらないわけにはいかないでしょう。
GM:
もし、中洲をたどって“幅跳び”で向こう岸に渡るのであれば、3メートル以上の跳躍を2回成功させてください。失敗すると川に落ちるので注意してくださいね。
エルド:
まかせてください。(コロコロ)1回目成功。(コロコロ)2回目も成功です!
GM:
では、エルドは対岸にたどり着きました。他の2人はどうします?
アゼル:
多少時間はかかるが、俺は下流から回ってこよう。
イーサ:
だったら、俺もアゼルに付き合うか。
GM:
他の面々もアゼルたちと共に川を迂回します。そうすると、エルド以外の面子が迂回してくるまでには10分ほどかかることになるのですが、その間、エルドはどうしますか?
エルド:
とりあえず、倒れている人に近づいて、身体を仰向けにしてみます。
GM:
了解です。では、エルドが倒れている人物の身体を仰向けにすると、その人物の顔があらわになります。
赤毛の女性(GM):
その人物は、どことなく少年らしさを感じさせる中性的な顔つきですが、どうやらイーサの予想した通り女性のようです(そう言ってキャラクターのイラストを提示する)。
アゼル:
お? この顔はセルピルじゃないか?
GM:
まあ、そうなんですが、PCたちにとっては初めて見る顔です。見たところ、エルドよりは少し年上で、アゼルと同年代のように見えますね。
このセルピルというキャラクターは他のシナリオでも登場したことがあるので、プレイヤーたちは彼女がどんな人物であるのかをよく知っています。
赤毛の女性(GM):
赤毛の女性の顔色は土気色で、唇は紫色に染まり、目の周りは黒ずんでいます。また、右腕には鋭いもので引き裂かれたような傷跡がついており、その傷からはまだ流血が続いています。
エルド:
僕にはどうしようもないので、治療ができる人の到着を待ちます。
GM:
では、10分ほど経過したところで、全員が対岸に集まりました。
アゼル:
「どうだ、エルド!?」と言って駆け寄っていく。
エルド:
イーサさんのほうへ目を向けて、「イーサさん、この怪我は何とかなりますか?」と聞いてみます。
イーサ:
とりあえず、脈を確認してみるが……。
GM:
脈はあります。絶え絶えではありますが呼吸もしているようです。
イーサ:
「どうやら息はあるみたいだな……」
“キュア・ウーンズ”を唱える。(コロコロ)6点回復。
GM:
では、彼女の左腕についていた傷は完全に癒えました。
イーサ:
傷の具合を確認して、「とりあえず、これで傷のほうは大丈夫だろう」と言っておこう。
GM:
そうですね。傷は完全に治ったように見えます。ですが、彼女の顔色は一向によくなりません。さらに、傷の具合を確認したイーサは、彼女の革鎧の左脇の部分に小さい裂け目ができていて、肌が露出していることに気がつきました。露出した肌に傷跡などは見当たりませんが、もしかすると先ほどの回復魔法で癒えてしまったのかもしれません。
赤毛の女性(GM):
「ゲホッ! ゲホッ!」
赤毛の女性は唐突に咳き込むと、続けて荒い呼吸をしました。
イーサ:
「おい、大丈夫か? 俺の声が聞こえるか?」
赤毛の女性(GM):
そのイーサの声に反応して、女性のまつ毛がピクリと動きます。そして、わずかながらに目蓋が開けられました。その奥にみえる瞳は、焦点が定まらないのか小刻みに揺れています。
彼女は震える手を自分の腰のあたりに持っていくと、そこに結わいつけられていた小袋の口を開こうとします。しかし、指に力が入らないようで、その動作をうまく行えません。
イーサ:
それじゃ、その小袋の口を開けるのを手伝ってやろう。
赤毛の女性(GM):
小袋の口が開かれると、彼女はその中に手を入れて何かをつかみ取り、それをイーサへと渡しました。
イーサ:
なんだ? 渡されたものを見てみるが……。
GM:
渡されたものは奇妙な形状をした小さなペンダントです。それが何であるか知っているかもしれないので、目標値10・12・14の神聖知識判定を行ってください。
イーサ:
(コロコロ)15で成功。
GM:
ならば、イーサにはそのペンダントがバリス教の聖印であることがわかりました。
バリス神はかつてビューク・リマナ地方の西海岸一帯を支配していた勢力が信仰していた神であり、人々に優れた海洋技術をもたらしました。カーティス王国平定後、エルバート教が国教と定められ、他の神を信仰することは禁じられましたが、それでもなおバリス信仰を続ける者は多く、たびたび王国軍との衝突を繰り返しています。
さらにイーサは、十数年前にヤウズ王子が自ら兵を率いて反乱を企てていたバリス教の暴徒を完膚なきまでに殲滅したときの逸話なども知っています。それは、ヤウズ王子の指揮官としての才能が一般にも広く知れ渡ることとなった出来事でもあります。
イーサ:
なるほど。
「これは……バリス教の……」
赤毛の女性(GM):
赤毛の女性は、イーサにバリス教の聖印を手渡すと、ゆっくりと口を動かします。
「それを……デミルコルの……ユセフさま……に……」
イーサ:
「デミルコルのユセフ?」
赤毛の女性(GM):
イーサが赤毛の女性の言葉を復唱すると、彼女はコクリとうなずいて、その後再び意識を失いました。ただし、意識を失ったあとの彼女の様子も穏やかではありません。身体が小刻みに痙攣しているのがわかります。
GM:
ここで、念のため《ヒーラー技能レベル+知力ボーナス+2D》の診察判定を行ってください。目標値は12・14・16です。
アゼル:
俺たちの中にヒーラー技能を持ってる奴はいないから、きっとわからないだろうな。
一同:
(コロコロ)失敗。
GM:
NPCたちも全員失敗です。誰も彼女を蝕むものが何であるのか見当がつきませんでした。あわせて、デミルコルのユセフに関する情報を知っているかどうかの判定も行っておきましょう。こちらは、名声知識判定を目標値12でどうぞ。
一同:
(コロコロ)失敗。
GM:
あらら……。では、これについてはギュリスから情報提供しておきましょう。
ギュリス(GM):
ギュリスは少し考える素振りをしてから、口を開きます。
「この人、さっきデミルコルって言ったよね? デミルコルといえば、この川を上って、さらにウルム樹海沿いに北上した先にある集落の名前じゃない」
アゼル:
「知ってるのか?」
ギュリス(GM):
「まあ、ヤナダーグ・プラト地方にある街や村の名前くらいはね……。デミルコルは周辺に広がる森での狩りや木材の切り出し、あとは山裾の鉱石掘りを主な産業としている小さな村だよ。そこの領主の名前がユセフっていうの」
イーサ:
「ふむ……。だが、何だってそんな人にバリス教の聖印を届けろっていうんだ? バリス教っといったら――」と言って、バリス教について俺が知っていることを皆にも教えた。
アゼル:
「うーん、それはわからないが……それよりも、彼女をこのままにしておくわけにはいかないんじゃないか? とりあえず傷は癒えたようだが、普通の状態であるようには見えない。まるで何か悪い病にでも侵されているみたいだ」
エルド:
「そうは言っても、僕たちは医者ではありませんし、どうしようもないのでは?」
一同:
……。
アゼル:
「そうだ! ファジルさんのところに彼女を連れていけば、何かわかるんじゃないか? あの方は博識だし、もしかすると何かいい薬を持っているかもしれない」
――というか、ああいった人里離れて活動する一団が医療の心得のある人材を連れてないはずがない! 間違いなく医者が居るはずだ。
イーサ:
「ふむ。助けた手前、放っておくわけにもいかないか……。それじゃ、ファジルさんのところまで連れて行って診てもらうとするか。ファジルさん以外に頼れる人も居ないしな」
アゼル:
「だが、どうやって彼女のことを運ぶ?」
イーサ:
「そりゃ、ロバの背に乗せて連れて行くしかないんじゃないか?」そう言って、ギュリス嬢の顔を伺ってみるが……。
ギュリス(GM):
さすがのギュリスも、人命がかかっている場面でロバを譲ることに対する不満を口にすることはありませんでした。
アゼル:
それじゃ、速足でファジルさんのところに向かおう!
GM:
ちなみに、速足で行軍すると赤毛の女性の身体を揺らすことにもなりますが、よろしいですか? ルール的に説明しておくと、彼女の疲労が累積すると、それにともなって容体も徐々に悪化していきます。もちろん、時間が経過することでも容体は悪化していきますので、移動手段と速度の見極めが肝心です。
それと、自分たちの疲労についても忘れないでください。先ほどの戦闘でかなり疲労が蓄積してしまってますよね。疲労がたまった状態だと、予定よりも遅い速度でしか移動できませんよ。
イーサ:
あ、そうだった……。セルダルとかは特に疲労の累積がやばそうだな。
セルダル(GM):
セルダルは先ほどから大きく肩で息をついています。現在のセルダルの疲労具合から考えると、移動速度が2段階低下してしまいます。
イーサ:
「セルダル。疲れているところすまないが、急ぐぞ」そう言って、セルダルに“ファティーグ・リカバリィ”を掛けておく。(コロコロ)疲労を3点回復。
GM:
では、セルダルの移動速度低下は1段階までで済むようになりました。これで、セルダルもあなたたちと同じ速度で移動できます。
イーサ:
それじゃ、鈍足でファジルさんの野営地に向かおう。
こうして瀕死の女性を助けた一行は、その命を救うべく、ファジルたちの野営地を目指して、これまで来た道のりを引き返したのでした。