LOST ウェイトターン制TRPG


宮国紀行イメージ

宮国紀行 第4話(09)

GM:
 さて、ファジルたちの野営地を目指して引き返してきたあなたたちは、13時半過ぎにファジルたちの野営地に到着しました。戻ってきたあなたたちを見て、ファジルは少し驚いているようです。

ファジル(GM):
「おや、オヌシらは……」

アゼル:
「ファジルさんッ! 測量団の中に医療の心得のある方はいらっしゃいませんかッ!?」

ファジル(GM):
「いや……おらんが……」

アゼル:
 え? 嘘だろ?

ファジル(GM):
「いったいどうしたんじゃ?」

イーサ:
 口で説明するよりも見せたほうが早いな。赤毛の女性をファジルさんの前まで抱えて行こう。
「この娘の容体を診断できる人を探しているんだ」

赤毛の女性(GM):
 赤毛の女性はグッタリとしており、ときおり手足を痙攣させています。

ファジル(GM):
「なんじゃ、この症状は?」
 ファジルは生気をなくした女性の姿を見て、少し慌てた様子を見せます。
「うーむ……。とりあえず彼女をそっちのテントの中の床まで運んで、横にさせておくんじゃ。ワシは測量団の中で診断できる者が居らんか探してみるとしよう」

イーサ:
 それじゃ、ファジルさんの指示にしたがって、彼女をテントの中まで運んでおく。


GM:
 こうしてファジルはできる範囲で手を尽くしてくれるのですが、測量団の中にはヒーラー技能を習得しているものはおらず、赤毛の女性の病状がわかるかというと……。(コロコロ)おッ!?

一同:
 おッ!?

騎士(GM):
 測量団に参加する騎士の中の1人が、赤毛の女性の結膜や口中を確認して、「ファジル様。どうやら、この者は毒に侵されているようです」と口にしました。

一同:
「毒ッ!?」

アゼル:
「だから、傷を治療しても容体が良くなかったのか……」(騎士に対して)「なんの毒かまではわからないですか?」

騎士(GM):
「残念ながら、わたしは医者ではない。似たような症状の者を見たことがあるだけで、毒の種類まではわからんよ。だが……」そう言ったのちに、騎士は“キュア・ポイズン”を唱えます。

アゼル:
 おおッ! その手があったかッ! なるほど。魔法で治せるから医者を連れてなかったってわけか。

騎士(GM):
 さて、“キュア・ポイズン”での解毒は……(コロコロ)失敗しました。
「駄目だな……。どうやら、相当強い毒に侵されているようだ」そう言って、騎士は申し訳なさそうに首を横に振ります。

アゼル:
「他に何か方法はないんですか!?」

騎士(GM):
「あとは、大量の水を飲ませて毒を中和することで、ある程度症状を和らげることができるかもしれんが……。とにかく、一刻も早く医者に診せるのだな。毒の種類を特定できさえすれば、専用の解毒薬を処方することができるかもしれん」

イーサ:
 医者か……。大きな街のほうが名医がいる可能性は高いんだろうが、さすがにカルカヴァンには戻れないよな(苦笑)。

アゼル&イーサ:
 うーん。

エルド:
 毒ですか……。僕の所持品の中に解毒薬があるんですが、これでなんとかなりませんかね?

アゼル:
 おおッ! そんなものを持ってたのかッ!? よし、それで解毒できたらエルド株は上がるぞッ!

エルド:
 では、早速、解毒薬を使ってみますか。

GM:
 一応、解毒薬を使用する前に説明しておきますが、ルールブックに記載されている解毒薬は白魔法の“キュア・ポイズン”と同じ効果を持っています。行使力5として《行使力+2D》で行使値を出してもらい、その値が赤毛の女性を侵している毒の強度以上であれば解毒できますが、毒の強度未満の場合は解毒失敗となります。

エルド:
 なるほど。解毒できるかどうかはダイス目次第ですね。まあ、とにかく、やれるだけやってみましょう。赤毛の女性に解毒薬を飲ませてみます。

GM:
 了解です。エルドの持っていた解毒薬は、小さい瓶の中に入った液状の薬なのですが、赤毛の女性は意識を失っているため自分ではその液体を飲み込めないようです。無理に口中に注ごうとすると、口の端から解毒薬が流れ落ちてしまいます。

エルド:
 うーん。これはマウス・トゥ・マウスが必要ですかね……。それなら、ぜひともアゼルさんにお願いしましょう。アゼルさんは人命第一なんでしょうから、口移しくらいためらいなくできますよね?

アゼル:
 それは、まあ……。状況が状況なだけにしかたないか……。
「貸せッ!」と言ってエルドの手から解毒薬の瓶を取ると、その中身を口に含んで赤毛の女性の口の中に流し込んだ。

ニルフェル(GM):
「!」

ギュリス(GM):
「!」

GM:
 ならば、なんとか解毒薬を彼女に飲ませることができました。では、解毒薬の行使値を出してください。

エルド:
(コロコロ)行使値は12です。

GM:
 うーん。その値では解毒失敗ですね。すぐに効果の有無が現れるわけではありませんので、しばらく経過をみることとなりますが、容体は一向に回復には向かわないようです。

アゼル:
 無理か……。それじゃ、解毒薬の効果が現れないと判断できたら、続けて自分の水袋を取り出して口移しで水を飲ませていく。

赤毛の女性(GM):
 ならば、しばらくアゼルに水を飲まされ続けた赤毛の女性でしたが、突然むせ込んだかと思うと、今度は無理やり流し込まれた液体を大量に嘔吐してしまいました。

アゼル:
 うーん。嘔吐するんじゃ、もう水を飲ませても無駄か?

GM:
 まあ、仮に服毒だとしたら、胃まで水を流し込めれば嘔吐したとしても胃が洗浄されるので、まったくの無駄ということもないでしょうけど……。血液中に混入した毒を中和するためには、しっかりと飲ませる必要があるでしょうね。

ファジル(GM):
 一通りの手を尽くし終えると、ファジルが重い口調で、「残念じゃが、これ以上ワシらにできることはないのう。あとは本人の生命力に委ねるほかあるまい……。オヌシらも随分と疲れた様子じゃし、隣のテントでしばらく休むといいじゃろう」と言いました。

一同:
 ……。

ニルフェル(GM):
 沈黙が続く中、ニルフェルが口を開きました。
「あの……。休む前に、この人の衣服をきれいなものと取り換えてあげたいのですが……。身体も拭いてあげたいし……。せめて、それくらいのことは……」

ファジル(GM):
「ああ。そうじゃの……。では、しばらくオヌシに任せるとしよう。男衆がいては邪魔じゃろう?」そう言うと、ファジルは腰を上げました。

イーサ:
 そうだな。ここにいてもできることはなさそうだし、ひとまず隣のテントに移って今後のことを考えることにしよう。

GM:
 では、ニルフェルを1人残して、他の面々は隣のテントに移って少し休憩することとなります。ファジルは自分の仕事へと戻っていきました。


アゼル:
 隣りのテントに移ったところで、今後の相談をしておこう。
「なんとか解毒する方法はないのか?」

エルド:
「うーん。大きな街に行って、医者を探しますか?」

アゼル:
「とは言っても、近いところにある大きな街はカルカヴァンしかないしな……」
 イルヤソールやデミルコルはどれくらいの規模なんだ?

GM:
 イルヤソールは地方の小都市ですからね。カルカヴァンの半分にも満たない規模です。デミルコルに至っては、30世帯程度の村ですよ。宮廷騎士の“キュア・ポイズン”でも解毒できない毒ですからね。よほどの名医でないと治療できないであろうことは予想できますし、そのような医者を当てもなく探すのであれば、主要都市をあたるしかないでしょう。
 さて、ではここで《スカラー、もしくはバード技能レベル+知力ボーナス+2D》で、目標値13の伝承知識判定を行ってください。

アゼル:
 伝承知識? いったいなんの判定だ? (コロコロ)失敗。

エルド:
(コロコロ)失敗です。

イーサ:
(コロコロ)うおッ! 6ゾロ!

GM:
 6ゾロですか! それならば、イーサはとある解毒薬の噂話を思い出しました。それは、黒い一角獣の角を原料とする、どんな毒でもたちどころに解毒することができる万能解毒薬の噂です。

イーサ:
 なるほど、一角獣の角を原料とした万能解毒薬か……。
「……彼女を苦しめているのは毒だって話だよな? だったら、どんな毒でもたちどころに解毒してしまう万能解毒薬の話を耳にしたことがある。それは、黒い一角獣の角を素材とするらしい。実物を見たことはないが、大きな都市に行けば、そういった薬が売っているかもしれないんじゃないか?」

GM:
 はい。では黒い一角獣という言葉が出てきたところで、今度は神聖知識判定を行ってください。目標値は11・13・15です。

イーサ:
(コロコロ)またしても6ゾロ!

GM:
 ブッ(失笑)! だったら、イーサは自分でわかっていたってことじゃないですか。判定のタイミングを誤ったなぁ……(苦笑)。では、イーサにはこの一角獣モノケロースのデータを差し上げます。

モノケロース
 馬の身体に、牡鹿の頭、ゾウの肢、イノシシの尾を持つ、戦闘レベル5の幻獣です。体長は2.5メートルを超え、成獣は額の真ん中から1メートル程ある渦巻状の黒い角を1本生やしており、馬よりは牛に近いような太いうなり声をあげます。普段は鈍重そうな動きをしていますが、一度走り出せば、その速度は野生の馬に勝ります。
 敵意や邪念を持つ相手に対しては獰猛この上なく、特に助走をつけて放たれた角による一撃は強力で、自分の倍以上も大きなゾウの心臓を貫くことすらあります。力そのものも軍馬以上に強く、人間にとっては後蹴りもまた致命的な攻撃となります。
 なお、採取後1年以内のモノケロースの角を煎じた薬は、どんな毒でも浄化してしまう効果があると言い伝えられています。

GM:
 ちなみに、その一角獣はウルム樹海の奥にあるカーラ神の聖域周辺に生息しているそうですよ。近場でラッキーでしたね。

一同:
(笑)

ギュリス(GM):
「黒い一角獣の話だったら、あたしも聞いたことあるよ。以前、ニハト兄様がそいつの角を欲しがっていたことがあってね。数年に一度、ウルム樹海の中で目撃されることがあるんだって。兄様は、何度か腕の立つ探索者を雇って一角獣を狩りに向かわせたらしいけど、無事に狩りを終えて帰ってきたって話は一度も聞かなかったな……」

アゼル:
 モノケロースって強いのか?

イーサ:
 戦闘レベル5だから、前回戦ったアリゲーターよりも強いな。

アゼル:
 うわッ……。それは厳しいな……。
「ウルム樹海に生息するモノケロースの角か……。だったら、ウルム樹海に近いデミルコルでなら、その角を売ってるんじゃないか?」

ギュリス(GM):
「あなた人の話聞いてたの? 目撃されることだって稀なうえに、一角獣を狩りに行った探索者たちは誰一人戻ってこられなかったんだよ? それなのに、都合よく角が売りに出されているわけないでしょ。まあ、モノケロースに関する情報を聞きに行くって意味では、デミルコルに足を運んでみる価値はあると思うけどね。それに、彼女から預かった聖印をユセフ様に届けにいくなら、無駄足にはならないんじゃない?」

イーサ:
 ああ、聖印のこともあったな……。

GM:
 えッ!? それを忘れてどうするつもりだったんですか!? 赤毛の女性が命を賭して託した聖印なんですよ?

イーサ:
 まあ、彼女を助けられたら本人に返せばいいし、助からなかったら、最悪そのときは届けなくても……。バリス教に関わるなんて危なそうじゃん。

GM:
 なんとッ!?

アゼル&エルド:
(爆笑)

 新たなイベント発生に対して、やけに乗り気でないイーサでした。

イーサ:
 しかし、なんだかんだ言いつつも、ギュリス嬢は要所要所で助け舟を出してくれるな。本当は良い子なんじゃないか? うん、きっと良い子なんだ。そうに違いない。

アゼル:
 それ、そうであって欲しいっていう願望が入ってないか(笑)?

GM:
(ギュリスの口調で)別に、彼女を助けたくて言ったわけじゃないんだからね! たまたま、知っていることを話しただけなんだから! みたいな?

一同:
(爆笑)

アゼル:
「よし! そうとわかれば、急いでデミルコルに向かおう。もう悠長にしていられる時間はない」

イーサ:
「そうは言っても、動けない人ひとりを連れて移動するのはそう容易いことじゃないぞ。ここに来るまでの距離は短かったから何とかなったが、デミルコルまでは結構距離もあるだろ?」

一同:
(少し考え込む)

アゼル:
「そうだ、ファジルさんに馬車を借してくれるようにお願いしてみよう。人命がかかってるんだ。きっとわかってもらえるだろ」

イーサ:
「ふむ。そう簡単に借りられるものでもないと思うが……。まあ、話すだけ話してみるか」

ギュリス(GM):
「ちょっと。その前に話を通しておくべき人がいるんじゃないの?」そう言うと、ギュリスは半眼であなたたちをにらみ付けました。

アゼル:
「そうだったな。今の雇主はギュリス嬢だった……。少し回り道することになってしまうが、彼女を助けるためだ。ダメか?」

ギュリス(GM):
「……」
 ギュリスは呆れたようにため息をつきます。

アゼル:
 では、ここはアゼルらしく押し切ろう。
「どうしてもダメだと言うなら、ここからは別行動を取ることにしよう。俺だけでも、彼女をデミルコルに連れて行く!」

イーサ:
「まったく……。お前は相変わらず命知らずだな。1人で行かせられるわけないじゃないか。だいたい、お前1人でどうやってモノケロースを狩るつもりだよ……」(ギュリスに対して)「ギュリス。すまないが、回り道をさせてくれないか?」

ギュリス(GM):
 ギュリスは眉間に深いしわを作ると、イーサへと視線を向けました。
「……また呼び捨てにしたね?」

イーサ:
「おっと、すまない。嬢ちゃんの言い間違いだ。とにかく、あの娘はもちろん、アゼルのことも死なせるわけにはいかない。頼む。回り道をさせてくれ」

ギュリス(GM):
「……あたしだって鬼じゃないから、それくらい許してあげないこともないけど……」

イーサ:
「ありがとう。それじゃ、手遅れになる前に行動に移さないとな」

アゼル:
「よし。早速、ファジルさんに馬車を貸してくれるようにお願いしてみよう」
 テントの外にファジルさんを探しにでた。

ギュリス(GM):
 では、テントを出て行くあなたたちの背中を見て、ギュリスはもう一度ため息をつきました。




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